異界の相対者

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逃亡編

再出発の支度

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 (十月二十六日。午後一時半過ぎ)
 髪の毛から雫が落ちる。シズはうっとおしいと、髪をかき上げた。シズの住んでいる所を知らないのに、セドニはシズの前を歩いた。シズは初めてこっちの世界に来た事を思い出す。
「セドニ副局長、ここですよ」
 くすんだアパートの前で立ち止まる。セドニはアパートを眺め、
「汚いな」
 と正直に感想を漏らした。シズは二〇二号室にセドニを招き入れた。この部屋にシズ以外が入ってきたのは初めてだった。シズは床に放り投げていた衣服とタオルを掴む。そして散らかっている物を足で端に押しやった。
「ベッド座っていいですから」
 セドニのジャケットを脱ぐ。
「これクリーニングに出して返します」
「いい。窓に干す。ハンガーは? 」
 押しやった物の中から、シズはハンガーを一本取りハンガーを通す。それをセドニが取ると、ベッドに上がり、窓を開けると濡れたジャケットをかけた。
「さっさとシャワー浴びろ。風邪引くぞ」
「はい」
 大人しく返事をした。浴室のドアを開ける。
「カンダ」
 呼び止められ、セドニの方を見る。セドニは遠慮する事なくベッドに座っていて、鋭い目つきで私を見つめた。
「さっきも言ったが、俺はお前をアベンチュレに連れて戻るために来た。シャワー浴びている間その事を考えておけ」
「……」
 頷いて、シズは浴室のドアを閉めた。
 シズは熱めのシャワーを頭からかぶる。シズは現実に絶望したけれど、事実にまだ知らない事がある。自分ではない誰かがその事実を知っている。自分の存在は誰かの頭の中にあるけど、自分の命と世界は自分の中にある。絶望の世界だったけれど、この世界の人達の中に自分の存在はある。このまま逃げたら、自分の存在は情けないままだ。シズはそれは嫌だった。自分の世界にいる大事にしてきた人を無下にしたくない。意味がなくても、シズは生かされた。今も助けられている。絶望はもう、終わりにするとシズは決めた。
「セドニ副局長! 私、アベンチュレへ帰ります! 」
「だから最初から連れ戻すって言っているだろう」
 シャワーを浴びて、着替えるとシズは髪も拭かずにセドニの前に正座をして宣言をしたら呆れたように言われた。
「私戻ったら拘束室ですよね」
「当たり前だ」
「じゃあ懲役どれくらいになります……? 」
「数回尋問受けたら出られるだろう」
「え? 」
 シズは肩透かしをくらった。そして思わず詰め寄った。
「だって私、サウザン氏半殺しにしたし、八局棟から脱走したんですよ!」
「サウザン氏のは過剰行為だが、犯罪に手を染めたのも事実だ。過剰行為は最悪四局をやめなければいけないが、とりあえずお前は来週から一か月の自宅謹慎の処分になった。表向きは、お前はまだ八局棟に入っている事になっている。お前が脱走したのは四局員でもごく一部しか知らない。まあ、八局と九局は知っているがな」
「なんで脱走したの隠されているんですか? 」
「結論を言えば、メト王女が手を貸したからだよ」
 シズは口を閉ざす。
「これから電話して、メト王女に会えるようにしてもらう。そして直接話をする」
「あ! 私も、」
「連れていかない」
 一緒に行くと、シズは言わせて貰えなかった。
「お前は密入国者だ。安易に連れていってメト王女がお前を連れ込んだ事をオード側に発覚してみろ。メト王女の立場も、オードとアベンチュレの関係も悪くなる」
 それは、責任を持てない。せっかく逃がして貰ったのに、戻るとなると、シズの中に罪悪感が満ちる。バリミアにはアシス達にも口止めさせた。
「自分のした事だ。罪悪感はそのツケだ」
「……はい」
 セドニは立ち上がる。
「これから電話をしに行く。あと俺は今晩ここに泊まるから。ホテル取ってないんだ」
「は!? いや、ベッドひとつしかないし! 」
「大丈夫だ。寝袋を持ってきている」
「あ、なら大丈夫です」
 セドニは玄関に向かって歩きながら喋る。
「夕方には戻る。明日の夕方に出るアイオラ号で帰るから頭に入れておけ。それとお前に話す事がある。少し長い話だ。覚えておけ」
 一方的に喋り終えると、セドニは部屋を出て行った。ドアが閉まる音が響く。そのドアを眺め、シズは呟いた。
「明日、帰る、のか……」
 凄く変な感じだ。シズが罪悪感に落ち込んでいると、ドアが乱暴にノックされた。
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