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37 神器練精
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伊能の話によると、調査員としてある国に潜入したギルドの仲間が連絡がつかなくなったとの事。
伊能はその調査員の安否の確認、そして生きていれば連れ戻すのが今度の任務だというのだ。
「知っての通り、世界では魔物の動きが活発になっている。その混乱に乗じて悪さしようってのは、盗賊やら犯罪組織だけじゃねえ。一国の主も、虎視眈々と侵略の機会をうかがってんのさ」
「軍事行動を起こしそうな国の調査ってわけっスね。でも危険っぽいっス。調査員も死んだか捕まったか……」
「大事な仲間だからな……まだ生きてると信じてえよ。まあ、お前さんに関係あるってのは、その調査員がチートスキル所持者だってことだ」
「そうだったんスか。まあ……それは関係ナシに協力させてもらうっスよ。このギルドには色々世話になってるし」
「……勇者殿の協力を得られて光栄だよ。出立はさっそく明日からだ。ま、そこまで気ィ張る必要はねぇよ。今日はゆっくり飲みねぇ」
伊能はそう言ってまた酒を注いだ。
なんだろうか。この男──まだ知り合って間もないが、人を惹き付けるような……そんな不思議な雰囲気を持っている。
俺はたいがいの人間には距離を取る。本音を話したり、感情を露にすることもない。
だが、この伊能という男には何か気を許してしまいそうになる。
酒に酔い、ぼうっとした頭でそう思った。
食事を終え、店の外へ。伊能が大通りのほうへ誘う。
「いよお、俺はあそこに寄ってから帰るが……勇者殿はどうだい? 奢るぜ」
伊能が指さす先には、派手なランプに照らされた看板のいかがわしい店。
窓の向こうでは美女たちが艶かしいポーズで手招きしている。
男としての本能か……誘われるままにそちらへ近づく──が、脳裏にイルネージュとシエラの顔がチラついた。
「あ、いや……俺はいいっスよ。先に帰るっス。今日はどうも……」
「お、そうかい。遠慮するこたぁねえのに。ああ、明日迎えに行くからな。気をつけて帰んなよ」
伊能に別れを告げ、ふらつきながらその場を去る。振り返ると、店の入り口で伊能はすでに美女に囲まれていた。
その嬌声を聞きながらやや後悔したが……やはりイルネージュとシエラの顔がチラつく。
イルネージュはまだ分かるが……なんであの暴虐の《女神》を思い出すのか。
そんな事を考えながら重い足取りでギルドのほうへ再び歩きはじめた。
翌朝──約束通り、伊能が部屋まで迎えに来てくれた。
すでに出発の用意はしてある。シエラとイルネージュが昨夜からいないのが気になるが……多分、別の任務があるのだろう。
「お、昨日はじめて飲んだ割には平気な面してんな。よし、そんじゃあ行くか」
ギルドの外には馬が二頭用意してあった。
馬車だと思っていたから、慌ててステータスウインドウを開いて確認。
良かった。基本スキルに乗馬レベルMAXもちゃんと含まれていた。
「お、サマになってるねえ。さすがは勇者殿」
俺の乗馬姿を見て伊能が感心している。そんなことよりも行き先だ。いくらスキルがあるといっても、今日はじめて馬なんか乗るのだ。あまり長距離でないことを願う。
「お、距離か? そうだなあ。まあ、早くて六日程かな。ブクリエっつー国の領都だ」
六日……まだこの世界の乗り物は馬車しか利用してないが、結構な長距離になりそうだ。
セペノイアの街を出て、三日が過ぎた。
ブクリエまではよく整備された街道が通っているので、そこまで大変な旅ではなかった。
途中、宿場町もあり、旅慣れている伊能は計画的に移動距離を考えてそこへ立ち寄る。
日数の割にえらい軽装だと心配していたが、これなら問題なさそうだ。
「ブクリエはこの異世界シエラ=イデアルでもかなり栄えてる国だからな。領都もセペノイア並みに賑やかだぜ。そこへ通じる街道もしっかりしてるってわけよ」
単独の旅人や商人とも頻繁にすれ違う。野盗や魔物に襲われる危険が少ない証拠だ。
「そういや、お前さんがエルンストから手に入れたチートスキルってのはどんなんだったんだい?」
伊能に聞かれ、俺は馬上でステータスウインドウを開く。
「ああ……これっスね。神器練精。スゴい武器作れるらしいんスけど、なんか素材がいるみたいなんスよ。面倒なんでまだ試してないんスけど」
「素材ね……ああ、前の勇者も集めてたよな。魔物倒して剥ぎ取るんだよ。角とか牙とか。それらを組み合わせて作るみたいだぜ」
「マジスか。そんなモン○ンみたいな事しなくちゃいけないんスね。参ったな、俺、あんま魔物の死骸とか触りたくねーっスけど」
「なぁに……そいつも慣れるさ。そうさな、街道から少し外れて魔物を狩ってみるか。試してみようぜ、そのスキル」
そう言うと伊能は街道から横にそれ、ずんずんと草むらの中へ馬を進めていく。
「ちょっ、そんなヒマあるんスか」
「まあ、任せなよ。大体魔物が出そうなポイントは知ってるからよ」
巧みに馬を操り、足場の悪い岩場や丘をスイスイと乗り越えていく。俺もその後をぴったりとくっついていった。
突然、グオオッ、と獣のような雄叫び。丘の下に数体の魔物──緑の肌に下顎から突き出た牙。ゴブリンより大柄な身体。
