35 / 49
悪役令嬢が××××××××× 3
しおりを挟む
「……ハンナ、エスコート、どうするんだろう」
レオナルド・ティガーとハンナ・ホルンベルガーの婚約は、二人が名家の出身であるからかある程度人口に膾炙している。そのせいで彼女は代わりのエスコートを頼む人がいない。
しかし、パートナーがいないとわかっている人が一人でいるならまだしも、パートナーがいるはずの令嬢が一人でいればどうしても目立ってしまう。
わたしが俯いてそう言うと、ふんとクルトが鼻を鳴らした。
「非は完全にレオナルドの方にあるんだ、堂々としてればいい。それに創立記念パーティーで婚約者のエスコートをすっぽかすなんてことをしたら、向こうにも相応の罰が下るだろ。被害者ですと言ってさめざめ泣いてみせればハンナ嬢の勝ちだ」
「ハンナはクルトみたいにひねくれた考え方しない、いい子だから……純粋にレオナルドに惚れて傷ついてるんだよ……そんな考え方できないよ……」
「はー? 堂々としてればいいってのは的を得てるはずだろ。それに俺は別にひねくれてなんてない」
自覚がないのだろうか。クルトは十分ひねくれている。
わたしが彼に胡乱な目を向けると、彼はややあってから、「……お前はどうするつもりなわけ」と低い声で言った。
「どうする、って?」
「そりゃ、創立記念パーティーのエスコート、だよ。……もし、相手がいないなら――」
「ああ、お兄様に頼んだから大丈夫」
「は」
わたしの返答に、クルトが口を半開きにして固まった。彼にしては珍しく、随分と間抜けな表情だ。
……いや、本当に兄が味方で良かったとつくづく思う。恐らく、『インアビ』のユリアは一人でみじめな創立記念パーティーに臨み、独りぼっちで断罪されたのだろう。従兄曰く『雑魚令嬢』でも、わたしではないわたしのことだと思うと少し切ないが、そうならなくて良かった。
そう言うと、今度はクルトが胡乱な目を向けてきた。
「……お前ってさあ……ハァ……」
「ええ、何……?」
「やっぱりスパイ向いてないよ。洞察力が足りてない。何より鈍い」
「そこまで言う?」
いきなりなんだと言うのだろう。そも、いつスパイの適性の話になったのだ。意味がわからない。
わたしは死神と恐れられる叔父の訓練をくぐり抜けたサバイバーであるというのに、スパイに向いていないとは何事か。以前も同じことを言われたような気がしたが、確かに零課の他のメンバーには劣るかもしれないとはいえそれなりの腕はあるはずだ。
むう、と唇を尖らせていると、クルトが「とにかく」と口を開き、その二つの翡翠に真剣な色を宿す。……それを見て、わたしは反射的に姿勢を正した。背筋を伸ばす。
「創立記念パーティーはもうすぐそこだ。肝心のネズミが見つかっていない以上、イベント事は最も大きな懸念だ。当日はなるべくハインツ殿下の周囲を警戒し、間違っても殿下が殺されるなんて事態には、絶対にないようにしなければならない」
「うん」
「俺たちは警備の頭数に半分数えられているようなものだ。俺の未来視を伝えたからか、殿下の暗殺を恐れた憲兵総局が、護衛の兵を参加客に変装させた上で差し向ける予定になってる」
なるほど、と頷く。なかなかいい手だ。……変装が気取られなければの話だが、恐らくそのあたりは抜かりないだろう。我が国の憲兵総局は優秀だ。
「近日中にその護衛の顔、位置、当日の動きについての情報が送られてくる。これを知らされるのは殿下本人と護衛の兵、そして俺達だけだ。必ず漏れなく覚えろ」
「はい、リーダー」
気を引き締め、低い声で応える。
……ああ、もう少しで、わたしにとっての決戦の日がやってくる。
婚約破棄された際に、怒った父に家を追い出されないように、兄にフォローは入れてもらった。シャルロットとはある程度仲良くしたし、万一処刑ルートに入ってしまった時のために、脱獄する方法もクルトと話し合っている。
やれることはやれるだけやった。
後はその日を待つだけだ。
