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平和編
太陽の下(終)
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シズは太陽の下の金の海を眺める。
ヘミモル村の小麦は六月に収穫される。来週には収穫だ。
シズはバナジス家やタルク家の助けもあり、なんとかヘミモル村で暮らしていけるようになった。畑はタルク家の人々の仕事を手伝っている。シズが一人前になるのは、まだまだ、先だ。
そしてシズは、スイド家に住んでいる。誰かが住んだほうが傷まないからというのもあったが、シズがミトス・スイドにそっくりというのもあり、村の人々に他の所に住んでたら違和感があるとシズは言われた。シズは正直に気味が悪くないか、と言ったらどちらかというと運命ぽくて感動していると言われた。田舎でもっと閉鎖的だとシズは思っていたが、いい人が多くてよかったと安心している。
スイド家の地下にも、シズは入った。スイド家にあった家具を再び戻すのはさすがに不気味がられると、シズはやめておいた。その地下の壁で【俺は生きている】という文字をシズも見つけた。シズは下に【知ってる】と書いておいた。
泣きたいぐらいの明日がシズはあった。だから、生きることと引き換えに、シズはこの世界を引き受けた。
ミトスは二度とこの麦畑を眺められないとわかっていても、どうにか繋がっていたかったのかもしれない、とシズは想像する。生きていれば、シズを通じて、命でこの世界と繋がっている。あいつはこの世界を愛していた。その愛した世界を大切にしようと思う。愛すかどうかは、もう少し長く生きてみないと、シズにはわからない。シズやミトスみたいに、世界が変わるなんてことはまず、普通の人間にはないことで。どこへ行こうと世界は同じで。世界は変わらないけれど、人の心は気まぐれで。だからシズは、自分にも、何かを、誰かを愛する力があるのだと思っている。今のところ、シズはこの土地でおばあちゃんになる予定だ。アンみたいな、いいおばあちゃんに。
もう会うこともできないミトスの鼓動を、シズは自分の鼓動で感じている。ミトスは生きている。シズが生きているように。そっちの世界はこっちと結構違うけど、同じようにろくでもないことが沢山あるだろう。こっちより酷いかもしれない。それでも、死ななくてよかったと、思ってくれたらいい。自分とシズの命を繋げたことを大変だったけどよかったと、思ってくれたらいい。そしてできたら、ミトスがたまらなく幸せであるように、とシズはよく祈る。神にではない。自分がいけない遠くに祈る。遠くの望みに祈っているのだ。この小麦畑を守りながら。見えて欲しいものを見えないところから、シズは祈っている。
世界にも命にも意味はない。それでも、生きていてよかったと死んでいきたい。それが価値のない世界と命の美しさだと、シズは思うことにした。
「シズ! やっぱここにいた! 」
レアーメが走ってくる。
「レアーメ、どうしたの?」
立ち上がりながら、シズはズボンの土を払う。
「シズに部人のお客さん。カル・セドニっていう人」
シズは一瞬固まると、笑い出した。
「え? なんで? 」
レアーメが困惑する。
「ごめん。ちょっと懐かしい人で」
シズは待ちぼうけにならなかった。
「うちの宿で待ってるよ。お母さんと話してる」
「ありがとう、すぐに行く」
シズが走り出そうとすると、風が吹いた。ふと、シズは墓地がある山を振り返る。セドニをあそこに連れて行こう。あそこからふたりで金の海を眺めよう。眩しい太陽の下で。
◯
収穫祭前夜、コーネスが出て行くのに気が付いたミトスは、山の上まで無理矢理コーネスについて行った。ふたりは年に一度しか見れない、夜の明りに照らされた麦畑を眺めた。それはどこが幻想的で美しかった。
「綺麗だね、コーネス」
ミトスが目を輝かせる。
「そうだな」
コーネスは素直に綺麗だと思った。
「大きくなったらさ、ふたりで太陽の下でここから小麦を眺めようね」
コーネスは返事に困った。
「太陽の光にさ、麦畑はきらきら光って金の海になるんだよ。コーネスにも見せたい。一緒に見たい」
コーネスは胸が締め付けられた。ミトスはコーネスの手を握りしめる。叶わない夢かもしれない。それでも夢を語るぐらいは許して欲しいと、コーネスはミトスの手を強く握り返した。
