追放令息と進む傭兵の道。

猫科 類

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情報を聞き出す為の準備を整えると、カリアンは掴んでいた夜盗の髪から手が離す。

重力に伴って落ちた夜盗の頭は、顔面から床にたたきつけられた。



「ふぁが!?」

顔面を強かに打ち付けた痛みと衝撃で、小太りの野盗が意識を取り戻す。

イモムシが頭を持ち上げるかの様に顔を上げ、辺りを見渡し私と目が合う。



「ふぁがぁ!!」

何かを叫んだが、口の中の雑巾のせいで聞き取れない。

小太りの野盗は藻掻き、そして、自身の身が自由では無い事にやっと気づいた様だ。



フガフガと何かをこちらに訴えてくるが、生憎と私の役目は見張り。

彼の相手は私ではなくーー

ニコリと笑んで首を横に振ってやる。



「うがっ!!」

野盗の顔面がまたも勢いよく床板と密着する。

カリアンの足が野盗の頭にのっていた。

かと思うと、次の瞬間、カリアンがうつ伏せの野盗の首元を掴んで放り投げる。



ドダン!!



と重く大きな音がした。

やはり消音魔法をかけておいて良かった……

それにしても、あの小太りを片手で軽々放り投げられる腕力………ヤダ…憧れる……

はたして私はあんな軽々と小太りを投げれるだろうか……

ソッと自身の上腕二頭筋を撫でる。

……無くはない……有るには有る……それなりに……

多分、私では引き摺るのがやっとだろう……

溜息一つ吐き出し、逸れた気を眼前に戻す。



投げられ、転がり、仰向けになった野盗は首をもたげ、カリアンを睨むように見つめながら少しでも距離を取ろうとジリジリと縛られた足を使って、こちらの扉の方に寄ろうとしている。

が、大股で近くカリアンに胸ぐらを掴まれた。



「聞きたいことがある。素直に喋れ。抵抗すれば、殺す。」

カタンと、音がしたのは野盗からではなく、カウンターの中からだ。





消音魔法等の効果範囲を操作できる魔法は、一部屋一棟といった区画範囲と自由に広さ高さを選べる任意範囲の2種類がある。

区画範囲は今の様に建物内等の壁、天井がある場所で、任意範囲は野外と使い分けるのが一般的。



今回は一部屋の区画範囲に操作してあるので、カウンターの中も効果範囲内なのだ。



………店主親子を怖がらせたかもしれないな……



などと思いながらも、さほど重く受け止めてはいない。

なぜなら、あの親子は幸運だからだ。



野盗に狙われながらも、私達という少なからず戦いに慣れた人間が居たことで無傷で生きている。

その逆が一軒目…………おそらくは凄惨な事になっているだろう。

そして、それは今も続いているかもしれないし、もしかしたら、2軒目に向かったかもしれないし、こちらに向かっているかもしれないのだ。



……今だ油断はできない状況ではあるが……



私とカリアンが旅人として野盗に認知されているのも、また、幸運だった。

なぜなら先の野盗3人、そして、今カリアンに尋問を受けている野盗の男を見てもわかるように、わかりやすい位に油断してくれる、というトコロがだ。

相手が油断してくれているかどうかは勝敗に大きく関わってくる。

とはいえ、やはり情報も必要だ。

人数、武器、目的等等ーー

知っている事も、いざ確認してみれば違ったということだってある。



バゴン!



と、鈍く重たい音に思考を中断させる。

床では小太り野盗か荒い息を吐き、呻いている。

血と涎を含んだ雑巾はいつの間にか口から出てしまい床に落ちている。



…急に……カリアンの機嫌がもの凄く悪い……

眉間の皺といい、雰囲気といい……よろしくない……

この小太りは一体何を言ったのか……

と、また野盗と目があった。

血まみれの顔でニヤリと笑んだ後、ヒッヒッヒと引き攣ったように笑いだした。 



えー………なんで笑ってんの……?狂ったのか?



思わずあからさまに顔をしかめれば、野盗は、



「いいね!!アンタみたいなのは!ボスの好みだ!」

と、言い出した。

突然ボスの趣味を聞かされても困る。

ボスが居るのか、ぐらいに思っていると、



ドガン!!



と、小太りの野盗は吹っ飛んだ。

カリアンがその横っ腹を蹴り飛ばしたのだ。



「!!」

流石に驚いた。



「ちょ…っだ!大丈夫ですか?」

思わずカリアンに問いかける。

どちらに対しての大丈夫か?なのか。

両方だ。

情報源が役目を果たさなくなるのも、そして、カリアンが突然苛立ち始めたのも……その両方だ。



「うるせぇ!聞きてぇことは聞いた!口を塞げ!」

苛立ちのままに答えられ、ハイハイと軽い返事を返して未使用の雑巾を手に、イテェイテェとのたうち回る野盗に近づく。

あの蹴りを受けて吹っ飛んで、椅子と机をなぎ倒したのに、存外にも元気にのたうち回る野盗の丈夫さに少しだけ感心する。



あまり触りたくはないのでショートソードで野盗の唇を優しく撫でる。



「ヒッ、」

男はピタリと静かになった。

そして、ショートソードの刃が誘導するように血まみれの唇を開く。

抵抗されなくて良かった。

これで抵抗されていたら、口の中も外もズタズタだったろう……



「……えらい…」

思わずニヤリ呟けば舌打ちが背後から飛ぶ。

はいはい、急ぎますよ。



素直に開けられた口に雑巾を突っ込み、



「では、少し休んでください。」

と、ショートソードの柄でコメカミをひと殴りすれば、野盗は静かになった。



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