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19 取引
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「知ってるんスか?」
気づかれないよう、小声で聞く。シエラはこくこくと頷いた。
「前の活動期のときはまだ新米の願望者だったんだけどさ、あっという間に頭角を現して裏社会では知らない程の有名人。超越者になってるし、こりゃ相当な力を付けてると見たね」
「その超越者って、なんなんスか」
「言ってなかったっけ。世間的にはあんま知られてないけど、千景みたいに複数の二つ名を持つ願望者のこと。限界を超えた願望の力を発揮できるんだ。その力の差はスーパー○イヤ人とスーパー○イヤ人3ぐらいあるんだよ」
「あれ、シエラも複数の二つ名持ってるっスよね。だけど全然強くないっスけど……」
「バカ、お前バカ。シエラはね、勇者を強くする為の祝福に力が全振りされてんの。いわばお前のせいなの。今はカワイイだけの、か弱い美少女なの」
「あっ、また誰か入ってきましたよ。静かに……」
イルネージュが緊張した声を出す。
新たに入り口から入って来たのは、二人組の男。
先頭の小太りの男。その後ろから付いてくる筋肉男を見て、頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《朱の拳士》カルロス。
真っ赤な武道着の、いかにも格闘家っぽい願望者。間違いない。紹介所で聞き出したヤツだ。
ふたりはジャケットの集団に近づき、何やら話しかけている。
ここからでは内容は聞き取れない──が、地獄耳のシエラには分かるようだ。
「ふむふむ、なんかヤバいブツの取引らしいな。あのカルロス、よくこんな危なそうな依頼受けたな」
ジャケットの集団の中央にいる、《黒蜂》李秀雅が左手を軽く上げた。
ジャケットの男数人がいくつかの木箱を持ってきて中を開ける。
小太りの男が中身を確認し、取り出した。
あれは……剣か。もうひとつの箱には短めの槍。
小太りの男はそれらを丹念に眺めつつ、カルロスにも手渡す。
武器を受け取ったカルロスは試すように振り回し、頷いた。
一通り確認が終わったのか、小太りの男は満足したようにガハハ、と笑い、イ・スアに話かけている。
「ふむふむ、あの武器は願望者が能力で造ったモノらしいな。願望者が造った武器は強力かつ制御が難しい。危険でしかも紛争の原因になるから、どこの国でも取引は禁止されてるんだ」
今日はそのサンプルの確認。実際に願望者のカルロスにも触れさせ、出来を見たようだ。
これらの武器を大量生産する契約。それがこの小太りの男の目的のようだ。
小太りの男が命じ、カルロスが重そうな二つの革袋をイ・スアの目の前まで運ぶ。
「むむ、あれは前金だな。大量生産が終えたら残りの金を払うようだな……あれ、なんか様子がおかしいな」
「ん、どうしたんスか?」
シエラがダラダラと汗をかきだした。
あ、小太りの男が何やら騒ぎだした。ここまではっきりと声が聞こえる。俺は知らない、と叫んでいるようだ。
「護衛を含めて人数はふたりだけの約束なのに、それを破ったって……取引はナシだって、クロハチが……」
「え……それって、俺たちが隠れているのバレてるってことっスか」
「やべえ、こっち見てるよ、クロハチが。に、逃げなきゃ」
「え、無理ですう、押さないで。出口はあそこしかないんですよ」
倉庫のさらに奥へ行こうとイルネージュを押し退けるシエラ。しかし、ガアァーーンッ、と倉庫内に響く音。
そして女の金切り声。
「そこにいるネズミどもっ! 殺されたくなかったら出てこいっっ!」
もう一度、ガアァーーンッ、と響く音。
あのイ・スアとかいう女……銃を持っている。この世界じゃ、銃を使えるヤツはごく一部じゃなかったのか。
「だ、ダメだ。出ていっても殺される。あのクロハチに目をつけられたら、もう……」
「まあ、落ち着くっス。そもそも俺たちの目的はあのカルロスなんスよ。わけを話せば、いきなり危害を加えたりしないっスよ」
俺は資材の陰から両手を上げて出る。途端──ダダダンッ、と胸に衝撃。そのまま仰向けにブッ倒れた。
「溢忌さんっ!」
駆け寄るイルネージュ。倒れている俺に、かばうように覆い被さる。ダメだ、危険だ。
だが、イ・スアの銃口はこちらではなく、小太りの男に向けられた。
「ま、待てっ! あんなヤツら、知らんぞ! 俺は約束通りふたりだけで来た! つーか、俺にそんなモン向けてタダで済むと思ってんのか!」
小太りの男は慌てながらも怒りの声をあげた。
イ・スアは知るかよ、と引き金を引く。
バァンッ、と発砲音。しかし──その銃弾は天井へ。
「テメェッ……!」
いつの間にかカルロスが懐に潜り込み、イ・スアの左腕をねじ上げていた。
瞬時の攻防──ゴゴガッ、と衝撃音。
イ・スアの拳銃は弾き飛ばされ、床をすべる。カルロスは数発の打撃を受け、バッと飛び退いた。
ザザザッ、とジャケットの集団が取り囲む。カルロスは不敵な笑みを浮かべ──消えた。
ゴッ、ゴゴッ、ドンッ。
一瞬の出来事。ジャケットの集団は宙を浮いていた。
消えたと思ったカルロスの姿が、少し離れた場所に現れた。
ドドドッ、と一斉に床に叩きつけられるジャケットの集団。呻き声をあげ、立ち上がる事が出来ない。
「あ、あれは……」
シエラも俺のほうに駆け寄る。そしてカルロスを指差して言った。
