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諦めが悪いにも程がある
レージュがフランドレアで市場調査をするのにあたって重視したのは現地での聞き取り調査、商人ギルドや商店街の価格調査、それと裏ルートからの情報集めであった。
客となる商人や冒険者が普段、どのようなポーションを買っているのか?
どこで買っているのか?
同じ魔法薬でも店舗によって販売価格は違うのか?
全ての情報が商売人としての勝敗に直結する。領主館の使用人が、フランドレアでは情報の流れが早いと言っている理由がよく分かった。情報を早く手に入れた者が勝利を手に入れるのだから。
なるほど。地域によって使われるポーションに違いがあるのね。フランドレアには装備調達のために冒険者が集まりやすいし、紛争地域に近い西の商人が仕入れに来るから回復ポーションの量を増やしましょう。
あと、これから夏が来るから虫除けポーションと冷感ポーションは需要が高まりますよね?
商人ギルドの前でメモ帳とにらめっこをしているレージュにダーレンが話しかけた。
「『まーけてぃんぐ』とやらの進捗はどうだ?」
「なかなか順調です。とくにダーレン様から紹介していただいた情報屋さんから伺った話は参考になりそうですよ。あとは、同じ『効能』でも容器の形とか販売方法で売れ行きが変わるはずなのでひと工夫必要ですね」
「楽しそうだな」
「とても楽しいです。だって、産まれてから初めて自由に好きなことができているので」
満面の笑みで「次はあれをしようかな。それとも、あれが良いかな」と喋り続けるレージュを、ダーレンは保護者のような目で見つめていた。
レージュの話し声に反応したかのように、足元へ白いモフモフとした生物が寄ってきた。
雪のように真っ白な長いしっぽと三角の耳。細い足でテクテクと歩み寄ってきて、最後は「にゃあお」と鳴き声をあげた。
「可愛い猫ちゃん」
「飼い猫かな?」
ダーレンが疑問を述べると、近くにいた冒険者ギルドのスタッフが「しよっちゅう冒険者たちから飯を貰いに来る野良猫だよ」と答えてくれた。
「ダーレン様、この猫ちゃん。飼っても良いですか?」
「別に良いが……」
「やったー。名前はどうしましょうか?」
首元を撫でると白猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、目を細めた。
ブルーとイエローのオッドアイだ。
もちろん猫なので色が違うのは、虹彩ではなく白目の方。
「よし、白くてフワフワですからマシュマロちゃんにしましょう」
「熱さで溶けてしまわないか心配な名前だな。日常的に呼ぶには長くないか?」
「ではマシュちゃんで」
マシュは新しい名前が気に入ったらしく「にゃあ」と甘い鳴き声をあげた。
「さて、そろそろ日が暮れそうだし帰るか」
「そうですね」
レージュはメモ帳類をカバンにしまい、マシュを抱えた。マシュはレージュの腕が気に入ったらしく、抱えられても一切暴れなかった。
「おや、薬師の女じゃないか」
ギルドの前から立ち去ろうとした時、見覚えのある集団が話しかけてきた。以前、レージュとリゼを娼館に送ろうとしていた商人ギルドの男たちだ。
「なんの御用ですか?」
鋭い目付きで睨むと、男の一人は軽快に「あはは」と笑い始めた。
「なんだ。べつに喧嘩を売りにきたわけじゃない。ただ俺たちは、とあるイベントに参加しないかと提案しに来ただけだ」
「あまり友好的ではない方からの提案なと受け入れたくはありませんが」
「そうか、残念だな。実はウチのギルドで一番の薬師を決める小さな大会みたいなものがあって、領主様が観客としてお越しになるようだ。領主様はお前の参加を望んでいたが、来て貰えないとはなぁ……」
なるほど。たしかに彼は喧嘩を売る気はないようだが、代わりに勝負を挑んできているようであった。ようするに、まだ精霊石を割られたときのことを、根に持っているのだ。
「レージュ、こんなヤツら放っといていいぞ」
隣でつまらなそうな表情で男たちを見ていたダーレンは、「さっさと行こう」とても言わんばかりにレージュの右手をそっと握った。
「そのイベントやらには、どのようなお客様がいらっしゃるのでしょうか?」
「領主様から、一般客、出身地問わずポーションに関わる商人や、冒険者、新聞記者も来るぞ」
つまり宣伝の場では申し分ないはずだ。
「分かりました。その招待、謹んでお受けいたしましょう」
レージュが返答すると、マシュも「にゃー」と鳴いた。
客となる商人や冒険者が普段、どのようなポーションを買っているのか?
