異界の相対者

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平和編

グラスが割れた

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「お前、何をした! 」
 ダイアスの消えた夜空から、シズは後ろを振り返る。そこには怒りに震えるヨールが立っていた。
「なぜダイアスは消えた! 」
 ヨールはシズに掴みかかる。その時、セドニがかばってくれようとしたが、横に蹴り飛ばした。ヨールが私の両肩を力任せに掴んだ。
「お前な! なんでそんなむちゃくちゃなんだ! 」
 セドニが怒るが、シズは無視した。
「私がルリじゃないからですよ」
 シズは静かにヨールに答えた。
「そんなはずはない! あの日記には書いてあった! 確かに書いてあったんだ! 」
 リチ、ルリ王妃の書いた日記は今、ヨール王の手元にある。
「神頼みじゃ、駄目だったってことだよ、王様」
 ヨールは歯を食いしばり、血走った眼で震えながらシズを睨み続けたが、力が抜けたように手を降ろし、数歩下がって崩れ落ちた。
「これからどうすればいい? 」
「それは私なんかではわかりません」
 ダイアスが消えた今、もうシズにヨールの役に立つ力はない。
「結局、どうにもならないのか? 」
 ヨールは嘆いた。
「過去に収まらなかった不条理はいつ、どこに収まる? 今か? 未来か? 」
「過去の不条理は過去にしか収まらない。やりきれなかった分をあなた引き取ってしまった」
 不条理は永遠に引き継いでいく。
「じゃあ、他の国は過去の過ちも認めないのか? このままずっと」
「過去の過ちを認めさせても、その先があなたの思い通りになることはけしてない。所詮過ぎた事。例え認めさせても代償はあるようでない」
 残酷な、都合のいいことをシズは言っている。人の感情がそれぞれのように、真実もまたそれぞれである。矛盾の中に道理を求め、矛盾の真実に心を砕く。真実は正義ではないし、正義も言い方を変えれば自分勝手なものだ。それに、「ごめん」で歴史は終えれない。
「弱いままで、あがき続けろということか」
 ヨールは吐き捨てた。
「この国の未来は無残になるな」
 望みが消えた人間が投げやりになっていく。元の世界に戻れないと知った時の自分と重ねるにしては、背負っているものも、立場も。シズは自分と違い過ぎることは知っていた。シズはヨールに一歩近づくと、地面に座った。
「この国の王様なんだから、未来を見限らないでください。人の世を見捨てないでください。どうやったって、あなたも私もこの世で生きてこの世で、死ななければならないのですから」
 ろくでもない奴がいて。どうしようもなく憎い奴がいて。ぶっ殺したくても我慢して。悪くもない人の正しい感情を抑えつけて。苦しくて捻りつぶしたい奴はあちこちにいて。それでもどうにかしようって。しょうがないと思っても、どうにかなるかもしれないと思ってしまったりして。
「私だって、」
 地面を見下げて、振り絞ったヨールの声が響く。
「私だって何も憎みたくはなかった! 全てを許したかった! けれど、できない。良き王になりたいけれど、それだけではいけないのだ」
「あなたはまだ戦争を起こしていない。神を矛として使わなかった」
 ヨールが顔を上げた。
「あなたの悪巧みは世にばれなかった。いつかはばれるかもしれないが、まだばれていない。だからまだ、良き王のままだ」
 シズはまるで悪知恵を付けている気分だった。ずるさも使いこなせないと人は長く生きていけない。
「何千年も人は人に可能性を求めています。自分が生きている間には訪れない、いつかに。そのいつかをヨール王は託されているのです。欲が交差するこの世界で、とてつもなく細かいものを繋いできたんです。それをどうか、繋ぎ続けてください。私が想像できないぐらい大変でしょうけど、平和と自由の世界の為に、ヨール王」
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