異世界の餓狼系男子

みくもっち

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42 ギガオーガ

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 姿を消した俺たちは、あっさりと城の裏口から抜け出すことに成功。
 伊能に触れながら四人ひとかたまりになって移動するので、歩きにくいことこの上なかったが。

 街に出てからは隠形おんぎょうを解除。
 
 幸い、街を巡回している兵の数は少ないようだ。建物の陰に身を潜めつつ、移動。
 街の入り口で再び穏形で姿を消した。もちろん番兵に見つかる事なく、街の外へ──。

 月明かりで街道の白い道は見えるが、やはり灯りが必要。
 願望の力をあまり使わなくて済むよう、調合のスキルで作った松明は用意してある。

 松明を手にした伊能を先頭に夜道を進む。
 超級魔物の出現場所は伊能が分かっているようだ。

 夜間は魔物の動きが活発。しかも願望者デザイアが四人も固まっている。
 まだ街から1キロも離れていないところでゴブリンの群れに襲われる。伊能、イルネージュと協力してこれを撃退。

 これを皮切りに、ひどいときは数分おきに魔物に襲われるようになった。松明の灯りに引き寄せられるように続々と湧いて出てくる。

「おいおいっ! こんな調子で超級のとこまでたどり着けるのか!? ほとんど自殺行為じゃん、これ」

 シエラがたまらず叫ぶ。
 ぎゃあぎゃあと逃げ回っているだけだから、城に残っとけばよかったのに。

「いや、これでいい。俺は大雑把なポイントしか知らねえからな。このザコどもは超級を呼び寄せるいいエサになる」

 黒い大型の魔犬──ヘルハウンドの集団の中を突っ切る。飛びかかってきた二匹を伊能が斬り落とす。 
 ゴアッ、と三匹が炎を吐き出してきた。
 イルネージュがアイスブランドで氷の壁を作り、防ぐ。

 属性付与エンチャントで剣に氷属性を付け、俺は跳んだ。氷の壁を乗り越え、上からヘルハウンド三匹をまとめて斬り裂いた。

「気をつけてください! 何か……来ます!」

  イルネージュのアイスブランドから白い冷気が吹き出している。
 そして──地震。
 いや、この震動は何かバカでかいものが近くを歩いている──。

 月明かりが隠れ、辺りが暗くなる。俺たちは一斉に見上げた。
 黒い巨大な影がこちらを見下ろしている。コイツが超級魔物か。
 伊能が松明をかざすが、魔物の灰色の足部分までしか照らせない。なんてデカさだ。

「げっ! コイツはギガオーガ! 巨人の化け物だっ。溢忌、接近戦は避けろよっ、捕まったら怪力でバラバラにされるぞ!」

 シエラの忠告に従い、距離を取ることに決めた。バッ、と飛び退くが、いかん。巨大すぎて魔物の一歩も大きい。
 ギガオーガの足の裏が頭上に迫る。

「溢忌さんっっ!」

 イルネージュがこちらに駆け寄ろうとするが、俺はダメだ、と叫──。

 ズゴンッッ、と押し潰された。俺はアニメでペラペラになったキャラクターを想像したが……大丈夫だ。多少のダメージはあるが、動ける。

 ギガオーガの足の指の間から這い出ていく。今度はぐわっ、と巨大な手が迫る。

 ズババッ、とカマイタチに斬られたように化け物の手に複数の切り傷が。動きが止まった。おれはそのスキに走る。

「やっぱ勇者殿だけじゃキツイな。俺も援護するぜ」

 伊能。ギガオーガの足元を走り回り、撹乱。斬りつけては離れ、穏形で姿を消す。それを繰り返した。
 
 グオオオオッ、と怒ったような魔物の咆哮。
 俺は振り向きながら炎弾を連続で放った。
 
 ドゴゴゴゴオッッ。
 上半身から顔面の辺りに炸裂。巨大な片足がわずかに浮いたが、すぐに体勢を立て直す。
 
 ゴオオオッ、と高所から巨人の拳が振り下ろされる。
 俺たちは一斉にその場から飛び退き──。
 ギュドオッッ、と爆撃されたような衝撃。紙屑のように吹っ飛ばされた。
 地面が大きく抉れている。イルネージュたちは無事か。

 シエラは伊能が抱えて無事だ。イルネージュは
……?

「イルネージュッ! どこっスか!」

「こっ、ここですっ、溢忌さんっ」
 
 イルネージュの声。上からだ。次第に遠ざかっていく。これは……ヤツの手に捕まったのか。

「──野郎っ……!」

 炎弾を膝に集中砲火。その巨体がズズン、とうずくまる。頭の位置が下がった。チャンスだ。

 超加速アクセルで距離を詰め、解除。超加速アクセルのスキルは使い勝手がいいが、発動中は攻撃スキルが使えない。

 一旦解除して、使うスキルは紫電一閃。
 集中──頭が真っ白になる。
 現実には一瞬なのだろうが、俺はその間が数秒にも数分にも思えた。

 バチンッ、と自らの剣の鍔鳴つばなりの音で我にかえる。
 ギガオーガの右腕、イルネージュが捕まっているほうを斬り飛ばしていた。

 ゴアアアッ、と絶叫する巨人。
 再び紫電一閃──ギガオーガの咆哮が止む。
 ズ、ズズ、とその頭部が前へずり落ち、大きな音を立てて転がった。

「スゲエな、やはり本来のチートスキル所有者。俺とは威力がケタ違いだ」

「いんや。アレは愛しきイルネージュ嬢が危機に陥っていた為の怒りのパゥワァーだな。シエラが捕まってても、あんな必死にならないクセに」

 伊能が感心し、シエラがむくれている。
 イルネージュは……無事だ。ギガオーガの手がクッション代わりになり、落下のダメージは無いようだ。
 
 
 
 
 
 
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