異界の相対者

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城人編

歌を知っている人

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 次の日、シズは四局でお土産の焼き菓子を配った。
「ええ、俺ナッツ?チョコがいい」
 カラミンがごねた。
「僕のと変えますか? 」
 カザンはチョコをカラミンに渡す。
「本当ありがとう! カザン」
 カラミンさんはチョコを食べる。見ているだけでシズはムカつく。
「カザンとカンダ。そろそろ見回りの時間だよ」
 カラミンは口の周りにいっぱい焼き菓子のカスをつけて言う。
「カンダさん行きましょう」
「……おう」
 カザンは見回りの時もフェナの事をシズに聞いて来る事はなかった。ただ黙って街を歩く。シズはカザンには本当の事を話すべきなんだと思った。話さなければいけないと。それだけの事をシズはして貰った。けれど「異世界から来ました」なんて言っても「馬鹿にしてるんですか」となる予想しかシズにはなかった。いつか帰るつもりで、この世界に残りたいと思っていない。それなのに人に拒絶される事をシズは恐れているようだ。ああ、しんどい。このままではしんどいとシズの気持ちは沈む。
「カザン」
「なんですか」
 話しかけるとカザンは普通に返事をしてくれる。シズはほっとした。
「チョコレート好きか? 」
「まあ。けどナッツも好きだから大丈夫ですよ」
 カザンはさっきのカラミンの事を話していると思ったらしい。
「間違ってさ、ルルの入ったチョコレート買ってきたんだよ。明日持ってくるから食べてくれないか」
「……頂けるなら食べます」
 拒絶されない。それだけでシズは凄く安心した。それでもシズは、真実を話す事はできない。

「俺はしてない。何も知らない」
 八局の尋問室通称、八局室で、トビー・ハートフィールドは力なく零した。目を擦る。ハートフィールドは眠たかった。
「何もしていないって、お前の仲間はお前がリーダーって言っている」
 腰までの青い髪。前髪は眉毛できっちりと切り揃えている。爪も青く塗り、瞳も青い。ハートフィールドと向かい合うのは唯一の女局長、ベス・シプリンだ。腕を組み、ハートフィールドから目を離さない。
「あいつら知らない。俺の仲間なんかじゃない」
 ハートフィールドはまた目を擦る。そして欠伸を噛み殺す。
「俺、眠いんだけど……」
 シプリンはため息を吐いた。さっきからハートフィールドはこの調子だった。
「シラー」
「はい」
 傍で成行きを見守っていたシラーが小さな声で返事をした。
「ラリマを呼んできて」
 シラーは少し驚く。
「同性で年齢が近い方が喋るかもしれない」
 シラーがラリマを呼んでくるとシプリンは一度尋問室を出た。
「ハートフィールドの尋問をお前に任せてみようと思う」
 ラリマは背筋を伸ばす。
「ラリマあまり緊張しなくていいからね。シプリン局長が厳しく尋問したから高圧的ではなくて優しくするのもありだと思うよ」
 シラーがラリマの緊張をほぐそうと優しくアドバイスをした。
「優しくするってどうしたらいいですか? 」
 ラリマは先輩に優しさを聞いた。シラーは助けを求めるようにシプリンを横目で見た。
「歌でも歌ってみたらどうだ」
「ちょっと局長! 」
 シラーが焦る。ラリマは自分の胸をばんっと叩いた。
「分かりました。私、小さい頃から歌は習わされていたのでレパートリーは沢山あります!絶対音感も持っているので!一回聞いた曲は忘れないというのが特技のひとつです。マーシー・ラリマやれるだけやります!」
 ラリマは八局室に入っていく。
「局長駄目ですよ。ラリマは融通が利かない真面目なんですからからかっちゃ駄目です」
「私がいつからかった? 」
「だって歌でも歌えって」
「……歌は駄目なのか? 」
 シプリンの顔は真顔だった。
「……あ、大丈夫です」

 ラリマに遅れ二人も八局室に入った。ラリマはすでに歌い始めていた。そのままずっと歌い続けた。ハートフィールドはその歌を子守唄に何度も寝ようとした。そのたびにラリマが起こした。そして歌い続けた。十五分経って、ラリマは歌うのをやめた。シラーは可哀想な子を見るようにラリマを見つめ肩を叩いた。
「戻っていいぞ」
「いや、あと一曲だけ……! 」
 ラリマは粘った。そしてどうしようかと考えていると、インデッセに行く特急列車の時、トイレの横でシズが歌っていた歌を思い出した。歌詞はめちゃくちゃな言葉にラリマには聞こえたがリズムは覚えていた。ラリマはやけくそにその鼻歌を歌った。するとずっと俯いていたハートフィールドが顔を上げた。ラリマは鼻歌をやめた。
「ビートルズ……」
「え? ビールズ? 」
 ラリマが聞き返す。
「違う! ビートルズ! お前なんでその歌知ってるんだ! 」
 ハートフィールドはラリマに掴みかかった。シラーがそれを止める。それでも構わないとハートフィールドは聞くのをやめなかった。
「その歌なんでお前知ってる!? 」
「え、あ、同期が歌っていたから……」
 ハートフィールドのあまりの勢いにラリマはたじろいだ。
「同期……? 」
 ハートフィールドは瞬きを何度もすると蹲った。
「おい! 」
 シラーが慌てる。
「眠い……」
 ハートフィールドはもう眠くて起き上がれなかった。
「ストレスのせいかもな。今日はもう終わりだ。続きは明日だ」
 シプリンが言うとハートフィールドは顔を上げた。
「そのビートルズを知っている人……」
 囁くような声で喋るハートフィールドにラリマとシプリンは近づいた。
「その人になら全てを話す。話せるかもしれない……」
「分かった。けどもう今日はお前喋る体力なさそうだから明日な」
 シプリンがそう言うと外から人を呼び、ハートフィールドを連れて行くよう指示した。八局室に三人は残った。
「ラリマ」
「はい! 」
 ラリマの声が裏返る。
「そのビートルズとやらを歌っていたお前の同僚は誰だ。話を聞きに行こう」
 ラリマは一呼吸置いて答えた。
「四局のカンダです」
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