231 / 241
平和編
グラスが割れた
しおりを挟む
「お前、何をした! 」
ダイアスの消えた夜空から、シズは後ろを振り返る。そこには怒りに震えるヨールが立っていた。
「なぜダイアスは消えた! 」
ヨールはシズに掴みかかる。その時、セドニがかばってくれようとしたが、横に蹴り飛ばした。ヨールが私の両肩を力任せに掴んだ。
「お前な! なんでそんなむちゃくちゃなんだ! 」
セドニが怒るが、シズは無視した。
「私がルリじゃないからですよ」
シズは静かにヨールに答えた。
「そんなはずはない! あの日記には書いてあった! 確かに書いてあったんだ! 」
リチ、ルリ王妃の書いた日記は今、ヨール王の手元にある。
「神頼みじゃ、駄目だったってことだよ、王様」
ヨールは歯を食いしばり、血走った眼で震えながらシズを睨み続けたが、力が抜けたように手を降ろし、数歩下がって崩れ落ちた。
「これからどうすればいい? 」
「それは私なんかではわかりません」
ダイアスが消えた今、もうシズにヨールの役に立つ力はない。
「結局、どうにもならないのか? 」
ヨールは嘆いた。
「過去に収まらなかった不条理はいつ、どこに収まる? 今か? 未来か? 」
「過去の不条理は過去にしか収まらない。やりきれなかった分をあなた引き取ってしまった」
不条理は永遠に引き継いでいく。
「じゃあ、他の国は過去の過ちも認めないのか? このままずっと」
「過去の過ちを認めさせても、その先があなたの思い通りになることはけしてない。所詮過ぎた事。例え認めさせても代償はあるようでない」
残酷な、都合のいいことをシズは言っている。人の感情がそれぞれのように、真実もまたそれぞれである。矛盾の中に道理を求め、矛盾の真実に心を砕く。真実は正義ではないし、正義も言い方を変えれば自分勝手なものだ。それに、「ごめん」で歴史は終えれない。
「弱いままで、あがき続けろということか」
ヨールは吐き捨てた。
「この国の未来は無残になるな」
望みが消えた人間が投げやりになっていく。元の世界に戻れないと知った時の自分と重ねるにしては、背負っているものも、立場も。シズは自分と違い過ぎることは知っていた。シズはヨールに一歩近づくと、地面に座った。
「この国の王様なんだから、未来を見限らないでください。人の世を見捨てないでください。どうやったって、あなたも私もこの世で生きてこの世で、死ななければならないのですから」
ろくでもない奴がいて。どうしようもなく憎い奴がいて。ぶっ殺したくても我慢して。悪くもない人の正しい感情を抑えつけて。苦しくて捻りつぶしたい奴はあちこちにいて。それでもどうにかしようって。しょうがないと思っても、どうにかなるかもしれないと思ってしまったりして。
「私だって、」
地面を見下げて、振り絞ったヨールの声が響く。
「私だって何も憎みたくはなかった! 全てを許したかった! けれど、できない。良き王になりたいけれど、それだけではいけないのだ」
「あなたはまだ戦争を起こしていない。神を矛として使わなかった」
ヨールが顔を上げた。
「あなたの悪巧みは世にばれなかった。いつかはばれるかもしれないが、まだばれていない。だからまだ、良き王のままだ」
シズはまるで悪知恵を付けている気分だった。ずるさも使いこなせないと人は長く生きていけない。
「何千年も人は人に可能性を求めています。自分が生きている間には訪れない、いつかに。そのいつかをヨール王は託されているのです。欲が交差するこの世界で、とてつもなく細かいものを繋いできたんです。それをどうか、繋ぎ続けてください。私が想像できないぐらい大変でしょうけど、平和と自由の世界の為に、ヨール王」
ダイアスの消えた夜空から、シズは後ろを振り返る。そこには怒りに震えるヨールが立っていた。
「なぜダイアスは消えた! 」
ヨールはシズに掴みかかる。その時、セドニがかばってくれようとしたが、横に蹴り飛ばした。ヨールが私の両肩を力任せに掴んだ。
「お前な! なんでそんなむちゃくちゃなんだ! 」
セドニが怒るが、シズは無視した。
「私がルリじゃないからですよ」
シズは静かにヨールに答えた。
「そんなはずはない! あの日記には書いてあった! 確かに書いてあったんだ! 」
リチ、ルリ王妃の書いた日記は今、ヨール王の手元にある。
「神頼みじゃ、駄目だったってことだよ、王様」
ヨールは歯を食いしばり、血走った眼で震えながらシズを睨み続けたが、力が抜けたように手を降ろし、数歩下がって崩れ落ちた。
「これからどうすればいい? 」
「それは私なんかではわかりません」
ダイアスが消えた今、もうシズにヨールの役に立つ力はない。
「結局、どうにもならないのか? 」
ヨールは嘆いた。
「過去に収まらなかった不条理はいつ、どこに収まる? 今か? 未来か? 」
「過去の不条理は過去にしか収まらない。やりきれなかった分をあなた引き取ってしまった」
不条理は永遠に引き継いでいく。
「じゃあ、他の国は過去の過ちも認めないのか? このままずっと」
「過去の過ちを認めさせても、その先があなたの思い通りになることはけしてない。所詮過ぎた事。例え認めさせても代償はあるようでない」
残酷な、都合のいいことをシズは言っている。人の感情がそれぞれのように、真実もまたそれぞれである。矛盾の中に道理を求め、矛盾の真実に心を砕く。真実は正義ではないし、正義も言い方を変えれば自分勝手なものだ。それに、「ごめん」で歴史は終えれない。
「弱いままで、あがき続けろということか」
ヨールは吐き捨てた。
「この国の未来は無残になるな」
望みが消えた人間が投げやりになっていく。元の世界に戻れないと知った時の自分と重ねるにしては、背負っているものも、立場も。シズは自分と違い過ぎることは知っていた。シズはヨールに一歩近づくと、地面に座った。
「この国の王様なんだから、未来を見限らないでください。人の世を見捨てないでください。どうやったって、あなたも私もこの世で生きてこの世で、死ななければならないのですから」
ろくでもない奴がいて。どうしようもなく憎い奴がいて。ぶっ殺したくても我慢して。悪くもない人の正しい感情を抑えつけて。苦しくて捻りつぶしたい奴はあちこちにいて。それでもどうにかしようって。しょうがないと思っても、どうにかなるかもしれないと思ってしまったりして。
「私だって、」
地面を見下げて、振り絞ったヨールの声が響く。
「私だって何も憎みたくはなかった! 全てを許したかった! けれど、できない。良き王になりたいけれど、それだけではいけないのだ」
「あなたはまだ戦争を起こしていない。神を矛として使わなかった」
ヨールが顔を上げた。
「あなたの悪巧みは世にばれなかった。いつかはばれるかもしれないが、まだばれていない。だからまだ、良き王のままだ」
シズはまるで悪知恵を付けている気分だった。ずるさも使いこなせないと人は長く生きていけない。
「何千年も人は人に可能性を求めています。自分が生きている間には訪れない、いつかに。そのいつかをヨール王は託されているのです。欲が交差するこの世界で、とてつもなく細かいものを繋いできたんです。それをどうか、繋ぎ続けてください。私が想像できないぐらい大変でしょうけど、平和と自由の世界の為に、ヨール王」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる