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22 廃城にて
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この街からセペノイアまでは馬車でも十日ほどかかるらしい。しかも国境を越えるから、関所なんかでなんだかんだと手続きを踏まなければならないようだ。
そんな細やかな事がこの《女神》に可能なのだろうか?
俺が不安そうな眼差しを向けると、シエラは負けずに下からガンつけてくる。
「おいおい、まさかこの《女神》の知識を侮ってるんじゃないだろうね。前回の活動期には世界中を回ってるんだよ、シエラは。眠っていた期間も睡眠学習よろしく世界のあらゆる事象がアップデートされておるのだ。なにせ、この世界はシエラが造ったのだから」
「スゴいっ! シエラさん、尊敬しますっ!」
あまりその駄女神を褒めるな、イルネージュ。ほら、調子に乗ってマラカスを取り出したぞ。
シャッ、シャッ、とマラカスを振り、歌い出したので慌てて脇に抱えて街の馬車屋まで。街中であんな歌声とダンスは恥ずかしすぎる。
そこから無事に馬車で街を出ることが出来た。
二日ほどかけてまずは国境へ。関所での手続きは雇った馬車の御者が代行してくれた。
夜営なんかでも魔物に襲われにくい場所を知っており、どこぞの《女神》と違って頼りになる存在だ。
ここからセペノイアへはどこの国にも属していない荒野地帯を抜けなければいけないようだ。
途中、ある程度の魔物の襲撃はあったが、難なく撃退。
特に問題なくあと一日ほどで街に到着すると御者は笑顔で語った。
「いや、あなた方のような強い方々が一緒だと助かります。本来、このルートは五、六人以上の護衛が必要なんですよ」
御者の男。名はマテオという、人の良さそうな若い男だ。ニコニコ笑いながら、最後の夜営地へと馬車を進める。
「ほら、あそこに見える廃城。見晴らしもいいし、安全ですよ」
なるほど、たしかにあそこなら魔物や野盗の接近にも早く気づくことができる。
崩れた城壁の間から入る。屋根が残っている広間で荷物を下ろした。
「もとは大きな城だったんですね。どうしてこんなに破壊されてしまったんでしょう……」
イルネージュが周りを見渡しながら疑問を口にする。これにはシエラが答えた。
「うん……以前は立派な城で、この辺りも緑豊かな土地だったんだ。だけどだいぶ前に現れた超級魔物のせいで城は崩壊。魔物は倒したけど、その障気のせいで土地も荒れ果ててしまったんだ」
「へえ……超級って、村で戦ったバカでかい狼みたいなヤツっスよね。あんなんがまだいるんスか」
「この世界の終末に現れるという超級魔物……普通の魔物と違って純粋に破壊や殺戮が行動原理。本当の終焉の時は、あの超級が世界にあふれかえるって噂だ」
「う~ん。そうなったら、もう手遅れっスね。どうしようもないっス」
「だから、そうならないようにシエラが周期的に目覚めて勇者を導いてるの! 何度も説明させんなっ、バカ溢忌」
なぜか怒られてしまった……。
少し早いが、この屋根のある広間に夜営の準備をはじめる。
ほとんどはマテオが手際よく準備してくれた。さすがに旅慣れている。
夕食の用意も手伝ってくれた。これは本当に助かる。願望を実現できる願望者でも空腹はどうにもならないようだ。
簡易的な保存食でも飢えはしのげるが、やはりここは温かい料理が食べたい。
俺は料理なんかできないし、イルネージュは基本ドジッ娘だ。鍋とかひっくり返すに決まっている。シエラは……言わずとも分かるだろう。
ここでシエラが俺を睨みつける。
「ん、なんか今、悪口言われた気がした。ニュー○イプとしてのシエラがキロリロリーンと感知したぞ!」
暴虐の《女神》が両手をクロスさせ、俺に飛びかかってくる。
俺はひらりとかわし、後ろにいたイルネージュがあう~、と被害にあった。
陰口だけじゃなく、思っただけでも分かるのか……変なところだけ能力が特化している。
「あ、暴れたら危ないですよ。ほら、みなさんの分は用意できましたから」
マテオが鍋から肉と野菜の入ったスープを椀によそい、皆に配る。
──美味い。素朴な味つけだが、かえって素材の味が引き出されているようだ。
あっという間に平らげ、おかわりする。シエラとイルネージュも喜び、同じようにおかわりした。
食事と後片付けを終えた後、しばらく焚き火を囲んで歓談。
そろそろ寝ようかという時、今までの夜営の時と同じくマテオが最初に見張りに立つと言い出した。
「すまないな、いつも……むにゃむにゃ。大儀である」
「ああ……シエラさん、こんな所で寝たら風邪を引いてしまいますよ。ほら、あそこに毛布がありますから。ううん……今日は疲れたのかな? わたしもすごく眠い」
そこら辺の地べたで寝そべっているシエラをイルネージュがなんとか寝床まで引きずっていく。
毛布にくるまると、ふたり仲良く即座に寝てしまった。
「長旅でだいぶお疲れのようですね。見張りの交代まで、溢忌さんもゆっくり休んでください」
マテオの言葉におれは頷き、立ち上がろうとして──ひっくり返った。
なんだ? 目眩? 立ち眩み? 上から覗き込むマテオの顔がぐにゃあ、と変形する。幻覚か、これは。
変形したままの顔でマテオが口の端を吊り上げて笑った。
「悪く思わねえでくださいよ、溢忌の旦那。こっちも商売なんでね」
そんな細やかな事がこの《女神》に可能なのだろうか?