「オークだな。丁度いい相手だ、やっちまえ」
伊能が俺の馬の尻を叩く。うわっ、と俺は騎乗のまま、オークの集団の中に降り立った。
伊能はその調査員の安否の確認、そして生きていれば連れ戻すのが今度の任務だというのだ。
「知っての通り、世界では魔物の動きが活発になっている。その混乱に乗じて悪さしようってのは、盗賊やら犯罪組織だけじゃねえ。一国の主も、虎視眈々と侵略の機会をうかがってんのさ」
「軍事行動を起こしそうな国の調査ってわけっスね。でも危険っぽいっス。調査員も死んだか捕まったか……」
「大事な仲間だからな……まだ生きてると信じてえよ。まあ、お前さんに関係あるってのは、その調査員がチートスキル所持者だってことだ」
「そうだったんスか。まあ……それは関係ナシに協力させてもらうっスよ。このギルドには色々世話になってるし」
「……勇者殿の協力を得られて光栄だよ。出立はさっそく明日からだ。ま、そこまで気ィ張る必要はねぇよ。今日はゆっくり飲みねぇ」
伊能はそう言ってまた酒を注いだ。
なんだろうか。この男──まだ知り合って間もないが、人を惹き付けるような……そんな不思議な雰囲気を持っている。
俺はたいがいの人間には距離を取る。本音を話したり、感情を露にすることもない。
だが、この伊能という男には何か気を許してしまいそうになる。
酒に酔い、ぼうっとした頭でそう思った。
食事を終え、店の外へ。伊能が大通りのほうへ誘う。
「いよお、俺はあそこに寄ってから帰るが……勇者殿はどうだい? 奢るぜ」
伊能が指さす先には、派手なランプに照らされた看板のいかがわしい店。
窓の向こうでは美女たちが艶かしいポーズで手招きしている。
男としての本能か……誘われるままにそちらへ近づく──が、脳裏にイルネージュとシエラの顔がチラついた。
「あ、いや……俺はいいっスよ。先に帰るっス。今日はどうも……」
「お、そうかい。遠慮するこたぁねえのに。ああ、明日迎えに行くからな。気をつけて帰んなよ」
伊能に別れを告げ、ふらつきながらその場を去る。振り返ると、店の入り口で伊能はすでに美女に囲まれていた。
その嬌声を聞きながらやや後悔したが……やはりイルネージュとシエラの顔がチラつく。
イルネージュはまだ分かるが……なんであの暴虐の《女神》を思い出すのか。
そんな事を考えながら重い足取りでギルドのほうへ再び歩きはじめた。
翌朝──約束通り、伊能が部屋まで迎えに来てくれた。
すでに出発の用意はしてある。シエラとイルネージュが昨夜からいないのが気になるが……多分、別の任務があるのだろう。
「お、昨日はじめて飲んだ割には平気な面してんな。よし、そんじゃあ行くか」
ギルドの外には馬が二頭用意してあった。
馬車だと思っていたから、慌ててステータスウインドウを開いて確認。
良かった。基本スキルに乗馬レベルMAXもちゃんと含まれていた。
「お、サマになってるねえ。さすがは勇者殿」
俺の乗馬姿を見て伊能が感心している。そんなことよりも行き先だ。いくらスキルがあるといっても、今日はじめて馬なんか乗るのだ。あまり長距離でないことを願う。
「お、距離か? そうだなあ。まあ、早くて六日程かな。ブクリエっつー国の領都だ」
六日……まだこの世界の乗り物は馬車しか利用してないが、結構な長距離になりそうだ。
セペノイアの街を出て、三日が過ぎた。
ブクリエまではよく整備された街道が通っているので、そこまで大変な旅ではなかった。
途中、宿場町もあり、旅慣れている伊能は計画的に移動距離を考えてそこへ立ち寄る。
日数の割にえらい軽装だと心配していたが、これなら問題なさそうだ。
「ブクリエはこの異世界シエラ=イデアルでもかなり栄えてる国だからな。領都もセペノイア並みに賑やかだぜ。そこへ通じる街道もしっかりしてるってわけよ」
単独の旅人や商人とも頻繁にすれ違う。野盗や魔物に襲われる危険が少ない証拠だ。
「そういや、お前さんがエルンストから手に入れたチートスキルってのはどんなんだったんだい?」
伊能に聞かれ、俺は馬上でステータスウインドウを開く。
「ああ……これっスね。神器練精。スゴい武器作れるらしいんスけど、なんか素材がいるみたいなんスよ。面倒なんでまだ試してないんスけど」
「素材ね……ああ、前の勇者も集めてたよな。魔物倒して剥ぎ取るんだよ。角とか牙とか。それらを組み合わせて作るみたいだぜ」
「マジスか。そんなモン○ンみたいな事しなくちゃいけないんスね。参ったな、俺、あんま魔物の死骸とか触りたくねーっスけど」
「なぁに……そいつも慣れるさ。そうさな、街道から少し外れて魔物を狩ってみるか。試してみようぜ、そのスキル」
そう言うと伊能は街道から横にそれ、ずんずんと草むらの中へ馬を進めていく。
「ちょっ、そんなヒマあるんスか」
「まあ、任せなよ。大体魔物が出そうなポイントは知ってるからよ」
巧みに馬を操り、足場の悪い岩場や丘をスイスイと乗り越えていく。俺もその後をぴったりとくっついていった。
突然、グオオッ、と獣のような雄叫び。丘の下に数体の魔物──緑の肌に下顎から突き出た牙。ゴブリンより大柄な身体。
「オークだな。丁度いい相手だ、やっちまえ」
伊能が俺の馬の尻を叩く。うわっ、と俺は騎乗のまま、オークの集団の中に降り立った。
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