「見れるといいな。太陽の下ここから、ふたりで」
(完)
ヘミモル村の小麦は六月に収穫される。来週には収穫だ。
シズはバナジス家やタルク家の助けもあり、なんとかヘミモル村で暮らしていけるようになった。畑はタルク家の人々の仕事を手伝っている。シズが一人前になるのは、まだまだ、先だ。
そしてシズは、スイド家に住んでいる。誰かが住んだほうが傷まないからというのもあったが、シズがミトス・スイドにそっくりというのもあり、村の人々に他の所に住んでたら違和感があるとシズは言われた。シズは正直に気味が悪くないか、と言ったらどちらかというと運命ぽくて感動していると言われた。田舎でもっと閉鎖的だとシズは思っていたが、いい人が多くてよかったと安心している。
スイド家の地下にも、シズは入った。スイド家にあった家具を再び戻すのはさすがに不気味がられると、シズはやめておいた。その地下の壁で【俺は生きている】という文字をシズも見つけた。シズは下に【知ってる】と書いておいた。
泣きたいぐらいの明日がシズはあった。だから、生きることと引き換えに、シズはこの世界を引き受けた。
ミトスは二度とこの麦畑を眺められないとわかっていても、どうにか繋がっていたかったのかもしれない、とシズは想像する。生きていれば、シズを通じて、命でこの世界と繋がっている。あいつはこの世界を愛していた。その愛した世界を大切にしようと思う。愛すかどうかは、もう少し長く生きてみないと、シズにはわからない。シズやミトスみたいに、世界が変わるなんてことはまず、普通の人間にはないことで。どこへ行こうと世界は同じで。世界は変わらないけれど、人の心は気まぐれで。だからシズは、自分にも、何かを、誰かを愛する力があるのだと思っている。今のところ、シズはこの土地でおばあちゃんになる予定だ。アンみたいな、いいおばあちゃんに。
もう会うこともできないミトスの鼓動を、シズは自分の鼓動で感じている。ミトスは生きている。シズが生きているように。そっちの世界はこっちと結構違うけど、同じようにろくでもないことが沢山あるだろう。こっちより酷いかもしれない。それでも、死ななくてよかったと、思ってくれたらいい。自分とシズの命を繋げたことを大変だったけどよかったと、思ってくれたらいい。そしてできたら、ミトスがたまらなく幸せであるように、とシズはよく祈る。神にではない。自分がいけない遠くに祈る。遠くの望みに祈っているのだ。この小麦畑を守りながら。見えて欲しいものを見えないところから、シズは祈っている。
世界にも命にも意味はない。それでも、生きていてよかったと死んでいきたい。それが価値のない世界と命の美しさだと、シズは思うことにした。
「シズ! やっぱここにいた! 」
レアーメが走ってくる。
「レアーメ、どうしたの?」
立ち上がりながら、シズはズボンの土を払う。
「シズに部人のお客さん。カル・セドニっていう人」
シズは一瞬固まると、笑い出した。
「え? なんで? 」
レアーメが困惑する。
「ごめん。ちょっと懐かしい人で」
シズは待ちぼうけにならなかった。
「うちの宿で待ってるよ。お母さんと話してる」
「ありがとう、すぐに行く」
シズが走り出そうとすると、風が吹いた。ふと、シズは墓地がある山を振り返る。セドニをあそこに連れて行こう。あそこからふたりで金の海を眺めよう。眩しい太陽の下で。
◯
収穫祭前夜、コーネスが出て行くのに気が付いたミトスは、山の上まで無理矢理コーネスについて行った。ふたりは年に一度しか見れない、夜の明りに照らされた麦畑を眺めた。それはどこが幻想的で美しかった。
「綺麗だね、コーネス」
ミトスが目を輝かせる。
「そうだな」
コーネスは素直に綺麗だと思った。
「大きくなったらさ、ふたりで太陽の下でここから小麦を眺めようね」
コーネスは返事に困った。
「太陽の光にさ、麦畑はきらきら光って金の海になるんだよ。コーネスにも見せたい。一緒に見たい」
コーネスは胸が締め付けられた。ミトスはコーネスの手を握りしめる。叶わない夢かもしれない。それでも夢を語るぐらいは許して欲しいと、コーネスはミトスの手を強く握り返した。
「見れるといいな。太陽の下ここから、ふたりで」
(完)
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