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逃亡編
忠誠の背徳
しおりを挟む「おお、飽きずによく来るな」
変装したアザムは夕方、ルーサイト古書店に現れた。目的を隠し店主に微笑む。
「この間買うか迷った本を買いにきました。臨時収入が入ったので」
「そりゃあ嬉しい」
ルーサイトはおどけたように喜んだ。アザムは奥の棚から一冊本を取ってレジに持っていった。そしてなにげなしを装って、写真を見た。
「ルーサイトさん、聞いてもいいですか? 」
「なんだ? 」
「この間この左側にいる男性を見て、この時のこいつの顔が好きだって言いましたよね?あれってどういう意味ですか?」
ルーサイトはアザムの顔を黙って見上げた。
「あ、言いたくないならいいです。ちょっと気になっただけですから」
アザムは本心と逆の事を言う。ここで引かれたたら終わりだったが、賭けだった。
「お前さんは、インデッセの信仰心について調べているな」
「は、はい」
何かしくじったか。アザムは内心少し焦った。
「じゃあ言っておくべきだな。あまり神様にのめり込むなよ」
「え? 」
ルーサイトは写真を見上げる。
「この男は神様に取りつかれてしまった。母国を愛するあまりな」
「母国って、ベグテクタの事ですか? 」
「そうだ。俺が城人だった話はこの間しただろう? 」
「はい」
「友人の名前は、ガレナ・ホーエン。優秀な男だった。二局のエースと言われていてな。ガレナはある時国が大きな宝を隠している事を知った」
「大きな宝? 」
「何かは教えてくれなかった。ガレナはその宝を国の力にしたいと言っていた。ベグテクタの誇りを取り戻したいと。ベグテクタの根底にはまだ戦争を起こしたにも関わらず戦争を終わらすために悪い条件を飲み込んだ劣等感があるんだよ。あいつはそれを異様に気にしていた。けどガレナはその宝を開ける事ができなかった。それで姿を消したよ。俺もそれからじいさんのこの店を継ぐ事にしてアベンチュレにやってきた。するとひょっこりあいつがやって来たんだよ。そしたら顔が変わっていた」
「顔を? 」
「胡散臭い顔にな。そして名前も変わっていた。アルガーって名前に」
「それって、」
「知ってるか。アルガー塾長さ。塾を開く一年前だった。二三日泊めて欲しいと言ってきた。いくら友人でも名前も顔も変えた奴だ。けど、断れずに泊めた。そしたらあいつは蔵で本を読み出した。そしてあの『日記』を熱心に譲ってくれと言ってきた。そんなものがあるのも俺は知らなかった。それであいつは言った。十二年戦争は無理矢理終結させた。だからもっと圧倒的な勝利、敗北を付けて終らすべきだってね。あいつは明らかに危ない方向に向かっていった。そしたらあいつは言った。人間は自分で判断するという行為が負担だ。苦痛らしい。だから信じることに快感を得る。これは集団を形成、維持するための人間が持って生まれた機能のひとつかもしれないって本に書いてあったってな。人間は快感が好きだ。人を快感に導けば、主導を得られるかもしれない。俺は聞いた。お前は主導権が欲しいのかって。そうだと答えた。お前が導いた道が間違っていたらどうするんだとまた聞いた。あいつは言った。一度正しいと思ったことを間違いだって認めるのは苦痛だ。気持ちよくて楽な方に導けばいい。それで出て行った。アルガー塾をつくり、あの悲劇が起こった」
九十七期生の悲劇。
「こんな事を言うのは残酷だが、アルガー塾生が全滅したと聞いて俺は安心した。あいつが洗脳したんじゃないかって思っていたからな」
ルーサイトの予測は当たっていた。
「その悲劇から数か月たってガレナはまた姿を現した。もう二度と会えないだろうから挨拶に来たと。俺は聞いた。お前はいったい何がしたいんだって。そしたら神が欲しいと言いやがった」
「神が? 」
「俺は、神はもうこの世にいない、イカれた事言うなって怒鳴った。そしたらあいつは初めって怒った。神はいるとな。あの日記に全てが書いてあったと言った。読んでおけばよかったよ。あいつはインデッセに行くと言った。神を起こす下ごしらえをするとな」
「下ごしらえ? 」
「滅茶苦茶な話だろう?あいつはもうおかしくなっている。神がいると信じ、それを使ってもう一度戦争でもする気かもしれん。あいつひとりで何ができるかと思うが、どこか魅力がある男だ。恐ろしい男だよ。今もまだインデッセにいるかどうかは分からん。きっと名前も顔もまた変えているだろう。だから学生さんよ、あまり神なんてものを信じるなよ。おかしくなっちまう」
アルガー塾。インデッセ。神。戦争。繋がり過ぎている。ユオ・オーピメンとアルガー塾長は同一人物だ。もしかしたらアベンチュレにいるインデッセのスパイはユオ・オーピメンかもしれないと考えた。けれどスイド家がそれにどう関わる。それを知るにはスイド家から買い取られた「日記」を読むべきだろうが、それは不可能だ。違う道を探すべきだろとアザムは考えた。
「肝に命じます。もし似た人見つけたら教えにきますよ」
「いや、もう会いたくねぇ。見捨てた友人さ」
写真を見上げて呟くルーサイトの横顔は寂しいものだった。その横顔から目を背けるとアザムは本の代金を払った。
「実は、明日出発なんですよ」
「そうなのかい? 突然だな」
「最後にルーサイトさんの顔が見たくて」
「はは! 嬉しいな。気を付けるんだよ。戻ってきたら顔を見せな」
「はい。必ず」
アザムは笑顔で嘘を吐いた。この人は俺を時々思い出し、来ないなと少し心配したりするかもしれないとアザムは想像した。ルーサイト古書店を出る。アザムは罪悪感を踏みしめるように足早に立ち去った。
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