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ヒロイン転生
ヒロイン、己をヒロインと知る
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リュシュエール王国 王立学園
この国の貴族位を持つも者、そして、一部の伝統と資金がある者の子息、子女が通う学園。
この学園では勉学だけではなく、魔法、戦闘術、戦術、経済等も学ぶ。
勿論、貴族と金持ちだけのセレブ学校では無い。市井の平民学校で成績や魔力、剣術等が優秀な者も特待生として入学してくる。
国の中心である王都に学園は有る。
財力の有る学生は王都に本宅、別宅、借家が有るため、そちらから通うようだが、基本的に多くの学生は寮生活となる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
駆け抜けた風が、濃い紫の癖毛を力強く撫で、せっかく整え下ろしていた髪を乱していく。
催事用制服のスカートはロング丈の為、裾を気にする必要はない。
髪を軽く整えると、足を動かす。
寮に向かう石畳の小道を歩く。
小道の両サイドは等間隔に木が植えられ、一面の緑鮮やかな芝に涼しげな木陰を作り出している。
天気も良く、空の青と雲の白のコントラストが目に眩しい。
ふと、足を止める。
目の前には美しい花々が咲き誇る庭園。
小道は左右に別れている。
兄・セドリックから渡されていた寮までの地図をポケットから出す。
と、突然の突風。
「あっ…!」
突風は持っていた地図を奪い取って行く。
「待っ、て……」
飛んで行く紙を目線で追いかける。
飛んでいった地図は、立ち並ぶ木々の間をすり抜けていく。
「…………」
パサリーー
「…………」
地図が落ちるのが見えた。
地図のすぐ側には、催事用制服に身を包んだ男性が一人、木陰に横たわっている。
「…………」
……男性が、横たわっている。
「!!!」
衝撃が走った。
この位置でも判った。
そう………気づいた……いや、思い出した、見覚えがあると言った方が正い。
王立学園
寮に続く林並木の石畳
飛ばされた地図
地図が落ちた先に横たわるーーー
攻略対象者ーーー
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
魔法と剣の乙女恋愛活劇ゲームR15『彩の魔法剣』
類稀な魔力を見いだされ、男爵家に養子として迎え入れられた少し影のあるヒロイン『ライラック』は、王都の学園へと入学する。
学園には攻略対象である皇太子や宰相、騎士団長の子息等、貴族の子息、子女達が在籍している。学園生活三年間で数々の困難をくぐり抜け、熱い友情が淡い恋へと変わり、燃えるような愛へと進化する。
R15指定なのは、イベントシーンには流血シーンが含まれるからだ。
そして、ヒロインと対峙する悪役令嬢『イオネラ』。
美しい金糸の髪。白磁の肌。切れ長のエメラルドの瞳。
ゲームではイオネラはライラックを陥れようとあらゆる手段を使ってくる。攻略対象者との愛を得、戦場でも功績を上げたヒロインを妬み殺そうとするが失敗。断罪される。
戦争を納め、命を狙われる心配もなくなったヒロインは愛と名声と地位を得てハッピーエンディングとなる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
元々の自分は、行き遅れた独り暮らしの中年おばさんだった。
乙女ゲーム『彩の魔法剣』は、高校生の時に遊んだ事がある程度。
その後、secondや年齢制限版が出た等は情報として知っていたが、プレイする事は無かった。
世界情勢的に休業や自粛、自宅待機で、独り寂しく(実は楽しんでた)独り飲みをし眠りについた。
そして、目覚めた時には『ライラック・オーグレーン』となっていた。
8才の時、全身の痛みで目を覚ました。
最初は、夢か、最悪、精神を病んで妄想を現実としてしまっているのでは…と、怯えに怯えたが、まぁ、慣れてしまった…。
だって…慣れるしかないでしょ……
鏡を見れば、幼女。
日本人離れした、地毛色に瞳の色。
そして、中世かのような生活文化。
何より、魔法の事実。
全てを受け入れなければ、逆に病む…と、思った…
目覚めた時の痛みは左の首から肩にかけての火傷だった。
何でも、魔力が暴走したらしい。
義兄のセドリックに教えてもらった。
ライラックは養子だった。
ゲームのキャラクター説明には『魔法に秀でた影のあるヒロイン』となっていたのを思い出した。
養子……確かに影を感じる…
何でも、母は魔法の才能も貴族の地位も棄て、冒険者と駆け落ちし、冒険者だった父は依頼中に死に、母は、ライラックを産んだ後、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。
産まれて間もない自分は、一旦、死んだ父の弟が引き取ったそうだが、冒険者の仕事としたことの無い子育てを両立することができず、孤児院に預ける事となり、ことの次第を風の噂で聞いた、亡き母の兄である養父ハリスに引き取られた。
と、養父から教えられた。
そして、この日から、私、『ライラック・オーグレーン』の貴族としての生活が始まった。
その頃には、異世界転生が実現にっ!!
