異界の相対者

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逃亡編

嘘泣きが下手な女

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 カルカは半信半疑だった。
「平たく言えばそうなります。けど私をここに連れて来るように頼んだのはミトス・スイドだと思います」
「それは誰だい? 」
「私と同じ顔をした男の名前です。九十七期生でした。それはあの学校の廊下に飾られた集合写真で知りました」
「君にそっくりな人物が写真に写っているのは聞いている。けどおかしくないか?九十七期生なら四年前に死んでいる。カンダの話が本当ならその、ミトス・スイドは一年前に生きていた事になるな」
「生きていたんです」
 バライトをシズはしっかり見る。そこから目線を離さないように喋った。
「理由は知りません」
 嘘がばれないように。スパイだと話せばどこからそれをどこで知ったかと九局は聞き出そうとするだろう。そうすればカザンに繋がってしまうことをシズは危惧した。カザンはルバの事を守りたいはずだ。ミトスの事は話してしまった。それは避けられないとシズは思った。ミトスの名前は、ジャモンも知っている。隠してもすぐばれる。ばれる嘘は先出しにした方が得だった。
「ミトスは私がこっちで生きられるように整えてくれていました。住む場所も金も。あと保護者」
「その保護者が、ジャモン・サーペティン? 」
 バライトにシズは頷く。
「ミトスは、ジャモンの借金を清算してくれたみたいです。それで強引に私の面倒を見させたんです」
「なるほど。けど不思議だな。なぜそこまでして君を誘拐して環境を整えたんだ? 」
 バライトは肩肘を付いた。シズは椅子の背に身体を預けた。そして口を開いた。
「自分と私の命を救うためです」
 二人とも釈然としない顔をした。
「私の生まれはフェナで多分あっています」
「確かにさっきフェナって答えた時君の目線は動いていなかった」
 片肘を付いたまま、バライトはにやついた。
「たぶん、生まれてすぐに私とミトスは入れ替えられたんです。カーネスかまた、カーネスと同等の力を持った人間に」
「その、カーネスの力ってなんだ? 」
 カルカ副局長の質問に、シズはちょっと、ためらった。温厚そうに見せてる二人もふざけた事言うなって殴ってくるかも。顔はもうごめんだと、シズは思った。
「コインをひっくり返せるんです。私とミトスはコインです」
「コインってなんだ?」
 にやついていたバライト局長も表情を難しくした。
「バライト局長にもいますよ。もちろんカルカ副局長にも。二人にそっくりな同い年の女が」
 二人とも凄く嫌な顔をした。
「この世界にはいないですけど」
「何を言っている、カンダ? 」
 カルカはあきらかに困惑していた。少し怒っているようにも見えた。
「私、異世界で育ったんですよ。そしてこっちに戻ってきた」
 シズがそれをちゃんと言葉にしたのは初めてだった。もう枯れ切ってしまったと思った涙がまた流れた。
「……なんでカンダは戻ってこさされた? 」
 シズはバライトを見た。信じることに驚いた。
「局長」
 カルカは困惑したままだ。バライトは言いたい事は分かっているとでもいうようにカルカに押さえつけるような手をやった。それにカルカは口を結んだ。
「それが自分と私の命を救うためです。たぶん生まれた世界じゃないと十八歳で死んでしまうんです。それをハートフィールドの死で気が付きました。ハートフィールドは十八歳の誕生日に死んでいる」
 カルカは持っていた資料をめくった。
「確かに。十八歳の誕生日で死んでいます」
「窃盗グループの犯人はサウザン氏の娘で合っているんです。私が、カーネスの使いだって嘘吐いたらあいつベラベラ喋りましたよ。ハートフィールドはサウザン氏の名誉のためにこっち連れて来られて死んだんだ。あいつが喋れるようになったら聞いてみればいい。吐くかどうかは知らねぇけどな」
 シズは涙を拭った。二人は数秒黙って、バライトが質問をした。
「君の話が本当だと仮定して、なんで君は生まれてすぐ異世界にやられたんだ?」
「そこまでは知らねぇ。もうどうでもいいしな」
 拭ったはずなのにまた涙が流れた。こんなにナヨイ奴だったかな、私。



 バライトとカルカは尋問を終えてシズを拘束室に返した。二人は八局棟を後にする。
「カンダの話、信じるんですか? 」
 国民局に帰る道中、カルカがバライトに尋ねる。カルカには当然受け入れにくい話だった。
「まあ、小説みたいな話だな。本にしたら売れるかも」
「俺は買いませんよ」
「だろうな」
 バライトは声を上げて笑った。茶化す上司にカルカは眉間に皺を寄せた。
「それで? 信じるんですか? 」
 カルカはもう一度聞いた。
「半分は信じようと思っているな。今の所」
「結構な割合ですね」
 カルカはため息を吐いた。
「全部嘘にしては話が出来過ぎている。サウザン氏はまだまともに喋れないのか?」
「医者の話じゃあと四日は無理だと」
「ひゃー、カンダはどんだけボコボコにしたんだよ」
 怖い怖いとおちゃらけ気味にバライトは呟く。
「そういえばサウザン氏の秘書の調書は?」
「まだ確認していません」
 バライトが立ち止まると出てきたばかりの八局棟を指さした。
「はい、カルカ戻って」
「はぁ? 」
「調書確認してきて」
 カルカはしょうがないと踵を返したが、再びバライトを振り返った。
「なんか局長、カンダの事信じたいように見えます」
「俺は誰も信じてないよ。誰であろうと疑い通す」
 だから、あの彼女と結婚できなかったんだ、とカルカは心で思ったが口にはしなかった。根っからの九局根性なのだ。
「俺は俺しか信じない。その俺から見てカンダは、」
 カルカは言葉を待った。
「嘘泣きが上手い女には見えない」
「……そうですか」
 カルカはバライトに背を向けて歩きだし、呟いた。
「それは同感ですね」

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