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竜一の非日常
四話
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始まりは散歩中の犬を離したら戻ってこなかったという相談だった。
そんな相談事が数を増し、怪奇現象、UFOの仕業、などと噂が流れたが、こういう事件はたいてい妖魔が原因だ。
調査の結果、都内の公園に巨大な蜂の姿を模した妖魔が巣を作っていることが確認された。かなり規模が大きいということで、封じ込め作業が行われ、最後に妖魔の一掃と巣の撤去となったのだが、参考にハチ駆除業者の話を聞くべきと呼ばれた業者が通常の業務に追われて、なかなか時間が取れないことに面倒になったぼくが勝手に現場へと向かって戻ってこず、帰ってきたのは尋常ではない様子のミルさんだけ。
ミルさんの案内で父と春明を先頭に数人で妖魔の巣に向かうと、地中に崩れた公園とおびただしい数の妖魔の死骸、そして生き残った妖魔に食われかけているぼくがいたらしい。
……ある意味自業自得?
巣の大きさにしてはあり得ないほどの数だったため、いまだに専門家が調査に当たっているという。
「俺が知ってるのはそれくらい。多分、今回の件で一番詳しいのはお前と一緒にいたミルさんだよ」
新聞の一面に載ってた公園ってそれか!関係ないどころか当事者だったとは。
ミルさんの方は夢で状況を見たから体が縮んだ理由は分かった。問題は記憶の方なんだが、それこそ失われた記憶の中にあるはずの手がかりなんて全く価値がない。
「それにしてもさ」
春明が改めてぼくを眺める。
「あの状態でも生きてるなんて、さすが『最強の餌』ふぐぅ!?」
気付いたら春明は腹を押さえてうずくまり、ぼくの手はずきずきしていた。
「あ、ごめん。なんか勝手に動いた」
意識していないのに気が付けば殴っていた。ぼく、結構暴力的な人間だったのか?
「竜、お前ほんとに記憶がないのか……?」
くぐもった春明の声。
「まあ、とりあえず元気そうだから良かったよ。喰われかけたって言ってたけど大きなけがもないようだし、事故とかの記憶喪失はおいおい戻るって言うしね」
目の前で人が殴られたというのに動じない修平。冷たいのか日常茶飯事だったのか。
それからしばらく、他愛のない雑談をした。もちろんぼくはほとんどが聞き役。記憶はないけれどこの空気は居心地がよかった。
長居するのも悪いからと帰りかけた友人たちに別れの挨拶を。
「今日はありがとう、話を聞けて、今回の原因も大体わかったし、助かったよ」
すると、部屋から出ようとしていたのに勢いよく振り返る二人。
「何がどう分かったんだ!?」
詰め寄る春明。
「分かったってことは治るの?」
顔を輝かせる修平。
二人とも、思いの外ぼくのことを気に病んでいたらしい。そして、詳しく聞くまで帰る気もない、と。
「ミルさんが見た光景を夢で見たんだが、この本に書いてあるこの、トキアサリに襲われたらしい」
妖魔辞典をのぞき込む二人。
「トキアサリってまた幻の妖魔を引き当てて……しかも最悪なタイミングで。お前といい修といい運が良いんだか悪いんだか」
顔を上げた春明のあきれたような声。修平が不満そうな顔になった。
「おい、俺は竜ほどの悪運はないぞ!」
「俺から見たら二人とも変わんねーよ」
どうやらぼくは悪運が強いらしい。今ここで生きているのもその悪運のおかげなんだとしたら、一応は感謝しておくか。
「とりあえずはトキアサリ探しだな。修、少し手伝ってくれ」
春明が立ち上がり修平へと声をかける。
「いや、妖魔探しには俺、役立たずだろ?」
同じように立ち上がりながら、不思議そうな顔をする。この二人の間には得意不得意に明確な差がありそうだ。
「じゃ、おとなしく寝てろよ。修、まずうち行って準備するぞ」
「はいよ、じゃ、竜は早く記憶戻るといいな」
二人が帰ってから、いまだに固形物の出てこない昼食を終え一冊の本を開く。妖魔伝記、空欄があって読みづらかった本だ。
「あのさ」
障子を開けて声をかけると少し怒った顔をされた。
「竜一さん、あまり部屋の外に出てはいけませんよ?」
……ため息をこらえる。
せめて理由を教えてほしいんだけどな。
「ちょっと聞きたいだけだから。これって何て読む?」
空欄が一か所だけの部分を開いて指で示す。
「え? ですよね?」
やっぱり聞こえない。特定の文字が認識できなくなっているようだ。それが一つなのかいくつかの種類があるのかは分からないけれど、これも何かの手がかりになるかな?