俺が不安そうな眼差しを向けると、シエラは負けずに下からガンつけてくる。
「おいおい、まさかこの《女神》の知識を侮ってるんじゃないだろうね。前回の活動期には世界中を回ってるんだよ、シエラは。眠っていた期間も睡眠学習よろしく世界のあらゆる事象がアップデートされておるのだ。なにせ、この世界はシエラが造ったのだから」
「スゴいっ! シエラさん、尊敬しますっ!」
あまりその駄女神を褒めるな、イルネージュ。ほら、調子に乗ってマラカスを取り出したぞ。
シャッ、シャッ、とマラカスを振り、歌い出したので慌てて脇に抱えて街の馬車屋まで。街中であんな歌声とダンスは恥ずかしすぎる。
そこから無事に馬車で街を出ることが出来た。
二日ほどかけてまずは国境へ。関所での手続きは雇った馬車の御者が代行してくれた。
夜営なんかでも魔物に襲われにくい場所を知っており、どこぞの《女神》と違って頼りになる存在だ。
ここからセペノイアへはどこの国にも属していない荒野地帯を抜けなければいけないようだ。
途中、ある程度の魔物の襲撃はあったが、難なく撃退。
特に問題なくあと一日ほどで街に到着すると御者は笑顔で語った。
「いや、あなた方のような強い方々が一緒だと助かります。本来、このルートは五、六人以上の護衛が必要なんですよ」
御者の男。名はマテオという、人の良さそうな若い男だ。ニコニコ笑いながら、最後の夜営地へと馬車を進める。
「ほら、あそこに見える廃城。見晴らしもいいし、安全ですよ」
なるほど、たしかにあそこなら魔物や野盗の接近にも早く気づくことができる。
崩れた城壁の間から入る。屋根が残っている広間で荷物を下ろした。
「もとは大きな城だったんですね。どうしてこんなに破壊されてしまったんでしょう……」
イルネージュが周りを見渡しながら疑問を口にする。これにはシエラが答えた。
「うん……以前は立派な城で、この辺りも緑豊かな土地だったんだ。だけどだいぶ前に現れた超級魔物のせいで城は崩壊。魔物は倒したけど、その障気のせいで土地も荒れ果ててしまったんだ」
「へえ……超級って、村で戦ったバカでかい狼みたいなヤツっスよね。あんなんがまだいるんスか」
「この世界の終末に現れるという超級魔物……普通の魔物と違って純粋に破壊や殺戮が行動原理。本当の終焉の時は、あの超級が世界にあふれかえるって噂だ」
「う~ん。そうなったら、もう手遅れっスね。どうしようもないっス」
「だから、そうならないようにシエラが周期的に目覚めて勇者を導いてるの! 何度も説明させんなっ、バカ溢忌」
なぜか怒られてしまった……。
少し早いが、この屋根のある広間に夜営の準備をはじめる。
ほとんどはマテオが手際よく準備してくれた。さすがに旅慣れている。
夕食の用意も手伝ってくれた。これは本当に助かる。願望を実現できる願望者でも空腹はどうにもならないようだ。
簡易的な保存食でも飢えはしのげるが、やはりここは温かい料理が食べたい。
俺は料理なんかできないし、イルネージュは基本ドジッ娘だ。鍋とかひっくり返すに決まっている。シエラは……言わずとも分かるだろう。
ここでシエラが俺を睨みつける。
「ん、なんか今、悪口言われた気がした。ニュー○イプとしてのシエラがキロリロリーンと感知したぞ!」
暴虐の《女神》が両手をクロスさせ、俺に飛びかかってくる。
俺はひらりとかわし、後ろにいたイルネージュがあう~、と被害にあった。
陰口だけじゃなく、思っただけでも分かるのか……変なところだけ能力が特化している。
「あ、暴れたら危ないですよ。ほら、みなさんの分は用意できましたから」
マテオが鍋から肉と野菜の入ったスープを椀によそい、皆に配る。
──美味い。素朴な味つけだが、かえって素材の味が引き出されているようだ。
あっという間に平らげ、おかわりする。シエラとイルネージュも喜び、同じようにおかわりした。
食事と後片付けを終えた後、しばらく焚き火を囲んで歓談。
そろそろ寝ようかという時、今までの夜営の時と同じくマテオが最初に見張りに立つと言い出した。
「すまないな、いつも……むにゃむにゃ。大儀である」
「ああ……シエラさん、こんな所で寝たら風邪を引いてしまいますよ。ほら、あそこに毛布がありますから。ううん……今日は疲れたのかな? わたしもすごく眠い」
そこら辺の地べたで寝そべっているシエラをイルネージュがなんとか寝床まで引きずっていく。
毛布にくるまると、ふたり仲良く即座に寝てしまった。
「長旅でだいぶお疲れのようですね。見張りの交代まで、溢忌さんもゆっくり休んでください」
マテオの言葉におれは頷き、立ち上がろうとして──ひっくり返った。
なんだ? 目眩? 立ち眩み? 上から覗き込むマテオの顔がぐにゃあ、と変形する。幻覚か、これは。
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