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学校編
ベグテクタの温室
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一国の王子をトイレに、しかも男子を女子トイレに居座らすのはよくないと、シズはサファ王子に外に出るように促した。
「嫌だ」
サファ王子は、ふんと顔をそっぽに向いた。王子じゃなけりゃほっぺつねってやるのにとシズは思う。
「なんでですか? 」
シズがめんどくさそうに尋ねる。
「あいつらに見つかる」
あいつらとは生意気王子を捜すのに走り回っている従者たちだ。
「あいつら俺の嫌がることばかりする」
「嫌がることとは? 」
「勉強だ! 」
シズは吹き出しそうになるのを手で押さえた。サファ王子は子どもなりに真剣に怒っている。笑ったらいけないと堪える。
「アペーテはいつもあれしろ、これしろうるさい」
「アペーテ?」
「私の付き人だ」
その人も大変だろうと、シズは同情した。さて、この状況どうしたものか。もう放っておいて食堂帰ろうかと、シズは頭を掻いた。
「私は勉強ばかりは嫌だ。この間も雪が積もったのにレッスンで遊べなかった」
ふてくされた王子をシズは見下ろす。この子どもの立場では見張りも多くこうやって嫌な事からは走って逃げるくらいが精一杯だろう。去年の冬、雪が積もった日、シズは校庭にカケルとでかい雪だるまを作ろうとしたけど、頭をのせようとしたときに重さに耐えきれず壊れて雪まみれになったことを思い出した。シズも勉強が嫌いだった。あっちにいるとき、ノートは全教科で一冊だったし(ノート提出すごく大変だった)、授業は寝てたしサボってたし、テストも寝てた。怒られてはいたが、シズは逃げることができた。逃げることが自由だった。けどこの子にはその自由はとてつもなく夢に近い。
「……ここにいたらどっちにしろ、誰か来て見つかります」
シズが言った。
サファ王子はふてくされて俯いた。
「隠れるにしても他の場所に移らないと」
サファ王子は顔を上げた。シズは微笑む。
「ずっとは無理ですけど、もう少しくらいは隠れてていいんじゃないですか?」
サファ王子は、ぱあっと顔を明るくすると、シズの手を握った。
「いいところがあるのだ! 付いて来い! 」
自分がもし悪い奴だったら、今王子を攫えるなとシズは悪いことを思った。
周りを警戒してトイレを出ると、サファ王子に手を引かれてシズは温室にやってきた。いつもの視線が今はなかった。温室のドアは鍵がかかっていた。
「こっちだ!」
サファ王子に手を引かれ裏口に回った。そして指さした。
「日中はあそこに鍵が隠してある。私では取れない」
裏口の上より少し高い所の縁に手を伸ばし探ると指に当たった。取ると鍵であった。
「今の温室の管理人はよく鍵を忘れるようで、どうやら内緒で合鍵を作ったらしい。この間逃げている時に隠しているのを見つけたのだ」
サファ王子は腰に手をあて鼻高々だった。シズはさすが、と笑いながら裏口を開けた。鍵はすぐに元の場所に戻し、温室に入ると内側から鍵を閉めた。今さらだけれどこの状況見つかったら怒られそうだなとシズは心配する。他国の王子を無下に出来なかったということにして割り切った。
温室は見事なものだった。さすがと言うべきか、当たり前と言うべきか、手入れは行き届いていることが素人目でも分かった。サファ王子は隅っこにあるベンチに座った。
「そういえばお前名前はなんだ? 」
得体も知れない奴をよくここまで連れてきたなとシズは内心、呆れた。逃げるのを手伝ってくれるなら誰でもよかったようだ。
「シズ・カンダです。アベンチュレ青少年学校から研修でベグテクタに来ました」
「アベンチュレの者か。そういえばアペーテがそんなことを話していたな。よくきたな。隣に座れ」
「どうも」
サファ王子の隣に遠慮なく、シズは腰をかけた。しばし無言が続いた。
「ここにいたらもうずっと見つからないかもしれませんね」
シズはおどけて言ってみた。
「……そんなことはあり得ない」
しかし、冷静に正論を返された。サファ王子の表情は投げやりな感じではなく悲しい、いや寂しげだった。
「勉強は嫌いだ。けれどしなければいけないのは分かっている。賢くならなければならないのだ。私は将来王になる。皆そう言う。賢い立派な王になれと」
サファ王子は俯く。
「そう言いながら皆、私に秘密が多い」
「秘密? 」
「大人の話、だそうだ。私にいつもそうごまかす。教えてくれない。私にはあれこれしろと言っておいて都合が悪いことは隠すのだ。皆、ずるい」
子どもに話せないことはあるだろう。国が関わる話だ。難しいというより大人の汚さをまだ幼い子の耳には入れたくないのだ。その心情を子どもに教えるのは難しいだろう、とシズは察するが、それをサファ王子に説明するのは難しかった。
「そのうち大きくなれば嫌でも教えてくれますよ」
なのでシズはそう言った。