「うん、ありがとう」
部屋に戻って妖魔辞典を読み込んでいく。記憶を食べるような妖魔は載っていないだろうか。
長く身を起こしていると辛いから、ミルさんがいてくれて助かった。次は座椅子か小さな机でも頼んでみるかな?
---
妖魔辞典は3まで読み終えて記憶に関する妖魔は2種類、4から先はまだ刊行されていないらしい。
「そういえば、ミルさんも妖魔なのか?」
なん
当たり前だとでもいうように背もたれが鳴いた。そっか、こんな大きい猫居るわけがないもんな。
「辞典には載ってなかったけど、何食べるんだ?」
ふすっ
返事は鼻息のみ、答える気は無いってことか?
障子越しに外を見ると夕方が近いことがわかる。今日もほとんど部屋から出なかったな。1日中寝たきりだと逆に体が弱りそうだ。
ああでも、今日はたくさんの人と会って少し疲れた。
そういえば、春明が言ってたな。ぼくは妖魔に食われかけたんだっけ?寝るのが怖かったのはその影響かもしれないな。
次第に分かってきたぼくの正体。でもよく考えてみたら記憶さえ戻ればわざわざ探る必要もない、のか?
分からないから色々知ろうとしてはいるけど、本来なら元々知っていることなわけで……あれ?
結構、無駄なことをしているのか?
……ここは、何も考えずに好きなことを好きなだけやっていた方がいいのかもしれない。
よし、とりあえず今は眠いから寝よう!
「ミルさん、ぼくは明日から記憶が戻るまでわがままになることにした」
そう宣言すると、馬鹿なことを言うなといわんばかりに尻尾で顔をはたかれた。
そんな相談事が数を増し、怪奇現象、UFOの仕業、などと噂が流れたが、こういう事件はたいてい妖魔が原因だ。
調査の結果、都内の公園に巨大な蜂の姿を模した妖魔が巣を作っていることが確認された。かなり規模が大きいということで、封じ込め作業が行われ、最後に妖魔の一掃と巣の撤去となったのだが、参考にハチ駆除業者の話を聞くべきと呼ばれた業者が通常の業務に追われて、なかなか時間が取れないことに面倒になったぼくが勝手に現場へと向かって戻ってこず、帰ってきたのは尋常ではない様子のミルさんだけ。
ミルさんの案内で父と春明を先頭に数人で妖魔の巣に向かうと、地中に崩れた公園とおびただしい数の妖魔の死骸、そして生き残った妖魔に食われかけているぼくがいたらしい。
……ある意味自業自得?
巣の大きさにしてはあり得ないほどの数だったため、いまだに専門家が調査に当たっているという。
「俺が知ってるのはそれくらい。多分、今回の件で一番詳しいのはお前と一緒にいたミルさんだよ」
新聞の一面に載ってた公園ってそれか!関係ないどころか当事者だったとは。
ミルさんの方は夢で状況を見たから体が縮んだ理由は分かった。問題は記憶の方なんだが、それこそ失われた記憶の中にあるはずの手がかりなんて全く価値がない。
「それにしてもさ」
春明が改めてぼくを眺める。
「あの状態でも生きてるなんて、さすが『最強の餌』ふぐぅ!?」
気付いたら春明は腹を押さえてうずくまり、ぼくの手はずきずきしていた。
「あ、ごめん。なんか勝手に動いた」
意識していないのに気が付けば殴っていた。ぼく、結構暴力的な人間だったのか?
