異世界の餓狼系男子

みくもっち

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28 副長

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 隻眼の男──《人斬り》伊能は一転、ニカッと人懐っこい笑顔を見せた。

「なぁ~るほど、なるほど。お前さんが勇者ね。カーラの言ってた通りってわけか。ふむ、状況は分かった。今はこの悪ガキどもの相手をしてるってことね」

 アゴ髭を撫でながらこちらとヒューゴたちを交互に見る。

「副長、生意気なアイツをやっちまおーぜ。三人で囲めば勇者だろうがなんだろーが余裕だぜ」

「うん。わたしがゲートで喚んだんだから、協力してよ」

 ヒューゴから副長と呼ばれている。この男……ギルドのナンバー2というわけか。
 三人がかりで来るのも全然構わない。この男の能力とヒューゴのチートスキルは謎だが。

 双子からせがまれるように言われ、伊能はヤダよ、と被召喚者らしからぬ返事をする。
 呆気に取られる双子。伊能はふたりに近づき、しゃがんで目線を合わせる。

「任務中にいきなり喚びやがって。いいか、甘ったれてんじゃねーぞ。テメーらのケンカなんだろ、コレは。見た目はガキでもこのブルーデモンズ選り抜きの願望者デザイアなんだからよう、カーラに恥かかせるような真似すんじゃねーよ」

 伊能はふたりの腕章をクイクイと引っ張る。ふたりの目つきが変わった。

「わーったよ、副長。やってやんよ!」

「うん、このままじゃ終われない」

 ネヴィアの操る亡霊がヒュオッ、と五体接近。この触れられない敵の対策はすでにやっている。

 三人で話している最中に、属性付与エンチャントで剣に光属性を付けた。
 悪霊、死霊なんかの実体を持たない魔物はこれで倒せるから通じるはず──。

 まとわりつく亡霊たちを斬り払うと、ギャアアア、と断末魔の声をあげて消滅する。
 よし、うまくいった。

 ヒューゴが突進。

「バーニングアサルトォッッ!」

 全身に炎をまとい、トンファーを突き出す。
 俺は剣を収め、片手で頭を押さえつける。腹にゴゴゴッ、とトンファーの打撃を受けたが、そのままヒューゴの身体を地面にめり込ませた。

「てっ……めえっ!」

 これでもう身動きが取れない。次の俺の視線はネヴィアに。

「ヤダッ、もうっ!」

 新たな亡霊を呼ぼうとしている。俺は減速スローのスキルを使った。
 
 ネヴィアの動きが超スロー状態に。俺はスタスタと近づき、その頭に軽く拳骨。そして減速スローを解除した。

「いっった~い! ヒドイ……!」

 涙目でうずくまるヴィネア。
 ヒューゴとネヴィアから光る球体が飛び出し、俺の胸に吸い込まれた。ふたりのチートスキルを手に入れたが……おや、結局ヒューゴの持っているチートスキルはなんだったのか。

「勝負ありだな。納得いったろ、おふたりさん」

 伊能がパンパンと手を叩く。
 ヒューゴはまだ何やら喚き、ネヴィアはブツブツと文句を言っているが、とりあえず決着はついた。

「さすがは勇者ね。この子たちも学んだでしょう。ギルド外にも相当な実力者がいるということが」

 カーラやシエラ、イルネージュも観客席から降りてきている。

「うむ、見事であったぞ、溢忌。《女神》シエラはかなりスッキリした」

 シエラは双子に向かってベー、と舌を出した。俺はステータスウインドウを開きながら質問する。

「あの、男の子のほうのチートスキルっスね。結局使わなかったみたいスけど……アトミックフレア? どんな能力なんスか、コレ」

 スキル名を言うと、みるみるシエラの顔が青ざめていく。

「げえ……! それ、チートスキルの中でも禁忌と呼ばれてる八つのうちのひとつじゃん。自爆して核爆発を起こすヤツ」
 
「いや、そんなんあったらダメでしょ……ていうか自爆てなんスか。使って死んだら意味ないじゃないスか」

「そう……前の勇者はそれ使って死んだんだよ。こればっかりは超再生も身代わりも効果がない。それに下手すりゃ世界が滅ぶ」

 マジか……そんな使い勝手の悪いスキルまであるとは。
 ヒューゴが激情にかられてそんなスキルを使うようなヤツじゃなくて良かった……。

「そんで、勇者殿。どうする? 一応、俺もチートスキルの持ち主なんだが……今、ここでやるかい?」

 双子には加勢しなかった伊能が、普通にあいさつするような感じで聞いてきた。
 俺は少し考えて……いや、今日はもういいっス、と断った。

 念のために鷹の目ホークアイで観察していた。
 あの手に持った杖……中には刀身が仕込んである。
 あの仕込み杖からの斬撃が得意……チートスキルの有無や種類はこの鷹の目ホークアイでは確認出来ないようだ。

 チートスキルは不明だが、それ以外には特に危険な能力の持ち主でもないし、双子との戦いで消耗したわけでもない。
 しかし、何かイヤな予感がした。この場でわかったっス、と気軽に応じる気にはなれなかった。

「ああ、そうかい。こっちも助かるぜ。勇者にボコられた後でまた任務に行くってのもしんどいからな。ここにはしばらくいるんだろ? まあ、日を改めていつでも声をかけてくれ」

 伊能は俺の肩を叩いて、ドームの出口へ向かった。

 
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