【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜

紅城えりす☆VTuber

文字の大きさ
3 / 16

転生令嬢は舞踏会に行きたくない

しおりを挟む
「お嬢様、ご所望されていたモノをお持ちいたしました」
「ありがとう。テーブルの上に置いて」

 再び寝室に入ってきたメイドが、運び込んできたのは、白色の液体が入った水さしと、金属製のボウルだ。中には鍋で煮詰めた小麦粉が入っている。

「あの……これを何にお使いになる予定で?」
「あら、髪を洗うのよ」
「そうですか髪を小麦粉で……今なんと?」

 もちろん正気だ。
 小麦粉には汚れを吸着してくれる効果がある。なので、こうやって煮詰めてのり状にすればシャンプーとして使えるのだ。

 本当は自分で煮詰めたかったのだが、残念ながら、私がキッチンへ入ろうとすると、コック&メイド陣に阻止されてしまった。

 早速ボウルに小麦粉シャンプーを注ぐ。
  その瞬間、メイドの口から悲鳴が上がった。


***


「何をやっているのよ、シータ」

「そうだ。お前も年頃なんだから、そんなくだらないことばかりしていないで、いい加減結婚相手を探したらどうだ?」

 日が暮れ、訪れた晩餐の時間。
 テーブルの上には、ロウソクやカトラリー。それから給仕の者が運んできたローストビーフや、海老、アップルプディング、牡蠣の酢漬けから、丸いパンまで豪華な食事が運ばれてくる。

 そして、向かい側で席を共にしているのは、悪徳貴族として名高いシータの両親。隣に座っているのが、兄のアーサーだった。アーサーは、この家で唯一、貴族史上主義を持たず、現在は王都警備隊働いている。

「そんな顔をするな、シータ。お父様とお母様は君の将来を案じているだけだよ。もちろん、俺もだ」

 こちらの会話を聞いていたアーサーが、口を挟む。
 彼の声は穏やかだったが、同時にどこか寂しげだった。
 そんな顔って……。
 もしや、現在の私は、そんなに嫌そうな顔をしているのだろうか。

「全く、帰ってきて早々、年頃の娘が小麦粉で髪を洗っていたという馬鹿げた話を聞かされた僕の身にもなって欲しいよ。美しくあってこそ一人前の令嬢だろ」

 兄には申し訳ないが、こちらとしてはシャンプー無し生活を続ける訳にはいかない。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。しかし、美しくあるという点ではご心配なく。小麦粉シャンプーのおかげで髪がサラッサラになりましたので」

「シャンプー?」

 アーサーがポカーンとした表情を浮かべると、次は母が口を開いた。

「ともかく、明後日に我が家で開催する舞踏会には二百人以上の殿方が来るのよ。それまでにコンディションを最高の状態にして頂戴」

「そっ、そんなに来るの?」

「当たり前でしょ。これでも少ない方よ。あーあ、アピールするなら爵位と財力がある方にしなさいね。あぁ、ビジネスで成功しただけの中流階級なんか選んじゃダメよ。あんなの、少し太った蛆虫と変わらないわ」

 ソースで汚れた髭をナフキンで拭いていた父も口を開く。

「そうだ。上流階級の女は、出来るだけ良い家に嫁いで世継ぎを産むのが義務だと、あれだけ言ったではないか」

 この庶民に対する差別ぷり……悪徳貴族と呼ばれるだけある。

「一番狙うべきなのは、あのセシル侯爵ね」

 彼女の口から飛び出した意外な名前に、思わず、口に含んでいた物を吹き出しそうになる。なぜならば、セシル侯爵――すなわち、ルイス・セシルとは、他ならぬ『夜烏』の正体だからだ。
 
(よりによって、転生数日後に黒幕と遭遇することになるとは)

 何とも言えない気持ちで、メイドが運んできた魚のコロッケへ手を伸ばすと、部屋の中に執事らしき男が入ってきた。

「旦那様、奥様、外にご来客が」
「こんな時間になんだね?」

 不機嫌そうに返答したのは、父である。

「物乞いの女性です。パンを分けて欲しいそうで」
「ほう」

 父は、テーブルの上からリンゴの芯だけを摘んで、母と共に玄関へ向かった。
 
(すごく嫌な予感がする)

 私がテーブルからパンをいくつか取ると、状況を察したアーサーもアップル・プディングを摘む。

「シータ、君はいつから物乞いに食べ物を与えるような性格に変わった?」

「さあね」

 そのまま、二人で両親の後を追った。


***


「何だ、文句があるのか?」
「しかし、これでは……」
「こっちは仕方なく食料を分けてやっているんだぞ。文句があるなら、とっとと失せろ!」

 嫌な予感は見事に的中していた。
 父は玄関前に佇む質素な服を纏った女性にリンゴの芯を投げつけ、挙げ句の果てには唾を吐いて立ち去った。
 それを傍観していた母も、笑いながら立ち去る。

 泣き伏せる女性の元へ歩み寄ると、女性の背後に、やせ細った少年が隠れていた。
 女性の子供だろうか?

「これ、食べてください」

 手に握った丸いパンを、女性に差し出す。

「こっちも、その子と食べて下さい」

 アーサーも続いてアップル・プディングを差し出した。
 晩餐に出てきた料理は二十種類にも及んでいた。
 少しぐらい無くなっても気づかないだろう。
 女性はゆっくりと顔を上げ、パンを受け取る。そして、少年の方は待ちきれなかったのか、アーサーから受け取ったアップル・プディングをそのまま口に放り込んでしまった。

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「ママ、このお菓子。今まで食べたお菓子の中で一番美味しいよ」

 二人の満足そうな表情を見ると、何だかこっちも暖かい気持ちになる。
 そう、まるで心の奥に小さなマッチの火が灯ったように。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい

ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26) 鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。 狭い個室にはメイド服がかかっている。 とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。 「この顔……どこか見覚えが……」 幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。 名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー) 没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。 原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。 「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」 幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。 病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。 エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18) 全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。 タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

処理中です...