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17 超越者
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翌朝──村より少し離れた場所を選び、俺と千景は対峙する。
俺の後ろで見守るのはシエラとイルネージュ。
「ああ、まさか千景さんがチートスキルの持ち主だったなんて……。どうにか戦わないでスキルを譲る方法、ないんですか?」
おろおろと心配しながら聞くイルネージュに対し、シエラはなぜかおかしな格好をしている。
ハゲ頭のヅラに、眼帯、ヒゲ、出っ歯。腹巻きに杖をつき、首にはタオルをかけている。
「ない。これは勇者の試練なのだ。しかし俺がセコンドにつくからにゃあ、大船に乗った気でいな、○ョー。いいか、まずは基本が大事だ。こう、抉り込むように打つべし」
シエラは身体を揺らしながらシュッ、シュッ、とイルネージュに向けてパンチを繰り出す。
イルネージュはやめてください~、と困り顔だ。
……まったく、誰が○ョーだ。あの駄女神、他人事だと思ってふざけているな。
千景は太刀を抜き放ち、すでに戦闘モードだ。
「前もって言っておくが、儂はわざと負けたり手加減したりと器用な事は出来ぬ。もしここでお主が死んだとしても、それまでの器だったというだけのこと」
おいおい、殺る気まんまんじゃないか。
振り返って、もう一度シエラを見る。
「ヤツに、○石に勝つにはクロスカウンターしかない。こう、相手の左ストレートに合わせてこちらの右ストレートをだな……おい、イルネージュ、もちっと腕を伸ばせ」
「は、はいぃ~」
ダメだ、なんらかの助言を期待した俺がバカだった。
「よそ見とは余裕よの、もう始まっとるぞ」
千景。すでに間合いに入っている。
横に薙いだ一撃をかろうじて盾で防ぐ。
次は打ち下ろし。これも盾で受けた。が、すぐに腹へ蹴りが飛んできた。
シエラとイルネージュのいる位置まで蹴り飛ばされた。ふたりはワッ、とそこから離れる。
電撃を帯びた脇差しが飛んできたのだ。
両手で受け止めた。バチバチバチィッ、と身体中が痺れる。
ボッ、と千景が突進。太刀の切っ先が迫る。
意識を集中──。ステータスウインドウを開き、状態異常回復のスキル。
動ける──切っ先が頬をかすめた。かわしながら距離を取り、右手を前に。五本の指にボボボ、と炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
しかし千景の太刀にズババと斬り裂かれた。
いや、斬られた瞬間の爆発に巻き込まれ、ダメージを受けている。
よし、このまま中間距離から火だるまにしてやる。
両手を突きだして、十指から炎弾をドドドドドド、と連続発射。
ドカドカドカアッ、と爆発。やったか……いや、ダメージを受けながらも……身体のあちこちを損傷しながらもズンズン歩いてくる。忘れていた。千景はチートスキル、超再生を持っていたのだ。これはどうやって倒せばいいのか。
走る千景。走りながら傷がみるみるうちに塞がっていく。
右腕を顔の前で振り、ガシャン、と鬼兜を装着。脇差しを拾い上げ、太刀の柄とくっつけて薙刀に。マズイ、大技がくる。
跳躍。両端に刃のついた薙刀をブブブブンッ、と振り回しながら落下──俺は剣を抜き、迎撃。
ズガアアンッッ、と落雷を伴う強烈な打ち下ろし。
俺の剣、そして俺の身体も真っ二つに。
「○ョーーッッ、! ああっ、俺の○ョーが真っ二つに……」
シエラの悲鳴。まだ言ってるのか。
そんなことに気を取られているヒマはない。
俺が真っ二つになったのを見て気絶したイルネージュを見て思いついた。千景を倒す方法。
ステータスウインドウを開く。属性付与のスキルで折れた剣に氷属性を付ける。
「むっ! お主、まだ動けるか」
そう、真っ二つになったかに見えた俺の身体は無事だ。足元には俺の代わりに割れた人形の木片。
折れた剣を突きだす。千景の脇腹に深く突き刺さったが、その傷は超再生により塞がりはじめる。
しかし──ビキビキッ、と傷口が凍結。同時に再生も阻止した。
ぐうっ、と膝をつく千景。
炎の灯った指先を頭に向ける。この至近距離で炎弾を喰らったら、再生もクソもないだろう。
「……さすがじゃ。儂の負けじゃ」
敗北を宣言した千景。その身体から光る球体が飛び出し、俺の胸あたりに吸い込まれた。
チートスキル、超再生を手に入れ、俺たち三人は街に向けて出発することにした。
「千景~、千景もついてくればいいのに。お前が来れば百人……いや、千人力なのにぃ」
シエラが千景の旅の同行を希望するが、千景は微笑みながら首を横に振る。
「いや、超級が出た以上、ここから離れるわけにはいかぬ。いざと言う時は勇者のチートスキル、門で呼び出せばよかろう。いつでも力を貸すぞ」
「いや、だからさあ。そのスキルも今は誰がもっているやら……」
不安な顔をしているシエラの頭を千景がわしゃわしゃと撫でる。
「儂がおらずとも、その勇者がいれば安心じゃ。経験を積み、チートスキルを順調に集めればひとりでも超級を倒すほどになろうて」