「私は今知りたいのだ! 皆、様々な秘密を知っていて私だけ誰の秘密もしらない。ずるい」
サファ王子は秘密が欲しかった。
「お前に、秘密はあるか? 」
「嫌だ」
サファ王子は、ふんと顔をそっぽに向いた。王子じゃなけりゃほっぺつねってやるのにとシズは思う。
「なんでですか? 」
シズがめんどくさそうに尋ねる。
「あいつらに見つかる」
あいつらとは生意気王子を捜すのに走り回っている従者たちだ。
「あいつら俺の嫌がることばかりする」
「嫌がることとは? 」
「勉強だ! 」
シズは吹き出しそうになるのを手で押さえた。サファ王子は子どもなりに真剣に怒っている。笑ったらいけないと堪える。
「アペーテはいつもあれしろ、これしろうるさい」
「アペーテ?」
「私の付き人だ」
その人も大変だろうと、シズは同情した。さて、この状況どうしたものか。もう放っておいて食堂帰ろうかと、シズは頭を掻いた。
「私は勉強ばかりは嫌だ。この間も雪が積もったのにレッスンで遊べなかった」
ふてくされた王子をシズは見下ろす。この子どもの立場では見張りも多くこうやって嫌な事からは走って逃げるくらいが精一杯だろう。去年の冬、雪が積もった日、シズは校庭にカケルとでかい雪だるまを作ろうとしたけど、頭をのせようとしたときに重さに耐えきれず壊れて雪まみれになったことを思い出した。シズも勉強が嫌いだった。あっちにいるとき、ノートは全教科で一冊だったし(ノート提出すごく大変だった)、授業は寝てたしサボってたし、テストも寝てた。怒られてはいたが、シズは逃げることができた。逃げることが自由だった。けどこの子にはその自由はとてつもなく夢に近い。
「……ここにいたらどっちにしろ、誰か来て見つかります」
シズが言った。
サファ王子はふてくされて俯いた。
「隠れるにしても他の場所に移らないと」
サファ王子は顔を上げた。シズは微笑む。
「ずっとは無理ですけど、もう少しくらいは隠れてていいんじゃないですか?」
サファ王子は、ぱあっと顔を明るくすると、シズの手を握った。
「いいところがあるのだ! 付いて来い! 」
自分がもし悪い奴だったら、今王子を攫えるなとシズは悪いことを思った。
周りを警戒してトイレを出ると、サファ王子に手を引かれてシズは温室にやってきた。いつもの視線が今はなかった。温室のドアは鍵がかかっていた。
「こっちだ!」
サファ王子に手を引かれ裏口に回った。そして指さした。
「日中はあそこに鍵が隠してある。私では取れない」
裏口の上より少し高い所の縁に手を伸ばし探ると指に当たった。取ると鍵であった。
「今の温室の管理人はよく鍵を忘れるようで、どうやら内緒で合鍵を作ったらしい。この間逃げている時に隠しているのを見つけたのだ」
サファ王子は腰に手をあて鼻高々だった。シズはさすが、と笑いながら裏口を開けた。鍵はすぐに元の場所に戻し、温室に入ると内側から鍵を閉めた。今さらだけれどこの状況見つかったら怒られそうだなとシズは心配する。他国の王子を無下に出来なかったということにして割り切った。
温室は見事なものだった。さすがと言うべきか、当たり前と言うべきか、手入れは行き届いていることが素人目でも分かった。サファ王子は隅っこにあるベンチに座った。
「そういえばお前名前はなんだ? 」
得体も知れない奴をよくここまで連れてきたなとシズは内心、呆れた。逃げるのを手伝ってくれるなら誰でもよかったようだ。
「シズ・カンダです。アベンチュレ青少年学校から研修でベグテクタに来ました」
「アベンチュレの者か。そういえばアペーテがそんなことを話していたな。よくきたな。隣に座れ」
「どうも」
サファ王子の隣に遠慮なく、シズは腰をかけた。しばし無言が続いた。
「ここにいたらもうずっと見つからないかもしれませんね」
シズはおどけて言ってみた。
「……そんなことはあり得ない」
しかし、冷静に正論を返された。サファ王子の表情は投げやりな感じではなく悲しい、いや寂しげだった。
「勉強は嫌いだ。けれどしなければいけないのは分かっている。賢くならなければならないのだ。私は将来王になる。皆そう言う。賢い立派な王になれと」
サファ王子は俯く。
「そう言いながら皆、私に秘密が多い」
「秘密? 」
「大人の話、だそうだ。私にいつもそうごまかす。教えてくれない。私にはあれこれしろと言っておいて都合が悪いことは隠すのだ。皆、ずるい」
子どもに話せないことはあるだろう。国が関わる話だ。難しいというより大人の汚さをまだ幼い子の耳には入れたくないのだ。その心情を子どもに教えるのは難しいだろう、とシズは察するが、それをサファ王子に説明するのは難しかった。
「そのうち大きくなれば嫌でも教えてくれますよ」
なのでシズはそう言った。
「私は今知りたいのだ! 皆、様々な秘密を知っていて私だけ誰の秘密もしらない。ずるい」
サファ王子は秘密が欲しかった。
「お前に、秘密はあるか? 」
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