どこで買っているのか?
同じ魔法薬でも店舗によって販売価格は違うのか?
全ての情報が商売人としての勝敗に直結する。領主館の使用人が、フランドレアでは情報の流れが早いと言っている理由がよく分かった。情報を早く手に入れた者が勝利を手に入れるのだから。
なるほど。地域によって使われるポーションに違いがあるのね。フランドレアには装備調達のために冒険者が集まりやすいし、紛争地域に近い西の商人が仕入れに来るから回復ポーションの量を増やしましょう。
あと、これから夏が来るから虫除けポーションと冷感ポーションは需要が高まりますよね?
商人ギルドの前でメモ帳とにらめっこをしているレージュにダーレンが話しかけた。
「『まーけてぃんぐ』とやらの進捗はどうだ?」
「なかなか順調です。とくにダーレン様から紹介していただいた情報屋さんから伺った話は参考になりそうですよ。あとは、同じ『効能』でも容器の形とか販売方法で売れ行きが変わるはずなのでひと工夫必要ですね」
「楽しそうだな」
「とても楽しいです。だって、産まれてから初めて自由に好きなことができているので」
満面の笑みで「次はあれをしようかな。それとも、あれが良いかな」と喋り続けるレージュを、ダーレンは保護者のような目で見つめていた。
レージュの話し声に反応したかのように、足元へ白いモフモフとした生物が寄ってきた。
雪のように真っ白な長いしっぽと三角の耳。細い足でテクテクと歩み寄ってきて、最後は「にゃあお」と鳴き声をあげた。
「可愛い猫ちゃん」
「飼い猫かな?」
ダーレンが疑問を述べると、近くにいた冒険者ギルドのスタッフが「しよっちゅう冒険者たちから飯を貰いに来る野良猫だよ」と答えてくれた。
「ダーレン様、この猫ちゃん。飼っても良いですか?」
「別に良いが……」
「やったー。名前はどうしましょうか?」
首元を撫でると白猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら、目を細めた。
ブルーとイエローのオッドアイだ。
もちろん猫なので色が違うのは、虹彩ではなく白目の方。
「よし、白くてフワフワですからマシュマロちゃんにしましょう」
「熱さで溶けてしまわないか心配な名前だな。日常的に呼ぶには長くないか?」
「ではマシュちゃんで」
マシュは新しい名前が気に入ったらしく「にゃあ」と甘い鳴き声をあげた。
「さて、そろそろ日が暮れそうだし帰るか」
「そうですね」
レージュはメモ帳類をカバンにしまい、マシュを抱えた。マシュはレージュの腕が気に入ったらしく、抱えられても一切暴れなかった。
「おや、薬師の女じゃないか」
ギルドの前から立ち去ろうとした時、見覚えのある集団が話しかけてきた。以前、レージュとリゼを娼館に送ろうとしていた商人ギルドの男たちだ。
「なんの御用ですか?」
鋭い目付きで睨むと、男の一人は軽快に「あはは」と笑い始めた。
「なんだ。べつに喧嘩を売りにきたわけじゃない。ただ俺たちは、とあるイベントに参加しないかと提案しに来ただけだ」
「あまり友好的ではない方からの提案なと受け入れたくはありませんが」
「そうか、残念だな。実はウチのギルドで一番の薬師を決める小さな大会みたいなものがあって、領主様が観客としてお越しになるようだ。領主様はお前の参加を望んでいたが、来て貰えないとはなぁ……」
なるほど。たしかに彼は喧嘩を売る気はないようだが、代わりに勝負を挑んできているようであった。ようするに、まだ精霊石を割られたときのことを、根に持っているのだ。
「レージュ、こんなヤツら放っといていいぞ」
隣でつまらなそうな表情で男たちを見ていたダーレンは、「さっさと行こう」とても言わんばかりにレージュの右手をそっと握った。
「そのイベントやらには、どのようなお客様がいらっしゃるのでしょうか?」
「領主様から、一般客、出身地問わずポーションに関わる商人や、冒険者、新聞記者も来るぞ」
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レージュが返答すると、マシュも「にゃー」と鳴いた。
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