レオナルド・ティガーとハンナ・ホルンベルガーの婚約は、二人が名家の出身であるからかある程度人口に膾炙している。そのせいで彼女は代わりのエスコートを頼む人がいない。
しかし、パートナーがいないとわかっている人が一人でいるならまだしも、パートナーがいるはずの令嬢が一人でいればどうしても目立ってしまう。
わたしが俯いてそう言うと、ふんとクルトが鼻を鳴らした。
「非は完全にレオナルドの方にあるんだ、堂々としてればいい。それに創立記念パーティーで婚約者のエスコートをすっぽかすなんてことをしたら、向こうにも相応の罰が下るだろ。被害者ですと言ってさめざめ泣いてみせればハンナ嬢の勝ちだ」
「ハンナはクルトみたいにひねくれた考え方しない、いい子だから……純粋にレオナルドに惚れて傷ついてるんだよ……そんな考え方できないよ……」
「はー? 堂々としてればいいってのは的を得てるはずだろ。それに俺は別にひねくれてなんてない」
自覚がないのだろうか。クルトは十分ひねくれている。
わたしが彼に胡乱な目を向けると、彼はややあってから、「……お前はどうするつもりなわけ」と低い声で言った。
「どうする、って?」
「そりゃ、創立記念パーティーのエスコート、だよ。……もし、相手がいないなら――」
「ああ、お兄様に頼んだから大丈夫」
「は」
わたしの返答に、クルトが口を半開きにして固まった。彼にしては珍しく、随分と間抜けな表情だ。
……いや、本当に兄が味方で良かったとつくづく思う。恐らく、『インアビ』のユリアは一人でみじめな創立記念パーティーに臨み、独りぼっちで断罪されたのだろう。従兄曰く『雑魚令嬢』でも、わたしではないわたしのことだと思うと少し切ないが、そうならなくて良かった。
そう言うと、今度はクルトが胡乱な目を向けてきた。
「……お前ってさあ……ハァ……」
「ええ、何……?」
「やっぱりスパイ向いてないよ。洞察力が足りてない。何より鈍い」
「そこまで言う?」
いきなりなんだと言うのだろう。そも、いつスパイの適性の話になったのだ。意味がわからない。
わたしは死神と恐れられる叔父の訓練をくぐり抜けたサバイバーであるというのに、スパイに向いていないとは何事か。以前も同じことを言われたような気がしたが、確かに零課の他のメンバーには劣るかもしれないとはいえそれなりの腕はあるはずだ。
むう、と唇を尖らせていると、クルトが「とにかく」と口を開き、その二つの翡翠に真剣な色を宿す。……それを見て、わたしは反射的に姿勢を正した。背筋を伸ばす。
「創立記念パーティーはもうすぐそこだ。肝心のネズミが見つかっていない以上、イベント事は最も大きな懸念だ。当日はなるべくハインツ殿下の周囲を警戒し、間違っても殿下が殺されるなんて事態には、絶対にないようにしなければならない」
「うん」
「俺たちは警備の頭数に半分数えられているようなものだ。俺の未来視を伝えたからか、殿下の暗殺を恐れた憲兵総局が、護衛の兵を参加客に変装させた上で差し向ける予定になってる」
なるほど、と頷く。なかなかいい手だ。……変装が気取られなければの話だが、恐らくそのあたりは抜かりないだろう。我が国の憲兵総局は優秀だ。
「近日中にその護衛の顔、位置、当日の動きについての情報が送られてくる。これを知らされるのは殿下本人と護衛の兵、そして俺達だけだ。必ず漏れなく覚えろ」
「はい、リーダー」
気を引き締め、低い声で応える。
……ああ、もう少しで、わたしにとっての決戦の日がやってくる。
婚約破棄された際に、怒った父に家を追い出されないように、兄にフォローは入れてもらった。シャルロットとはある程度仲良くしたし、万一処刑ルートに入ってしまった時のために、脱獄する方法もクルトと話し合っている。
やれることはやれるだけやった。
後はその日を待つだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる