異界の相対者

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過去編

百年の恋、もしくは隠された希望

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「二人だけじゃ寂しいからヘマ連れてきたよ」
 この群れに子どもと呼べるのは、コチュンとアンダだけだった。そして次に若いのはルリであった。
「あなたには少し子供だましみたいな話かもしれないなぁ」
 エピドーは、大人に聞かせるには照れくさいようだった。
「それでも聞きたいわ。誰かにお話しをしてもらえるなんてもうないと思ってなかったから。ぜひ」
「そうかい。なら、聞かせよう。この世界のどこかにいる不思議な人間の話だ」
 ルリのよこにべったりとアンダが座った。コチュンがそれをつまらなそうに見る。ルリがおいでと手招きをしたが、そっぽを向かれた。エピドーはそれに構わずおとぎ話を進めた。
「これはカーネス家に伝わるお話だ」
 エピドーは左の掌を出すと、親指だけ折った。
「世界は四つある。俺達が住んでいるこの世界の他に三つ世界がある。そしてその三つの世界のどこかに自分の片割れがいる」
「片割れってなんだよ」
 コチュンが馬鹿にしたように言った。エピドーは微笑み答えた。
「同じ日に生まれ、限りなく同じ容姿を持った異性の片割れだ。だからコチュンと同じ見た目の女の子が他の世界にいるんだよ」
「うげぇ」
 コチュンが舌を出した。
「アンダにもいるの? 」
 アンダが尋ねる。
「ああ、もちろん。ヘマにもね」
 エピドーはルリに微笑む。ルリは考えた。自分と同じ顔の男。もしそういう彼がいたとして、彼はどんな生活をしているのだろうか。
「つまんねぇ話」
 コチュンが零す。
「まあ、もうちょっと聞きいてくれ。それで、その片割れを『コイン』と呼ぶ。どちらも表で、どちらも裏である、表裏一体のコインだ。それぞれの世界には『うらがえし』と呼ばれる力を持った人間がいる。名前の通りコインを裏返す悪さをする人間だ」
 エピドーは自分の左手を一瞬だけ見つめた。
「コインを裏返すと片割れがいた世界に飛ばされてしまうというわけさ」
「じゃあこんなクソみたいな世界から飛ばして欲しいぜ」
 コチュンが投げやりに言った。
「けどな、自分の生まれた世界じゃないところへ行ってしまうと元の世界に戻れる可能性は限りなく低い。そしてそのまま行っても十八歳で死んでしまうらしい」
「ふん、十八歳なんて今の状況でなれるかどうかも分かんねーし。めっちゃ先だし」
 エピドーは困った顔をした。
「まあ、この世界のどこかにそういう悪さをする人間がいるから気を付けろって、お話だ」
「つまんねー。俺もう寝よう」
 コチュンは立ち上がるとテントへ走って行く。エピドーはその背中をしょぼくれた様子で見送りルリ達を振り返る。
「そんなつまらなかった。ごめんね。面白い話をせがまれてやったんだけど」
「物語性はなかったかもしれませんね」
 ルリは正直に言った。
「そうですよね。面目ない」
「アンダは面白かったよ。寝る前に空想できそう」
 アンダの言葉でエピドーは少し慰められた。
「エピドーさんはそのお話はお母さんから? 」
「いえ、父と言うのが一番近いかもしれませんね」
 ルリは首を傾ける。エピドーはそれ以上、話を続けなかった。


 次の日の早朝、コチュンは誰よりも先に目が覚めた。隣にはアンダが眠っていた。テントから抜け出すとコチュンは朝の散歩を始めた。この小さな冒険がコチュンにとってはこの厳しい世界の唯一の楽しみであった。大人達が目覚める前に帰ってこないと怒られる。それも冒険の醍醐味であった。
 コチュンは最初木の下に靴が落ちているのだと思った。けれど目を凝らせばその先に足があった。人がいた。コチュンは立ち止まり引き返そうとした。すると、足の反対側から頭と胴体が見え、地面に倒れた。コチュンは好奇心と恐怖心が入り混じった高揚した気分でそれに近づいた。木の裏に回るとコチュンは息を飲んだ。兵士が目を見開いたまま死んでいた。コチュンは周りを見渡す。そして兵士が手に銃を持っていたのに気が付いた。コチュンはその銃を手こずりながらも、兵士から取り上げた。コチュンは父に銃を習ったことがあった。確かめると一発だけ残っていた。コチュンはそれをいつもぶら下げている腰の袋に入れた。
「あれ、パンがひとつ足りないね」
 チルルが袋の中を確かめながら眉をしかめる。
「確かかい? 」
「ああ、なんてたって貴重な食糧だ。数をまちがえたりしないよ」
 チルルはグーマに言うと、視界にコチュンが入る。
「コチュン、知らないかい? 」
「なんで俺なんだよ! 」
 疑われたコチュンは怒った。その怒り方は自分だと白状しているように大人からは見えた。
「あんたが朝早く起きて遊んでるのは知ってる。前にも干し肉を盗ったことがあるだろう? その時は黙っていたが、この先食料が減るのは命取りだ。二度目は見逃す訳にはいかないよ」
 コチュンは顔を真っ赤にした。朝の秘密の散歩をバレていたのが悔しかった。コチュンは袋に手を触れる。そしてチルルを睨んだ。
「なんだい? 」
 チルルが腕を組んで、コチュンを見下ろす。コチュンは、負けじと睨み返すが耐えきれず逃げ出した。
「コチュン! 」
「うるせぇ! 」
 アンダの手を払い、コチュンは走って行く。チルルはため息を吐いた。
「悪いがヘマ、迎えに行っておくれ。そして優しくしてやって欲しい」
「はい」
 チルルはそんな役割を引き受けたのだ。ルリが追いかけようとすると、アンダがルリのスカートを引っ張った。
「アンダも行く」
 アンダの顔には心配が浮かんでいた。
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