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帰還と浸入

レスター

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レスターにとって、一番の味方はテレンスだ。

家族の事は大好き。

お父様はおっきくて、強くてカッコいい。
お母様は優しくて大好き。
お兄様はレスターよりも頭が良くて、強いから好き。
リオノーラは、妹だから、まぁ好き。


でも、テレンスは特別。

テレンスはどんな時も側にいて、何でもしてくれて、誰からも守ってくる一番の味方。

そして、何でも教えてくれる。

文字の読み方も書き方も、色んな物の作り方も。覚えておかなければいけない事とどうでもいい事も。

教えてと言えば、何でも教えてくれる。


レスターにとって、屋敷外の人間とほぼ関わらない今、全ての知識と情報は最も側にいるテレンスからもたらされるものが殆どだ。


両親の言う事は聞かなければならない。
テレンスも言っていた。
だから正解。

兄は敬わなければならない。
テレンスも言っていた。
だから正解。

使用人は大切に。
テレンスは、大切にするのは自分に優しくしてくれる男の使用人だけで良いと言った。
ちょっと正解。

テレンスは正解と間違いを教えてくれる。


お兄様の剣がカッコよくて触ろうとしたら止められて喧嘩をして泣いた。
お母様は、お兄様の邪魔をしてはダメ。刃物は危険なのよ、と言った。
テレンスもダメ、危ないと言ったが、レスターは悪く無い。目に入るところに剣を置いていた者が、そしてその事に気付かない使用人が悪い。と言った。

リオノーラの持ってた玩具が欲しかったから取ったら、取っては駄目だ。貸してとお願いするんだ、とお父様に怒られた。
テレンスはレスターは悪く無い。女性は男性に尽くすものだ、言うことを聞くものなのだ。と言った。

メイドにイタズラで紅茶をかけたら、火傷をするかもしれないから駄目だとハロルドに怒られた。
テレンスはレスターは悪く無い。使用人が主人に逆らうなどあってはならない。どんな事も甘んじて受け入れる事こそ忠誠心だ。と言った。


テレンスは一番側に居てくれる。
寂しい時も悲しい時も。
呼んだらすぐに来てくれる。



お母様がリオノーラと一緒に居るのを見つけた。

「リオノーラ様ばかり…もっとレスター様と居てくださればいいのに…」

と、抱きしめてくれる。

お兄様やお父様といる時や、お仕事をしている時は言わないから、きっとお母様はレスターと一緒に居ない時はリオノーラとばかり居るんだ…と、寂しくなって泣いた。




お父様がレスターとリオノーラにお土産をくれた。

「リオノーラ様と同じ物なんて…。レスター様は男児なのに…女児と同じものなど…もっと良い物があったろうに…」

と、困ったように笑う。

お父様がお兄様やお母様にお土産をあげる時は言わないから、リオノーラと同じ物なんてオカシイんだ…と、同じ物が嫌になった。


お兄様がレスターとリオノーラにちょっとだけ魔法を教えてくれた。レスターもリオノーラも魔法がちょとだけできた。

「リオノーラ様が魔法…。女性のする事とは思えない。なんて、はしたない…」

と、怒っていた。

お兄様やお父様が魔法を使っても言わないし、お母様は魔法を知ってるけど使わない。
魔法を使っているリオノーラは悪いんだと、腹が立った。


テレンスはいつもリオノーラに怒っている。
でも、レスターが何をしても怒らないし、悪くないって言う。


テレンスは間違わないし、テレンスの言うことを聞くレスターも間違わない。



それが、毎日。それが、いつも。


今日も、変わらない。




討伐と言うお仕事で何日も居なかった、お父様とお兄様。

帰ってきてとても嬉しかった。
お父様とお兄様は抱きしめてくれた。
その後、お母様はお仕事だとお父様と行ってしまった。

リオノーラやハロルドが連れてきた使用人の子供と遊んだ。
お絵描きや積み木なんて子供が遊ぶ物だし、ヴォゼロは使用人の遊ぶ物だ。
レスターは使用人の子供に稽古をつけた。
使用人の子供はレスターよりも大きかったが、レスターは強いので、負けなかった。
本当は、何度か負けたけど、本気を出したら全て勝った。

テレンスが凄く応援してくれて、喜んでくれた。

勝ってばかりいるとつまらなくなったし、将来の為の勉強をすることにした。
貴族の男児たるもの将来にそなえ、常に勉強をしなくてはいけないのだと、テレンスはいつも言っている。

テレンスに言うと、素晴らしい心がけだと喜んでくれた。


だからお父様とお母様の仕事場に行ってみた。
扉の前には使用人やメイドが居た。
見つかるとうるさいから困っていると、テレンスが、少し見聞きするだけですよ。と、隣の部屋に入れてくれた。

小さな部屋で薄暗かったけど、テレンスに教えたもらった扉から声が少し聞こえてきた。

お父様とお母様の声だ。
声が聞こえたのが嬉しかったのと、お仕事の話が聞こえてきてドキドキした。

こうやって仕事を勉強していると知らないお父様とお母様はビックリするだろうな、とワクワクした。


でも、途中でワクワクもドキドキも無くなった。
リオノーラが褒められているのが聞こえてきた。

勉強もしてないのに、良い子じゃないのに、はしたないのに、女の子なのに……レスターの名前は出て来ないのに……


向こうから誰かの声がする。
お父様でもお母様でもない、テレンスでもない声。
優しい声。
優しくて、優しくて、優しくて…

リオノーラを連れてこなければいけない…。
連れてこないと!!


直ぐに走り出した。
テレンスがビックリしていたけど、今はリオノーラを連れてくる事が一番大事な事だ。


リオノーラは呑気にお茶を飲んでいた。
こんな大事な時に何してるんだと腹が立った。

早くと急がせるが、全然わかってくれない。
何とか急いで扉の前に連れてきて、入るように言ったのに、言うことを聞いてくれない。

それでも扉の奥に押し込む。
やった!できた!
嬉しくて、嬉しくてーー


隣の部屋から優しい声の嬉しそうな声が聞こえる。

とたんに、嬉しさが無くなった。

どうしてリオノーラ?なんで?

と思った。

ハロルドや使用人の子供達も追いついて、怖い顔や困った顔をしてレスターを見ている。


テレンスも泣きそうな顔で、

大丈夫です。レスター様は何も悪くありません。旦那様と奥様の事をお思いになっただけですよね。わかっています。

と、抱きしめてきた。

とたんに、怖くなった。
なぜだかわからないが、テレンスの様子がおかしいからだ。

テレンスが困っているからだ。

涙が溢れてきた。

悪く無い。なのに怖い。悪く無い。なのに皆が見てくるのが怖い。

悪く無いのに!

怖くて、訳がわからなくて、テレンスにしがみついた。

大丈夫、悪く無い。

ずっとテレンスは言っている。


とても嫌な感じがしている。

なのに、扉の向こうからは楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。

リオノーラの声。

お父様の声。

お母様の声。

色んな人達の色んな声。

あの優しい声。


あっちだけ楽しいなんて、そんなの…良くない……ズルい…おかしい…



リオノーラはズルい




















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