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悪役令嬢が××××××××× 9
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誰もいない講堂は、しんと静まり返っていた。
パイプオルガンのその上にあるステンドグラスを透過して月明かりが差し込み、ステージに光を落としている。
灯されている明かりもなく、ただ静かな闇と柔らかい月光に包まれる講堂は、息を飲むほどに美しかった。
講堂の入り口から、二人で手を繋いだまま、ゆっくりとステージに向かって歩いていく。
特別な式典でしか使われない講堂が、こんなにがらんどうとしているのを見るのは初めてで――無人であるからか神秘的な雰囲気が漂うそこを並んで歩いていると、まるで世界が二人であるかのように錯覚してしまいそうだ。
「そういえば……私はここで君を初めて見たんだったな」
目を細め、秋のはじめに執り行われた入学式のことを思い出す。
新入生総代としてスピーチをする彼女は愛らしく、そして凛々しく、一目で心を奪われた。あの時の衝撃は、今でもよく覚えている。
それは、シルヴィア王国第一王子、ハインツの初恋だった。
「あの時のスピーチは、とても素晴らしかったよ」
「ふふ……ありがとうございます」
そして初恋の少女――シャルロットは、ハインツの手をぎゅっと握り返すと、はにかんでそう言った。
ああ、その様子もまた愛らしい。天使のような彼女は、まさに『元婚約者』であったあの悪女とは正反対だ。
「まさか君に、創立記念パーティーを抜け出そうと誘われるとは思わなかったよ。警備も上手く撒けて良かった。夜の講堂がこれほどまでに神秘的で美しいとは、私も知らなかった」
「わたし、あまり喧騒って得意じゃないんです。それに……その、殿下と二人きりで話をしたかったから……」
「……嬉しいことを言ってくれるね」
ハインツはシャルロットの手を引き、ステージの上へとエスコートした。
共に月明かりの照らす壇上に上がったところで、ハインツはシャルロットに向かって手を差し出した。
「ハインツ殿下?」
「そろそろパーティー会場ではラストダンスの時間だ。私達も踊ろう。音楽はないけれど、構わないだろう?」
「……そうですね」
シャルロットが微笑み、ハインツの手のひらに手を載せる。
ハインツはシャルロットをそっと抱き寄せると、どちらからともなくステップを踏む。
ああ、まるで夢のようだ。恋している人と、神秘的な月明かりの下で踊ることの、なんと素晴らしいことか。
この時間よ、終わらないでくれ、と――そう思っていると。
曲が流れていたならば終盤に差し掛かっている、というあたりで、シャルロットが不意に口を開いた。
「ハインツ殿下はどうして……ユリア様との婚約を破棄してしまわれたのですか?」
「それは、彼女が君を虐げた悪女だからだよ」ハインツは歌うように答えた。「それに彼女は不遜で傲慢で、昔から我儘ばかりの女だった。自分のことばかりで、周囲の何も見ようとしていない女なんて、未来の国母に相応しくない。だから君が気に病む必要はないんだよ」
「……では殿下は、わたしのことは、どう思っておられるのですか?」
曲が終わりに近づく。
ああ神よ、ありがとう、とハインツは夢見心地で目を閉じる。
月明かりの下で愛の告白をすることができるだなんて、素晴らしくロマンティックではないか――。
「君は優しく、可憐で、素敵な女性だ。私の、天使のような存在だよ。ずっと守ってあげたいと思う」
「天使……、」
だからどうか、これからも私の傍にいてほしい。
そう続けようとした瞬間――「あははっ」とシャルロットが笑った。
同時に、二人で最後のステップを踏む。
ダンスが終わった。ハインツは突然笑い声を上げた彼女を不審に思い、「シャルロット?」と首をひねって呼びかける。
彼女は俯いていた。肩が少し震えている。
泣いているのか。そう思って近寄ろうとしたその瞬間、彼女はガバッ、と顔を上げた。
