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32 人質
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「メテオストームッ!」
ヒューゴが跳躍。横回転のトンファー連打。ドガガガッ、と打たれた穆依楠は爆発に巻き込まれ──いや、両腕でがっしりとガードしている。
ヒューゴが着地したところを狙い、ヒュヒュヒュッ、と蟷螂手を繰り出す。
ヒューゴはなんとかトンファーでガード。ネヴィアの亡霊が穆依楠にまとわりついたスキをついて、トンファーを突き出した。
ゴゴッ、と胸に入り、穆依楠はよろめく。だが、打ち込んだヒューゴも反動で弾けるように後ろへ跳んだ。
「コイツ、かてぇ……!」
「フン、この俺にそんな攻撃は効かんっ!」
勢いづいて襲いかかる穆依楠。ガガガガッ、とヒューゴと打撃の応酬。
ネヴィアの亡霊が三体、穆依楠の身体を突き抜けた。これは苦手なようだ。明らかに顔を歪ませ、後ずさる。
「物理攻撃より、こっちが効くみたいね」
さらにネヴィアが亡霊を放つが──ブワッ、と一陣の風とともに霧散してしまった。
「えっ、どうして……」
うろたえるネヴィア。助かったはずの穆依楠は舌打ちする。
「余計なことを……ダオ・マイか」
穆依楠の背後。いつの間にか長身で黒いロングヘアーの女性が立っていた。
グレーのジャケット。きわどいミニスカートは横に深いスリットが入っている。そこからのぞかせるふとももには蝶の刺青。
「あらぁ。親切心で手助けしたのにこの言われよう。あたし、傷つくわ」
ダオ・マイと呼ばれた女性は穆依楠の肩にしなだれかかる。俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《風輪蝶》ダオ・マイ。
穆依楠は憮然としてそれを振り払い、標的であるエルンストへ猛然と襲いかかる。
うわっ、とエルンストはこちらに逃げてきた。
かばうように俺は前に出る。
「どけっ! 殺すぞっ!」
元の世界であれば、その風体、そのセリフにビビっていたが……そんな脅しは今の俺に通じない。
光属性の剣。袈裟懸けに振り下ろす。
ボッ、と蟷螂手でさばかれた。うおっ、と身体が流されたところに地を這うような足蹴り。
倒れるまでの間にボボボボボッ、と鋭い打撃。地面に叩きつけられ、首にトドメの足刀蹴り。
予想はしていたが、まったく容赦がない。普通なら身体は穴だらけ、首の骨は折れていただろう。
だが──効かない。穆依楠の足首を掴んで起き上がる。
「なっ……にいっっ!」
驚愕する穆依楠。俺は片手で振り回し、力まかせにブン投げる。壁に叩きつけられて血ヘド吐いて──死ね。
しかしゴッ、と風が吹き抜けて穆依楠は壁に軽く当たっただけですんだ。
これは……またあの女の仕業だ。
《風輪蝶》ダオ・マイはパチン、と指を鳴らす。
「勇者相手に無謀な戦い挑んだらダメって姐さんに言われてたでしょ。ほら、アンタたちもおとなしくして。こっちには人質がいるんだからぁ」
人質? どういうことだろうか。
俺が思案していると、ダオ・マイは肩をすくめて笑い声をあげた。
「あらあら、呆れた。アンタたちと一緒にいた、赤い髪の女の子よ。今はあたしたちの仲間の所にいるわぁ。……そうね、勇者の溢忌君。アンタひとりでエルンストを連れて来なさい。場所はあとで伝えるわ。もし、約束を破ったら……分かってるわよねぇ」
人質とはシエラのことだった。鍛冶屋の工房までは一緒だったと思うが、いつの間に……。
しかも交渉の道具にされている。エルンストとの交換というわけか。
「おいっ、ここまで来て退くつもりか? 冗談じゃねえぞ、エルンストは目の前にいやがるのに!」
穆依楠が声を荒げ、再び構える。ダオ・マイはそれを横目で見ながら冷たく言った。
「ふぅん、李秀雅姐さんの命令に背くの? それなら残れば。あたしは止めたからね」
「……分かったよ。俺も戻る。おい、溢忌とかいうガキ……この借りは必ず返すからな」
穆依楠は俺を睨みつけ、ガッ、と壁を蹴る。そして行くぞ、とジャケットの男たちを引き連れ、もと来た地下道の奥へと消えていった。
「さすがの《鉄蟷螂》も姐さんは怖いわよねぇ。さて、あたしも帰るわ」
去ろうとするダオ・マイに双子が迫る。
「おい、待ちやがれっ!」
「このまま逃がすとでもっ……!」
だがここはイルネージュが飛び出してふたりを制止する。
「だ、ダメですっ、シエラさんが人質に取られているんですよっ。今、手を出したら……」
ビュオオッ、と風が吹き抜けてダオ・マイの姿が消えた。
「くそっ、逃げられた。俺は追うぞ!」
ヒューゴはイルネージュを突き飛ばし、地下道の奥へと走る。ネヴィアもそれに続く。
俺は減速を発動。かなり強めに調整。ふたりの動きが超スロー状態に。
双子はなにか文句を言おうとしているが、口の動きがゆっくりすぎて分からない。
「シエラの安全が優先っスよ。約束通り俺がひとりでエルンストを連れて行くっス。イルネージュはギルドに戻って、この事をカーラに伝えるっス」
「わ、わかりました」
イルネージュの剣にも光属性を付ける。それを灯り代わりにして、もと来た道を急いで戻っていった。
「おとなしくついてきてもらうっスよ」
