異世界の餓狼系男子

みくもっち

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29 予言

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 伊能はギルドの任務へと戻った。
 シエラはここでまとめてチートスキルを得なかったことに不満をぶちまけてきた。

「いつきぃ~、あのおっさんも倒せばよかったんだよ。あのおっさんが任務とやらで失敗して死んだらさ、チートスキルはまたランダムでどこぞの願望者デザイアに渡っちゃうんだよ」

「えっ、そうなんですか。自動的に溢忌さんのモノにならないんですね」

「物事はそう都合よくいかんのだよ、イルネージュ。チートスキルを得るに苦労はつきものなのだ」

 たしかにそうだろう。チートスキル所有者が死亡して自動的に俺のモノになるなら、今までにもういくつも手に入れているはず。
 それだけ願望者デザイアとは戦いに巻き込まれやすい。

「ありゃ、そういえば《召喚者》の力はまだ持ってんだよね、カーラが」

 シエラが思い出したようにカーラに聞く。
《召喚者》……さっきのゲートみたいな能力のことだろうか? ヒューゴを地面から引き抜きながら聞いていると、どうやら違うようだ。

「ええ、まだわたしが持っているわ。あなたから譲り受けた、元の世界からこの世界に人間を転移させ、願望者デザイアにする能力。あまり知られたくないから二つ名に入れてないけど」

「えっ! 願望者デザイアって、カーラさんが喚んでいるんですかっ? 《女神》のシエラさんが喚んでるかと思った……」

 イルネージュが驚きの声をあげ、駆け寄ってカーラの手を握る。

「だったら、わたしの事も喚んでくださったのもカーラさんなんですね。なんとお礼を言っていいのか……」

 カーラは首を横に振る。

「この《召喚者》の能力……わたしには向いてないわ。不確定要素が多すぎる。誰がいつ、どこに転移するか分からないし、願望者デザイアの力を悪用するヤツかもしれない。魔物の増加に対抗して大勢喚んだけど、それがいい結果を出しているとは言い難いわ。あなたを喚んだのも偶然なの」

 そういえばこの世界に来たばかりのときに、喚んだのは自分じゃないとシエラが言っていたような……。イルネージュの反応も気になる。元の世界がそんなにイヤだったのだろうか。

「でもさあ、休眠期に入るシエラの代わりが出来そうなのってカーラしかいなかったからさあ。強くて頭良くて人望があって、信頼できるの。これからも《召喚者》で頼むよ」

 シエラが手を合わせてお願いしている。カーラはう~ん、と首をかしげながら俺のほうを見る。

「じゃあ、いつか溢忌君がチートスキル全部集めるまで、ね。その後は彼に譲るわ。この《召喚者》の力」

「え~、このエロリゲス・ムッツリーニに~? 大丈夫かなあ。その《召喚者》は所有者の資質によって呼ばれる人が変わってくるんだよ」

 不服そうにジト目を向けるシエラ。いや、こっちもそこまで欲しいなんて思っていない……。



 地下ドームを抜け、全員で再びカーラの執務室へ。
 椅子に腰かけながらカーラはさて、と切り出す。

「残りふたりのチートスキル所有者は任務で遠方に出向いてるの。戻るまでに、あなた達はここに滞在するといいわ」

 それは助かる。この大きな街ならチートスキルの噂も得やすいだろうし、カーラのギルドの情報網も頼りになる。何より滞在費がタダだ!

 チートスキル獲得に全面的に協力する、とカーラは言った。それが魔王討伐、世界を救うことにもなると。
 
「そのかわり──ここにいる間、ギルドの仕事を手伝ってもらうわ。まだ経験不足の溢忌君の鍛練にもなるでしょう」

 そしてカーラは直立している双子に命じた。

「彼らに色々教えるのは、あなた達の役目。先輩としてしっかりサポートしてあげて」

「はあ~っ? なんで俺たちが……」

「信じらんない、聞きたくない」

 ヒューゴは今にも噛みつきそうな顔。ネヴィアは目をつむり、耳をふさいだ。

 カーラは手の指揮棒タクトでバシッ、と机を叩いた。双子はビッ、と背筋を伸ばす。

「頼んだわよ」

 うお……顔は笑っているが、なんか恐ろしい。

 ヒューゴは仕方ねえな、と部屋のドアを開ける。
 
「……お前らの部屋に案内する。ついてこい」
 
 ヒューゴを先頭に部屋からぞろぞろと出ていく。その最後尾にくっついていく途中でカーラが声をかけてきた。

 ドアが閉まり、部屋には俺とカーラだけになる。

「溢忌君……わたしは、無意識に相手の魂に触れたり未来が見えたりするの……」

 俺はその紅い瞳を見つめながら無感情にそうスか、と答えた。

「あなたからは……とても不安定な二面性を感じるの。常に揺らいでいる……そして純粋。純粋ゆえに怖いわ。一度傾くと元には戻らない」

「………………」

「覚えておいて。その強大な力、使い方を誤ればあなた自身が魔王と呼ばれてもおかしくない。そしてシエラや彼女……イルネージュを失う可能性も──」

「分かってるっスよ」

 俺はふぅーっ、と息を吐いた。

「俺は別に正義の味方のつもりはないっスよ。魔王倒すとか、世界救うってのも成り行きっス。目的を果たしたら、あとは好きにやらせてもらうだけっス」

「……そう。あなたなら、今まで誰にも成し得なかった事も可能にするかもね。でも、あまり自分の力を過信しないこと。一瞬、見えたけど……あなたいつか負けるわよ。相手はサムライの女の子ね」

「ハハッ、覚えておくっスよ」

 俺は片手を上げながら答え、部屋をあとにした。
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