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過去編
百年の恋、もしくは隠された希望
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「神様? ダイアスを神に?どういうことでしょう、スピネ様」
スピネとダイアスがはじめて顔を見合わせた次の日の夜、スピネはルリの部屋へやってきた。ソファ腰をかけて、談笑していれば自然と話はダイアスの今後のことについてになった。そこでスピネは昨日思い付いた案をルリに告げた。その案はルリにとって予想外過ぎるものであった。
「今の殺伐とした世に、民は癒し、救済を望んでいる。ダイアスはその代わり、というより民のどうしようもない感情を癒す拠り所になって欲しいのだ。あれは神秘的な生き物だ。人によって身体の色が違って見えるなど、特別めいている。ダイアスを見る側もその色に特別なものを感じるだろう。特別なものは人の心を豊かにする。人の心が豊かになれば、世も豊かになる。そのためにダイアスの存在の力を借りたいのだ」
ルリは困惑に俯く。幼い妻が困っているのが分かったスピネは申し訳なさそうに微笑み、やさしくルリの髪を撫でた。ルリがそれに反応して少し動くと肩からショールが落ちた。
「確かにあの子は、特別な生き物なのだと思います。けれどあの子は子どもです。もっとお話されれば、スピネ様にもそのことが分かると思います。そんな、神だなんて、そんな立場にさせるには酷ですわ……」
必死に訴えるルリにスピネは微笑み続ける。そしてルリの肩から落ちたショールを優しくかけ直してやった。ルリの肩に手を置いたまま、スピネはルリに顔を近づけた。
「お前はいい子だね」
「そんなことは……」
また俯きそうになるルリの顎にスピネは手を添えた。そして柔らかな口調でルリに頼んだ。
「君は、あのダイアスという生き物について私よりずっと知っているのだろう。だから
心配するのは当り前さ。でが、明日私が直接頼んでみてもいいか?」
ルリこれ以上、王子に対して断れる立場にいなかった。
「そう、ですね……」
「ありがとう、ルリ」
スピネはルリに口づけをした。そして再び、ルリの肩からショールが落ちた。
「別にいいぞ」
次の日、ルリと共に鏡泉を訪れたスピネの話を聞いたダイアスは、あっさりと神になることを承諾した。ルリは思わずドレスの裾が汚れることも気に留めずしゃがみ込み、ダイアスの肩を持った。
「ダイアス、よく分かっている? 神になるのよ? 神様よ? 」
「話を聞いたから分かってるよ。けどなれても偽物の神様だ。本物の神様じゃないから、人の願いを叶えたりはできないぜ」
「君に何かしてほしいというわけではない。時々、王都の上空を飛んでくれたらそれでいい。豊かさの象徴になって欲しいだけだ。シンボルだよ」
スピネは幼子に童話を語るように補足した。
「いいよ」
二度目の承諾もあっさりしたものだった。
「ありがとう、恩にきるよ」
スピネはダイアスの長い鼻を撫でた。
「よし、これ以上わたしがここにいるのは邪魔だろうから、戻るよ。泉に落ちないように気を付けるんだよ、ルリ」
「……はい」
「ジル、頼んだぞ」
スピネはメイドに念を押した。
「承知しております」
スピネは歩き出し、ペンタゴンに行くぞ、と声をかけた。ペンタゴンはルリに一礼するとスピネのあとに続いた。半地下から地上へと続く階段の途中、スピネはペンタゴンに言った。
「勝機が来たと思うんだ」
「あのへんてこな生き物が勝機だと?」
ペンタゴンは主に対してあるまじき不信用を顔ににじませた。正直過ぎる秘書にスピネは思わず笑った。
「数年はかかるだろうけどな。今時点で勝機の助走ということだな。だがしかし、調子に乗るのはよくないからな。辛抱強く行こう。インデッセに暮らせば、辛抱強さは他国に負けないさ」
スピネは未来が楽しみで仕方ないというようにペンタゴンには見えた。そしてこの時スピネが考えていた「勝機」が残酷で、戦争の始まりになるとはペンタゴンは思いもしなかった。
「リチは俺が神になるのが嫌だったのか? 」
スピネが去ったあと、うかない様子のルリに頼んだ。ルリは唸った。
「嫌ではないわ。ただすごく、心配なだけ」
