「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber

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偽聖女は許せない

 テレーズ王国の街並みは豪華さこそないが、よくよく見てみれば、壁にキメ細やかな模様が描かれていたり、職人が掘り出した小さな彫刻がいくつも飾られていた。

 ある程度『ものを見る目』がある人間なら、彼らが煌びやかさよりも、実質的な価値を求める人間だと理解が出来る。

 しかし、イゼルマが抱いた感想は「みずぼらしくて、つまらないわね」という一言だけであった。

「お会いできて光栄です。国王陛下」

 テレーズ王国の宮殿にてイゼルマは国王と謁見していた。

「ヴァルニアの聖女、イゼルマと申します」

「会えて光栄だ。イゼルマ嬢」

 イゼルマは両手でスカートの裾を掴んで、優雅に、なおかつ上品にお辞儀をした。

 国王の周りに立つ大臣たちはイゼルマの姿を見るなり、顔色を変える。無理もない。居なくなったと思われていたヴァルニアの聖女がまだ存在していたのだから。

「大臣からの報告によれば、イゼルマ嬢は王城に来るまでの間、我が民たちの病を治したり、不毛の地に癒しの力を与えて肥えた大地に変えていたとか」

 イゼルマは王城に来るまでの間『慈善事業』という名目で己の力を誇示して回った。さらに、わざと大臣たちの元へ噂が届くように仕向けたのだ。

 さぁて、これでヴァルニア皇帝に依頼されていた『威嚇』は終わったわ。ついでに私の株も上げられたし一石二鳥よ。

「えぇ、私は聖女、種族、国籍関係なく全ての人々に慈悲を授けることが役目ですから」

 イゼルマは胸に手を当てながらをした。

 様子を見ていた大臣がわざと大きな音を立てながら両手を叩いた。

「素晴らしい。ぜひとも我が国に来ていただきたいものです。報酬は弾みますぞ」

「まぁ、報酬だなんてそんな」

「いえ、貴方様をお迎えできるならば300万リコや500万リコぐらい安いものですよ」

 大臣の言葉に国王は満足そうに頷いた。

「然り。ぜひともイゼルマ嬢には私の娘と共にテレーズの大地に癒しの力を与えて欲しいものですな」

 私の娘と一緒?

 イゼルマは目を細めた。

「恐縮ですが陛下、私はヴァルニアの王太子に見初められた身。婚約者の期待を裏切ることなどできません」

 ほかの子娘と一緒だなんて冗談じゃないわ。敬われるのは私一人で充分よ。


***


「本格的にポーションショップを開店する前に、商人ギルドに提出した書類を更新したほうが良いかもしれません」

 ショップの掃除が終わって、これからどうやって宣伝をしようか悩んでいるレージュにリゼは告げた。

 どうやら数年前に商人ギルドに提出した書類を更新していなかったらしい。

「ショップを作ったごろは真面目に営業する予定なんてなかったので、色々と適当に書いてしまって……」

 申し訳ございません、と半泣きで謝るリゼ。レージュは「大丈夫ですよ。これから一緒に書類を更新しに行きましょう」と呼びかけた。

 港町の坂を降りていくと、だんだん商船が並ぶ船着場に到着する。

 外国から来た商人たちが集まる港付近では、東の商人が持ってきた焼き物や扇、見たことのないフルーツが並んでいる。

 リゼと和気あいあいと談笑しながら歩いていると、やがて「商人ギルド」と書かれた看板が目に入る。

 二階建ての大きな建物だ。どうやら冒険者ギルドと同じ施設を利用しているらしい。中に入ると、入口に巨大なカウンターと受付嬢が立っていた。

 どうやら左に曲がると商人ギルド、右に曲がると冒険者ギルドに行けるようだ。

 商人ギルドへ向かう前に、カウンター付近にある掲示板を見る。巨大な看板の表面には大量の紙がピン留めされていて、紙には魔獣の絵と懸賞金が書いてある。

 魔獣は呪いを受けて人や里を害するようになった動物だ。レージュは魔獣を直接目にしたことはないが、どれだけ存在が脅威なのかは知っていた。

「このタカマキドラゴンとやらを倒せば10万リコを貰えるのでしょうか?」

「そうですね。タカマキドラゴンは西の雪山に住む魔獣ですが、最近、人里の近くでチラホラと姿を見せるようになって近隣住民が怯えているようです」

「まぁ、困ったドラゴンさんなのですね」

 なるほど。ドラゴン退治か。

 ドラゴンは魔獣の中でもかなり希少かつ、上位の存在だ。

 言い伝えによれば、吐き出す炎は呪いを孕んでおり、一流の冒険者、五十人が一斉に破壊の魔法を使おうとも傷を負わない強力な皮膚を持つという。
 保持している魔力があまりにも強すぎるため、一説によると大地から魔力を吸い上げているとか。

 レージュは己の手を見下ろす。

 もし私が冒険者であったら、天から与えられた魔法の才能を生かして魔獣をたくさん倒せたのかな?

 そうしたら皆からも「可愛くない」とか「おっかない魔女」だとか言われずに済んたのかな?

 いや、過去のことなんて思い出しても仕方がない。

「リゼさん。書類の更新はどちらのカウンターに行けば良いのでしょうか?」

「あちらです」

 気を取り直すべく、無理やり笑ってからリゼと共にカウンターへ。最初に見た可憐な受け付け嬢とは違い、商人ギルドのカウンターには屈強な男性が立っていた。

 カウンターの男性に用件を言うと、一枚の紙を渡される。レージュは羽根ペンの先にインクをつけて文字を綴り始める。

 商号、代表者名、営業拠点、取り扱い品目、営業開始予定日……ギルドへの献上金もあるらしい。

 取り扱う薬については直接フランドレアのポーションショップを見て『しじょうちょうさ』とやらをやってみることにしよう。

 ギルドの決まり事は密売、詐欺、黒魔術に関わる物の取り扱い禁止。

 見たことのない単語ばかり並んでいる。

 レージュは頭を悩ませながら、一項目ずつ地道に埋めていった。
 
「従業員は3人で、営業時間は……店名はどうしましょう?」

「実質、奥様の店ですからご自由にお決めになってください」

 レージュが首をかしげると、リゼが隣でウインクした。

「でしたら『猫のしっぽ魔法薬店』にしましょうか」

「あら、可愛らしい名前ですね」

 羊皮紙にペン先を擦り付けるたびに、カリカリと心地の良い音がする。

 よし、これから頑張るぞっ!


 
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