異世界の餓狼系男子

みくもっち

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7 はじめての洞窟

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 洞窟内は思ったよりジメッ、とはしてなかった。涼しい。以前家族と一緒に入った鍾乳洞を思いだした。

 あの小柄なゴブリンが住み着くだけあって少し狭い。途中では身を屈めなければ通れない場所もある。

「溢忌ぃ~、ゴブリンに遭遇してもさっきみたいなの撃ったらダメだかんね。崩落して生き埋めで完全アウツだから」

「分かってるっスよ。なんかこう、勇者っぽく剣で戦うっス」

 ある程度進むと、通路は二股に分かれていた。
 こっちだなとシエラが右を選んで進む。
 また分かれ道だ。今度は三方向。
 こっちこっちと、またシエラが進む。今度は真ん中だ。

 何度かそれを繰り返すうちに行き止まりに突き当たった。

「シエラ……」

「……言うな」

「迷ったっスね。あんな適当に進むから」

 仕方ない、と俺はステータスウインドウを出して確認。

「お、あったっスね」

 頭上右上に五十センチ四方の光る窓が現れる。
 そこに、この洞窟内で自分たちが通った道が表示され、現在地がチカチカと点滅している。

「オートマッピング機能っス。これで迷うことはないっスね」

「んへえ、さすがは《餓狼系主人公》。お手のものだねえ」

「……今、気づいたんスけど」

 松明をかざし、進みながら聞く。

「ん、なんだね」

「この世界って、シエラが造ったんスよね」

「その通り。崇め奉りたまへ。苦しゅうないぞ」

 シエラは鼻息荒くふんぞり返る。

「だったら、この洞窟もシエラが造ったってことっスよね。なのに道に迷うなんて……」

「んっん~、言いたい事は分かるぞ、溢忌君。だがね、よく考えたまえ。キミは自分がひねり出したウ○コの詳細を知っているのかね? それがどのように構成され、色やツヤ、形、曲がり具合等を事細かく語れるのか? 不可能だろう。つまりはそういうことなのだ」

「いや、全然分かんないっスけど……引くっス。女の子がウ○コなんて……」

「少年よ、女の子に幻想を抱くな。女の子とて、モリモリと出すものは出すのだ」

「うわ、やめてくださいっスよ」

 こんなしょうもないやり取りを続けている内に、ずいぶんと冷えてきたことに気づく。

「さ、寒いっスね。こりゃあ、凍える」

 シエラも歯をガチガチ鳴らしている。あの薄着では無理もない。

「で、願望者デザイア、は、願、望の、力で、体温、調節、で、きる」

「え、そうなんスか。やってみるっス」

 意識を集中させ、イメージする。寒くない、寒くない。普段通り。ここは平均気温……。
 おお、本当だ。全然寒くない。

「やったっス! 寒くなくなったっスよ!」

「ぞう……よ、がっ、た、ね」

 シエラは鼻水だらだら。どうやらこの《女神》自身は体温調節出来ないらしい。

「待っててくださいっス。今、なんとか……」

 荷袋から布と、村長からもらったウサギの干し肉を取り出す。
 ウサギ……がっつり加工した後だが成功するだろうか。布も面積が少ない。いや、自分の願望の力を信じよう。

 ふたつの素材を調合のスキルで合成──おお、成功だ。少し小さいが毛皮の上着が出来た。
 それをシエラに羽織らせる。

「おおお、あったかい……ええわ、ええわこれ」

 良かった。毛皮に頬ずりして喜んでいる。にしても、転生したばかりの自分がこんな色々出来るのに……この《女神》は一体何が出来るのだろうか。

 寒さも凌げるようになり、さらに奥へと進む。

「いや、急にこの寒さはおかしいっスね。壁が凍りついてるっス」

「たしかに。ん、あれは……」

 通路の途中で何やら転がっている物体。近づいて足で蹴ってみると……。
 それは氷漬けになったゴブリンだった。

「うわ、カッチンコッチンコだ。これは多分願望者デザイアの仕業だな。溢忌、街から来た願望者デザイアはまだ生きてるかも」

 カッチン……いや、やめておこう。
 シエラの言う通り、ゴブリン討伐に来た願望者デザイアがやったのだろう。
 この異常な低温化もおそらく……。

 氷漬けのゴブリンはさらに何体も見つかった。ゴロゴロとそこら中に転がっている。

「あれ、ここ行き止まりじゃん」

 シエラが通路の先を指さす。
 おや、地図ではこの先も続いているはずだが。シエラが言うように壁が立ち塞がっている。

「いや、これは……氷っスね。ブ厚い氷の壁があるみたいっス」

 近づいてコンコンと叩いてみる。寒さの原因はこれか……? よし、試してみるか。

 松明はシエラに渡し、剣を抜き、手をかざす。願望の力を集中させた。剣身が赤く発光する。
 その剣を氷の壁に押し当てると、シュウウウ、と瞬く間に溶けだした。

属性付与エンチャントのスキルっスね。剣に炎属性付けたっス」

「おお、早くもスキルを使いこなしおってからかに。シエラ、《女神》として鼻が高いゾウ」

 シエラはそう言ってゾウのモノマネしながらパオ~ン、パオ~ンとそこらを歩きまわる。
 この《女神》はいつもこんな調子なのか。人に見られたら恥ずかしい……。
 
 そんなことを思いつつ、ついに氷の壁を突き抜けた。先は普通に通路だと思っていたのだが、広い空間に繋がっていたようだ。
 
 シエラから松明を受け取り、よく周囲を照らしてみる。
 
「あぶないっ!」

 突然のシエラの声。横合いから振り下ろされた一撃に俺の身体は切り裂かれ──。
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