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これは報いか?
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「お前がリズベッタの杯に毒を盛ったという事実に変わりはないか?」
「はい……」
「どうして否定しない?」
「これは私が望んでやったことだからです。初めから報いを受ける覚悟はできていました」
真っ赤な玉座に座るクラウスに跪くルシア。
クラウスは玉座から立ち上がり、剣を鞘から抜く。
今から目の前に広がるであろう惨状に目をそらすべく、男女問わず臣下の者は皆、顔を伏せたり、目を閉じた。
「ルシア・アンドレーゼ。お前には長い間世話になった。潔く罪を認めたことも考慮して、さらし首と父親の爵位剥奪だけはやめてやる――しかし、罪は血で洗い流さなければならん」
鋭利な鉄剣が少女を貫き、真っ赤な花が乱れようとした瞬間――。
「待ってください!」
玉座の間にエリシアが飛び込んでくる。
「エリシア、こっちに来ちゃダメ!」
クラウスが剣をピタリと止め、エリシアの方を見る。
「エリシア・アインベル。友人と共に我が剣に貫かれたくなければ下がれ」
「陛下、罰なら後で受けます。ですから、どうか……最後に友人と話す時間をください」
「俺の邪魔をした対価は重いぞ。それでも構わないか?」
「はい!」
エリシアはほんの刹那ためらったが、すぐに覚悟を決めて頷いた。クラウスが剣を鞘に収めると、エリシアはすぐさまルシアに抱きつく。
「ルシア……どうか嘘だって言ってよ」
「ごめん……」
「なんで、こんなことしたの?」
「エリシアのためだよ」
「馬鹿言わないでよ。私はこんなこと望んでない!」
「魔女のせいで、エリシアの場所が無くなるのが嫌だった」
「魔女って……魔法使いが不吉なのはルシアの故郷での話でしょ。カルロッタでは関係ないわよ!」
「だって、エリシア寵をうけられないのは魔女のせいだって、あの人が……」
二人が話していると再び、鞘から剣を抜かれる音が響く。
「その魔女とはリズベッタのことか?」
顔を上げたエリシアは、全身を恐怖で震わせた。
光が背後から当たっているせいで顔が見えないクラウスであったが、どのような表情をしているのか見なくとも分かる。
「エリシア・アインベル。いますぐ、その女から離れろ。俺はもう待てそうにはない」
怒りに囚われたクラウスがエリシアもろとも切り伏せられそうになった、刹那――。
「待って、やめて!」
二人の間に入ったのは――リズベッタであった。
周囲からはリズベッタを止めようと声を上げながら手を伸ばす人々。
「リズッ!」
クラウスは手を止めたが、もう既に遅い。
リズベッタの衣服が剣に貫かれ、赤い飛沫がはとばしった。
***
カルロッタ王国から遠く離れたロスティヤ帝国の宮廷ではパーティが開かれていた上位貴族から男爵、国境を守護する辺境伯まで数多の貴族が並ぶ会場の中でナナは客人たちの視線を一身に集めていた。
「グレイ王子、私たちの婚礼はいつにしますの?」
「いや、ナナ皇女。悪いが私は君との婚約を解消させて貰うつもりだ」
「なによそれ……いったい、どういうことよ?」
「君が犯してきた蛮行を私が知らないとでも思っているのか?」
「はぁ……?」
グレイは冷ややかかな目でナナを見下ろしながら婚約の破棄を宣言する。
状況を飲み込めていないらしいナナは眉を八の字にしながら、眉間にシワを寄せた。
「この私が蛮行? そんなわけないでしょ。お姉様の間違いじゃないの?」
両手を胸に当て、助けを乞うような視線でグレイを見つめる。
「婚約者についてはよく知っておくべきだと思い、以前からお前について調べていたんだ。そうしたら、どうだ。ロスティヤの宮廷に仕える使用人から、各国を旅している吟遊詩人まで、口揃えてお前のろくでもない噂を話すではないか」