「――ラストダンスは楽しかったか」
顔を上げた彼女は、能面のような無表情だった。
誰もいない講堂は、しんと静まり返っていた。
パイプオルガンのその上にあるステンドグラスを透過して月明かりが差し込み、ステージに光を落としている。
灯されている明かりもなく、ただ静かな闇と柔らかい月光に包まれる講堂は、息を飲むほどに美しかった。
講堂の入り口から、二人で手を繋いだまま、ゆっくりとステージに向かって歩いていく。
特別な式典でしか使われない講堂が、こんなにがらんどうとしているのを見るのは初めてで――無人であるからか神秘的な雰囲気が漂うそこを並んで歩いていると、まるで世界が二人であるかのように錯覚してしまいそうだ。
「そういえば……私はここで君を初めて見たんだったな」
目を細め、秋のはじめに執り行われた入学式のことを思い出す。
新入生総代としてスピーチをする彼女は愛らしく、そして凛々しく、一目で心を奪われた。あの時の衝撃は、今でもよく覚えている。
それは、シルヴィア王国第一王子、ハインツの初恋だった。
「あの時のスピーチは、とても素晴らしかったよ」
「ふふ……ありがとうございます」
そして初恋の少女――シャルロットは、ハインツの手をぎゅっと握り返すと、はにかんでそう言った。
ああ、その様子もまた愛らしい。天使のような彼女は、まさに『元婚約者』であったあの悪女とは正反対だ。
「まさか君に、創立記念パーティーを抜け出そうと誘われるとは思わなかったよ。警備も上手く撒けて良かった。夜の講堂がこれほどまでに神秘的で美しいとは、私も知らなかった」
「わたし、あまり喧騒って得意じゃないんです。それに……その、殿下と二人きりで話をしたかったから……」
「……嬉しいことを言ってくれるね」
ハインツはシャルロットの手を引き、ステージの上へとエスコートした。
共に月明かりの照らす壇上に上がったところで、ハインツはシャルロットに向かって手を差し出した。
「ハインツ殿下?」
「そろそろパーティー会場ではラストダンスの時間だ。私達も踊ろう。音楽はないけれど、構わないだろう?」
「……そうですね」
シャルロットが微笑み、ハインツの手のひらに手を載せる。
ハインツはシャルロットをそっと抱き寄せると、どちらからともなくステップを踏む。
ああ、まるで夢のようだ。恋している人と、神秘的な月明かりの下で踊ることの、なんと素晴らしいことか。
この時間よ、終わらないでくれ、と――そう思っていると。
曲が流れていたならば終盤に差し掛かっている、というあたりで、シャルロットが不意に口を開いた。
「ハインツ殿下はどうして……ユリア様との婚約を破棄してしまわれたのですか?」
「それは、彼女が君を虐げた悪女だからだよ」ハインツは歌うように答えた。「それに彼女は不遜で傲慢で、昔から我儘ばかりの女だった。自分のことばかりで、周囲の何も見ようとしていない女なんて、未来の国母に相応しくない。だから君が気に病む必要はないんだよ」
「……では殿下は、わたしのことは、どう思っておられるのですか?」
曲が終わりに近づく。
ああ神よ、ありがとう、とハインツは夢見心地で目を閉じる。
月明かりの下で愛の告白をすることができるだなんて、素晴らしくロマンティックではないか――。
「君は優しく、可憐で、素敵な女性だ。私の、天使のような存在だよ。ずっと守ってあげたいと思う」
「天使……、」
だからどうか、これからも私の傍にいてほしい。
そう続けようとした瞬間――「あははっ」とシャルロットが笑った。
同時に、二人で最後のステップを踏む。
ダンスが終わった。ハインツは突然笑い声を上げた彼女を不審に思い、「シャルロット?」と首をひねって呼びかける。
彼女は俯いていた。肩が少し震えている。
泣いているのか。そう思って近寄ろうとしたその瞬間、彼女はガバッ、と顔を上げた。
「――ラストダンスは楽しかったか」
顔を上げた彼女は、能面のような無表情だった。
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