永和怪異始末録

中山(ほ)

文字の大きさ
4 / 7
竜一の非日常

四話

しおりを挟む
 始まりは散歩中の犬を離したら戻ってこなかったという相談だった。

 そんな相談事が数を増し、怪奇現象、UFOの仕業、などと噂が流れたが、こういう事件はたいてい妖魔が原因だ。
 調査の結果、都内の公園に巨大な蜂の姿を模した妖魔が巣を作っていることが確認された。かなり規模が大きいということで、封じ込め作業が行われ、最後に妖魔の一掃と巣の撤去となったのだが、参考にハチ駆除業者の話を聞くべきと呼ばれた業者が通常の業務に追われて、なかなか時間が取れないことに面倒になったぼくが勝手に現場へと向かって戻ってこず、帰ってきたのは尋常ではない様子のミルさんだけ。

 ミルさんの案内で父と春明を先頭に数人で妖魔の巣に向かうと、地中に崩れた公園とおびただしい数の妖魔の死骸、そして生き残った妖魔に食われかけているぼくがいたらしい。

 ……ある意味自業自得?

 巣の大きさにしてはあり得ないほどの数だったため、いまだに専門家が調査に当たっているという。

「俺が知ってるのはそれくらい。多分、今回の件で一番詳しいのはお前と一緒にいたミルさんだよ」

 新聞の一面に載ってた公園ってそれか!関係ないどころか当事者だったとは。
 ミルさんの方は夢で状況を見たから体が縮んだ理由は分かった。問題は記憶の方なんだが、それこそ失われた記憶の中にあるはずの手がかりなんて全く価値がない。

「それにしてもさ」

 春明が改めてぼくを眺める。

「あの状態でも生きてるなんて、さすが『最強の餌』ふぐぅ!?」

 気付いたら春明は腹を押さえてうずくまり、ぼくの手はずきずきしていた。

「あ、ごめん。なんか勝手に動いた」

 意識していないのに気が付けば殴っていた。ぼく、結構暴力的な人間だったのか?

「竜、お前ほんとに記憶がないのか……?」

 くぐもった春明の声。

「まあ、とりあえず元気そうだから良かったよ。喰われかけたって言ってたけど大きなけがもないようだし、事故とかの記憶喪失はおいおい戻るって言うしね」

 目の前で人が殴られたというのに動じない修平。冷たいのか日常茶飯事だったのか。
 それからしばらく、他愛のない雑談をした。もちろんぼくはほとんどが聞き役。記憶はないけれどこの空気は居心地がよかった。
 長居するのも悪いからと帰りかけた友人たちに別れの挨拶を。

「今日はありがとう、話を聞けて、今回の原因も大体わかったし、助かったよ」

 すると、部屋から出ようとしていたのに勢いよく振り返る二人。

「何がどう分かったんだ!?」

 詰め寄る春明。

「分かったってことは治るの?」

 顔を輝かせる修平。
 二人とも、思いの外ぼくのことを気に病んでいたらしい。そして、詳しく聞くまで帰る気もない、と。

「ミルさんが見た光景を夢で見たんだが、この本に書いてあるこの、トキアサリに襲われたらしい」

 妖魔辞典をのぞき込む二人。

「トキアサリってまた幻の妖魔を引き当てて……しかも最悪なタイミングで。お前といい修といい運が良いんだか悪いんだか」

 顔を上げた春明のあきれたような声。修平が不満そうな顔になった。

「おい、俺は竜ほどの悪運はないぞ!」

「俺から見たら二人とも変わんねーよ」

 どうやらぼくは悪運が強いらしい。今ここで生きているのもその悪運のおかげなんだとしたら、一応は感謝しておくか。

「とりあえずはトキアサリ探しだな。修、少し手伝ってくれ」

 春明が立ち上がり修平へと声をかける。

「いや、妖魔探しには俺、役立たずだろ?」

 同じように立ち上がりながら、不思議そうな顔をする。この二人の間には得意不得意に明確な差がありそうだ。

「じゃ、おとなしく寝てろよ。修、まずうち行って準備するぞ」

「はいよ、じゃ、竜は早く記憶戻るといいな」

 二人が帰ってから、いまだに固形物の出てこない昼食を終え一冊の本を開く。妖魔伝記、空欄があって読みづらかった本だ。

「あのさ」

 障子を開けて声をかけると少し怒った顔をされた。

「竜一さん、あまり部屋の外に出てはいけませんよ?」

 ……ため息をこらえる。
 せめて理由を教えてほしいんだけどな。

「ちょっと聞きたいだけだから。これって何て読む?」

 空欄が一か所だけの部分を開いて指で示す。

「え?    ですよね?」

 やっぱり聞こえない。特定の文字が認識できなくなっているようだ。それが一つなのかいくつかの種類があるのかは分からないけれど、これも何かの手がかりになるかな?

「うん、ありがとう」

 部屋に戻って妖魔辞典を読み込んでいく。記憶を食べるような妖魔は載っていないだろうか。
 長く身を起こしていると辛いから、ミルさんがいてくれて助かった。次は座椅子か小さな机でも頼んでみるかな?


 ---


 妖魔辞典は3まで読み終えて記憶に関する妖魔は2種類、4から先はまだ刊行されていないらしい。

「そういえば、ミルさんも妖魔なのか?」

 なん

 当たり前だとでもいうように背もたれが鳴いた。そっか、こんな大きい猫居るわけがないもんな。

「辞典には載ってなかったけど、何食べるんだ?」

 ふすっ

 返事は鼻息のみ、答える気は無いってことか?
 障子越しに外を見ると夕方が近いことがわかる。今日もほとんど部屋から出なかったな。1日中寝たきりだと逆に体が弱りそうだ。
 ああでも、今日はたくさんの人と会って少し疲れた。
 そういえば、春明が言ってたな。ぼくは妖魔に食われかけたんだっけ?寝るのが怖かったのはその影響かもしれないな。

 次第に分かってきたぼくの正体。でもよく考えてみたら記憶さえ戻ればわざわざ探る必要もない、のか?
 分からないから色々知ろうとしてはいるけど、本来なら元々知っていることなわけで……あれ?
 結構、無駄なことをしているのか?

 ……ここは、何も考えずに好きなことを好きなだけやっていた方がいいのかもしれない。
 よし、とりあえず今は眠いから寝よう!

「ミルさん、ぼくは明日から記憶が戻るまでわがままになることにした」

 そう宣言すると、馬鹿なことを言うなといわんばかりに尻尾で顔をはたかれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...