異世界の餓狼系男子

みくもっち

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31 死灰蟲

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「あっ、待って!」
 
 俺より早くイルネージュが声をかける。
 エルンストはわっ、と驚いて塀からずり落ち、振り向いた。

「しつこいな、アンタら。俺はもう、アンタらの組織には協力しない!」

 エルンストは何かを取り出して、地面に叩きつけた。
 カッ、と眩い光が目に飛び込んでくる。

「うあっ!」

 閃光弾──しまった。スキル鷹の目ホークアイがかえって仇になった。
 視力を奪われただけでは済まない。ぶっ倒れ、意識が飛ぶ──。



 どれだけの時間が過ぎたのか……意識を取り戻し、起き上がるとイルネージュが心配そうな顔で覗き込んでいる。

「つうっ……しくじったっス。まさかあんなモン持ってたなんて。俺、どのくらい意識失ってたっスか?」

「まだ五分くらいです……。ヒューゴさんとネヴィアさんは、さっきの人を追っていきました」

 それほど時間は経っていなかった。まだ目がチカチカするが、頭を横に振りながら立ち上がる。

「そこまで遠くに行ってないはずっス。俺たちも追うっスよ」

 手頃な石を拾い、それに追尾ホーミングの効果を。上に投げつけ、さらに減速スローの効果も付ける。
 石はゆっくりと浮遊しながら移動。減速スローの力を弱めると速度をグググと増した。

「あれを追っていけば、すぐに見つかるっスよ」



 スイスイと飛んでいく石を追って走る。
 職人街を抜け、歓楽街へ。
 
 酒場やいかがわしい店が並ぶ。昼間なので人通りはまばらだ。
 石はヒュッ、と路地に入った。イルネージュとともに追う。

 石が消えた。おや、とそのまま路地を突き抜けて反対の通りに。
 周囲を見渡すが、やはり石は見つからない。

「あっ、溢忌さん。ここに」
 
 路地に積んである木箱の隙間に石が挟まっていた。
 木箱をどけると、階段が現れた。地下へ続いているようだ。挟まっていた石がコロコロと地下の暗がりへ落ちていった。

「行くしかないっスね」

 松明なんかは用意していない。願望の力をやや消費するが、属性付与エンチャントで剣に光属性を付け、それを明かり代わりにして階段を降りていった。

 地下道──思ったより広い。手掘りのいびつな壁面が奥まで続いている。
 一本道なのでそのまま進むと、遠くに複数の光がゆらゆらと浮いているのが見えた。

 シエラがひいっ、と怯えた声を出す。

「あ、あれ……火の玉じゃ……」

「まさか……ん、人の声がするっスよ。もっと近くに行ってみるっス」

 近づいていくと、三人の人間がいるのが分かった。あれは──。

 ひとりは鍛冶屋の主、エルンストだ。
 エルンストは壁に両手をつき、こちらに背を向けている。
 すぐ後ろにはネヴィア。亡霊を操り、動かないでと警告している。

 浮いていた明かりはヒューゴの能力で作った火の玉だったようだ。
 ヒューゴは俺たちに気づくと、おせーぞ、と腕組みしながら言った。

「おい……お前んとこに、怪しい連中が出入りしてただろう。お前も連中の仲間なのか」
 
 ヒューゴの質問……いや、尋問だ。エルンストはこちらに背をむけたまま、ちがうっ、と叫んだ。
 
「たしかに以前は、俺が能力で作った武器の取引をしていた。でも、今はもうやってない! いや、以前だって脅されて無理やり……」

「じゃあ、どうして【死灰蟲しかいちゅう】のメンバーが出入りしてるの」

 ネヴィアが亡霊を近づけながら聞く。死灰蟲?  
なにかの組織名だろうか。

「それは……俺が最近、手に入れた能力のせいだ。本来俺が持っている《星打ち》よりも強力な武器、防具を作ることが出来る。どこかで連中が聞きつけて、また取引を再開しろって……」

 間違いない。エルンストはチートスキル所有者だ。その能力のせいで、怪しげな組織に狙われているというわけか。
 先ほど逃げ出したのは、俺たちがその組織の一員だと勘違いしてたようだ。

「とりあえず、お前は俺らブルーデモンズが保護する。そのほうがお前も安全だろ。あとは先生の指示を仰ぐ」

 ヒューゴがそう言った時だった。
 地下道の奥からドタドタと足音。複数の松明の灯り。

 照らし出されたのは──黒やグレーのジャケットの集団。おや……この異世界らしからぬ格好はどこかで見たことある。

「おい、ガキども……。そいつをこっちによこしな」

 六人の男──先頭はスキンヘッドの男。頭部の左側にカマキリの刺青。俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。

鉄蟷螂てつとうろう穆依楠ムン・イーナン

 他の男どもは願望者デザイアではないようだ。
 穆依楠以外のジャケットの男たちが双子の返事を待たずにエルンストに近づく。

 ビュオオ、とネヴィアの亡霊たちが男たちの身体をすり抜けていく。男たちは情けない悲鳴をあげる。

「ガキどもがっ……死にてえのか」

 穆依楠が素手のままバッ、と構えた。下に突き刺すような手の形。あれは──ゲームやマンガで見たことある。たしか蟷螂拳とかいう、カンフーの構えだ。

「さっそく来やがったな、金になりそうなモノにすぐたかるクソバエどもが」

 ヒューゴが炎をまとったトンファーを取り出し、ビュオオ、と回転させた。
 
 
 
 
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