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悪役令嬢が××××××××× 6
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ハインツ殿下の一言で、サルーンの喧騒は止んだ。
静寂に包まれたサルーンで、殿下は重々しく「皆の戸惑いはわかる」と口を開いた。
「しかし、私はここで皆に大切なことを宣言しておきたい。今後のシルヴィア王国の未来を左右することだ」
「お、王国の未来を……?」
「一体何を宣言なさると言うんだ」
ハインツ殿下は、再びどよめき出した学生や来賓たちを見渡す。そして、彼はキッ、と鋭い目付きでこちらを睨んだ。
ああ、ついにこの時が来たか――。
「公爵令嬢ユリア・ヴェッケンシュタイン」
「……はい、なんでございましょう、殿下」
黒檀の扇子を持ち、ばさりと広げて口許を隠す。王子を前に不遜な態度を取るこちらに、ハインツ殿下や近くに立っていたレオナルドが片眉を上げた。
しかし構うまい。来るなら来い。
「私シルヴィア王国第一王子ハインツは、ヴェッケンシュタイン嬢、貴女との婚約を破棄することをここで宣言する!」
さあ――ここからが正念場だ。
痛いくらいに静まり返ったサルーンの、その中にいる全員の視線が刺さるのがわかる。
心臓の音が耳のそばで聞こえるようだ。うるさい鼓動の音を痛みで上書きするかのように、わたしは扇子の裏で強く唇を噛んだ。
……ああ、わたしは緊張している。それも、これ以上なく。
頭の冷静な部分が、自身の精神状態を淡々と分析する。
しかし、緊張も当然だ。……なぜならわたしは十年以上、この時を乗り越えるために生きてきたのだから。
「――婚約破棄、ですか」
誰もが口を開けない、凝り固まった空気を壊すように、わたしはゆっくりと口を開いた。「失礼ですが殿下、余興にしても少々悪趣味がすぎるのではなくて?」
「余興だと?」
「ええ、そうでなくて一体なんだと仰るのです? ヴェッケンシュタイン公爵の娘たるわたくしとの婚約は、王家と公家を繋ぐ大きな一つの契約ですのよ。それを殿下は一方的に破棄しようと仰るの? それが許されるとでもお思いなのですか?」
「王家の血を引く公女とはいえ、王子たるこの私になんという不遜な態度……。やはり君とは結婚などできないな。学園での振る舞いを鑑みても、君は王妃にはふさわしくない!」
学園での振る舞い。その言葉を聞き、わたしは眉を顰める。
ああ、やっぱり来たか――そう思いながら、きっと顔を上げて殿下を睨み上げる。
「学園での振る舞い? わたくしはこの王立学園で、ヴェッケンシュタイン公爵家、ひいてはシルヴィア王国の貴族として、恥となるような振る舞いは誓ってしておりませんわよ。……どこぞの方々がそちらにいるマグダリア嬢への陰湿な嫌がらせを行っていたようですが、わたくしはそのような恥知らずな方々とは違います」
「なっ……」
自分が糾弾しようとしていたことを先に言われたからか、ハインツ殿下が動揺を顔に滲ませた。嫌がらせ、という言葉に貴族たちが少なからずざわめく。
よし、とわたしは内心拳を握った。
二番煎じはいつの時代も勢いが削がれるものである。先手を打ってしまえば、流れはもらったも同然だ。
「う――」少し間を置いてから、ハインツ殿下は顔を歪めて叫んだ。「嘘を吐くな! シャルロットに嫌がらせをしていたのはヴェッケンシュタイン嬢、君だろう!」
「訳のわからないことをおっしゃらないで。何故わたくしがその方に嫌がらせをしなくてはならないのですか? シャルロット・マグダリア嬢は我が学年の最優秀生徒。優秀な人材の損失は我が国の損失でしょう。王子の妃となることを定められたこのわたくしが、そんな優秀な方に嫌がらせをする利点がどこにあると言うのです?」
「し、シャルロットと私が仲睦まじくしていたから、嫉妬したのだろう! 自分の、第一王子の婚約者としての立場を脅かされると考えてシャルロットに嫌がらせをした、違うか⁉」
「まあ殿下!」さも驚いたというように、わたしは目を見開いて甲高い声を上げた。「薄々気づいておりましたが、わたくしという婚約者がいながら学園内で堂々と浮気をなさっていたのですか? なんということでしょう。別にその方がお好きだと言うのなら側妃として娶ればよろしいのに、それをこそこそと……。シルヴィア王家の品位を落とす不貞行為ですわよ」
「ろ、論点のすり替えだ、私は君のした嫌がらせについての話をしている! しかも、言うに事を欠いて不貞行為だと……!? 不敬だぞ、ユリア・ヴェッケンシュタイン!」
「ですから嫌がらせは事実無根だと申し上げているでしょう。それに、今の話の流れでわたくしが不敬だと罰せられるのは、大変遺憾ですわ」
ねえ皆さま、そう思いませんこと?