俺の後ろで見守るのはシエラとイルネージュ。
「ああ、まさか千景さんがチートスキルの持ち主だったなんて……。どうにか戦わないでスキルを譲る方法、ないんですか?」
おろおろと心配しながら聞くイルネージュに対し、シエラはなぜかおかしな格好をしている。
ハゲ頭のヅラに、眼帯、ヒゲ、出っ歯。腹巻きに杖をつき、首にはタオルをかけている。
「ない。これは勇者の試練なのだ。しかし俺がセコンドにつくからにゃあ、大船に乗った気でいな、○ョー。いいか、まずは基本が大事だ。こう、抉り込むように打つべし」
シエラは身体を揺らしながらシュッ、シュッ、とイルネージュに向けてパンチを繰り出す。
イルネージュはやめてください~、と困り顔だ。
……まったく、誰が○ョーだ。あの駄女神、他人事だと思ってふざけているな。
千景は太刀を抜き放ち、すでに戦闘モードだ。
「前もって言っておくが、儂はわざと負けたり手加減したりと器用な事は出来ぬ。もしここでお主が死んだとしても、それまでの器だったというだけのこと」
おいおい、殺る気まんまんじゃないか。
振り返って、もう一度シエラを見る。
「ヤツに、○石に勝つにはクロスカウンターしかない。こう、相手の左ストレートに合わせてこちらの右ストレートをだな……おい、イルネージュ、もちっと腕を伸ばせ」
「は、はいぃ~」
ダメだ、なんらかの助言を期待した俺がバカだった。
「よそ見とは余裕よの、もう始まっとるぞ」
千景。すでに間合いに入っている。
横に薙いだ一撃をかろうじて盾で防ぐ。
次は打ち下ろし。これも盾で受けた。が、すぐに腹へ蹴りが飛んできた。
シエラとイルネージュのいる位置まで蹴り飛ばされた。ふたりはワッ、とそこから離れる。
電撃を帯びた脇差しが飛んできたのだ。
両手で受け止めた。バチバチバチィッ、と身体中が痺れる。
ボッ、と千景が突進。太刀の切っ先が迫る。
意識を集中──。ステータスウインドウを開き、状態異常回復のスキル。
動ける──切っ先が頬をかすめた。かわしながら距離を取り、右手を前に。五本の指にボボボ、と炎が灯る。
ドドドンッ、と炎弾を発射。
しかし千景の太刀にズババと斬り裂かれた。
いや、斬られた瞬間の爆発に巻き込まれ、ダメージを受けている。
よし、このまま中間距離から火だるまにしてやる。
両手を突きだして、十指から炎弾をドドドドドド、と連続発射。
ドカドカドカアッ、と爆発。やったか……いや、ダメージを受けながらも……身体のあちこちを損傷しながらもズンズン歩いてくる。忘れていた。千景はチートスキル、超再生を持っていたのだ。これはどうやって倒せばいいのか。
走る千景。走りながら傷がみるみるうちに塞がっていく。
右腕を顔の前で振り、ガシャン、と鬼兜を装着。脇差しを拾い上げ、太刀の柄とくっつけて薙刀に。マズイ、大技がくる。
跳躍。両端に刃のついた薙刀をブブブブンッ、と振り回しながら落下──俺は剣を抜き、迎撃。
ズガアアンッッ、と落雷を伴う強烈な打ち下ろし。
俺の剣、そして俺の身体も真っ二つに。
「○ョーーッッ、! ああっ、俺の○ョーが真っ二つに……」
シエラの悲鳴。まだ言ってるのか。
そんなことに気を取られているヒマはない。
俺が真っ二つになったのを見て気絶したイルネージュを見て思いついた。千景を倒す方法。
ステータスウインドウを開く。属性付与のスキルで折れた剣に氷属性を付ける。
「むっ! お主、まだ動けるか」
そう、真っ二つになったかに見えた俺の身体は無事だ。足元には俺の代わりに割れた人形の木片。
折れた剣を突きだす。千景の脇腹に深く突き刺さったが、その傷は超再生により塞がりはじめる。
しかし──ビキビキッ、と傷口が凍結。同時に再生も阻止した。
ぐうっ、と膝をつく千景。
炎の灯った指先を頭に向ける。この至近距離で炎弾を喰らったら、再生もクソもないだろう。
「……さすがじゃ。儂の負けじゃ」
敗北を宣言した千景。その身体から光る球体が飛び出し、俺の胸あたりに吸い込まれた。
チートスキル、超再生を手に入れ、俺たち三人は街に向けて出発することにした。
「千景~、千景もついてくればいいのに。お前が来れば百人……いや、千人力なのにぃ」
シエラが千景の旅の同行を希望するが、千景は微笑みながら首を横に振る。
「いや、超級が出た以上、ここから離れるわけにはいかぬ。いざと言う時は勇者のチートスキル、門で呼び出せばよかろう。いつでも力を貸すぞ」
「いや、だからさあ。そのスキルも今は誰がもっているやら……」
不安な顔をしているシエラの頭を千景がわしゃわしゃと撫でる。
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#ヒラ俺
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今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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