「なんだね、騒がしい」
パーティ会場にゆっくりとした足取りで入ってきたのはロスティヤ帝国の皇帝だ。
「お父様、助けてください。グレイ王子が婚約破棄するとおっしゃっているのです」
「王子、これはどういいことかね?」
「陛下、ナナ皇女は今まで宝石と男を求めて散々愚行を働いてきたと聞いております。カルロッタ王国に送った使者の話によれば、今度は外国に嫁いだ姉を毒殺するよう現地の使用人を唆していたそうではないですか」
「そのような噂は全て私を陥れるための偽りよ、グレイ王子。ねぇ、私たちは将来を誓い合った仲でしょう?」
話を遮るように、ナナが叫ぶとグレイ王子は冷ややかな視線で見下ろした。
「悪いが、私はお前のような名誉と財を食い潰すような女を妻に迎えるつもりはない」
「はぁ? 私は現地の使用人がお姉様の魔法で苦しめられていたから助言してやっただけよ。ねぇ、お父様?」
グレイ王子からの慈悲は期待できないと判断したのか、ナナは父に助けを求めようと駆け寄る。
「なるほど、たとえ家族であれ未知なる力を持つ者は虐げるのがロスティヤの習わしなのか? そのような国と我が王国は外交関係を続けるつもりはない」
グレイが低い声で告げると、皇帝はナナの手を振り払った。
「王子のおっしゃる通りだ。ナナ、お前はしばらく謹慎していなさい」
「うそ……そんな……」
ナナは泣きじゃくりながら父に向かって叫ぶ、
「嘘よ、嘘よ。お父様、今まで私のお願いなんでも聞いてくれてたじゃない!」
「政略結婚の役にも立たないお前一人と、外交関係、どちらが大切か明白だろう?」
産まれてから親に甘やかされ続けてきたナナにとってこれは衝撃的な出来事であったのだろう。
ナナは地べたに座り込む。
「お姉様のせいだ……私悪くないもん……」
「さぁ、皆の者。邪魔をしてしまい済まない。パーティの続きといこうではないか」
再びパーティ会場にざわめき声が戻る。
貴族たちのナナに向ける視線は”侮蔑”と”嘲笑”で満ちていた。
「はい……」
「どうして否定しない?」
「これは私が望んでやったことだからです。初めから報いを受ける覚悟はできていました」
真っ赤な玉座に座るクラウスに跪くルシア。
クラウスは玉座から立ち上がり、剣を鞘から抜く。
今から目の前に広がるであろう惨状に目をそらすべく、男女問わず臣下の者は皆、顔を伏せたり、目を閉じた。
「ルシア・アンドレーゼ。お前には長い間世話になった。潔く罪を認めたことも考慮して、さらし首と父親の爵位剥奪だけはやめてやる――しかし、罪は血で洗い流さなければならん」
鋭利な鉄剣が少女を貫き、真っ赤な花が乱れようとした瞬間――。
「待ってください!」
玉座の間にエリシアが飛び込んでくる。
「エリシア、こっちに来ちゃダメ!」
クラウスが剣をピタリと止め、エリシアの方を見る。
「エリシア・アインベル。友人と共に我が剣に貫かれたくなければ下がれ」
「陛下、罰なら後で受けます。ですから、どうか……最後に友人と話す時間をください」
「俺の邪魔をした対価は重いぞ。それでも構わないか?」
「はい!」
エリシアはほんの刹那ためらったが、すぐに覚悟を決めて頷いた。クラウスが剣を鞘に収めると、エリシアはすぐさまルシアに抱きつく。
「ルシア……どうか嘘だって言ってよ」
「ごめん……」
「なんで、こんなことしたの?」
「エリシアのためだよ」
「馬鹿言わないでよ。私はこんなこと望んでない!」
「魔女のせいで、エリシアの場所が無くなるのが嫌だった」
「魔女って……魔法使いが不吉なのはルシアの故郷での話でしょ。カルロッタでは関係ないわよ!」
「だって、エリシア寵をうけられないのは魔女のせいだって、あの人が……」
二人が話していると再び、鞘から剣を抜かれる音が響く。
