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城人編
油断大敵
しおりを挟む他国研修明けとカザンの長期休暇明けは同じ日だった。シズは四局にお土産のクッキーを配った。カラミンが少ないとごねた。無視してカザンと見回りに出た。
「聞きましたよ。襲われたらしいですね」
「ああ。しかも逃げられた」
シズはカザンに包帯巻いた左手を見せた。
「まあこれはほぼ自分でやったようなもんだけどな」
「自分で? 」
「意識飛びそうだったから、ナイフがっと掴んだ」
「馬鹿ですね」
「どうも」
「あの」
「何?」
「ちょっと休憩しませんか? 」
「……おう」
前に来た公園のベンチに座る。シズは見張りの目がない事を確かめる。他国研修の間、シズはそういう目線はほぼ感じなかった。カザンが折りたたんだ紙をシズに寄越した。
「なにこれ」
「見てください」
開けば、シズの似顔絵だった。
「これあのじいさんが描いた奴じゃん。律儀に持ってったんだな」
「有効活用したんですよ。そこ読んでください」
カザンは紙の下を指さした。そこには文字が書かれていた。
「ミトス・スイド……」
「その似顔絵見せたらルバが教えてくれました。九十七期生のアオクラスであなたと同じ顔した男です」
シズは顔を上げた。
「会えたんだな」
「ええ。生きていました」
カザンはルバから話をシズに聞かせた。九十七期生の悲劇の顛末についての理由については、カザンは歯切れ悪く伝えた。とにかく、たまたま生き残って、ミトスはスパイになったとだけ、カザンはシズに教えた。カザンはその部分はちゃんと教えて貰えなかったと言ったが、直観でシズは嘘だと分かった。けれどシズは問い詰めなかった。情報貰っといて隠していることがシズにはある。それに正直言ってミトス・スイドの素性が分かった時点で、シズは九十七期生の悲劇についてはもう興味がない。
「十八で死ぬか……」
病気か、誰かに殺されるか。もしかして誰かに殺されるから逃げるためにコインを裏返したとしたら、結構辻褄が合う。誰かを捜していたと言っていたらしいし、その線でまた調べてみようとシズは考える。
「死ぬ理由はルバにも分からないそうです」
「そうか。でもめっちゃ助かった。名前に出身地も分かったし。後は自分でどうにかできそう。お前、どうするんだ? ルバって奴にはもう会えたんだろう? 」
カザンは浮かない顔をした。
「アルガーについてちょっとまだ調べようと思っています」
「洗脳野郎か。けど手がかりあるのか? 」
「髪の色も名前も顔も変えているでしょう。けどひとつ大きい事が」
「なんだ? 」
「右の二の腕に十字の傷があるそうです。これってこのあいだのカルセドニーの事件に噛んでいる奴と同じ可能性高いと思うんですよ」
右の二の腕に十字の傷。仮面の男。
「お前のは報告できないけど、私のは報告しねぇとな」
「え? 」
城に帰るとシズはハクエンにカルセドニーの件で話したい事があると言えば、カラミン、セッシサン、カザンとシズの五人で別室に移った。そこでインデッセで襲われた仮面の男に十字の傷があった事を報告した。
「カンダを襲った奴に十字の傷ねぇ……」
ハクエン局長が厳しい顔をした。
「たまたまかもしれませんけど」
「いや、知っていて襲ったって考えるのも不自然ではない。お前もカルセドニー達を逮捕する時に現場にいたからな。どこかで見られていてもおかしくないな」
セッシサンの言い分だとここにいる全員危ないことになる。
「でも私ら襲って意味あります? 」
「馬鹿だねぇ、カンダは」
カラミンがわざとらしく呆れる。研修明け、久々にシズはイラつく。
「あの銃はもう少しで完成だったんだよ。捕まえて拷問して、残りの部品のありかを吐かせる。持ってこさせるって事もできるな」
シズとカザンは思わず顔を歪めた。
「それにしても局長。インデッセがカルセドニーの件に噛んでいるとしたら厄介ですよ」
セッシサンが真面目な顔をした。
「国際問題に発展しちゃいますもんね」
カラミンも口調はふざけていたが目が笑っていなかった。
「とにかくお前ら夜道気を付けろよ」
「はい」
昼、そのままシズはカザンと国民局の食堂で食べることになった。エレベーターが混んでいたため階段で食堂がある一階まで行く。
「カンダさん、どう思います?」
シズの後ろにいたカザンが聞いてきた。さっきの話の続きだろう。
「どう思うって、危ねぇなって。夜道気を付けようとか」
「そうじゃなくて、本当にカンダさん襲ったのはインデッセの人間だと思います? 」
「え? 」
シズは思わず立ち止まった。
「アベンチュレの人間だって可能性も僕はあると思います」
「お前、声でけぇよ」
シズは焦って、思わず周りを見渡す。誰もいないようだった。
「もしかして僕達を狙っているのかもしれません」
「まさか、九十七期生について調べているからか? 」
カザンは頷いた。
「カンダさんは青少年学校の頃写真に写っていたミトス・ノイナーを見て大騒ぎしたじゃないですか。その時に目を付けられていたとしても不思議じゃありません」
痛い所ついてくるね、あんたとシズは黙った。
「あの事件は僕らが思っていたよりもこの国最大の汚点です。真実を露見することは避けなければならないはずです」
「お前、九十七期生についてはあまり教えて貰えなかったんじゃないのか? 」
カザンは顔を固くした。自分が喋り過ぎた事に気が付いたのだろう。シズは手を振った。
「悪い。今のは流す所だった。私はもう知りたいことは教えて貰ったから。それで? 」
カザンはほっとしたような顔をした。結構私に心を開くようになったとシズは思った。それと同時にシズは罪悪感があった。カザンを利用している感はいなめない。
「とにかく九十七期生の悲劇は隠したいんだと思います」
「じゃあそれに繋がるアルガーの事調べるのもやばいかもな」
「そうですね。けど少しアルガーの事に気が付いていたトイサキレウ、」
シズは慌ててカザンの脇腹を掴んだ。
「うげぇっ」
カザンが呻く。
「ぺらぺら喋ってるとお昼食べ損ねるぞ」
「え? 」
踊り場に下りると、下から人が現れた。オドーだった。
「あ、オドーさんお疲れさまです」
「おう」
カザンも澄ました顔でオドーに挨拶をしてすれ違う。そしてそのまま食堂まで無言で言った。
「悪いな。人の気配がしたから。脇腹ちゃんと付いてるか? 」
「付いています。大丈夫です。聞かれましたかね、話」
ここは国民局。そこでするには危なすぎる話だった。気が緩んでいた。
「大丈夫だと信じておこう」
ギリギリセーフである事をシズは願う。
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