異世界の餓狼系男子

みくもっち

文字の大きさ
6 / 77

6 願望者

しおりを挟む
 村はすぐに見つかった。牛を放牧していた人もここに住んでるかもしれない。
 一匹ダメにしてしまったので、謝らなければならないか。

 入ってすぐにジロジロと見られているのが分かる。よそ者なんで当然だろう。

 肌や髪、瞳の色はバラバラだ。時折、村人同士の話し声が聞こえるが、会話は通じるようだ。
 土壁の家、井戸、牛馬を使った農耕……。あまり文明は発達していないように見える。

「さて、こんな小さな村でも酒場くらいあるでしょ。そこで情報収集ね」

 シエラの言葉に従い、酒場へと入る。
 まだ日が高いので客は少ない。
 シエラはカウンターの椅子に腰かけると足を組み、赤い髪をかき上げてからマスターに向かって言った。

「バーボンを頂戴」

「ねえよ」

 酒場のマスターというより、肉屋のオヤジみたいな格好の店主が素っ気なく返す。
 シエラは頬を膨らませる。

「分かってるわよ。雰囲気を出そうと言ってみただけ」

 ドン、ドン、とカウンターに無造作に置かれた木製のコップ。中身はただの水のようだ。

「ねえ、最近、願望者デザイア見なかった? ここにも来るよね、願望者デザイア

「ああ……アンタらみたいなのだろ。はっきり言って迷惑だな。用件が済んだらさっさと出ていってほしい」

 どうやら歓迎されていないようだ。このあとのふたりの会話から分かったことだが、願望者デザイアというのは、魔物を呼び寄せてしまう性質があるらしい。

 さらに、願望者デザイア同士というのはあちこちで争い合っているとの事。
 個人の決闘から徒党同士のいざこざ、国レベルの戦争まで、とにかく現地住民にしたら迷惑この上ない存在のようだ。

「ふんふん、魔物討伐の依頼をうけて願望者デザイアが三日前に来たと。依頼主はここの村長ね」

 どうやら村長に話を聞いたほうが話が早そうだ。
 礼を言って村長の家へ。

 村長といっても杖をついた髭の長い老人ではない。わりと若い、五十代くらいの人物だった。

「ああ、たしかに来たよ。こっちから街のほうの紹介所から来てもらったんだ。アンタら、あのネーチャンの仲間じゃないのか?」

 最近、家畜や農作物の被害が多い。ゴブリンが近くの洞窟に住み着いたのが原因らしい。それで街のほうから願望者デザイアを派遣してもらったという。
 嫌われているとはいえ、そういったことには願望者デザイアは利用されているみたいだ。

「しかし、もう三日だ。いくらなんでも遅すぎる。失敗して死んだか、逃げたかしたと思うんだが……」

「ゴブリンごときに願望者デザイアが殺られるわけないと思うんだけどなあ~。まあ、確めてみっか」

 シエラが俺の袖を引っ張る。

「ほら、溢忌! そのゴブリンの洞窟へ行くぞっ」

「え? なんでっスか? その願望者デザイア、死んだかもしれないっスよね。チートスキル持ってたとは考えにくいっスね。その派遣元の街に行ったほうが早くないスか」

 こう言うと、シエラは背伸びしながら俺の両頬をつねった。

「そんな生意気な口を利くのはこの口かっ! 勇者らしからぬふざけた口を利くのはこ・の・く・ち・かっ!」

 俺はすぐに手を上げて降参。ゴブリン退治に向かうはめになった。ああ、面倒だ。普通に正論を言っただけなのに……。



 簡単に準備をし、村を出て先ほどの牛の放牧地へ。さらに川を越えて丘陵地帯へさしかかる。
 あった、洞窟だ。この中にゴブリンどもが巣くっているのか……。

「この中に入んスか? やだなあ……」

 暗いし、ジメジメしてそうだし、虫やらトカゲやら出てきそうだ。シエラはほら行って、と背中をドンドンと押す。

「わ、わかったっスよ。押さないで……」

 俺はステータスウインドウを開き、スキルを確認。さっき村で譲ってもらった油を荷袋から取り出す。
 同じくもらった布。そして近くから手頃な木の枝を調達。
 これらの素材を調合のスキルで合成。松明たいまつを作った。

 指先から魔法で炎を出し、火をつける。見事先端にボウッと火が灯った。

「おお、やるな溢忌。なんだか勇者っぽい」

 シエラは喜び、自分も洞窟の中へ入ろうとする。

「あ、危ないっスよ。シエラはここで待ってたほうがいいっス。俺ひとりで行くっスよ」

「なんでえ、大丈夫だよ。《女神》と勇者は常に側にいなくちゃいけないんだ。いらん心配せんでよろし」

「いや、シエラ、裸足じゃないっスか。洞窟の地面てゴツゴツしてるっスよ。ケガするっス」

「あ、これ? 大丈夫。ちょいと地面から浮いてる状態なんだな。ほら、ドラ○もんと同じ原理と考えてよろしい。ちなみにへんな効果音はないぞ」

「……………………」

 どうせなら、もっと役に立ちそうな能力を身に付けていてほしい。今のところ妙な歌やらダンスやら、理不尽な暴力やら……《女神》らしいところをひとつも拝んでいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...