わたしは大きく手を広げ、目の前にいる人々を見渡して言う。
ざわざわとさざめく貴族の子女たちは、近くにいる人たちとお互いに顔を見合わせながら、どちらの味方をすべきか戸惑っている様子だ。
「……助け舟はいらなそうだな、ユリア」
「ええ。手出し無用に願いますわ、お兄様」
肩を竦めた兄と、小さな声で言葉を交わす。
ちらとクルトを見れば、彼はわたしと殿下ではなく、周囲に目を配っているようだった。不審な動きをしている者がいないか、警戒しているのだろう。
信頼されているのか、放置されているのか――前者だといいなと考えつつ、わたしは再びハインツ殿下を睨み上げた。
すると。
「皆、騙されるな! この女は悪女だ!」
静寂に包まれたサルーンで、殿下は重々しく「皆の戸惑いはわかる」と口を開いた。
「しかし、私はここで皆に大切なことを宣言しておきたい。今後のシルヴィア王国の未来を左右することだ」
「お、王国の未来を……?」
「一体何を宣言なさると言うんだ」
ハインツ殿下は、再びどよめき出した学生や来賓たちを見渡す。そして、彼はキッ、と鋭い目付きでこちらを睨んだ。
ああ、ついにこの時が来たか――。
「公爵令嬢ユリア・ヴェッケンシュタイン」
「……はい、なんでございましょう、殿下」
黒檀の扇子を持ち、ばさりと広げて口許を隠す。王子を前に不遜な態度を取るこちらに、ハインツ殿下や近くに立っていたレオナルドが片眉を上げた。
しかし構うまい。来るなら来い。
「私シルヴィア王国第一王子ハインツは、ヴェッケンシュタイン嬢、貴女との婚約を破棄することをここで宣言する!」
さあ――ここからが正念場だ。
痛いくらいに静まり返ったサルーンの、その中にいる全員の視線が刺さるのがわかる。
心臓の音が耳のそばで聞こえるようだ。うるさい鼓動の音を痛みで上書きするかのように、わたしは扇子の裏で強く唇を噛んだ。
……ああ、わたしは緊張している。それも、これ以上なく。
頭の冷静な部分が、自身の精神状態を淡々と分析する。
しかし、緊張も当然だ。……なぜならわたしは十年以上、この時を乗り越えるために生きてきたのだから。
「――婚約破棄、ですか」
誰もが口を開けない、凝り固まった空気を壊すように、わたしはゆっくりと口を開いた。「失礼ですが殿下、余興にしても少々悪趣味がすぎるのではなくて?」
「余興だと?」
「ええ、そうでなくて一体なんだと仰るのです? ヴェッケンシュタイン公爵の娘たるわたくしとの婚約は、王家と公家を繋ぐ大きな一つの契約ですのよ。それを殿下は一方的に破棄しようと仰るの? それが許されるとでもお思いなのですか?」
「王家の血を引く公女とはいえ、王子たるこの私になんという不遜な態度……。やはり君とは結婚などできないな。学園での振る舞いを鑑みても、君は王妃にはふさわしくない!」
学園での振る舞い。その言葉を聞き、わたしは眉を顰める。
ああ、やっぱり来たか――そう思いながら、きっと顔を上げて殿下を睨み上げる。
「学園での振る舞い? わたくしはこの王立学園で、ヴェッケンシュタイン公爵家、ひいてはシルヴィア王国の貴族として、恥となるような振る舞いは誓ってしておりませんわよ。……どこぞの方々がそちらにいるマグダリア嬢への陰湿な嫌がらせを行っていたようですが、わたくしはそのような恥知らずな方々とは違います」
「なっ……」
自分が糾弾しようとしていたことを先に言われたからか、ハインツ殿下が動揺を顔に滲ませた。嫌がらせ、という言葉に貴族たちが少なからずざわめく。
よし、とわたしは内心拳を握った。
二番煎じはいつの時代も勢いが削がれるものである。先手を打ってしまえば、流れはもらったも同然だ。
「う――」少し間を置いてから、ハインツ殿下は顔を歪めて叫んだ。「嘘を吐くな! シャルロットに嫌がらせをしていたのはヴェッケンシュタイン嬢、君だろう!」
「訳のわからないことをおっしゃらないで。何故わたくしがその方に嫌がらせをしなくてはならないのですか? シャルロット・マグダリア嬢は我が学年の最優秀生徒。優秀な人材の損失は我が国の損失でしょう。王子の妃となることを定められたこのわたくしが、そんな優秀な方に嫌がらせをする利点がどこにあると言うのです?」
「し、シャルロットと私が仲睦まじくしていたから、嫉妬したのだろう! 自分の、第一王子の婚約者としての立場を脅かされると考えてシャルロットに嫌がらせをした、違うか⁉」
「まあ殿下!」さも驚いたというように、わたしは目を見開いて甲高い声を上げた。「薄々気づいておりましたが、わたくしという婚約者がいながら学園内で堂々と浮気をなさっていたのですか? なんということでしょう。別にその方がお好きだと言うのなら側妃として娶ればよろしいのに、それをこそこそと……。シルヴィア王家の品位を落とす不貞行為ですわよ」
「ろ、論点のすり替えだ、私は君のした嫌がらせについての話をしている! しかも、言うに事を欠いて不貞行為だと……!? 不敬だぞ、ユリア・ヴェッケンシュタイン!」
「ですから嫌がらせは事実無根だと申し上げているでしょう。それに、今の話の流れでわたくしが不敬だと罰せられるのは、大変遺憾ですわ」
ねえ皆さま、そう思いませんこと?
わたしは大きく手を広げ、目の前にいる人々を見渡して言う。
ざわざわとさざめく貴族の子女たちは、近くにいる人たちとお互いに顔を見合わせながら、どちらの味方をすべきか戸惑っている様子だ。
「……助け舟はいらなそうだな、ユリア」
「ええ。手出し無用に願いますわ、お兄様」
肩を竦めた兄と、小さな声で言葉を交わす。
ちらとクルトを見れば、彼はわたしと殿下ではなく、周囲に目を配っているようだった。不審な動きをしている者がいないか、警戒しているのだろう。
信頼されているのか、放置されているのか――前者だといいなと考えつつ、わたしは再びハインツ殿下を睨み上げた。
すると。
「皆、騙されるな! この女は悪女だ!」
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