「アイツのチートスキルは、超加速だ!」
気づかれないよう、小声で聞く。シエラはこくこくと頷いた。
「前の活動期のときはまだ新米の願望者だったんだけどさ、あっという間に頭角を現して裏社会では知らない程の有名人。超越者になってるし、こりゃ相当な力を付けてると見たね」
「その超越者って、なんなんスか」
「言ってなかったっけ。世間的にはあんま知られてないけど、千景みたいに複数の二つ名を持つ願望者のこと。限界を超えた願望の力を発揮できるんだ。その力の差はスーパー○イヤ人とスーパー○イヤ人3ぐらいあるんだよ」
「あれ、シエラも複数の二つ名持ってるっスよね。だけど全然強くないっスけど……」
「バカ、お前バカ。シエラはね、勇者を強くする為の祝福に力が全振りされてんの。いわばお前のせいなの。今はカワイイだけの、か弱い美少女なの」
「あっ、また誰か入ってきましたよ。静かに……」
イルネージュが緊張した声を出す。
新たに入り口から入って来たのは、二人組の男。
先頭の小太りの男。その後ろから付いてくる筋肉男を見て、頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《朱の拳士》カルロス。
真っ赤な武道着の、いかにも格闘家っぽい願望者。間違いない。紹介所で聞き出したヤツだ。
ふたりはジャケットの集団に近づき、何やら話しかけている。
ここからでは内容は聞き取れない──が、地獄耳のシエラには分かるようだ。
「ふむふむ、なんかヤバいブツの取引らしいな。あのカルロス、よくこんな危なそうな依頼受けたな」
ジャケットの集団の中央にいる、《黒蜂》李秀雅が左手を軽く上げた。
ジャケットの男数人がいくつかの木箱を持ってきて中を開ける。
小太りの男が中身を確認し、取り出した。
あれは……剣か。もうひとつの箱には短めの槍。
小太りの男はそれらを丹念に眺めつつ、カルロスにも手渡す。
武器を受け取ったカルロスは試すように振り回し、頷いた。
一通り確認が終わったのか、小太りの男は満足したようにガハハ、と笑い、イ・スアに話かけている。
「ふむふむ、あの武器は願望者が能力で造ったモノらしいな。願望者が造った武器は強力かつ制御が難しい。危険でしかも紛争の原因になるから、どこの国でも取引は禁止されてるんだ」
今日はそのサンプルの確認。実際に願望者のカルロスにも触れさせ、出来を見たようだ。
これらの武器を大量生産する契約。それがこの小太りの男の目的のようだ。
小太りの男が命じ、カルロスが重そうな二つの革袋をイ・スアの目の前まで運ぶ。
「むむ、あれは前金だな。大量生産が終えたら残りの金を払うようだな……あれ、なんか様子がおかしいな」
「ん、どうしたんスか?」
シエラがダラダラと汗をかきだした。
あ、小太りの男が何やら騒ぎだした。ここまではっきりと声が聞こえる。俺は知らない、と叫んでいるようだ。
「護衛を含めて人数はふたりだけの約束なのに、それを破ったって……取引はナシだって、クロハチが……」
「え……それって、俺たちが隠れているのバレてるってことっスか」
「やべえ、こっち見てるよ、クロハチが。に、逃げなきゃ」
「え、無理ですう、押さないで。出口はあそこしかないんですよ」
倉庫のさらに奥へ行こうとイルネージュを押し退けるシエラ。しかし、ガアァーーンッ、と倉庫内に響く音。
そして女の金切り声。
「そこにいるネズミどもっ! 殺されたくなかったら出てこいっっ!」
もう一度、ガアァーーンッ、と響く音。
あのイ・スアとかいう女……銃を持っている。この世界じゃ、銃を使えるヤツはごく一部じゃなかったのか。
「だ、ダメだ。出ていっても殺される。あのクロハチに目をつけられたら、もう……」
「まあ、落ち着くっス。そもそも俺たちの目的はあのカルロスなんスよ。わけを話せば、いきなり危害を加えたりしないっスよ」
俺は資材の陰から両手を上げて出る。途端──ダダダンッ、と胸に衝撃。そのまま仰向けにブッ倒れた。
「溢忌さんっ!」
駆け寄るイルネージュ。倒れている俺に、かばうように覆い被さる。ダメだ、危険だ。
だが、イ・スアの銃口はこちらではなく、小太りの男に向けられた。
「ま、待てっ! あんなヤツら、知らんぞ! 俺は約束通りふたりだけで来た! つーか、俺にそんなモン向けてタダで済むと思ってんのか!」
小太りの男は慌てながらも怒りの声をあげた。
イ・スアは知るかよ、と引き金を引く。
バァンッ、と発砲音。しかし──その銃弾は天井へ。
「テメェッ……!」
いつの間にかカルロスが懐に潜り込み、イ・スアの左腕をねじ上げていた。
瞬時の攻防──ゴゴガッ、と衝撃音。
イ・スアの拳銃は弾き飛ばされ、床をすべる。カルロスは数発の打撃を受け、バッと飛び退いた。
ザザザッ、とジャケットの集団が取り囲む。カルロスは不敵な笑みを浮かべ──消えた。
ゴッ、ゴゴッ、ドンッ。
一瞬の出来事。ジャケットの集団は宙を浮いていた。
消えたと思ったカルロスの姿が、少し離れた場所に現れた。
ドドドッ、と一斉に床に叩きつけられるジャケットの集団。呻き声をあげ、立ち上がる事が出来ない。
「あ、あれは……」
シエラも俺のほうに駆け寄る。そしてカルロスを指差して言った。
「アイツのチートスキルは、超加速だ!」
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