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悪役令嬢がスパイになるまで 4
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――リタが言うには、召使いや侍女たちには情報通が多いらしい。だから二人の情報を得て、家族としての距離を縮めてみればいいのではないか、という提案をしたかったようだ。
なぜ情報通が多いのかと言うと、簡潔に言うのであれば婚活のためということになろう。見目麗しい父の後妻の座や、兄の未来の婚約者の座を狙っている侍女は一定数おり、そういう方々が二人の興味の方向や趣味などの情報を余すことなく掴んでいるのだそうだ。
母の後釜云々は生々しくて「あんま聞きたくねぇな」という感じだったが、理屈としては納得できなくもない。行儀見習いの高位侍女たちの中には下級貴族の令嬢もそれなりに在籍しているので、玉の輿狙いがいてもおかしくないだろう。リタも確か男爵家の末っ子だったはずだ。
「……と、いうわけですので! わたし、同僚からいろいろ、坊っちゃまや旦那様のお話を聞けるのです。最近、坊っちゃまのお気に入りは離れの図書室のようですから、もしかしたらそこでならゆっくりお話ができるやもしれませんわ」
「……そう……」
きっかけを探してまいりますわとか言いながら、既に案が出来上がっているのですがそれは。
というかやけに詳しくない? 本当に同僚から聞いたんか。……もしやリタも兄狙いか?
にこにこしながらリタを見つめるが、彼女は小動物のように愛らしい顔のまま首をかしげるだけ。……まあ仮にそうだとして、リタは侍女の中でもかなり若く、年齢も兄より三つか四つか年上くらいなので、ナシではないだろう。
いずれにせよ兄と親しく会話をする機会なんてあまりないので、情報は素直にありがたい。今後の生存戦略のためにも、次の公爵である兄と仲良くしておいて損はないだろう。まあヒロインをいじめて断罪されるのならヒロインをいじめなければいい話なのだが、そう上手くいくかは正直わからないのも事実。ので、保険はあればあるほどいい。
「じゃあ、午前のお勉強が終わったら、行ってみることにするわ。ありがとう、リタ」
「が、頑張ってくださいましお嬢様……!」
頷き、ふんすと拳を握るリタ。リスみたいで可愛らしいな。
「あとリタ、もしおにいさまのことがお好きなら、わたくしは応援しますわよ」
「えッッ⁉」
真っ赤になって飛び跳ねるリタ。やっぱり図星かな、かわいいね。恋せよ乙女。
……リタが退室し一人になった部屋で、ぼんやりと家庭教師を待ちながら、書斎に行って兄と何を話すかを考える。
ただ、その時のわたしはまあ、当然だが知らなかった。
その書斎で、これからのわたしの身の振り方を決定づける出会いをする、なんてことは。
――その人の顔を初めて見たとき、まるで死神のような人だと思った。
わたしと同じ、オニキスを溶かしたような黒髪に、ガーネットを思わせる血赤の瞳。父によく似た容貌。
しかし纏う空気も、何もかもが違う。住む世界が違うのだと、目にするだけで理解させられる迫力。
静謐でいて鮮烈。動でありながら凪。およそ人間味のない無表情に、怖気が走る。
彼――父の弟であるライナス・ヴェッケンシュタインは、本棚を背に後ずさり、間合いをはかりながら逃亡しようとするわたしを見下ろして、温度のない声で言った。「お前がユリアか」
息を詰めるわたしに、彼は目を細める。
「聞いていた話と随分と違うようだ。お前は本当に五歳の少女か」
なぜ情報通が多いのかと言うと、簡潔に言うのであれば婚活のためということになろう。見目麗しい父の後妻の座や、兄の未来の婚約者の座を狙っている侍女は一定数おり、そういう方々が二人の興味の方向や趣味などの情報を余すことなく掴んでいるのだそうだ。
母の後釜云々は生々しくて「あんま聞きたくねぇな」という感じだったが、理屈としては納得できなくもない。行儀見習いの高位侍女たちの中には下級貴族の令嬢もそれなりに在籍しているので、玉の輿狙いがいてもおかしくないだろう。リタも確か男爵家の末っ子だったはずだ。
「……と、いうわけですので! わたし、同僚からいろいろ、坊っちゃまや旦那様のお話を聞けるのです。最近、坊っちゃまのお気に入りは離れの図書室のようですから、もしかしたらそこでならゆっくりお話ができるやもしれませんわ」
「……そう……」
きっかけを探してまいりますわとか言いながら、既に案が出来上がっているのですがそれは。
というかやけに詳しくない? 本当に同僚から聞いたんか。……もしやリタも兄狙いか?
にこにこしながらリタを見つめるが、彼女は小動物のように愛らしい顔のまま首をかしげるだけ。……まあ仮にそうだとして、リタは侍女の中でもかなり若く、年齢も兄より三つか四つか年上くらいなので、ナシではないだろう。
いずれにせよ兄と親しく会話をする機会なんてあまりないので、情報は素直にありがたい。今後の生存戦略のためにも、次の公爵である兄と仲良くしておいて損はないだろう。まあヒロインをいじめて断罪されるのならヒロインをいじめなければいい話なのだが、そう上手くいくかは正直わからないのも事実。ので、保険はあればあるほどいい。
「じゃあ、午前のお勉強が終わったら、行ってみることにするわ。ありがとう、リタ」
「が、頑張ってくださいましお嬢様……!」
頷き、ふんすと拳を握るリタ。リスみたいで可愛らしいな。
「あとリタ、もしおにいさまのことがお好きなら、わたくしは応援しますわよ」
「えッッ⁉」
真っ赤になって飛び跳ねるリタ。やっぱり図星かな、かわいいね。恋せよ乙女。
……リタが退室し一人になった部屋で、ぼんやりと家庭教師を待ちながら、書斎に行って兄と何を話すかを考える。
ただ、その時のわたしはまあ、当然だが知らなかった。
その書斎で、これからのわたしの身の振り方を決定づける出会いをする、なんてことは。
――その人の顔を初めて見たとき、まるで死神のような人だと思った。
わたしと同じ、オニキスを溶かしたような黒髪に、ガーネットを思わせる血赤の瞳。父によく似た容貌。
しかし纏う空気も、何もかもが違う。住む世界が違うのだと、目にするだけで理解させられる迫力。
静謐でいて鮮烈。動でありながら凪。およそ人間味のない無表情に、怖気が走る。
彼――父の弟であるライナス・ヴェッケンシュタインは、本棚を背に後ずさり、間合いをはかりながら逃亡しようとするわたしを見下ろして、温度のない声で言った。「お前がユリアか」
息を詰めるわたしに、彼は目を細める。
「聞いていた話と随分と違うようだ。お前は本当に五歳の少女か」
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