異界の相対者

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過去編

スイド家の人々と、とりまく未来

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「うらがえしの姿は向こうに露見している。アタカマが俺を診療所から連れ出したのも知られている。普通になんて生きていけない。ミトスだってまだガキだ。悪い子じゃないのは分かっているけれど、悪気なく僕のことを喋ってしまうかもしれない。もう来年は十五歳だ。働く年齢だろう。もう潮時だよ、ダイオさん」
 コーネスはきつめな口ぶりで並べた言葉をダイオは何一つ否定できなかった。困った顔をするしかなかった。そしてコーネスの頭を撫でた。
「お前は家族だよ。それだけは覚えておけよ」
 コーネスは表情を変えなかった。ダイオは椅子から立ち上がる。部屋の隅にある電話をかける。それは上のリビングの電話と繋がっていた。地上につながるドアを開けるように頼むためだ。天井が開く。
「また来るから。たまには上にあがってこい」
「暗い方が性に合ってる」
 コーネスはダイオを振り向かず不愛想に言った。ダイオは何も言わず上に戻っていく。コーネスはそれを確認すると、台所へ行く。コンロの下の棚を開ける。その奥の壁の角を四か所押すと外れた。その先に道がある。逃げ道だ。ここから秘密裏に抜け出す方法はないかと探し回って一年前に見つけた。コーネスは夜中に何度か抜け出し逃走ルートを綿密に練った。そして決行日も決めていた。
 週末の収穫前祭。
 ヘミモル村では小麦の収穫前と後に祭りをする。後は実りに感謝する祭り。週末の祭りは収穫で忙しくなる自分達を鼓舞する祭りだ。スイド家の人も参加する。コーネスは顔を上げる。寂しくないと言ったら嘘になる。ミトスもコーネスに懐いていた。ミトスはコーネスが「うらがえし」のことも、「コイン」のことも知らない。ただコーネスが悪い奴らに追われていて、匿っているということだけ教えられていた。「コイン」のことを話せば、ミトスがイーリス達の本当の子ではないと教えることになる。十八歳までしか生きられないことも。それを八歳のミトスに言うのは酷過ぎた。
「太陽アレルギーとかになってないといいけど、僕」
 コーネスの心配事を呟いた。

「ずっと地下に置いダイオくわけにはいかない。もっと人間らしい生活をしてやりたい。王都辺りで仕事を見つけてやって、かつらでもかぶったらどうにかならないか?」
 寄り合いから戻ってきたスタウロとダイオがソファに座りコーネスについて相談する。スタウロは王都辺りで去年ぐらいからコーネスが働けそうな場所を捜していた。
「アタカマの金を預けてる銀行に行ったら結構な金があった。名義がアタカマ・カーネスじゃなかったけどな。どうやってあの口座を開いたか知りたくねぇけど」
 ダイオが苦笑する。
「けどまあ、そんなに給金が高くないとこでも働けるよ。あいつが働きやすいところがいい」
「そうだな。そろそろ本腰入れて行動しないとな」
 窓の外を見ると息子が走って麦畑から離れて行こうとしていた。スタウロは窓を開けてミトスを呼んだ。
「ミトス、どこに行くんだい! 」
 ミトスは立ち止まると口に手をやって叫んだ。
「なーいーしょー! 」
 ダイオが大笑いする。
「内緒ならもっとこっそりやれよ」
「素直過ぎるな」
 スタウロも口に手をあてて返す。
「内緒はいいけど、危ないところ行くんじゃないぞ! 」
「はーい」
 ミトスはかけていく。
「大きくなったよ」
 スタウロが零す。
「まだ大きくなるよ」
 ダイオが付け加える。
「そうだな」
 微笑みなが言ったその言葉に、喜びと悲しみとほんの少しのやるせなさをダイオは感じた。ダイオは黙って微笑んだ。


 収穫前祭の夜。
 麦畑の周りの道に明かりが灯り、音楽が鳴り響く。いつもの静寂な村の夜と違い、賑やかであった。
 
【いままでお世話になりました。これからはひとりで大丈夫です。捜さないでください。心配もしなくていいです。優しくしてくれて、ありがとうございました。 コーネス】
 テーブルの上に置き手紙をして、飛ばないようにガラスコップを置いた。地下の部屋を見渡す。不思議と窮屈を感じない部屋だった。それはここが閉じ込められた部屋ではなく、守られた部屋だったせいかもしれない。
「さようなら」
 自分の声が地下に響く。そして抜け道から八年間住んだ部屋を出て行った。
「コーネス」
 地上に出て、墓地の方へ山を登っていたらコーネスの後ろにミトスがいた。
「お前、なんで」
「出て行くの? 」
 ミトスは素直に聞いた。コーネスは無視をして前を向く。
「祭りに行け。ダイオさん達に言うなよ」
「言わないよ。けど、見送りをする」
「はぁ? 」
 ミトスは有無を言わせずコーネスの手を握った。
「ダイオ叔父さんと父さんが、コーネスが出て行きたがってる話をしてるのを何回か聞いた。俺、夜の麦畑も好きでよく家を抜け出してたの、知らなかったでしょ?その時にたまたま、コーネスが裏の干上がった井戸から出てくるのを見たんだよ」
 ミトスは自慢げに笑った。恐ろしい子だとコーネスは思った。
「とめないのかよ、寂しくないのか? 」
「寂しいよ。でもずっとコーネスが地下にいるのは嫌だからさ、俺。今こうやって一緒に散歩できるの嬉しい」
 ミトスは無邪気に笑う。コーネスはミトスの手を振り払うことができなかった。
「山の上の墓地から麦畑を見るとすっごい綺麗なんだよ。本当は太陽の下がいいんだけど、今日は明かりがいっぱいだからきっと特別な綺麗さだよ。だから一緒に見よう」
「……少しだけだな。スタウロさん達が心配するから」
「うん! 」
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