と、浮かれていた。
転生し、チートな能力、現代の知識をアレンジしつつ快適な生活ーー
養父からの魔法訓練はかなり厳しかったが、それは望む所でもあった。
例え魔法がチート級でも、キチンと扱えなければ意味がない。
それに、中身は30オーバー、子供には無い忍耐力や理解力等がある。
魔法の訓練への厳しさやハリスの魔法絶対主義に引いたが、剣術の才能が無いようなので仕方ないとも思った。
勉学なども比較的難しく無く習得していき、魔法もコッソリ新魔法を開発したりと、自分なりに異世界転生生活を満喫していた。
そんな異世界生活を一変させたのは、まさかの養父ハリスへの疑惑だった。
知識を得ていくうちに、この男爵家で生活していく時間が長くなれば長くなるほど、疑問が湧いてきた。
なぜ、養父ハリスは次期当主であるセドリックに殊更冷たいのか?
なぜ、執事やメイドはいつもピリピリし怯えているのか?
なぜ、義理とはいえ、この家族はいつまでもギクシャクとしているのか?
なぜ、税収の割りに領内は活気が有るとは言えないのか?
そしてーー
知ってしまった真実ーー
義兄が領内の冒険者ギルドに通っている事を知り、無理を言って付いていった時だった。
その頃、この家庭内の空気と、領内の活気の無さを何とかしようと、色々していたことも有り、セドリックや執事、メイド達とは良い関係を作ることに成功していた。
領内の活気も少しづつみられ、街での知り合いも増え始めた頃だった。
冒険者が如何なる存在なのか気になっていた。
同時に単純に、仲良くなった義兄が何をしているのか気になったし、もしかしたら、自分も冒険者登録してーーとも考えていた。
しかし、そこに居たのは叔父を名乗る冒険者だった。
セドリックの後に続き冒険者ギルドの扉を潜ると、悲痛な表情で駆け寄る一人の冒険者。
名を呼ばれ、何事だろうかと思えば、きつく抱きしめられた。
慌てる自分を尻目に、義兄が優しく微笑んでいたのを鮮明に覚えている。
そして、聞かされた真実ーー
叔父はエイベルと名乗った。
叔父が語るには、実の父母は、養父ハリスとの血縁関係はまったく無いとの事だ。
父母の死は事実だあり、父の弟である叔父がライラックを引き取った。
両親も早いうちに亡くし、兄までも失った叔父にとって、ライラックは最後の家族だったそうだ。
仕事と子育ての両立が難しかったのは事実だったそうだ。
依頼等の仕事で帰れない時には修道院に自分を預けたりして、何とかやっていたのだと言う。
だが、遠出の依頼があり、修道院に預けた時にその修道院は盗賊に襲われ、火が放たれた。
一報を聞きつけ、駆けつけたが、燃え上がり、崩れ落ちる修道院を見て、叔父は全を失ったと絶望したと言う。
義兄が言うには、養父は常々、孤児院や修道院に赴き、魔力の強い子供を探していたそうだ。
そこでライラックに目をつけたのだと言う。
混乱する。
養父が教えてくれた出生が全て嘘なのか?
今、自分を、涙を流しながら抱きしめるこの男が語る言葉が真実なのか?
