永和怪異始末録

中山(ほ)

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竜一の非日常

三話

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 父との会話で本当に記憶がまっさらなことを確認された翌朝、妖魔辞典の2をめくっていると母と女性と青年が部屋に来た。

「竜一、記憶がないって本当なの!?お母さんのことも分からないの!?」

 心配そうにかがみこんで顔を覗きこまれる。

「えぇっと、会話の流れから母親だろうなとは思ったけど……」

 申し訳ないと思いつつ正直に答えると、青年がぶほっと噴出した。

「声、声が、高い……、兄貴マジで小さくなってるとか」

 その後頭部を女性がバシッとはたき、にらみつける。

たつき、慎みなさい。病人笑うとかお行儀の悪い」

 病人?一応病人、なのか?ほぼ寝たきりだし。

「いったいな!叩くことないだろ!?」

 頭をかばいながら叫ぶ青年。
 にぎやかだ、いったいどう返せばいいんだろうか。

「樹は少し黙ってて、お母さんも落ち着いてね?
 お兄ちゃん、覚えてないって聞いたから説明するけど、この人が私たちのお母さん。名前は佳枝よしえね。私は妹の怜子りょうこ、今年で20歳。こっちが弟の樹、18歳。ちなみにお兄ちゃんの名前は竜一で、24歳だから」

「あ、うん。ありがとう」

 ぼくの本当の年齢は24歳、昨日も父に聞いたけど、覚えておこう。
 妹の気づかいで、母と妹弟はひとしきりミルさんを撫でまわすとすぐに部屋から出て行った。後で時計を持ってきてくれるらしい。スマホはまだ早いと断られた。なんだ早いって?
 ようやく静かになった部屋に、お手伝いさんが次の来客を知らせてきた。

「ご友人が二人お見えですが……上森様と大川様です」

 これは、止められてないってことはむしろ会えってことかな?
 何と無しにミルさんを見るが、別段警戒した様子もない。

「通してくれる?」

「はい」

 それから少し、何の声掛けもせずに障子がパシーンと開けられた。現れたのは二人、普通の洋服を着たのと少ししゃれた服を着こなすの。歳は、成人はしてそうだ。

「竜、これお見舞いな……」

 普通の方は鉢植えの花を手提げ袋に入れて掲げ、ぼくの姿を見たとたんに固まった。
 もう一人が引き笑いをしながらその姿をスマホでぱし、ぱしと撮っている。
 何だこれ?友人?

「おま、何撮ってんだよ!?」

 それに気づいて後から来たのに詰め寄るが、その表情も面白かったらしく写真に収められている。

「いや、記憶戻った時に竜に見せてやろうと思って」

 ふむ、こっちは事情を理解しているっぽい。こちらから何か聞くか。

「記憶!?何?記憶喪失ってやつなのか?俺の呪符ふだ使うくらいだからよっぽどのことだろうって思ってたけど、想像以上だな。つか、何でお前縮んでるの?」

 記憶がない人間に何でとか聞けるのすごいな。先ほどの弟の言葉でも思ったが、やっぱりあの夢は現実だったって線が濃厚だ。
 妹弟といい友人達といい、ずいぶんにぎやかな人物に囲まれていたらしい。

「立ってるのもなんだから座ったら?」

 ぼくの声掛けにどっかりと腰を下ろす二人。この花はどうしようか、鉢植えは見舞いの品には良くないんじゃなかったっけ?

「あ、この花はわざとだよ。それくらいの常識くらいあるって」

 ちらりと移した目線に気付いたらしい。普通の方が自信ありげに花を指す。

「前に花舞のとこにお見舞いで切り花持っていったら、うるさいから次からは鉢植えにしてくれって言われたんだよ。だからそういうもんなんだなって、今回は鉢植えにしたの」

 うるさいから鉢植え?花舞ってなんだ?うるさい……花が?

「お前なぁ、花舞と河上を一緒にすんなよ。あそこ以外は切り花でいいんだよ、切り花で」

 河上というのはぼくの苗字だから花舞というのも誰か人のことなんだろう。あきれたように鉢植えを持ってきた方の頭を小突いている。
 ずいぶん楽しそうな二人だけれど、記憶があったらぼくも同じように会話に加わってたのかな?

「そっちがさっき言ったように、今のぼくには記憶がないんだ。あなたたちが誰なのか説明してくれると助かる」

 見ている分には不快ではないのだが、このままではいつまでたっても二人でじゃれあい続けそうだったので、こちらから切り出した。

「お、そうだったな。俺は上森春明はるあき。竜一の大親友だ!」

 春明ね、親友云々は保留しておこう。笑顔が胡散臭い知り合い、と。

「俺は大川修平しゅうへい。なんていうか、腐れ縁ってやつかな?俺としては早く就職してこんな世界からは縁を切りたいんだけど……そうだ!今のバイトがさ、まだ二日目なんだけど長く続けたら正社員もあり得るって!」

 嬉しそうな修平の報告を春明がかわいそうな子を見るような目で眺めている。もちろん本人はその視線には気づいていない。何か事情があるのだろう。

「景気も上向きだって話だし、無事に正社員になれるといいな」

 今日の新聞から仕入れた情報を元に返すと、やけに驚いた顔をされた。

「なんか、竜にそんなこと言われたのは初めてかもしれない」

 就職を希望する友人に、今までの僕はどんな言葉をかけていたのか、少しだけ、知るのが怖い気もする。

「いつもバイトなんてやめて    になれって言うのに」

 最後の一言がよく聞こえなかった。

「何になれって?」

「え?    」

 言い直してもらったのだがやっぱり聞こえない。ふむ、歳と記憶だけじゃなくて、他にも不備があることが分かったな。

「もう一度」

「    」

 口は動いているのにさっぱり言葉が聞き取れない。これは修平に限ったことなのか、それとも……。

「春明、ちょっと言ってみてくれ」

 試しにお願いしてみる。

「 ・ ・ ・ 」

 一言一言を区切って言ってくれたようだが、やっぱり聞こえない。
 何が起きているのかは分かった。なぜ起きているのかは後で考えればいいか。
 少し不安そうな顔になった二人に気にするなと手を振った。

「で、なんでぼくがこんな状態になったのかの心当たりはある?」

 修平はわずかに顔をゆがめた。

「俺は、近づけなかったから、わからない。春」

 春明の方へと目をやると何かを思い出しているのか、ややあって口を開いた。

「俺がお前を見つけたときにはもうその姿だったよ。記憶がないのは昨日親父さんからの連絡で知った」

 弾かれた様に修平の顔が上がる。

「俺、聞いてない!」

 責めるような口調に春明は若干あきれて答えた。

「修にも伝えてくれって書いてあった。その前にここに通されたから言い忘れたけど、いい加減スマホ契約しろって」

「だって、金かかるし……」

 ひとつ、修平が貧乏なことは分かった。別に必要じゃない情報だけどな。

「お前は連絡手段が手紙か竜のお古のスマホだけだから面倒くさいんだよな。契約くらい俺名義でやってやるって言ってるのに……」

「話を戻す。見つけたっていうのは?ああ、もう面倒くさいから一から話してくれる?」
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