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騙して奪うのなら償ってもらいましょう
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「ターレンバラのご子息。専門家でもない貴方が、飛竜の化石が偽物だとおっしゃったところで無意味だと思いますがね」
館長は少年の腕を無理やり掴み、資料室の外へ向かおうとする。
「さて、勝手に機密資料を見ようとする新入りは、みっちり指導してあげないとねぇ」
「待て」
イセルが隣を通過しようとする館長を呼び止めた。
「俺は一度も『飛竜の化石』が偽物だとは言っていないが?」
嘲るような笑みを浮かべていた館長の表情が崩れる。強い香水の匂いが染み付いた肌には冷や汗が流れ始めていた。
「さて、館長。貴方は飛竜の化石が偽物だと認めた。つまり己の罪を自白したということよね?」
メアリーが館長の前へ歩み寄る。
「私は今とってもガッカリしているの。だって、本物の化石が見れると思って博物館まで足を運んだのに偽物しか無いなんて」
貴族令嬢らしい優雅さと、恐ろしい炎のごとき『なにか』を内包したメアリーの話し方、仕草、その全てに恐怖してしまったのであろうか。今まで強気だった館長の態度が一変する。
「いや……これにはやむを得ない理由が」
「へぇ、だったら、そのやむを得ない理由とやらを頑張って説明することね。私の機嫌が直るようなキッチリとした理由をね」
センスを取り出し口元を隠すメアリー。
「館長、これはどういうことか説明してもらおうか?」
彼女に続いて館長を詰問しようとするのは、レインドル男爵である。
「私がオークションで買い上げた化石はたしかに本物であった。専門家にもしっかり確認してもらっている。しかし、現在、展示室にある化石の羽は私が購入した品より僅かに小さいな」
レインドル男爵がイセルを一瞥する。
「ターレンバラのご子息に指摘してもらわなければ、気づかなかったよ」
化石の前でイセルが言葉を失っていた理由。それは展示されていた化石が偽物だと気づいていたからだ。
博物館に来る前、私も飛竜について色々予習しておいたけど、全然気づかなかったわ。さすが、お兄様ね。
「館長、なぜ貴方は展示されていた品を偽物の化石とすり替えた?」
やっと諦めたらしい館長は、強く握っていた少年の手を離した。
「一か月前、魔法生物研究所の職員から化石を貸してほしいと依頼されました。化石は一週間ほどで戻ってくる予定でしたが、運搬中にトラブルがあったらしく、結局、戻ってきた化石は翼の部分が欠けていました」
「それで、飛竜の化石が欠けたことを誤魔化すために他の化石から翼の部分だけを外して組み合わせたのか?」
「……はい」
「お前には失望したよ。信頼していたのになぁ……」
「化石が欠けたことが分かった時点で。誤魔化さず正直に申し上げるべきでした」
レインドル男爵が肩を落しながらため息をつく。
「館長は本当に困った方ですね? お兄様」
メアリーはイセルの隣に立ち、呟いた。
「その通りだな。この期に及んで、まだ言い訳をするとは」
資料室全体に低い負の感情がこもった声が響き渡る。
「それで、飛竜の化石はどこだ?」
「翼の行方は分かっておりません」
「なにを言っている。あの化石は全てお前が用意した偽物だろう?」
「男爵、どこにそんな証拠が……」
レインドル男爵は、先刻まで少年が漁っていた資料を掴みとる。
「この取引証。なにやら色々と偽造しているようだが、化石を売り飛ばしたときの記録だろう?」
「男爵……まさか、貴方は初めから全てを知って……」
「そうだ、やっと気づいたか。私はもう既に少年とターレンバラのご子息から全ての真実を聞かされている」
「では、どうして私を試すような真似を?」
「お前の言う通り、私は試したかったのだよ。本当にお前が悪事を働いたのか? もし黒だとして反省の意思はあるのか?」
「……そんな。私は男爵の期待を裏切って……」
「誠に残念だが、館長としての役割は明日から他の者に任せる。二度と私の前に姿を現すな!」
勝手に所有物を売り飛ばされたのに、解任だけで済むなんて。本当に男爵はお優しいのね。
