異世界の餓狼系男子

みくもっち

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「知ってるんスか?」

 気づかれないよう、小声で聞く。シエラはこくこくと頷いた。

「前の活動期のときはまだ新米の願望者デザイアだったんだけどさ、あっという間に頭角を現して裏社会では知らない程の有名人。超越者リミットブレイカーになってるし、こりゃ相当な力を付けてると見たね」

「その超越者リミットブレイカーって、なんなんスか」

「言ってなかったっけ。世間的にはあんま知られてないけど、千景みたいに複数の二つ名を持つ願望者デザイアのこと。限界を超えた願望の力を発揮できるんだ。その力の差はスーパー○イヤ人とスーパー○イヤ人3ぐらいあるんだよ」

「あれ、シエラも複数の二つ名持ってるっスよね。だけど全然強くないっスけど……」

「バカ、お前バカ。シエラはね、勇者を強くする為の祝福に力が全振りされてんの。いわばお前のせいなの。今はカワイイだけの、か弱い美少女なの」

「あっ、また誰か入ってきましたよ。静かに……」 
 
 イルネージュが緊張した声を出す。
 新たに入り口から入って来たのは、二人組の男。

 先頭の小太りの男。その後ろから付いてくる筋肉男を見て、頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《朱の拳士》カルロス。
 
 真っ赤な武道着の、いかにも格闘家っぽい願望者デザイア。間違いない。紹介所で聞き出したヤツだ。
 
 ふたりはジャケットの集団に近づき、何やら話しかけている。
 ここからでは内容は聞き取れない──が、地獄耳のシエラには分かるようだ。

「ふむふむ、なんかヤバいブツの取引らしいな。あのカルロス、よくこんな危なそうな依頼受けたな」

 ジャケットの集団の中央にいる、《黒蜂》李秀雅イ・スアが左手を軽く上げた。
 ジャケットの男数人がいくつかの木箱を持ってきて中を開ける。

 小太りの男が中身を確認し、取り出した。
 あれは……剣か。もうひとつの箱には短めの槍。
 小太りの男はそれらを丹念に眺めつつ、カルロスにも手渡す。 
 武器を受け取ったカルロスは試すように振り回し、頷いた。

 一通り確認が終わったのか、小太りの男は満足したようにガハハ、と笑い、イ・スアに話かけている。

「ふむふむ、あの武器は願望者デザイアが能力で造ったモノらしいな。願望者デザイアが造った武器は強力かつ制御が難しい。危険でしかも紛争の原因になるから、どこの国でも取引は禁止されてるんだ」

 今日はそのサンプルの確認。実際に願望者デザイアのカルロスにも触れさせ、出来を見たようだ。
 これらの武器を大量生産する契約。それがこの小太りの男の目的のようだ。

 小太りの男が命じ、カルロスが重そうな二つの革袋をイ・スアの目の前まで運ぶ。

「むむ、あれは前金だな。大量生産が終えたら残りの金を払うようだな……あれ、なんか様子がおかしいな」

「ん、どうしたんスか?」

 シエラがダラダラと汗をかきだした。
 あ、小太りの男が何やら騒ぎだした。ここまではっきりと声が聞こえる。俺は知らない、と叫んでいるようだ。

「護衛を含めて人数はふたりだけの約束なのに、それを破ったって……取引はナシだって、クロハチが……」

「え……それって、俺たちが隠れているのバレてるってことっスか」

「やべえ、こっち見てるよ、クロハチが。に、逃げなきゃ」

「え、無理ですう、押さないで。出口はあそこしかないんですよ」

 倉庫のさらに奥へ行こうとイルネージュを押し退けるシエラ。しかし、ガアァーーンッ、と倉庫内に響く音。
 そして女の金切り声。

「そこにいるネズミどもっ! 殺されたくなかったら出てこいっっ!」
 
 もう一度、ガアァーーンッ、と響く音。
 あのイ・スアとかいう女……銃を持っている。この世界じゃ、銃を使えるヤツはごく一部じゃなかったのか。

「だ、ダメだ。出ていっても殺される。あのクロハチに目をつけられたら、もう……」

「まあ、落ち着くっス。そもそも俺たちの目的はあのカルロスなんスよ。わけを話せば、いきなり危害を加えたりしないっスよ」

 俺は資材の陰から両手を上げて出る。途端──ダダダンッ、と胸に衝撃。そのまま仰向けにブッ倒れた。

「溢忌さんっ!」

 駆け寄るイルネージュ。倒れている俺に、かばうように覆い被さる。ダメだ、危険だ。

 だが、イ・スアの銃口はこちらではなく、小太りの男に向けられた。

「ま、待てっ! あんなヤツら、知らんぞ! 俺は約束通りふたりだけで来た! つーか、俺にそんなモン向けてタダで済むと思ってんのか!」
 
 小太りの男は慌てながらも怒りの声をあげた。
 イ・スアは知るかよ、と引き金を引く。
 バァンッ、と発砲音。しかし──その銃弾は天井へ。

「テメェッ……!」

 いつの間にかカルロスが懐に潜り込み、イ・スアの左腕をねじ上げていた。

 瞬時の攻防──ゴゴガッ、と衝撃音。
 イ・スアの拳銃は弾き飛ばされ、床をすべる。カルロスは数発の打撃を受け、バッと飛び退いた。
 ザザザッ、とジャケットの集団が取り囲む。カルロスは不敵な笑みを浮かべ──消えた。
 ゴッ、ゴゴッ、ドンッ。
 一瞬の出来事。ジャケットの集団は宙を浮いていた。
 
 消えたと思ったカルロスの姿が、少し離れた場所に現れた。
 ドドドッ、と一斉に床に叩きつけられるジャケットの集団。呻き声をあげ、立ち上がる事が出来ない。
 
「あ、あれは……」

 シエラも俺のほうに駆け寄る。そしてカルロスを指差して言った。

「アイツのチートスキルは、超加速アクセルだ!」

    
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