異界の相対者

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過去編

城の人々と、ミトスの運命

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〔九十七期生の悲劇が起こる半年前〕
 アベンチュレ、王都ペタ。アベンチュレ城、一局室。
 一局副局長、クレオはデスクいっぱいに資料を並べ、それを紙に時系列にまとめたものを眺めて眉間に皺を寄せていた。
「クレオ副局長、難しい顔をしていかがなさいました?お茶を淹れましたので、休憩でも」
 部下のクバン・パイローがお茶を運んできた。
「ありがとう、パイロー」
「昨夜も遅くまで残っていたそうで。何かありましたか? 」
「これを見てどう思う? 」
 クレオは紙をパイローに渡す。パイローがそれに目を通す。
「なんというか、タイミングがいいですね」
「そうだ。鉄道会社の人手不足を解消するために、客船を造船する案がうちの会議で上がれば、オードが豪華客船の計画を発表した。アベンチュレの鉄道会社が値上げを考えていれば、インデッセの鉄道会社が値下げをする。ベグテクタの機密手配人がアベンチュレに現れたとき、こっちから連絡する前に向こうの四局がすでにアベンチュレ入りをしていた」
「動きがはやすぎますね。というより、よく気が付きましたね、副局長」
「先に気が付いたのは王子ですよ。詳しく調べるように一昨日、頼まれたんです。あの人こそ、いつ寝てるんだが。全局の内部資料を隅々まで目を通してるってことですよ」
 クレオは王子の働きぶりの凄さに苦笑し、すぐに表情を厳しくした。
「結果として、アベンチュレの情報が公式発表以前に他国に漏れているってことですね、クレオ副局長」
 パイローは紙をクレオに返す。
「誰かが外部に漏らしているか、何かが入り込んでいるか……」
「九局に依頼しますか? 」
 クレオは考え黙る。
「もし外部の人間が城に入り込んでいるとしたら、それは国際的大問題だからね」
 四ヵ国条約に違反しているということになる。
「できれば内密に終わらせたい」
「我々だけでどうやって? 」
 クレオはパイローを手招きする。パイローは顔を近づける。クレオは耳打ちをする。
「こちらもスパイを雇う、とか」
 パイローはぎょっとして顔を離した。
「本気ですか? 」
 パイローが小声でいう。
「さあ、どうしましょうか」
 クレオは頬杖をついて微笑んだ。

アベンチュレ国民局、四局フロア。
 頭に包帯を巻いたトイサキレウが少し遅れて姿を見せた。
「トイサキレウ副局長!もう出てきて大丈夫なんですか?」
 カラミンが椅子から立ちあがり、駆け寄る。
「念のための一晩入院だったからな、たいしたことはない」
「めっちゃ血がどばどば流れたから心配しましたよ」
 オドーもカラミンの後ろから声をかける。先日、銀行で立てこもり事件があり、その制圧時にトイサキレウは頭を怪我した。
「ハクエン局長は? 」
「今、八局棟の方にいますよ。セッシサン副局長も心配して昨日こっちに顏出したんですよ」
 オドーが教えると、トイサキレウはそうかと頷いた。
「夕方ぐらいに学校の方へ顔出すよ。それより、カラミンお前事件の日デートだったんだろう?埋め合わせはしたのか? 」
「ああ、もういいんです」
 カラミンは歯切れ悪く言った。
「いいって、さては振られたか? 」
 トイサキレウがからかった。
「逆ですよ」
 オドーがカラミンを睨む。
「振ったらしいですよ」
「え? なんで? 」
 トイサキレウが驚く。
「いや、昨夜、埋め合わせで会ったんですよ? 待ち合わせに行くまでは好きだったんですけど、顔見た瞬間、なんか違うなって」
「最低っすよね」
 オドーが言う。
「最低だな」
 トイサキレウが頷く。
「なんでそんなこと言うんですか! しょうがないじゃないですか、好きじゃないなって気が付いちゃったんですから。ちゃんと謝りましたよ、アラリーちゃん、ごめんね、俺が悪いんだって」
「あれ? アイドちゃんじゃなかった?」
 トイサキレウが言う。
「アイドちゃんです」
 オドーが頷く。
「やっぱ、最低だよカラミン」
「最低だよ、うんこ」
「うんこはやめて、オドー」


 遡る事、昨夜。ペタのとある公衆電話。
「お姉ちゃん、振られたあぁぁ、カラミンさんにいぃぃ」
 アイドはわんわん泣きながら姉に電話をする。
「なんか違うって。どこが違うって聞いたら、なんかサラリーちゃんはガサツだってぇ。それに彼女だったのにあの人私の名前もろくに覚えてなかったのおぉぉ」
 アイドはしゃくりあげる。
「くやしいよおぉ、だから私、奉公さんになることにする! 上品になって、メイド服に身を包んでミケーレに城でばったり会って驚かせて、微笑んでやりたいぃ! うわーん! 」
 アイドの復讐が果たされるのは、数年後の事になる。
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