「僕に、魔法の才能は無かったから……」
やけにハッキリと聞こえた義兄の声。
確かに、養父の魔法への執着は並々ならぬものを感じた。しかし、それだけで………
「そういう人なんだ…あの人は…自分の目的の為なら、何でもする……」
俯き、辛そうな義兄を引き寄せる一人の男性。
男性はエリオットと名乗った。
そして、自分は、更に衝撃の事実を知る事になった。
「この子は、セドリックは、元々私の子なんだ。兄に強く請われ、養子に出したんだ…。家の為と…」
「…父様…」
義兄の実の父、養父の弟と言う男の手をとる義兄。
しっかりと繋がれた二人の手ーー
外見は可愛らしい少女だが、中身は30年の薄っぺらいかもしれないが、経験と知識がある。
自分は、あらゆる手段で養父の疑惑を洗った。
自分の出自、義兄の出自、それに伴って浮かび上がる疑惑の数々…
メイドに無理矢理奉仕をさせている
亡き細君は病死では無く殺された
命令を聞かなければ修道院も燃やす
盗賊とは裏では繋がっている
王都の貴族に賄賂を渡している
密輸、密造をしている
暗殺を裏の仕事にしている
等々
周囲の信頼置ける人達にも協力してもらい、少しずつ、しかし確実に疑惑を精査していく。
疑惑の精査を進めるにつれ、真実が浮かび上がり、決断の時がくる。
その日、養父を調査する中で、既に家族同然と言えるまでになった義兄の両親、そして叔父とその仲間達がハリス・オーグレーンを男爵家当主の座から引きずり下ろし、弟のエリオット・オーグレーンが男爵家当主の座を奪い取った。
養父は細君の毒殺、盗賊との癒着、修道院への襲撃、子供の誘拐、上位貴族への賄賂等々で罪を問われ、余生を地下牢で過ごすこととなった。
しかし、一年後病に臥しその命が終わることとなる。
晴れて当主となった義兄の両親から、改めて養子にならないかと提案があった。
元々は冒険者の、平民の子供である自分はどうするべきか…
悩む自分の背を押したのは、唯一の血縁者である叔父だった。
「俺はお前にドレスを着せてやれないし、魔法や勉強も教えてやれない。それに、まだ冒険者を続けるつもりでいる…だから…」
上位冒険者である叔父がお金に困ってる様子は無いし、自分は一人で留守番もできない年齢ではない。
しかし、男爵家での生活がすぐさま抜けるかと言えば、難しい。
最終的に、自分は再度養子となり男爵令嬢となり、叔父は、男爵家お抱えの冒険者となった。
そして、15歳。
一年先に王立学園に入学した兄の後に続き、自身も王立学園に入学する事なる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
そして、始まる魔法と剣と愛の日々ーー
スチルで見た、ヒロインと攻略対象者である皇太子の出会いのシーン。
この風景を見つめ確信した。
私はーー
「ライラック・オーグレーン…」
乙女ゲーム『彩りの魔法剣』のヒロイン………
ヒロインだったのだ……
この国の貴族位を持つも者、そして、一部の伝統と資金がある者の子息、子女が通う学園。
この学園では勉学だけではなく、魔法、戦闘術、戦術、経済等も学ぶ。
勿論、貴族と金持ちだけのセレブ学校では無い。市井の平民学校で成績や魔力、剣術等が優秀な者も特待生として入学してくる。
国の中心である王都に学園は有る。
財力の有る学生は王都に本宅、別宅、借家が有るため、そちらから通うようだが、基本的に多くの学生は寮生活となる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
駆け抜けた風が、濃い紫の癖毛を力強く撫で、せっかく整え下ろしていた髪を乱していく。
催事用制服のスカートはロング丈の為、裾を気にする必要はない。
髪を軽く整えると、足を動かす。
寮に向かう石畳の小道を歩く。
小道の両サイドは等間隔に木が植えられ、一面の緑鮮やかな芝に涼しげな木陰を作り出している。
天気も良く、空の青と雲の白のコントラストが目に眩しい。
ふと、足を止める。
目の前には美しい花々が咲き誇る庭園。
小道は左右に別れている。
兄・セドリックから渡されていた寮までの地図をポケットから出す。
と、突然の突風。
「あっ…!」
突風は持っていた地図を奪い取って行く。
「待っ、て……」
飛んで行く紙を目線で追いかける。
飛んでいった地図は、立ち並ぶ木々の間をすり抜けていく。
「…………」
パサリーー
「…………」
地図が落ちるのが見えた。
地図のすぐ側には、催事用制服に身を包んだ男性が一人、木陰に横たわっている。
