悪役令嬢はスパイに向いてない

雨音

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悪役令嬢が××××××××× 7

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 突如張り上げられた声に、わたしは大きくかぶりを振った。もういい加減にしてくれ。



「……今度はあなたですか、レオナルド様」



 まったく、頭が痛くなってくる話である。冗談抜きでこの国は泥船なのではなかろうか。

 王位継承権第一位の王族がアレで、次期騎士団長がコレとは……そろそろ本気で亡命用のビザを手配するべきかもしれない。手続き方法を調べておこうか。

「この期に及んで罪を逃れようとするなど、恥を知れ! お前はシルヴィアの公女を名乗る資格すらない!」

「……あなた、ご自分で一体何をおっしゃっているのかわかっていて? これは侮辱として受け取りますわよ。のちほどティガー侯爵家に厳重に抗議させていただきますわ」

「ああ勝手にするがいい! もっとも、お前のような罪人の抗議が受理されるとは思えないがな!」

「罪人ですって? このわたくしが?」

「ああそうだ、お前はシャルロットを虐げた罪人だ。シャルロットの受けた嫌がらせの中には命が脅かされるものも含まれていた。それをやったのだから、間違いなくお前は殺人未遂犯だ!」

(ああもう話にならない……わかってはいたけど……)

 もう、いい加減言い返すことにも疲れてきた。

 噛み合わない会話がこんなに疲労するものだなんてこと、正直、知りたくなかった。とても辛い。

 ……それに、シャルロットはどうして何も言わないのだろう。

 彼女はわたしがいじめに加担していないということをよく知っているはずだ。彼女が一言違うと言ってさえくれれば、こんな無駄な議論をしなくて済むのに。……それとも、シャルロットはわたしがあの時彼女を助けたのは、嫌がらせの黒幕がそうと悟らせないためにわざとやった行為だと考えているのだろうか。

 だが、彼女は石が落ちてきたあの時、隠してきた異能を使ってまでわたしを治してくれた。わたしがいじめの黒幕ではないかと疑っていたのなら、わざわざ異能を使ってわたしを治す必要はなかったはずだ。

 そしてそれは、彼女が『王子の婚約者という立場』欲しさに、わたしを貶めようとしていた場合も同じだ。『優しく美しい完璧な乙女』を演じようとしていたのだとしても、異能を使う必要はなかったはず。なぜなら、わたしは彼女が『治癒』の異能者であるということなど、知らなかったのだから。

 ――つまり彼女はあの時、本気で自分を庇ったわたしを心配し、焦り、助けたいと思っていたのだ。だからこそ異能を使ってわたしを治療した。

(シャルロットの真意はいったいどこにあるの……?)

 わたしは、ハインツ殿下の後ろで一言も発しないシャルロットに視線を向けた。そして、彼女の目を見て――絶句した。

 ……彼女の目は、真っ暗だった。

 薔薇色の瞳は翳って冷え切っており、まるで凍りついた造花のようだった。暗く、昏く、闇い。息を飲むほどに。

 あの目は、なんだ。どうしてそんな目をしている。

 シャルロット・マグダリアは幸せなヒロインなのではなかったのか。

 いったい何故彼女は、ハインツ殿下の背に守られながら、そんな目をして口を噤んでいるのだ――。

「フンっ、言い返す言葉も出てこないか。まあ、当然だな」

 わたしがシャルロットの目に釘付けになって黙り込んでいたことを、反論できないから口を閉ざしていたのだと勘違いしたらしい。勝ち誇ったように胸を張ったレオナルドが、「殿下」とハインツ殿下に呼びかけた。

 ハインツ殿下は頷き、こちらを睨んで口を開く。

「嫌がらせの件は追って沙汰を出す。今日はこの私に対する数々の無礼を学園の仮牢で反省していろ!」

「で、殿下! 何を言うのです!?」

 さすがに黙っていられなくなったのだろう、兄が目を釣り上げてハインツ殿下を見る。しかし殿下は「黙れマティアス!」と冷たい声で遮った。

「逆らえば君も仮牢で頭を冷やしてもらうことになるぞ!」

「……滅茶苦茶だ」

 歯を食いしばり絞り出すように言った兄に、赤べこのように頷きたい気持ちでいっぱいだ。本当に滅茶苦茶だ。

 ……だがまあ、いいだろう。仮牢に入れられることは想定していたパターンの一つだ。

 ハインツ殿下の命令で、何人かの学生たちが駆け寄ってきて、わたしの腕をそれぞれ掴む。それを見てユリア、とわたしを呼ぶ兄に、「大丈夫です」と首を振った。

「殿下、婚約破棄の件、了承いたしましたわ」

「了承も何もない。これは私の決定だ、君の意志など関係ない」

「……それでも、わたくしは嫌がらせの件はまったくの事実無根だと主張させていただきます。この侮辱に、断固として抗議いたしますわ」

「言い訳ならば判事にするといい。連れて行け!」

「ハッ!」

 ハインツ殿下のシンパであろう学生に「来い!」と引き摺られる。大人しく着いていきながらも、わたしはさっと視線を辺りに巡らせる――いた。クルトだ。

 クルトはわたしと目が合うと、数瞬間を置いて、左手のひらを下に向けた。あらかじめ決めておいた、『自分が行くまで仮牢から動くな』というサインだ。恐らく、わたしの答弁の間、怪しい動きをした人物がいなかったのだろう。

 余計なことをしない方がいいとクルトが判断したのなら、それが正しい。わたしはしばらくの間大人しくしていよう。

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