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過去編
スイド家の人々と、とりまく未来
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捜していたスタウロが、泣きじゃくるミトスを見つけた。ミトスはしゃくりあげながら、コーネスの名前を繰り返した。その間に、墓、怪我、知らない男、とミトスの口から出てきた言葉に、ダイオが山の上の墓地までコーネスを捜しに行ったが、そこには誰もいなかった。死体さえも。
それをスタウロに伝えたダイオとの会話を聞いていたミトスは、どういう方法かは分からないけれど、男を殺したことは黙っておこうと決めた。それは決心というよりも、ただ口にすることがミトスには怖くてできなかった。
コーネスがスイド家を去ってからも、スタウロ達の口からはコーネスの名前が度々出た。
元気だろうか。あいつはしぶといから大丈夫だろう。お腹をすかせてないといいわね。コーネスの思い出話で笑い声が上がることもあった。けれど誰も「コイン」の力をコーネスが使っているかどうかについてはけして、話題にはしなかった。「コイン」のことをまだ知らないミトスがいなくても。
ミトスの十歳の誕生日、イーリスは金の太陽のブローチをプレゼントした。
「ミトスをいつも見守ってくれるように。そう願いを込めたのよ」
イーリスはブローチをミトスの左胸につけた。ミトスはキラキラ光るそのブローチがとても気に入った。イーリスはミトスの前に膝をつけ、目線を合わせた。
「よく聞いて、ミトス。こんなことを言っても無理だろうけれど、悲しまないで」
イーリスはミトスの肩に手を置くと、真剣な眼差しをミトスの瞳にやる。ミトスはいつもと様子の違う母に戸惑い、不安になった。イーリスはずっと迷っていた。そして決めた。親の勝手な判断だった。明確な正しさがないことを決めるのはとてもつらいことだった。それでもイーリスは本当のことをすべて、ではないが、息子に伝えることにした。残りの人生をできるだけ幸せに生きて欲しいために。
「あなたには、あと、八年しか時間がないの」
ミトスは母親の言っていることがしっくりこなかった。
「あなたはきっと、十八歳で死んでしまう」
「死」という言葉にミトスの不安は高まった。少し間をあけてミトスはどうしてかと小さな声で尋ねた。
イーリスはスタウロ達と相談し、「コイン」や「うらがえし」、スイド家に神の血が流れていること、インデッセの人間の目が光っていること、それらはミトスに伝えないことにした。それらはあまりにも現実離れをしていたし、なにより、ミトスがイーリスとスタウロの本当の子ではないことを伝えることになる。十八歳までしか生きられないと仮定されている息子に、それを伝える必要はないと判断した。信じられない空想話みたいな話を並べた上に、息子と血が繋がっていないことを親の口からいうにはあまりにも重かった。
「どうしても、そうなの。十八歳以上も生きられるかもしれないんだけどね」
それはイーリス達の希望だった。生きられないと言われたけれど、例外があって生きられるかもしれない。空想物語に奇跡はつきものだと、ダイオが笑って言ったのがイーリスには心の励みになった。
「怖い事いっぱい言ってごめんね。けどミトスには今日からそういう風に生きて欲しい。あと八年しかないって仮定して、できるだけ悔いが残らないように。やりたいこと、好きなこと、なんでもやって欲しい。人を傷つけてしまうことは駄目だけどね。だから明日からミトスの望みをできるだけお母さんに教えダイオ父さんにも、ダイオおじさんにもね」
ミトスは困ったような顔をして分かったと返事をした。あまりぴんときていなかった。イーリスはミトスを抱きしめる。
やりたいこと。
ミトスの頭に浮かんだのは、胸のブローチのように輝く小麦畑と、コーネスの顔だった。
