異世界の餓狼系男子

みくもっち

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25 紅玉の殲滅者

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 セペノイアの街。とにかく荷馬車や徒歩の行商人の行き交いが多い。

 大通りの両脇にはオシャレな内装の店や、いかにも老舗の古めかしい造りの店などが一緒に並んでいる。
 店と店の間の道にも大小の屋台やら道端にゴザを広げて商品を並べている物売りやら。
 とにかく商売人、そして買い物客であふれていた。

「うわ、すごい人っスね。いきなり大都会って感じっスけど」

「迷子になるなよ~。お、さっそく見つけたぞ。シエラも知っているギルドだ」

 シエラが指さした先。石造りの立派な二階建ての建物が見える。

「あっ、じゃあ、俺はここで。こっちの馬車屋の組合に顔を出さなきゃいけないんで。機会があればまたお願いします」

 御者のマテオ。そそくさと逃げるようにその場を離れた。

「マテオさん、どうしたのでしょう。今朝からずっと様子がおかしかったですね」

「そうだなあ。あの愛想のいい男が、黙りこくってたもんな」

 イルネージュとシエラが不思議そうに見送る。

「あ、俺もちょっとトイレに。先に行っててくださいっス」
 
 ふたりの返事も待たずに、俺は近くの路地へ。
 幸い誰もいない。大通りからも見えにくい。

 懐から矢を一本取り出す。盗賊から奪ったものだ。ステータスウインドウを開き、スキルを選択。
 まずは矢に追尾ホーミング。そしてさらに減速スローの能力を付ける。
 それを上に向けてブン投げた。

 投げられた矢はゆっくりと上昇。障害物を避け、くねくねと意思を持つようにどこかへ飛んでいった。
 
 あの矢はゆっくり、ゆっくりと対象者に近づく。どこへ逃げようと必ず追いつめる。俺が能力を解除しない限り。対象者は──マテオだ。

 さて、大通りに出るとギルドの建物の前でシエラとイルネージュは待ってくれていた。

「溢忌君、街の中で立ちションはいかんな。ちょっと我慢すれば、ギルド内にトイレあったのに」

「いや、ハハハ。申し訳ないっス。つい慌てて」 

 謝りながらふたりの横に並ぶ。
 ギルドの建物へと入ると、縦長に細い通路が伸びていた。通路の右側手前に紹介所で見たような小さな小窓。
 奥にはいくつもの扉が左右にある。ギルドの施設とは開けた場所に大きなテーブルやらカウンターがあり、大勢でワイワイしているイメージがあったので意外だ。

 受付の小窓に向かい、シエラは話しかけている。  
 
「ほら、二階に行けってさ。シエラについてきて」

 シエラが通路奥の階段へと向かう。
 受付を通り過ぎる時、小窓の向こうから事務員の可愛らしい感じの女性がぺこりと頭を下げた。

「シエラさんは、前にもここに来たことがあるんですか?」

 階段を登りながらイルネージュが聞く。シエラはそやで、と答えつつ、二階に到着してこちらを向いた。

「以前はまだ小さなギルドだったんだけど。シエラの知り合いが今はギルド長になってるみたい。今から会うんだけど、注意をひとつ」

 めずらしく真剣な顔だ。咳払いをひとつして話し出した。

「以前の活動期の時の仲間。つまり千景とも知り合いなんだけど……もし、何があってもこの人だけは敵に回さないこと。機嫌を損ねるような言動も慎むこと。おい、お前に言ってるんだよ、溢忌。ここのギルド長、カーラはチート級のスキルをいくつも持っている最強の願望者デザイアなんだ」

「ええ……最強って、勇者じゃないんスか。なんか俺の存在意義が薄れてきたっス」

「お前が全てのチートスキルを手に入れても勝てるかな……? でも魔王は《女神》の勇者じゃないとトドメを刺せないから。お前はどっちにしろチートスキル集めて強くなんなきゃダメなの。ほら、カーラに協力してもらうために頼むんだからさ、お前たちもちゃんとお願いしてよ」

 二階通路の真ん中の扉。そこをノックすると、中から入って、と女性の声。
 シエラを先頭に中へ入る。昼間なのに薄暗い。
 部屋の中……壁紙、絨毯、カーテン、全てが鮮やかな青。机も椅子も本棚も金で縁取りがしてある青色。

 部屋の奥──椅子に腰かけている女性。
《鬼姫》千景と同じく、二十代前半くらいか。
 長いブロンドの髪。部屋と同じ青色のローブ。裾は長いが胸元は大胆に開いており、イルネージュに匹敵するほどのアレがアレしていた。

 いつもの俺なら、まずその胸元に目が釘付けになるはずなのだが、青い装いとは対照的な紅い瞳──吸いよせられるように見てしまう。

「来たわね、シエラ。そしてその勇者。《餓狼系主人公》葉桜溢忌」

 俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《紅玉の殲滅者せんめつしゃ》《久遠の予言者》《青の戦慄》カーラ・ヴィジェ=ルブラン。

「あなた達が来るのは分かっていたわ。世界に危機が迫っていること、あなた達がチートスキルを集めていることも」

 カーラは立ち上がり、こちらにツカツカと近づいてくる。
 自分の顔が紅潮するのが分かる。ものすごい美人だ。
 右目に紐付きの片眼鏡モノクルを装着している。その奥に光る紅玉の瞳に何か魂をざわり、と触れられたみたいでビクリとした。
 
 カーラは上品にフフ、と笑う。

「そんなに緊張しなくても。あ、お茶を用意するからそこにみんな座ってて」
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