異世界の餓狼系男子

みくもっち

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13 ウ○コの話

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「そういえば、また気づいたんスけど」

 シエラに連続ローキックを喰らいながら疑問を口にする。

「この世界はシエラが造ったんスよね。だったら、魔物もシエラが造ったってことじゃないっスか」

「そうだよ。シエラの負の感情から出来てんだよ、アイツらは。主に休眠中の悪夢から生まれてくんの。可愛いらしいシエラからなんであんなんが出てくんのか不思議だけど」

 蹴り疲れたのか、その場に座りこむシエラ。
 いやいや、その凶暴性は魔物たちにしっかりと受け継がれている。

「だったら産みの親っつーか、マザーじゃないスか。アイツら、牙をむき出して追いかけ回してたっスけど……」

 先ほどのコボルトは不意討ちに現れ、一番弱そうなシエラをまっさきに標的にした。
 シエラはギエエエ、と美少女らしからぬ奇声をあげて逃げ回ったのだが……自分が生み出したものからなんで襲われるのか。普通、制御とか出来そうなものだが。

「ふむふむ。言いたい事は分かるぞ、溢忌君。だがね、キミは自分のひねり出したウ○コを制御出来るのかね? 思うがまま操り、意思の疎通が出来るのかね? それが喋りだして、オッス、オラ、ウ○コ! とかフレンドリーな態度を取るのかね? 答えは否! 出来ないだろう」

 腕を組みながら偉そうに持論を展開。またウ○コの話か……。

「制御どころか、時にはその悪臭、そして油断すると付着するかもしれないという恐怖。これはすでに産みの親に対する反逆とはいえないかね? 生まれ落ちてすでに反逆者……なんと悲しきさがか」

 遠い目をしながら真面目な顔で語るが、やはり意味が分からない。
 そう思うだろ、と同意を求められたイルネージュは困り果てた顔をしている。
 


 そんなしょうもない会話を終え、次の村へと急ぐ。予想外の魔物とのエンカウントで予定より遅い到着になりそうだ。

願望者デザイアって、願望を具現化できるんスよね。車とかバイクとか出せないんスか」

 現代社会では、これほどの長距離を歩いたことはない。願望者デザイアの力のおかげで疲労や苦痛はないが、とにかく時間がかかるのにはストレスを感じる。

「難しいなあ。車っぽい形のモノはできるけど、実際に走るかどうか。この世界で力を発揮するには認識も必要……つまり、多くの人が知ってなきゃダメ。見ての通り、この世界の文明は現代社会より遥かに遅れているから……」

 シエラが説明し、イルネージュが納得したような声をあげた。

「ああ、それで銃とか兵器とか使える願望者デザイア見かけないんですね。わたし、いつかそんな人と戦うことになったらどうしようっ、て心配してたんです」

「うん、全然いないことはないけど、相当な願望の力を使うと思う。もし近代の武器や道具を使いこなせる願望者デザイアがいたら、かなりの使い手か、有名なヤツだと思ったほうがいいね」

 なるほど。願望の力を固定するには、この世界の多くの人から認識されることが必要だというわけか。
 たしかに車やら飛行機をこの世界の住人が知っているとは思えない。
 強さに関してはもう十分なので自分にはその認識はあまり必要ないと思うが、シエラはそれでも魔王に勝てないと言う。

「そういや魔王ってのは、どんなヤツなんスかね。やっぱ魔王城とかにいるんスか?」

「いや、実はよく分かってない……なんせ魔王と遭遇して生き残っている者はほとんどいないから。普段は地中に潜んでいて、腹へった時に街や村を一呑みにするって噂だ」

「いや、どんだけデカイんスか魔王。って、シエラ自身が知らないんスか? アンタから出てきたんスよね、魔王も」

「む? またそこか? 言っただろう、キミは己が苦痛の末ひねり出したモノを……」

「いやいやいや、分かったっス。スンマセン、俺が悪かったっス」

 またアレの話になりそうなので、強制的に会話を終わらせる。
 日が暮れはじめている。夜間はさらに魔物が活発に動き出すだろう。
 俺ひとりならなんの問題もないが、視界が限られている中でシエラとイルネージュを守りながら進むのは難しそうだ。

 しばらくすると辺りは暗闇に包まれる。運の悪いことに、今夜は雲に遮られ月明かりも乏しい。
 
 松明を持った俺が先頭に立ち、街道を進む。
 街が近いだけあって街道はよく整備されている。  
 松明の明かりでも十分に先へ延びる白い道すじをたどる事ができた。

 街道沿いの林ややぶから獣の動く音や鳥の鳴き声にイルネージュがいちいち反応。怯えた声を出すとシエラがうるせえ、と尻をバチンと叩いた。

 ここで俺は立ち止まる。後ろから近づいてくる音は……ガラガラと車輪の音。馬の鳴く声。これは──馬車か?

 シエラとイルネージュも気づいた。
 御者台から湾曲した金属棒が伸び、その先にランプがつけられている。

 灯りの下で二頭の馬がブルルと鳴き、俺たちの近くまで来ると馬車は止まった。

 御者はなんの変哲もない、使用人ふうの男。無表情でこちらを見下ろしている。頭の中ダダダダが無いのでやはり願望者デザイアではない。
 
 ガチャリ、と客車のドアが開き、タラップを踏みしめて降りてきたのは──。
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