「…………」
……男性が、横たわっている。
「!!!」
衝撃が走った。
この位置でも判った。
そう………気づいた……いや、思い出した、見覚えがあると言った方が正い。
王立学園
寮に続く林並木の石畳
飛ばされた地図
地図が落ちた先に横たわるーーー
攻略対象者ーーー
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
魔法と剣の乙女恋愛活劇ゲームR15『彩の魔法剣』
類稀な魔力を見いだされ、男爵家に養子として迎え入れられた少し影のあるヒロイン『ライラック』は、王都の学園へと入学する。
学園には攻略対象である皇太子や宰相、騎士団長の子息等、貴族の子息、子女達が在籍している。学園生活三年間で数々の困難をくぐり抜け、熱い友情が淡い恋へと変わり、燃えるような愛へと進化する。
R15指定なのは、イベントシーンには流血シーンが含まれるからだ。
そして、ヒロインと対峙する悪役令嬢『イオネラ』。
美しい金糸の髪。白磁の肌。切れ長のエメラルドの瞳。
ゲームではイオネラはライラックを陥れようとあらゆる手段を使ってくる。攻略対象者との愛を得、戦場でも功績を上げたヒロインを妬み殺そうとするが失敗。断罪される。
戦争を納め、命を狙われる心配もなくなったヒロインは愛と名声と地位を得てハッピーエンディングとなる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
元々の自分は、行き遅れた独り暮らしの中年おばさんだった。
乙女ゲーム『彩の魔法剣』は、高校生の時に遊んだ事がある程度。
その後、secondや年齢制限版が出た等は情報として知っていたが、プレイする事は無かった。
世界情勢的に休業や自粛、自宅待機で、独り寂しく(実は楽しんでた)独り飲みをし眠りについた。
そして、目覚めた時には『ライラック・オーグレーン』となっていた。
8才の時、全身の痛みで目を覚ました。
最初は、夢か、最悪、精神を病んで妄想を現実としてしまっているのでは…と、怯えに怯えたが、まぁ、慣れてしまった…。
だって…慣れるしかないでしょ……
鏡を見れば、幼女。
日本人離れした、地毛色に瞳の色。
そして、中世かのような生活文化。
何より、魔法の事実。
全てを受け入れなければ、逆に病む…と、思った…
目覚めた時の痛みは左の首から肩にかけての火傷だった。
何でも、魔力が暴走したらしい。
義兄のセドリックに教えてもらった。
ライラックは養子だった。
ゲームのキャラクター説明には『魔法に秀でた影のあるヒロイン』となっていたのを思い出した。
養子……確かに影を感じる…
何でも、母は魔法の才能も貴族の地位も棄て、冒険者と駆け落ちし、冒険者だった父は依頼中に死に、母は、ライラックを産んだ後、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。
産まれて間もない自分は、一旦、死んだ父の弟が引き取ったそうだが、冒険者の仕事としたことの無い子育てを両立することができず、孤児院に預ける事となり、ことの次第を風の噂で聞いた、亡き母の兄である養父ハリスに引き取られた。
と、養父から教えられた。
そして、この日から、私、『ライラック・オーグレーン』の貴族としての生活が始まった。
その頃には、異世界転生が実現にっ!!
と、浮かれていた。
転生し、チートな能力、現代の知識をアレンジしつつ快適な生活ーー
養父からの魔法訓練はかなり厳しかったが、それは望む所でもあった。
例え魔法がチート級でも、キチンと扱えなければ意味がない。
それに、中身は30オーバー、子供には無い忍耐力や理解力等がある。
魔法の訓練への厳しさやハリスの魔法絶対主義に引いたが、剣術の才能が無いようなので仕方ないとも思った。
勉学なども比較的難しく無く習得していき、魔法もコッソリ新魔法を開発したりと、自分なりに異世界転生生活を満喫していた。
そんな異世界生活を一変させたのは、まさかの養父ハリスへの疑惑だった。
知識を得ていくうちに、この男爵家で生活していく時間が長くなれば長くなるほど、疑問が湧いてきた。
なぜ、養父ハリスは次期当主であるセドリックに殊更冷たいのか?
なぜ、執事やメイドはいつもピリピリし怯えているのか?
なぜ、義理とはいえ、この家族はいつまでもギクシャクとしているのか?
なぜ、税収の割りに領内は活気が有るとは言えないのか?
