異世界の餓狼系男子

みくもっち

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18 街の紹介所

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 イルネージュが来たという街までは千景の馬車を使ったので、昼までには到着した。

 馬車とはここで別れる。
 異世界ではじめての本格的な街。
 
 最初の村やフェンリルに襲われた村とは比較にならないほど人が多い。話によると、このルエラブルという国でも領都に次ぐ大きさの街らしい。

 村でほとんどが農夫だったが、街では商人や職人、旅人や傭兵など、数多くの職種の人とすれ違った。

「わたしがこの異世界に来てからはじめて来た街なんですよ」

 イルネージュが先頭に立ち、街を案内。
 さっそく仕事をもらったという街の紹介所
へ。
 ギルド等に所属していないフリーの願望者デザイアは、こうした街の紹介所から魔物討伐や用心棒といった仕事を受けるようだ。
 イルネージュのような新人で、ひとりでも受けられるような難易度の低いものが多いらしい。

「ここなら、多くの願望者デザイアが訪れているはずです。チートスキルを持っている人の情報を得られるかも」

 商店と商店の間に挟まった、人がひとりやっと入れるような簡易的な建物。
 受付の窓から五十代くらいのおっさんが何か書類に書いているのが見えた。堅苦しい雰囲気に真面目そうな顔。事務員なのだろうか。

「す、すいません~」

 オドオドしながらイルネージュが声をかける。俺とシエラは少し離れたところからその様子を見ていた。
 中の事務員はチラとイルネージュを見たが、再び視線を落とし、作業を続ける。

「……えっと、忙しそうですね」

 イルネージュがこちらに戻ってきた。
 しばらく待ち、事務員の作業が終わったのを見計らってイルネージュは再び受付へ。

 しかし、違う願望者デザイアがパッ、と先に受付へ。
 あうあう、とイルネージュが戻ってくる。

 またしばらく待つ。 
 受付を終えた願望者デザイアが去ったのを見計らい、今度は駆け足で近づくイルネージュ。

 しかし、バタン、と受付の小窓が突然閉められた。表の札には休憩の二文字。

「くらああぁぁーーっっ! ふざけんなゴラアァァーーッッ! ○○引っこ抜くぞ、ワレエェェーッ!」

 シエラがブチキレた。まあ、もったほうだろう。
 
「いつきぃっ! やってまうぞ!」

「え? いいんスか」

「かまわんっ、やれいっ!」

 こんな時は勇者らしい振る舞いしなくていいんだ、と思いつつ、俺は受付の窓の扉を拳でブチ壊した。
 そして中から事務員を引きずり出す。

「あっ、ああっ! ダメですよ、そんな乱暴なこと」

 イルネージュが慌てて止めようとするが、もう遅い。 
 地面の上でへたばっている事務員の上でシエラは何度も飛び跳ねている。バインバイン、と。

「ナメんなっ、《女神》ナメんなよっ! このっ、このっ」

「うぐっ、ぶはっ! ま、待て、わかった。すまなかった。忙しくてイライラしてたんだ。よ、用件を聞こうじゃないか」

 降参した事務員に、願望者デザイアの情報を聞き出す。最近仕事を請け負った願望者で、変わった能力を持った者がいなかったか。

「あ、ああ。そういえば、昨日だったか……。突然、すごい能力を身に付けたと言っていた願望者デザイアが来たな」

 そいつが怪しい、と名前と特徴、請け負った仕事を聞き出そうとする。

「そ、それはダメだ。紹介所には守秘義務がある。依頼人と依頼内容、請負人の詳しい情報は話せない」

「溢忌、やれ」

 シエラが冷たく見下ろしながら言った。
 はいはい、と俺は事務員の襟首を掴んで持ち上げ、もう片方の手に電撃をほとばしらせる。

 バチバチと青白く発光する俺の手を見て、事務員はすぐに喋りだした。
 ルールには厳格そうなのに、やけに簡単に喋るんだな。
 



 その願望者デザイアはこの街の中での仕事を請け負ったらしい。それなら都合がいい。すぐに見つかりそうだ。

 仕事の内容は──とある取引に立ち会うだけというものだった。いわゆる護衛というか、用心棒だろう。
 取引の日は今日。約束の時刻は約一時間後。場所はそう遠くない。

「よし、現場に先回りして待ち伏せしよう」

 シエラの提案に俺とイルネージュは頷く。
 
 現場は街のはずれにある資材倉庫。
 幸い、鍵はかかっていなかった。

 建築作業に使う木材が積まれている。その陰に隠れて願望者デザイアが来るのを待つ。

 しばらくすると扉がガガガガ、と開いた。
 そしてゾロゾロと十人ぐらいの男たちが入ってくる。格好はいずれも黒やグレーのジャケット。全然異世界っぽくない……む、先頭にいるのは女性だった。しかも若い。十九ぐらいか?

 俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《黒蜂》《凶女帝》李秀雅イ・スア

 小柄な身体。白いシャツの上に黒のジャケット。ゆるいウェーブのかかった茶髪のボブカット。下唇の左側にリングピアス。

 ちょっと怖そうな感じだが、かなりの美人だ。
 つい見とれていると、シエラが怯えたような小声でつぶやく。

「や、やべえ、クロハチだ。なんでこんな所に……まさか、取引の相手ってアイツか」
 
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