「なにが? 」
「ダイアスが」
ルリはダイアスを抱きしめた。ダイアスは柄にもなく緊張をした。
「嫌になったらすぐに私に言うのよ。その時は私がなんとかしてスピネ様に頼むから」
「大丈夫だよ、リチ」
ダイアスは出来る限りおどけて言った。
「大丈夫でも約束して。つらくなったら私を頼ると約束して」
おどけて見せても真剣なルリの顔に鱗で怪我をさせないように優しく柔らかく頬を付けた。
「約束する」
ルリはそれでもダイアスを抱きしめることをやめなかった。すぐにダイアスの温もりを話せないぐらいに漠然とした不安に心を曇らせていた。
それからダイアスは週に一度、王都アルマの上空を飛ぶようになった。四枚の羽根を前後、交互に上下させ優雅に飛んだ。人によって見える色が違うその不思議な生き物は、たちまち民の心を引きつけた。ゆえに、ダイアスが特別な、神めいたものになるのに時間はかからなかった。
インデッセ王、トテールも空飛ぶダイアスの姿を窓越しに一度だけ見上げた。トテールにはダイアスが空に溶けてしまいそうな青に見えた。だから雲の前を飛んだ時にやっとダイアスの姿が見えたという。それから二日後、トテール王は崩御した。そしてスピネが、インデッセの王となった。
スピネが王になって七年後、ルリは二十一歳になった。
この七年でインデッセは、他国が想像できない速さで発展をとげていった。主に観光業の成長が著しかった。ダイアスは神として世界中に名を馳せた。ダイアスという名は知られていなかった。ダイアスは世にとって純粋な神だった。
そんなダイアスの姿を見ようと、インデッセには他国から多くの旅行者が訪れた。商店はさまざまな色のブレスレットを揃え、己の目に映ったダイアスの色と同じブレスレットを身につければ神の加護がある、といううたい文句でブレスレットを売れば飛ぶように売れた。旅行者の為に宿屋も増え、飲食店も増えた。他国ではインデッセの料理はおいしくないと有名であったが、旅行者たちは思ったよりも美味な料理に驚いた。荒地から、他国と同じような作物が育つ畑に旅行者は感動もした。土がいいからもっとうまいものが作れると知った移住者も増えた。神のおひざ元という理由も大きかった。
インデッセは豊かになっていった。スピネの言う通り、ダイアスは、国を豊かにする強いチカラとなった。
スピネとダイアスがはじめて顔を見合わせた次の日の夜、スピネはルリの部屋へやってきた。ソファ腰をかけて、談笑していれば自然と話はダイアスの今後のことについてになった。そこでスピネは昨日思い付いた案をルリに告げた。その案はルリにとって予想外過ぎるものであった。
「今の殺伐とした世に、民は癒し、救済を望んでいる。ダイアスはその代わり、というより民のどうしようもない感情を癒す拠り所になって欲しいのだ。あれは神秘的な生き物だ。人によって身体の色が違って見えるなど、特別めいている。ダイアスを見る側もその色に特別なものを感じるだろう。特別なものは人の心を豊かにする。人の心が豊かになれば、世も豊かになる。そのためにダイアスの存在の力を借りたいのだ」
ルリは困惑に俯く。幼い妻が困っているのが分かったスピネは申し訳なさそうに微笑み、やさしくルリの髪を撫でた。ルリがそれに反応して少し動くと肩からショールが落ちた。
「確かにあの子は、特別な生き物なのだと思います。けれどあの子は子どもです。もっとお話されれば、スピネ様にもそのことが分かると思います。そんな、神だなんて、そんな立場にさせるには酷ですわ……」
必死に訴えるルリにスピネは微笑み続ける。そしてルリの肩から落ちたショールを優しくかけ直してやった。ルリの肩に手を置いたまま、スピネはルリに顔を近づけた。
「お前はいい子だね」
「そんなことは……」
また俯きそうになるルリの顎にスピネは手を添えた。そして柔らかな口調でルリに頼んだ。
「君は、あのダイアスという生き物について私よりずっと知っているのだろう。だから
心配するのは当り前さ。でが、明日私が直接頼んでみてもいいか?」
ルリこれ以上、王子に対して断れる立場にいなかった。
「そう、ですね……」
「ありがとう、ルリ」
スピネはルリに口づけをした。そして再び、ルリの肩からショールが落ちた。
「別にいいぞ」
