異界の相対者

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城人編

インデッセで目覚める

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第一志望 ビールズ
第二志望 フリーター
第三志望 徳川いえ康

「おい、神田。なんだこれ」
 教室。向き合わせた机を挟んで担任がいる。そしていかがわしいものを見るかのようにシズを見た。
「何って先生。進路調査表じゃん。それで今個人面談でしょ?ってか二年で進路決めるとか早いよ」
「三年になってからじゃ遅いんだよ。もう二年の二学期には皆だいたい決めているんだ。あー、面倒だけどひとつずつ聞くぞ。まずこのビールズってなんだ?」
「え? ビールズ? 」
 シズは進路調査表を覗き込む。
「あ、トが抜けてた」
「ビートルズか」
「去年カケルとバンドやって歌ったら結構評判よかったからさ。客観的に見たら私の将来はビートルズ的なものかなって」
「ビートルズ的なものってなんだ? それなら普通にバンドとか書け。それにビールズとかふざけた間違いする時点で俺はお前の口からビートルズの名前を出すのを許せない」
「先生ビートルズ好きなんだ」
「お前の千倍な。だから却下」
 担任は第一志望をボールペンで何十にも消した。
「はい。次の第二志望な。大学とか専門も行くつもりないのか? 」
「お金の無駄じゃん」
「ある意味謙虚だな、お前」
「どうも」
「それでこの第三希望はなんだ?」
「書くことないから教科書開いて適当に書いた」
「教科書見たなら全部漢字で書けよ。しかもなんで家をひらがなにするんだよ。康ならまだ分かるけどよ」
「気の緩みかな」
「意味が分からん。そもそもお前徳川家康がなにした人か知っているのか?」
「え、あれ、ビートルズのファン的な? 」
「時代全然違うから。どんだけ時空歪ませてんだ。お前、的なって付ければごまかせるって思ってんじゃないぞ。徳川家康は江戸幕府開いた人だ」
「へぇ」
「フリーターでもそのくらいは知っておけよ」
「へい」
「徳川家康は本当に凄い政治家なんだぞ」
「政治家なんだ」
「そう言ってもいいと先生は思っている」
 歴史の教師だからか熱が入って語る。
「だって江戸時代は265年続いたんだぞ?」
「長いのが凄いの? 」
「それもそうだが、その265年の間日本は一度も戦争をしなかったんだ。そういう時代を徳川家康は作ったんだ。江戸時代が終わって日本はまだ二百年も経っていないその間に何度も戦争している」
「凄いんだ。家康」
「凄いぞ。家康。まあ、この先もし戦争が起きればお前が家康になればいい。戦争のない時代をお前が開け」
「神田幕府? 」
「結構いい響きだな。神田幕府」
「じゃあそれ、第一希望にしといて」
「第一志望はフリーターにしとく」
「そうでおまっか。まあ、まだ考えなさい」


 シズは目を開けた。鳥がさえずっている。爽やかな朝だ。やばい、今何時だ。学校行かなきゃ。起き上がろうとシズはベッドに手をつく。
「いってぇ! 」
 左手に激痛が走った。見れば左手には包帯が巻かれていた。なぜ、怪我している。ってか昨日いつ私は寝た? シズは周りを見渡せば壁に漆黒の制服がかけてある。城人の制服だ。そうだ私はもう高校生じゃない。城人。ヨンキョク。
「それでここは? 」
 キミドリアパートじゃない。また怪我をした左手を見る。すると仮面の男の記憶が蘇る。そうだ襲われた。シズはベッドから起き上がると部屋を飛び出した。隣のラリマのドアを叩く。
「おい! マッシュ! 起きろ! 」
 反応がない。アザムの部屋のドアを叩く。
「おい! アザム! アザム! 」
「あの……」
 エプロンをつけ箒を持った掃除婦が、遠慮がちにシズに声をかけた。
「たぶん皆さん一階の食堂で朝食を召し上がっていると思いますよ」
「ありがとうございます! 」
 シズ階段を駆け下りる。食堂に飛び込むと、ラリマがサラダを皿に盛っていた。
「マッシュ! 」
「え? え! カンダ? 」
 ラリマが目を丸くしている。シズはそんなことをお構いなしに、ラリマの腕を掴んだ。
「おい、あれからどうなった! 」
「目が覚めたのか、お前? 大丈夫か? 」
「ああ? みりゃ分かんだろうが。それで、あれからどうなった? あの仮面の変な男捕まえたか? 」
「え、あ、いや」
 ラリマが目をそらし気まずそうに、シズに言った。
「ちくしょー。吐きそうじゃなかったら絶対勝てたのによ! せめて仮面ぶっ壊せばよかった! 」
 シズは喚いた。
「お前、大丈夫なのか? 」
 ラリマが同じ事を聞いた。おどおどしている。
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