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11 チートスキル所有者
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翌朝、まだ日が昇りきってない時刻から村を出発した。
街までの道のりでは一ヶ所、別の村を経由することになるが、この時刻からなら日暮れまでに到着するとの事だった。
昨夜の査問会の結果──結局のところ、俺に真相が語られることはなかった。
シエラは口を閉ざしたまま。俺もどうだったんスか、とがっついて聞く勇気も無く、そのまま解散となったのだ。
気になってあまり寝られなかった……。
山の峠道を越え、街道に出る。あとは道なりに進めば次の村だそうだ。
「気をつけて下さい。わたしは遭いませんでしたが、この辺りは野盗が出るようです」
イルネージュが警戒しながら峠道を先行する。
「魔物出たり、野盗いたり。この世界、治安悪いっスね~」
少し嫌みっぽく言ってシエラを見てみる。
赤髪の少女はフンだ、と舌を出した。
「魔物はともかく、盗賊とか国同士の争いとかはシエラ、知らないモン。休眠中だったし。それにアイツら、シエラを見ても《女神》って信じねーし」
まあ、信じないだろう。俺だってまだ半信半疑だ。黙ってさえいれば美少女なのだが……。
先行していたイルネージュが立ち止まった。
「アイスブランドが危険を知らせています。気をつけて」
イルネージュが腰に差している剣から白いもやのようなものが出ている。あれは冷気か。ああやって持ち主に危険を知らせるのか。
ガサアッ、と両脇の籔から数人の男が飛び出してきた。
その中のひとりを見て、俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《世紀末無法者》バザック。
モヒカンにパンクロック風な格好。
ひゃっはー、と言いながら手に持った鎖をブンブン振り回している。
むむ、これは──某人気マンガに出てくるザコキャラにそっくりだ。
コイツ以外の数人を見てもダダダダはない。格好もこの世界の住人っぽいものだ。
「いいトコに出てきたぜえ、獲物がよ。おとなしく金目の物と食糧を置いていきな」
バザックはいきりたっているが、後ろの部下っぽい数人は何かオドオドしている。
「ア、アニキィ、そいつら全員願望者なんじゃ……」
「うるせえ、わかってんだよ。いつもならトンズラ決めこむところだがよお、今回の俺は一味違うぜえ」
バザックは鎖を振り回しながらじりじりと近づく。
「シエラ。聞こうと思ってたんスけど、この頭に直接響いてくんの、なんなんスかね。あと、ちょっとイラッとするんスけど」
「ふむ。それは正確には【刻印】という。初見の願望者同士が出会ったときに起きる現象だ。イラッとくるのはじきに馴れるけど、過敏なヤツは見境なく襲ってくるので気をつけるよーに」
「──おまえらっ! この状況で普通に話してんじゃねー! なめんじゃねーぞ、コラアッ!」
バザックが鎖の先端を地面に叩きつける。
ひあっ、と驚いたのはイルネージュだけだ。
「これは殺していいっスよね。盗賊だし。悪者っスよね」
「ダメ! ダメダメ! 悪者でも人間殺したらダメッ! なんで分かんないかな。勇者なんだよ、溢忌は」
予想していた答えだ。しかし逆らうと後々面倒な事になりそうだ。もしも人を殺すような場合はシエラやイルネージュが見てないところで殺るしかない。
「テメエらっ! やるぞっ!」
バザックの号令に剣や槍を持った部下たちも動く。だが見せかけだけで攻撃しようとはしない。やはりこの部下たちは願望者ではなく、普通の現地人のようだ。
「ビビりやがって……おい、見てろよっ」
ビッ、と投げられた鎖。俺はとっさに左腕で受ける。
「ヒャハッ、こっちに来やがれっ」
グイッ、と鎖を手繰りよせる。ザコキャラのくせになかなかの力だ。近づいたところでなんらかの攻撃を加えるつもりだろう。
俺はわざと引き寄せられる事にした。
ズズズ、と引っ張られ、近づく。バザックは腰の辺りから柄の短い斧を取り出し、斬りつけてきた。
まともに俺の首筋に入った。イルネージュの悲鳴、シエラの罵倒。そしてバザックの呻き声。
打ち込んだバザックの方が、手の痛みでうずくまった。
「なんだ、かってえぞ、コイツ……」
ステータスで確認したが、攻撃力も防御力もすでにカンスト状態。
イルネージュのアイスブランドすら斬りつけた際に折れてしまったのだ。そんな普通の斧が通用するはずもない。
バザックの顎めがけ、つま先で軽く蹴りあげた。
あ、いかん。殺した。首が折れ、頭が背中にくっつくほどの位置に。
いや──無事だ。すぐに起き上がって斧を拾い上げ、斬りつけてきた。
かわす必要すらないが、こちらの攻撃が効いてないことに少し驚いた。
ここは用心してバックステップで避ける。
「へ、へへ。ビビッたか。俺が最近手に入れた能力によお」
バザックのセリフにピンときたらしい。
シエラが叫ぶ。
「溢忌、気をつけて! そいつ、チートスキル所有者だ!」