次の日、ルリと共に鏡泉を訪れたスピネの話を聞いたダイアスは、あっさりと神になることを承諾した。ルリは思わずドレスの裾が汚れることも気に留めずしゃがみ込み、ダイアスの肩を持った。
「ダイアス、よく分かっている? 神になるのよ? 神様よ? 」
「話を聞いたから分かってるよ。けどなれても偽物の神様だ。本物の神様じゃないから、人の願いを叶えたりはできないぜ」
「君に何かしてほしいというわけではない。時々、王都の上空を飛んでくれたらそれでいい。豊かさの象徴になって欲しいだけだ。シンボルだよ」
スピネは幼子に童話を語るように補足した。
「いいよ」
二度目の承諾もあっさりしたものだった。
「ありがとう、恩にきるよ」
スピネはダイアスの長い鼻を撫でた。
「よし、これ以上わたしがここにいるのは邪魔だろうから、戻るよ。泉に落ちないように気を付けるんだよ、ルリ」
「……はい」
「ジル、頼んだぞ」
スピネはメイドに念を押した。
「承知しております」
スピネは歩き出し、ペンタゴンに行くぞ、と声をかけた。ペンタゴンはルリに一礼するとスピネのあとに続いた。半地下から地上へと続く階段の途中、スピネはペンタゴンに言った。
「勝機が来たと思うんだ」
「あのへんてこな生き物が勝機だと?」
ペンタゴンは主に対してあるまじき不信用を顔ににじませた。正直過ぎる秘書にスピネは思わず笑った。
「数年はかかるだろうけどな。今時点で勝機の助走ということだな。だがしかし、調子に乗るのはよくないからな。辛抱強く行こう。インデッセに暮らせば、辛抱強さは他国に負けないさ」
スピネは未来が楽しみで仕方ないというようにペンタゴンには見えた。そしてこの時スピネが考えていた「勝機」が残酷で、戦争の始まりになるとはペンタゴンは思いもしなかった。
「リチは俺が神になるのが嫌だったのか? 」
スピネが去ったあと、うかない様子のルリに頼んだ。ルリは唸った。
「嫌ではないわ。ただすごく、心配なだけ」
「なにが? 」
「ダイアスが」
ルリはダイアスを抱きしめた。ダイアスは柄にもなく緊張をした。
「嫌になったらすぐに私に言うのよ。その時は私がなんとかしてスピネ様に頼むから」
「大丈夫だよ、リチ」
ダイアスは出来る限りおどけて言った。
「大丈夫でも約束して。つらくなったら私を頼ると約束して」
おどけて見せても真剣なルリの顔に鱗で怪我をさせないように優しく柔らかく頬を付けた。
「約束する」
ルリはそれでもダイアスを抱きしめることをやめなかった。すぐにダイアスの温もりを話せないぐらいに漠然とした不安に心を曇らせていた。
それからダイアスは週に一度、王都アルマの上空を飛ぶようになった。四枚の羽根を前後、交互に上下させ優雅に飛んだ。人によって見える色が違うその不思議な生き物は、たちまち民の心を引きつけた。ゆえに、ダイアスが特別な、神めいたものになるのに時間はかからなかった。
インデッセ王、トテールも空飛ぶダイアスの姿を窓越しに一度だけ見上げた。トテールにはダイアスが空に溶けてしまいそうな青に見えた。だから雲の前を飛んだ時にやっとダイアスの姿が見えたという。それから二日後、トテール王は崩御した。そしてスピネが、インデッセの王となった。
スピネが王になって七年後、ルリは二十一歳になった。
この七年でインデッセは、他国が想像できない速さで発展をとげていった。主に観光業の成長が著しかった。ダイアスは神として世界中に名を馳せた。ダイアスという名は知られていなかった。ダイアスは世にとって純粋な神だった。
そんなダイアスの姿を見ようと、インデッセには他国から多くの旅行者が訪れた。商店はさまざまな色のブレスレットを揃え、己の目に映ったダイアスの色と同じブレスレットを身につければ神の加護がある、といううたい文句でブレスレットを売れば飛ぶように売れた。旅行者の為に宿屋も増え、飲食店も増えた。他国ではインデッセの料理はおいしくないと有名であったが、旅行者たちは思ったよりも美味な料理に驚いた。荒地から、他国と同じような作物が育つ畑に旅行者は感動もした。土がいいからもっとうまいものが作れると知った移住者も増えた。神のおひざ元という理由も大きかった。
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