ミトスはイーリスに言われたことを忘れることはなかったが、深くは考えなかった。時々、頭の片隅からふわっと湧き出てきたが、ミトスにとって「十八歳」はまだはるか先の未来で、自分ではない誰かみたいな概念であった。そしてミトスはまだ「死」についてもそれほどおそれてなかった。それこそ空想話みたいなものだった。そしてやっぱり、コーネスを時々思い出していた。会いに行く。そう宣言したことを。
それをスタウロに伝えたダイオとの会話を聞いていたミトスは、どういう方法かは分からないけれど、男を殺したことは黙っておこうと決めた。それは決心というよりも、ただ口にすることがミトスには怖くてできなかった。
コーネスがスイド家を去ってからも、スタウロ達の口からはコーネスの名前が度々出た。
元気だろうか。あいつはしぶといから大丈夫だろう。お腹をすかせてないといいわね。コーネスの思い出話で笑い声が上がることもあった。けれど誰も「コイン」の力をコーネスが使っているかどうかについてはけして、話題にはしなかった。「コイン」のことをまだ知らないミトスがいなくても。
ミトスの十歳の誕生日、イーリスは金の太陽のブローチをプレゼントした。
「ミトスをいつも見守ってくれるように。そう願いを込めたのよ」
イーリスはブローチをミトスの左胸につけた。ミトスはキラキラ光るそのブローチがとても気に入った。イーリスはミトスの前に膝をつけ、目線を合わせた。
「よく聞いて、ミトス。こんなことを言っても無理だろうけれど、悲しまないで」
イーリスはミトスの肩に手を置くと、真剣な眼差しをミトスの瞳にやる。ミトスはいつもと様子の違う母に戸惑い、不安になった。イーリスはずっと迷っていた。そして決めた。親の勝手な判断だった。明確な正しさがないことを決めるのはとてもつらいことだった。それでもイーリスは本当のことをすべて、ではないが、息子に伝えることにした。残りの人生をできるだけ幸せに生きて欲しいために。
「あなたには、あと、八年しか時間がないの」
ミトスは母親の言っていることがしっくりこなかった。
「あなたはきっと、十八歳で死んでしまう」
「死」という言葉にミトスの不安は高まった。少し間をあけてミトスはどうしてかと小さな声で尋ねた。
イーリスはスタウロ達と相談し、「コイン」や「うらがえし」、スイド家に神の血が流れていること、インデッセの人間の目が光っていること、それらはミトスに伝えないことにした。それらはあまりにも現実離れをしていたし、なにより、ミトスがイーリスとスタウロの本当の子ではないことを伝えることになる。十八歳までしか生きられないと仮定されている息子に、それを伝える必要はないと判断した。信じられない空想話みたいな話を並べた上に、息子と血が繋がっていないことを親の口からいうにはあまりにも重かった。
「どうしても、そうなの。十八歳以上も生きられるかもしれないんだけどね」
それはイーリス達の希望だった。生きられないと言われたけれど、例外があって生きられるかもしれない。空想物語に奇跡はつきものだと、ダイオが笑って言ったのがイーリスには心の励みになった。
「怖い事いっぱい言ってごめんね。けどミトスには今日からそういう風に生きて欲しい。あと八年しかないって仮定して、できるだけ悔いが残らないように。やりたいこと、好きなこと、なんでもやって欲しい。人を傷つけてしまうことは駄目だけどね。だから明日からミトスの望みをできるだけお母さんに教えダイオ父さんにも、ダイオおじさんにもね」
ミトスは困ったような顔をして分かったと返事をした。あまりぴんときていなかった。イーリスはミトスを抱きしめる。
やりたいこと。
ミトスの頭に浮かんだのは、胸のブローチのように輝く小麦畑と、コーネスの顔だった。
ミトスはイーリスに言われたことを忘れることはなかったが、深くは考えなかった。時々、頭の片隅からふわっと湧き出てきたが、ミトスにとって「十八歳」はまだはるか先の未来で、自分ではない誰かみたいな概念であった。そしてミトスはまだ「死」についてもそれほどおそれてなかった。それこそ空想話みたいなものだった。そしてやっぱり、コーネスを時々思い出していた。会いに行く。そう宣言したことを。
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