異世界の餓狼系男子

みくもっち

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6 願望者

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 村はすぐに見つかった。牛を放牧していた人もここに住んでるかもしれない。
 一匹ダメにしてしまったので、謝らなければならないか。

 入ってすぐにジロジロと見られているのが分かる。よそ者なんで当然だろう。

 肌や髪、瞳の色はバラバラだ。時折、村人同士の話し声が聞こえるが、会話は通じるようだ。
 土壁の家、井戸、牛馬を使った農耕……。あまり文明は発達していないように見える。

「さて、こんな小さな村でも酒場くらいあるでしょ。そこで情報収集ね」

 シエラの言葉に従い、酒場へと入る。
 まだ日が高いので客は少ない。
 シエラはカウンターの椅子に腰かけると足を組み、赤い髪をかき上げてからマスターに向かって言った。

「バーボンを頂戴」

「ねえよ」

 酒場のマスターというより、肉屋のオヤジみたいな格好の店主が素っ気なく返す。
 シエラは頬を膨らませる。

「分かってるわよ。雰囲気を出そうと言ってみただけ」

 ドン、ドン、とカウンターに無造作に置かれた木製のコップ。中身はただの水のようだ。

「ねえ、最近、願望者デザイア見なかった? ここにも来るよね、願望者デザイア

「ああ……アンタらみたいなのだろ。はっきり言って迷惑だな。用件が済んだらさっさと出ていってほしい」

 どうやら歓迎されていないようだ。このあとのふたりの会話から分かったことだが、願望者デザイアというのは、魔物を呼び寄せてしまう性質があるらしい。

 さらに、願望者デザイア同士というのはあちこちで争い合っているとの事。
 個人の決闘から徒党同士のいざこざ、国レベルの戦争まで、とにかく現地住民にしたら迷惑この上ない存在のようだ。

「ふんふん、魔物討伐の依頼をうけて願望者デザイアが三日前に来たと。依頼主はここの村長ね」

 どうやら村長に話を聞いたほうが話が早そうだ。
 礼を言って村長の家へ。

 村長といっても杖をついた髭の長い老人ではない。わりと若い、五十代くらいの人物だった。

「ああ、たしかに来たよ。こっちから街のほうの紹介所から来てもらったんだ。アンタら、あのネーチャンの仲間じゃないのか?」

 最近、家畜や農作物の被害が多い。ゴブリンが近くの洞窟に住み着いたのが原因らしい。それで街のほうから願望者デザイアを派遣してもらったという。
 嫌われているとはいえ、そういったことには願望者デザイアは利用されているみたいだ。

「しかし、もう三日だ。いくらなんでも遅すぎる。失敗して死んだか、逃げたかしたと思うんだが……」

「ゴブリンごときに願望者デザイアが殺られるわけないと思うんだけどなあ~。まあ、確めてみっか」

 シエラが俺の袖を引っ張る。

「ほら、溢忌! そのゴブリンの洞窟へ行くぞっ」

「え? なんでっスか? その願望者デザイア、死んだかもしれないっスよね。チートスキル持ってたとは考えにくいっスね。その派遣元の街に行ったほうが早くないスか」

 こう言うと、シエラは背伸びしながら俺の両頬をつねった。

「そんな生意気な口を利くのはこの口かっ! 勇者らしからぬふざけた口を利くのはこ・の・く・ち・かっ!」

 俺はすぐに手を上げて降参。ゴブリン退治に向かうはめになった。ああ、面倒だ。普通に正論を言っただけなのに……。



 簡単に準備をし、村を出て先ほどの牛の放牧地へ。さらに川を越えて丘陵地帯へさしかかる。
 あった、洞窟だ。この中にゴブリンどもが巣くっているのか……。

「この中に入んスか? やだなあ……」

 暗いし、ジメジメしてそうだし、虫やらトカゲやら出てきそうだ。シエラはほら行って、と背中をドンドンと押す。

「わ、わかったっスよ。押さないで……」

 俺はステータスウインドウを開き、スキルを確認。さっき村で譲ってもらった油を荷袋から取り出す。
 同じくもらった布。そして近くから手頃な木の枝を調達。
 これらの素材を調合のスキルで合成。松明たいまつを作った。

 指先から魔法で炎を出し、火をつける。見事先端にボウッと火が灯った。

「おお、やるな溢忌。なんだか勇者っぽい」

 シエラは喜び、自分も洞窟の中へ入ろうとする。

「あ、危ないっスよ。シエラはここで待ってたほうがいいっス。俺ひとりで行くっスよ」

「なんでえ、大丈夫だよ。《女神》と勇者は常に側にいなくちゃいけないんだ。いらん心配せんでよろし」

「いや、シエラ、裸足じゃないっスか。洞窟の地面てゴツゴツしてるっスよ。ケガするっス」

「あ、これ? 大丈夫。ちょいと地面から浮いてる状態なんだな。ほら、ドラ○もんと同じ原理と考えてよろしい。ちなみにへんな効果音はないぞ」

「……………………」

 どうせなら、もっと役に立ちそうな能力を身に付けていてほしい。今のところ妙な歌やらダンスやら、理不尽な暴力やら……《女神》らしいところをひとつも拝んでいない。
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