異世界の餓狼系男子

みくもっち

文字の大きさ
11 / 77

11 チートスキル所有者

しおりを挟む
 翌朝、まだ日が昇りきってない時刻から村を出発した。
 街までの道のりでは一ヶ所、別の村を経由することになるが、この時刻からなら日暮れまでに到着するとの事だった。

 昨夜の査問会の結果──結局のところ、俺に真相が語られることはなかった。
 シエラは口を閉ざしたまま。俺もどうだったんスか、とがっついて聞く勇気も無く、そのまま解散となったのだ。
 気になってあまり寝られなかった……。

 山の峠道を越え、街道に出る。あとは道なりに進めば次の村だそうだ。

「気をつけて下さい。わたしは遭いませんでしたが、この辺りは野盗が出るようです」

 イルネージュが警戒しながら峠道を先行する。

「魔物出たり、野盗いたり。この世界、治安悪いっスね~」

 少し嫌みっぽく言ってシエラを見てみる。
 赤髪の少女はフンだ、と舌を出した。

「魔物はともかく、盗賊とか国同士の争いとかはシエラ、知らないモン。休眠中だったし。それにアイツら、シエラを見ても《女神》って信じねーし」

 まあ、信じないだろう。俺だってまだ半信半疑だ。黙ってさえいれば美少女なのだが……。
 先行していたイルネージュが立ち止まった。

「アイスブランドが危険を知らせています。気をつけて」

 イルネージュが腰に差している剣から白いもやのようなものが出ている。あれは冷気か。ああやって持ち主に危険を知らせるのか。

 ガサアッ、と両脇のやぶから数人の男が飛び出してきた。  
 その中のひとりを見て、俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《世紀末無法者》バザック。

 モヒカンにパンクロック風な格好。
 ひゃっはー、と言いながら手に持った鎖をブンブン振り回している。
 むむ、これは──某人気マンガに出てくるザコキャラにそっくりだ。
 コイツ以外の数人を見てもダダダダはない。格好もこの世界の住人っぽいものだ。

「いいトコに出てきたぜえ、獲物がよ。おとなしく金目の物と食糧を置いていきな」 

 バザックはいきりたっているが、後ろの部下っぽい数人は何かオドオドしている。

「ア、アニキィ、そいつら全員願望者デザイアなんじゃ……」

「うるせえ、わかってんだよ。いつもならトンズラ決めこむところだがよお、今回の俺は一味違うぜえ」

 バザックは鎖を振り回しながらじりじりと近づく。

「シエラ。聞こうと思ってたんスけど、この頭に直接響いてくんの、なんなんスかね。あと、ちょっとイラッとするんスけど」

「ふむ。それは正確には【刻印】という。初見の願望者デザイア同士が出会ったときに起きる現象だ。イラッとくるのはじきに馴れるけど、過敏なヤツは見境なく襲ってくるので気をつけるよーに」

「──おまえらっ! この状況で普通に話してんじゃねー! なめんじゃねーぞ、コラアッ!」

 バザックが鎖の先端を地面に叩きつける。
 ひあっ、と驚いたのはイルネージュだけだ。

「これは殺していいっスよね。盗賊だし。悪者っスよね」

「ダメ! ダメダメ! 悪者でも人間殺したらダメッ! なんで分かんないかな。勇者なんだよ、溢忌は」

 予想していた答えだ。しかし逆らうと後々面倒な事になりそうだ。もしも人を殺すような場合はシエラやイルネージュが見てないところで殺るしかない。

「テメエらっ! やるぞっ!」

 バザックの号令に剣や槍を持った部下たちも動く。だが見せかけだけで攻撃しようとはしない。やはりこの部下たちは願望者デザイアではなく、普通の現地人のようだ。

「ビビりやがって……おい、見てろよっ」

 ビッ、と投げられた鎖。俺はとっさに左腕で受ける。

「ヒャハッ、こっちに来やがれっ」

 グイッ、と鎖を手繰りよせる。ザコキャラのくせになかなかの力だ。近づいたところでなんらかの攻撃を加えるつもりだろう。
 
 俺はわざと引き寄せられる事にした。
 ズズズ、と引っ張られ、近づく。バザックは腰の辺りから柄の短い斧を取り出し、斬りつけてきた。

 まともに俺の首筋に入った。イルネージュの悲鳴、シエラの罵倒。そしてバザックの呻き声。
 打ち込んだバザックの方が、手の痛みでうずくまった。

「なんだ、かってえぞ、コイツ……」

 ステータスで確認したが、攻撃力も防御力もすでにカンスト状態。
 イルネージュのアイスブランドすら斬りつけた際に折れてしまったのだ。そんな普通の斧が通用するはずもない。

 バザックの顎めがけ、つま先で軽く蹴りあげた。
 あ、いかん。殺した。首が折れ、頭が背中にくっつくほどの位置に。
 いや──無事だ。すぐに起き上がって斧を拾い上げ、斬りつけてきた。

 かわす必要すらないが、こちらの攻撃が効いてないことに少し驚いた。
 ここは用心してバックステップで避ける。

「へ、へへ。ビビッたか。俺が最近手に入れた能力によお」

 バザックのセリフにピンときたらしい。
 シエラが叫ぶ。

「溢忌、気をつけて! そいつ、チートスキル所有者だ!」

 俺が授かるはずだった強力なスキル。《女神》シエラの手違いで願望者デザイアたちにばらまかれたものだが──早くもその所有者に出会う事になるとは。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...