エルンストの腕をやや強めに掴む。エルンストは怯えた顔で頷いた。
ヒューゴが跳躍。横回転のトンファー連打。ドガガガッ、と打たれた穆依楠は爆発に巻き込まれ──いや、両腕でがっしりとガードしている。
ヒューゴが着地したところを狙い、ヒュヒュヒュッ、と蟷螂手を繰り出す。
ヒューゴはなんとかトンファーでガード。ネヴィアの亡霊が穆依楠にまとわりついたスキをついて、トンファーを突き出した。
ゴゴッ、と胸に入り、穆依楠はよろめく。だが、打ち込んだヒューゴも反動で弾けるように後ろへ跳んだ。
「コイツ、かてぇ……!」
「フン、この俺にそんな攻撃は効かんっ!」
勢いづいて襲いかかる穆依楠。ガガガガッ、とヒューゴと打撃の応酬。
ネヴィアの亡霊が三体、穆依楠の身体を突き抜けた。これは苦手なようだ。明らかに顔を歪ませ、後ずさる。
「物理攻撃より、こっちが効くみたいね」
さらにネヴィアが亡霊を放つが──ブワッ、と一陣の風とともに霧散してしまった。
「えっ、どうして……」
うろたえるネヴィア。助かったはずの穆依楠は舌打ちする。
「余計なことを……ダオ・マイか」
穆依楠の背後。いつの間にか長身で黒いロングヘアーの女性が立っていた。
グレーのジャケット。きわどいミニスカートは横に深いスリットが入っている。そこからのぞかせるふとももには蝶の刺青。
「あらぁ。親切心で手助けしたのにこの言われよう。あたし、傷つくわ」
ダオ・マイと呼ばれた女性は穆依楠の肩にしなだれかかる。俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《風輪蝶》ダオ・マイ。
穆依楠は憮然としてそれを振り払い、標的であるエルンストへ猛然と襲いかかる。
うわっ、とエルンストはこちらに逃げてきた。
かばうように俺は前に出る。
「どけっ! 殺すぞっ!」
元の世界であれば、その風体、そのセリフにビビっていたが……そんな脅しは今の俺に通じない。
光属性の剣。袈裟懸けに振り下ろす。
ボッ、と蟷螂手でさばかれた。うおっ、と身体が流されたところに地を這うような足蹴り。
倒れるまでの間にボボボボボッ、と鋭い打撃。地面に叩きつけられ、首にトドメの足刀蹴り。
予想はしていたが、まったく容赦がない。普通なら身体は穴だらけ、首の骨は折れていただろう。
だが──効かない。穆依楠の足首を掴んで起き上がる。
「なっ……にいっっ!」
驚愕する穆依楠。俺は片手で振り回し、力まかせにブン投げる。壁に叩きつけられて血ヘド吐いて──死ね。
しかしゴッ、と風が吹き抜けて穆依楠は壁に軽く当たっただけですんだ。
これは……またあの女の仕業だ。
《風輪蝶》ダオ・マイはパチン、と指を鳴らす。
「勇者相手に無謀な戦い挑んだらダメって姐さんに言われてたでしょ。ほら、アンタたちもおとなしくして。こっちには人質がいるんだからぁ」
人質? どういうことだろうか。
俺が思案していると、ダオ・マイは肩をすくめて笑い声をあげた。
「あらあら、呆れた。アンタたちと一緒にいた、赤い髪の女の子よ。今はあたしたちの仲間の所にいるわぁ。……そうね、勇者の溢忌君。アンタひとりでエルンストを連れて来なさい。場所はあとで伝えるわ。もし、約束を破ったら……分かってるわよねぇ」
人質とはシエラのことだった。鍛冶屋の工房までは一緒だったと思うが、いつの間に……。
しかも交渉の道具にされている。エルンストとの交換というわけか。
「おいっ、ここまで来て退くつもりか? 冗談じゃねえぞ、エルンストは目の前にいやがるのに!」
穆依楠が声を荒げ、再び構える。ダオ・マイはそれを横目で見ながら冷たく言った。
「ふぅん、李秀雅姐さんの命令に背くの? それなら残れば。あたしは止めたからね」
「……分かったよ。俺も戻る。おい、溢忌とかいうガキ……この借りは必ず返すからな」
穆依楠は俺を睨みつけ、ガッ、と壁を蹴る。そして行くぞ、とジャケットの男たちを引き連れ、もと来た地下道の奥へと消えていった。
「さすがの《鉄蟷螂》も姐さんは怖いわよねぇ。さて、あたしも帰るわ」
去ろうとするダオ・マイに双子が迫る。
「おい、待ちやがれっ!」
「このまま逃がすとでもっ……!」
だがここはイルネージュが飛び出してふたりを制止する。
「だ、ダメですっ、シエラさんが人質に取られているんですよっ。今、手を出したら……」
ビュオオッ、と風が吹き抜けてダオ・マイの姿が消えた。
「くそっ、逃げられた。俺は追うぞ!」
ヒューゴはイルネージュを突き飛ばし、地下道の奥へと走る。ネヴィアもそれに続く。
俺は減速を発動。かなり強めに調整。ふたりの動きが超スロー状態に。
双子はなにか文句を言おうとしているが、口の動きがゆっくりすぎて分からない。
「シエラの安全が優先っスよ。約束通り俺がひとりでエルンストを連れて行くっス。イルネージュはギルドに戻って、この事をカーラに伝えるっス」
「わ、わかりました」
イルネージュの剣にも光属性を付ける。それを灯り代わりにして、もと来た道を急いで戻っていった。
「おとなしくついてきてもらうっスよ」
エルンストの腕をやや強めに掴む。エルンストは怯えた顔で頷いた。
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