メアリーは少年の方に視線を移す。
「貴方、怪我は無い?」
「あ、はい。大丈夫です」
少年は頬を赤く染め、オドオドとした態度で返答した。
館長は少年の腕を無理やり掴み、資料室の外へ向かおうとする。
「さて、勝手に機密資料を見ようとする新入りは、みっちり指導してあげないとねぇ」
「待て」
イセルが隣を通過しようとする館長を呼び止めた。
「俺は一度も『飛竜の化石』が偽物だとは言っていないが?」
嘲るような笑みを浮かべていた館長の表情が崩れる。強い香水の匂いが染み付いた肌には冷や汗が流れ始めていた。
「さて、館長。貴方は飛竜の化石が偽物だと認めた。つまり己の罪を自白したということよね?」
メアリーが館長の前へ歩み寄る。
「私は今とってもガッカリしているの。だって、本物の化石が見れると思って博物館まで足を運んだのに偽物しか無いなんて」
貴族令嬢らしい優雅さと、恐ろしい炎のごとき『なにか』を内包したメアリーの話し方、仕草、その全てに恐怖してしまったのであろうか。今まで強気だった館長の態度が一変する。
「いや……これにはやむを得ない理由が」
「へぇ、だったら、そのやむを得ない理由とやらを頑張って説明することね。私の機嫌が直るようなキッチリとした理由をね」
センスを取り出し口元を隠すメアリー。
「館長、これはどういうことか説明してもらおうか?」
彼女に続いて館長を詰問しようとするのは、レインドル男爵である。
「私がオークションで買い上げた化石はたしかに本物であった。専門家にもしっかり確認してもらっている。しかし、現在、展示室にある化石の羽は私が購入した品より僅かに小さいな」
レインドル男爵がイセルを一瞥する。
「ターレンバラのご子息に指摘してもらわなければ、気づかなかったよ」
化石の前でイセルが言葉を失っていた理由。それは展示されていた化石が偽物だと気づいていたからだ。
博物館に来る前、私も飛竜について色々予習しておいたけど、全然気づかなかったわ。さすが、お兄様ね。
「館長、なぜ貴方は展示されていた品を偽物の化石とすり替えた?」
やっと諦めたらしい館長は、強く握っていた少年の手を離した。
「一か月前、魔法生物研究所の職員から化石を貸してほしいと依頼されました。化石は一週間ほどで戻ってくる予定でしたが、運搬中にトラブルがあったらしく、結局、戻ってきた化石は翼の部分が欠けていました」
「それで、飛竜の化石が欠けたことを誤魔化すために他の化石から翼の部分だけを外して組み合わせたのか?」
「……はい」
「お前には失望したよ。信頼していたのになぁ……」
「化石が欠けたことが分かった時点で。誤魔化さず正直に申し上げるべきでした」
レインドル男爵が肩を落しながらため息をつく。
「館長は本当に困った方ですね? お兄様」
メアリーはイセルの隣に立ち、呟いた。
「その通りだな。この期に及んで、まだ言い訳をするとは」
資料室全体に低い負の感情がこもった声が響き渡る。
「それで、飛竜の化石はどこだ?」
「翼の行方は分かっておりません」
「なにを言っている。あの化石は全てお前が用意した偽物だろう?」
「男爵、どこにそんな証拠が……」
レインドル男爵は、先刻まで少年が漁っていた資料を掴みとる。
「この取引証。なにやら色々と偽造しているようだが、化石を売り飛ばしたときの記録だろう?」
「男爵……まさか、貴方は初めから全てを知って……」
「そうだ、やっと気づいたか。私はもう既に少年とターレンバラのご子息から全ての真実を聞かされている」
「では、どうして私を試すような真似を?」
「お前の言う通り、私は試したかったのだよ。本当にお前が悪事を働いたのか? もし黒だとして反省の意思はあるのか?」
「……そんな。私は男爵の期待を裏切って……」
「誠に残念だが、館長としての役割は明日から他の者に任せる。二度と私の前に姿を現すな!」
勝手に所有物を売り飛ばされたのに、解任だけで済むなんて。本当に男爵はお優しいのね。
メアリーは少年の方に視線を移す。
「貴方、怪我は無い?」
「あ、はい。大丈夫です」
少年は頬を赤く染め、オドオドとした態度で返答した。
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