「竜、お前ほんとに記憶がないのか……?」
くぐもった春明の声。
「まあ、とりあえず元気そうだから良かったよ。喰われかけたって言ってたけど大きなけがもないようだし、事故とかの記憶喪失はおいおい戻るって言うしね」
目の前で人が殴られたというのに動じない修平。冷たいのか日常茶飯事だったのか。
それからしばらく、他愛のない雑談をした。もちろんぼくはほとんどが聞き役。記憶はないけれどこの空気は居心地がよかった。
長居するのも悪いからと帰りかけた友人たちに別れの挨拶を。
「今日はありがとう、話を聞けて、今回の原因も大体わかったし、助かったよ」
すると、部屋から出ようとしていたのに勢いよく振り返る二人。
「何がどう分かったんだ!?」
詰め寄る春明。
「分かったってことは治るの?」
顔を輝かせる修平。
二人とも、思いの外ぼくのことを気に病んでいたらしい。そして、詳しく聞くまで帰る気もない、と。
「ミルさんが見た光景を夢で見たんだが、この本に書いてあるこの、トキアサリに襲われたらしい」
妖魔辞典をのぞき込む二人。
「トキアサリってまた幻の妖魔を引き当てて……しかも最悪なタイミングで。お前といい修といい運が良いんだか悪いんだか」
顔を上げた春明のあきれたような声。修平が不満そうな顔になった。
「おい、俺は竜ほどの悪運はないぞ!」
「俺から見たら二人とも変わんねーよ」
どうやらぼくは悪運が強いらしい。今ここで生きているのもその悪運のおかげなんだとしたら、一応は感謝しておくか。
「とりあえずはトキアサリ探しだな。修、少し手伝ってくれ」
春明が立ち上がり修平へと声をかける。
「いや、妖魔探しには俺、役立たずだろ?」
同じように立ち上がりながら、不思議そうな顔をする。この二人の間には得意不得意に明確な差がありそうだ。
「じゃ、おとなしく寝てろよ。修、まずうち行って準備するぞ」
「はいよ、じゃ、竜は早く記憶戻るといいな」
二人が帰ってから、いまだに固形物の出てこない昼食を終え一冊の本を開く。妖魔伝記、空欄があって読みづらかった本だ。
「あのさ」
障子を開けて声をかけると少し怒った顔をされた。
「竜一さん、あまり部屋の外に出てはいけませんよ?」
……ため息をこらえる。
せめて理由を教えてほしいんだけどな。
「ちょっと聞きたいだけだから。これって何て読む?」
空欄が一か所だけの部分を開いて指で示す。
「え? ですよね?」
やっぱり聞こえない。特定の文字が認識できなくなっているようだ。それが一つなのかいくつかの種類があるのかは分からないけれど、これも何かの手がかりになるかな?
「うん、ありがとう」
部屋に戻って妖魔辞典を読み込んでいく。記憶を食べるような妖魔は載っていないだろうか。
長く身を起こしていると辛いから、ミルさんがいてくれて助かった。次は座椅子か小さな机でも頼んでみるかな?
---
妖魔辞典は3まで読み終えて記憶に関する妖魔は2種類、4から先はまだ刊行されていないらしい。
「そういえば、ミルさんも妖魔なのか?」
なん
当たり前だとでもいうように背もたれが鳴いた。そっか、こんな大きい猫居るわけがないもんな。
「辞典には載ってなかったけど、何食べるんだ?」
ふすっ
返事は鼻息のみ、答える気は無いってことか?
障子越しに外を見ると夕方が近いことがわかる。今日もほとんど部屋から出なかったな。1日中寝たきりだと逆に体が弱りそうだ。
ああでも、今日はたくさんの人と会って少し疲れた。
そういえば、春明が言ってたな。ぼくは妖魔に食われかけたんだっけ?寝るのが怖かったのはその影響かもしれないな。
次第に分かってきたぼくの正体。でもよく考えてみたら記憶さえ戻ればわざわざ探る必要もない、のか?
分からないから色々知ろうとしてはいるけど、本来なら元々知っていることなわけで……あれ?
結構、無駄なことをしているのか?
……ここは、何も考えずに好きなことを好きなだけやっていた方がいいのかもしれない。
よし、とりあえず今は眠いから寝よう!
「ミルさん、ぼくは明日から記憶が戻るまでわがままになることにした」
そう宣言すると、馬鹿なことを言うなといわんばかりに尻尾で顔をはたかれた。
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