異界の相対者

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平和編

考える

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(婚礼の四日前もとい、シズが誘拐されて十一日目)
「どんな状況でも自分を見失わない方法って、何かないか? 」
 朝食後のお茶を淹れてくれるベルにシズは尋ねた。ベルはきょとんとした。
「それは精神論かなにかのお話で? 」
「精神論の話だと思う」
 シズダイアスを殺そうと決めたが、鏡泉に近づけはあの夜みたいに自分の意思があやふやになって、ルリの魂が、邪魔をしてくるだろう。それをどうにかするしかない。隠し通路を使っても、神の団達に見つかる。だからこそ、結婚式の日に連れられた時に決行しなければならない。けれどどうやればいい。シズは考えて考えて、身体を鍛え日は過ぎ、結婚式は遂に四日後に迫っていた。
「そうですね。鍛練をすればどうにかなるのではないでしょうか? 」
 ざっくりとしたベルの解決案だった。あと四日で鍛練をするのは無謀だろうとシズは思う。
「そういうんじゃなくって、咄嗟の時に。なんか応急処置みたいな」
「ざっくりした質問ですね」
 人の事は言えないとシズは反省する。
「そうだな。洗脳されても気が遠くならない、みたいな」
 シズが細かく伝えようとしても、ざっくりなのは変わりない。それでもベルは悩んでくれた。
「そうですね。小説とかでよくあるのは、気絶しない程度の痛みを自分に与えるとかですかね」
「ああ……」
 よく聞く話だな。ふと窓の外を見ると、中庭にふたつの人影があった。
「げっ、クソ野郎」
 ベルが窓の外を見ると笑った。
「ああ、カバンサ様ですね」
「一緒にいる男は? 」
「二局長のガーズ・トラメ様です」
「カバンサと一緒にいるってことは、あいつも神の団か? 」
「ええ」
 インデッセの国民局内で、神の団は結構幅を利かせているようだ。けれど、絶対それに対して不服に思っている城人もいるだろう。
「マッカである二局四連会議に出席なさるので今日こちらを発つ、と聞いております」
 二局四連会議。カバンサを機密手配人はできない。アベンチュレからの助けは当てにできないと考えるのが普通だろう。けれど、何も行動しないというのはあり得ない人々だ。結局、シズは期待を捨てられない。


(シズが誘拐されて四日目もとい、二局四連会議の十一日前)
「そこそこイケメンただいま参上」
 国民局四階の非常階段。階段に腰をかけていたカラミンの前に二局のタンサが煙草を咥えながら現れた。
「可哀想に。俺はめちゃめちゃイケメンですよ」
「相変わらずだな、お前」
 タンサは赤髪を整えながら、カラミンの隣に座った。
「今夜、極秘局長会議だってな」
 カラミンは呆れた。
「なんでお前毎回そんなに情報耳に入ってんだ」
「エースですから。お前より先に副局長になっちまうかもね」
「ふん、言ってろ」
 タンサは笑いながら煙を吐き出す。それをカラミンが手で追い払う。
「しかも今回はアンドラ王子が仕切るって」
「知ってる」
「あの王子も働き者だよな。インデッセについてずっと個人的に調べてたんだぜ。まさか九局に依頼していたとわね」
 アンドラがミトス・スイドというスパイを使っていたことは、エンス王にも伏せられた。ミトス・スイドが探ってきた情報は九局が調べたことになった。銃の部品の製造については、元々二局の一部の人間も知っていた。今回は、シラーが捕まった事で、インデッセが神を目覚めさせようとしていることが発覚したための緊急会議になっている。そしてシズが「神の団」に誘拐されたこともまた、伏せられていた。シラーの正体に気が付いたラリマが撃たれた。これだけが各局長の耳に入っている。
「王様もよく王子に任せたと思うよ」
 カラミンは心から思った。エンス王は勝手に動いていたアンドラを責めることはなく、「見つけたのはお前だ。始末までしっかりやれ」と少しのアドバイスを伝えただけだった。
「国の長としても、父親としても器がでかいよな」
「そうだな」
 相槌を打ったカラミンをタンサはにやにやしながら見つめた。
「なんだよ、気持ち悪い」
「お前、俺の知らない事なんか知ってるだろう?」
 タンサは勘付いていた。カラミンは鼻を鳴らした。
「お前が知っている事がどんなのか俺は知らないよ」
「今はそのごまかしに乗ってやるよ」
 タンサはたいして吸わなかった煙草を、携帯灰皿に押し込んだ。
「これは平和のために結んだ四ヵ国条約が招いた皮肉だな」
 煙草の残り香の中、タンサが呟いた。
「皮肉のない世界はないからな」
 カラミンの言葉に、タンサは確かにな、と笑った。
「共存生活をするうえで最終的には排除か許容に辿りつく。だが、排除は出来る限り選んではいけないんだ。それは未来が使える駒がひとつなくなるということでもある。けれど排除を選ぶことが間違いとも限らない」
 戦争を終わらせるために、この世界は神を失くした。それが百年前、一番迅速に多くの命を失わない方法だったのだ
「そう言うならタンサにとって神は駒ってことだな」
 カラミンが揚げ足を取る。
「そこそこイケメンは気持ちぐらい強気で行かなきゃいけないんだよ」
「意味不明。でもまあ、今回一番強気で行かなきゃいけないのは、はち切れ丸眼鏡局長だろうね」
「変なあだ名つけるな。二局長と呼びたまえ」


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