「その魔女とはリズベッタのことか?」
顔を上げたエリシアは、全身を恐怖で震わせた。
光が背後から当たっているせいで顔が見えないクラウスであったが、どのような表情をしているのか見なくとも分かる。
「エリシア・アインベル。いますぐ、その女から離れろ。俺はもう待てそうにはない」
怒りに囚われたクラウスがエリシアもろとも切り伏せられそうになった、刹那――。
「待って、やめて!」
二人の間に入ったのは――リズベッタであった。
周囲からはリズベッタを止めようと声を上げながら手を伸ばす人々。
「リズッ!」
クラウスは手を止めたが、もう既に遅い。
リズベッタの衣服が剣に貫かれ、赤い飛沫がはとばしった。
***
カルロッタ王国から遠く離れたロスティヤ帝国の宮廷ではパーティが開かれていた上位貴族から男爵、国境を守護する辺境伯まで数多の貴族が並ぶ会場の中でナナは客人たちの視線を一身に集めていた。
「グレイ王子、私たちの婚礼はいつにしますの?」
「いや、ナナ皇女。悪いが私は君との婚約を解消させて貰うつもりだ」
「なによそれ……いったい、どういうことよ?」
「君が犯してきた蛮行を私が知らないとでも思っているのか?」
「はぁ……?」
グレイは冷ややかかな目でナナを見下ろしながら婚約の破棄を宣言する。
状況を飲み込めていないらしいナナは眉を八の字にしながら、眉間にシワを寄せた。
「この私が蛮行? そんなわけないでしょ。お姉様の間違いじゃないの?」
両手を胸に当て、助けを乞うような視線でグレイを見つめる。
「婚約者についてはよく知っておくべきだと思い、以前からお前について調べていたんだ。そうしたら、どうだ。ロスティヤの宮廷に仕える使用人から、各国を旅している吟遊詩人まで、口揃えてお前のろくでもない噂を話すではないか」
「なんだね、騒がしい」
パーティ会場にゆっくりとした足取りで入ってきたのはロスティヤ帝国の皇帝だ。
「お父様、助けてください。グレイ王子が婚約破棄するとおっしゃっているのです」
「王子、これはどういいことかね?」
「陛下、ナナ皇女は今まで宝石と男を求めて散々愚行を働いてきたと聞いております。カルロッタ王国に送った使者の話によれば、今度は外国に嫁いだ姉を毒殺するよう現地の使用人を唆していたそうではないですか」
「そのような噂は全て私を陥れるための偽りよ、グレイ王子。ねぇ、私たちは将来を誓い合った仲でしょう?」
話を遮るように、ナナが叫ぶとグレイ王子は冷ややかな視線で見下ろした。
「悪いが、私はお前のような名誉と財を食い潰すような女を妻に迎えるつもりはない」
「はぁ? 私は現地の使用人がお姉様の魔法で苦しめられていたから助言してやっただけよ。ねぇ、お父様?」
グレイ王子からの慈悲は期待できないと判断したのか、ナナは父に助けを求めようと駆け寄る。
「なるほど、たとえ家族であれ未知なる力を持つ者は虐げるのがロスティヤの習わしなのか? そのような国と我が王国は外交関係を続けるつもりはない」
グレイが低い声で告げると、皇帝はナナの手を振り払った。
「王子のおっしゃる通りだ。ナナ、お前はしばらく謹慎していなさい」
「うそ……そんな……」
ナナは泣きじゃくりながら父に向かって叫ぶ、
「嘘よ、嘘よ。お父様、今まで私のお願いなんでも聞いてくれてたじゃない!」
「政略結婚の役にも立たないお前一人と、外交関係、どちらが大切か明白だろう?」
産まれてから親に甘やかされ続けてきたナナにとってこれは衝撃的な出来事であったのだろう。
ナナは地べたに座り込む。
「お姉様のせいだ……私悪くないもん……」
「さぁ、皆の者。邪魔をしてしまい済まない。パーティの続きといこうではないか」
再びパーティ会場にざわめき声が戻る。
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