俺が授かるはずだった強力なスキル。《女神》シエラの手違いで願望者たちにばらまかれたものだが──早くもその所有者に出会う事になるとは。
街までの道のりでは一ヶ所、別の村を経由することになるが、この時刻からなら日暮れまでに到着するとの事だった。
昨夜の査問会の結果──結局のところ、俺に真相が語られることはなかった。
シエラは口を閉ざしたまま。俺もどうだったんスか、とがっついて聞く勇気も無く、そのまま解散となったのだ。
気になってあまり寝られなかった……。
山の峠道を越え、街道に出る。あとは道なりに進めば次の村だそうだ。
「気をつけて下さい。わたしは遭いませんでしたが、この辺りは野盗が出るようです」
イルネージュが警戒しながら峠道を先行する。
「魔物出たり、野盗いたり。この世界、治安悪いっスね~」
少し嫌みっぽく言ってシエラを見てみる。
赤髪の少女はフンだ、と舌を出した。
「魔物はともかく、盗賊とか国同士の争いとかはシエラ、知らないモン。休眠中だったし。それにアイツら、シエラを見ても《女神》って信じねーし」
まあ、信じないだろう。俺だってまだ半信半疑だ。黙ってさえいれば美少女なのだが……。
先行していたイルネージュが立ち止まった。
「アイスブランドが危険を知らせています。気をつけて」
イルネージュが腰に差している剣から白いもやのようなものが出ている。あれは冷気か。ああやって持ち主に危険を知らせるのか。
ガサアッ、と両脇の籔から数人の男が飛び出してきた。
その中のひとりを見て、俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《世紀末無法者》バザック。
モヒカンにパンクロック風な格好。
ひゃっはー、と言いながら手に持った鎖をブンブン振り回している。
むむ、これは──某人気マンガに出てくるザコキャラにそっくりだ。
コイツ以外の数人を見てもダダダダはない。格好もこの世界の住人っぽいものだ。
「いいトコに出てきたぜえ、獲物がよ。おとなしく金目の物と食糧を置いていきな」
バザックはいきりたっているが、後ろの部下っぽい数人は何かオドオドしている。
「ア、アニキィ、そいつら全員願望者なんじゃ……」
「うるせえ、わかってんだよ。いつもならトンズラ決めこむところだがよお、今回の俺は一味違うぜえ」
バザックは鎖を振り回しながらじりじりと近づく。
「シエラ。聞こうと思ってたんスけど、この頭に直接響いてくんの、なんなんスかね。あと、ちょっとイラッとするんスけど」
「ふむ。それは正確には【刻印】という。初見の願望者同士が出会ったときに起きる現象だ。イラッとくるのはじきに馴れるけど、過敏なヤツは見境なく襲ってくるので気をつけるよーに」
「──おまえらっ! この状況で普通に話してんじゃねー! なめんじゃねーぞ、コラアッ!」
バザックが鎖の先端を地面に叩きつける。
ひあっ、と驚いたのはイルネージュだけだ。
「これは殺していいっスよね。盗賊だし。悪者っスよね」
「ダメ! ダメダメ! 悪者でも人間殺したらダメッ! なんで分かんないかな。勇者なんだよ、溢忌は」
予想していた答えだ。しかし逆らうと後々面倒な事になりそうだ。もしも人を殺すような場合はシエラやイルネージュが見てないところで殺るしかない。
「テメエらっ! やるぞっ!」
バザックの号令に剣や槍を持った部下たちも動く。だが見せかけだけで攻撃しようとはしない。やはりこの部下たちは願望者ではなく、普通の現地人のようだ。
「ビビりやがって……おい、見てろよっ」
ビッ、と投げられた鎖。俺はとっさに左腕で受ける。
「ヒャハッ、こっちに来やがれっ」
グイッ、と鎖を手繰りよせる。ザコキャラのくせになかなかの力だ。近づいたところでなんらかの攻撃を加えるつもりだろう。
俺はわざと引き寄せられる事にした。
ズズズ、と引っ張られ、近づく。バザックは腰の辺りから柄の短い斧を取り出し、斬りつけてきた。
まともに俺の首筋に入った。イルネージュの悲鳴、シエラの罵倒。そしてバザックの呻き声。
打ち込んだバザックの方が、手の痛みでうずくまった。
「なんだ、かってえぞ、コイツ……」
ステータスで確認したが、攻撃力も防御力もすでにカンスト状態。
イルネージュのアイスブランドすら斬りつけた際に折れてしまったのだ。そんな普通の斧が通用するはずもない。
バザックの顎めがけ、つま先で軽く蹴りあげた。
あ、いかん。殺した。首が折れ、頭が背中にくっつくほどの位置に。
いや──無事だ。すぐに起き上がって斧を拾い上げ、斬りつけてきた。
かわす必要すらないが、こちらの攻撃が効いてないことに少し驚いた。
ここは用心してバックステップで避ける。
「へ、へへ。ビビッたか。俺が最近手に入れた能力によお」
バザックのセリフにピンときたらしい。
シエラが叫ぶ。
「溢忌、気をつけて! そいつ、チートスキル所有者だ!」
俺が授かるはずだった強力なスキル。《女神》シエラの手違いで願望者たちにばらまかれたものだが──早くもその所有者に出会う事になるとは。
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