そしてーー
知ってしまった真実ーー
義兄が領内の冒険者ギルドに通っている事を知り、無理を言って付いていった時だった。
その頃、この家庭内の空気と、領内の活気の無さを何とかしようと、色々していたことも有り、セドリックや執事、メイド達とは良い関係を作ることに成功していた。
領内の活気も少しづつみられ、街での知り合いも増え始めた頃だった。
冒険者が如何なる存在なのか気になっていた。
同時に単純に、仲良くなった義兄が何をしているのか気になったし、もしかしたら、自分も冒険者登録してーーとも考えていた。
しかし、そこに居たのは叔父を名乗る冒険者だった。
セドリックの後に続き冒険者ギルドの扉を潜ると、悲痛な表情で駆け寄る一人の冒険者。
名を呼ばれ、何事だろうかと思えば、きつく抱きしめられた。
慌てる自分を尻目に、義兄が優しく微笑んでいたのを鮮明に覚えている。
そして、聞かされた真実ーー
叔父はエイベルと名乗った。
叔父が語るには、実の父母は、養父ハリスとの血縁関係はまったく無いとの事だ。
父母の死は事実だあり、父の弟である叔父がライラックを引き取った。
両親も早いうちに亡くし、兄までも失った叔父にとって、ライラックは最後の家族だったそうだ。
仕事と子育ての両立が難しかったのは事実だったそうだ。
依頼等の仕事で帰れない時には修道院に自分を預けたりして、何とかやっていたのだと言う。
だが、遠出の依頼があり、修道院に預けた時にその修道院は盗賊に襲われ、火が放たれた。
一報を聞きつけ、駆けつけたが、燃え上がり、崩れ落ちる修道院を見て、叔父は全を失ったと絶望したと言う。
義兄が言うには、養父は常々、孤児院や修道院に赴き、魔力の強い子供を探していたそうだ。
そこでライラックに目をつけたのだと言う。
混乱する。
養父が教えてくれた出生が全て嘘なのか?
今、自分を、涙を流しながら抱きしめるこの男が語る言葉が真実なのか?
「僕に、魔法の才能は無かったから……」
やけにハッキリと聞こえた義兄の声。
確かに、養父の魔法への執着は並々ならぬものを感じた。しかし、それだけで………
「そういう人なんだ…あの人は…自分の目的の為なら、何でもする……」
俯き、辛そうな義兄を引き寄せる一人の男性。
男性はエリオットと名乗った。
そして、自分は、更に衝撃の事実を知る事になった。
「この子は、セドリックは、元々私の子なんだ。兄に強く請われ、養子に出したんだ…。家の為と…」
「…父様…」
義兄の実の父、養父の弟と言う男の手をとる義兄。
しっかりと繋がれた二人の手ーー
外見は可愛らしい少女だが、中身は30年の薄っぺらいかもしれないが、経験と知識がある。
自分は、あらゆる手段で養父の疑惑を洗った。
自分の出自、義兄の出自、それに伴って浮かび上がる疑惑の数々…
メイドに無理矢理奉仕をさせている
亡き細君は病死では無く殺された
命令を聞かなければ修道院も燃やす
盗賊とは裏では繋がっている
王都の貴族に賄賂を渡している
密輸、密造をしている
暗殺を裏の仕事にしている
等々
周囲の信頼置ける人達にも協力してもらい、少しずつ、しかし確実に疑惑を精査していく。
疑惑の精査を進めるにつれ、真実が浮かび上がり、決断の時がくる。
その日、養父を調査する中で、既に家族同然と言えるまでになった義兄の両親、そして叔父とその仲間達がハリス・オーグレーンを男爵家当主の座から引きずり下ろし、弟のエリオット・オーグレーンが男爵家当主の座を奪い取った。
養父は細君の毒殺、盗賊との癒着、修道院への襲撃、子供の誘拐、上位貴族への賄賂等々で罪を問われ、余生を地下牢で過ごすこととなった。
しかし、一年後病に臥しその命が終わることとなる。
晴れて当主となった義兄の両親から、改めて養子にならないかと提案があった。
元々は冒険者の、平民の子供である自分はどうするべきか…
悩む自分の背を押したのは、唯一の血縁者である叔父だった。
「俺はお前にドレスを着せてやれないし、魔法や勉強も教えてやれない。それに、まだ冒険者を続けるつもりでいる…だから…」
上位冒険者である叔父がお金に困ってる様子は無いし、自分は一人で留守番もできない年齢ではない。
しかし、男爵家での生活がすぐさま抜けるかと言えば、難しい。
最終的に、自分は再度養子となり男爵令嬢となり、叔父は、男爵家お抱えの冒険者となった。
そして、15歳。
一年先に王立学園に入学した兄の後に続き、自身も王立学園に入学する事なる。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
そして、始まる魔法と剣と愛の日々ーー
スチルで見た、ヒロインと攻略対象者である皇太子の出会いのシーン。
この風景を見つめ確信した。
私はーー
「ライラック・オーグレーン…」
乙女ゲーム『彩りの魔法剣』のヒロイン………
ヒロインだったのだ……
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