49 / 77
49 ブクリエ国領主就任
しおりを挟む
グググ、とマックスは剣に力を込めているが……俺は微動だにしない。
バッ、とガラティーンを横凪ぎに払い、マックスの体勢を崩した。
上段から振り下ろす。今度はマックスが剣で受け止めた。
光属性で強化した剣。ガキィッ、と一撃で亀裂が入った。
「な……にィッ! わたしの聖剣が、ただの一撃で……」
いや、加減した攻撃だ。本来なら今の攻撃で剣はおろかマックスの脳天を砕くことは簡単だった。だが、シエラとイルネージュが見ている前でそれは出来ない。
強引に押し込みながら蹴り。
マックスは仰向けに倒れる。再びガラティーンを振り下ろす。だが今度は剣の腹の部分で。
マックスの剣は完全に折れ、鎧も前面が砕け散った。地面にめり込んだマックスはそのまま気を失ったようだ。
マックスの身体から光る球体が飛び出し、俺の胸に吸い込まれた。
これでチートスキルのひとつ、魔法無効を手に入れることが出来た。
「勝者、葉桜溢忌! この結果と同時に、ブクリエ国に新領主が誕生した事を宣言する!」
ミリアムの言葉に観衆がわっ、と沸いた。
溢忌様、新領主様、と柵の中に次々と花束が投げ込まれ、紙吹雪が舞う。
観客席の伊能。満足そうな笑みを浮かべている。ミリアムはすでに兵士たちに指示を飛ばしている。
俺はあれよあれよという間に兵士たちによって輿に担がれ、大騒ぎの観衆の中を通っていく。
シエラとイルネージュに声をかけようと思ったが、見失ってしまった。
その後、城では簡易的なアドンの葬儀が行われ、息つく間も無く新領主就任式。高官たちの紹介、ミリアムによる簡単な政務の説明──本当に淡々と業務をこなしているといった感じだ。
行政は各部門をそれぞれの高官が担当しており、ミリアムが統括。これはアドンの時から変わっていないようだ。
助かるのは、領主といえ俺のする事はほとんどない点。
いずれ出現するであろう魔王に対抗する為、俺はチートスキル集めの旅は続けていいとの事だった。緊急時には急使をよこすと言ってきたが、その時の決定権はミリアムに全て任せる事にした。
やはり事前から準備が進められていたのだろう。あのマックスのように反発する者もおらず、城内の者はおとなしくミリアムの指示に従う。
そういえば決闘に敗北したマックスはどうなるのだろうか。負けたからといって俺に従うようには見えないが。
しかし、こんな簡単に……いいのだろうか。本当に一国の領主に収まってしまった。あとの事はミリアムに任せ、俺は逃げるように城を飛び出した。
外はもう夕方。衛兵たちが俺を見て慌てふためき、姿勢を伸ばして武器を胸元に掲げる。ううむ、こういう反応には慣れていない。
「おう、領主様。お出かけかい。だいぶ疲れた顔してんな」
城門の前で話しかけてきた伊能。他人事だと思ってイイ気なものだ。
「アンタの計画通りってわけっスね。これからどうするつもりっスか」
「そうイヤそうな顔すんなよ。領主ともなれば、チートスキルの情報も格段に手に入れやすくなるぜ。この国の諜報機関も使い放題だしな。ああ、俺はその諜報機関のトップになったんでな。ヨロシク」
「……本当にギルドを抜けるんスね。セペノイアの街と険悪にならないんスか? 裏切ったも同然なのに」
「いや、むこうもアドンの時より連携が取りやすくなったって喜ぶかもしれねえよ。それにな、それどころじゃねえさ。超級魔物の出現は世界中に広がっている。混乱に乗じて戦も起きている。こりゃあ、本格的に魔王が出てくる予兆だぜ」
「時間がないってことっスか。じゃあ、シエラに合流して早くチートスキル探しを再開するっス」
「ああ、こっちも新しい情報があれば楊を使って連絡する。おっと、ブルーデモンズの時に調べといたリストを渡しておくぜ」
伊能は紙片を取り出し、俺は無言でそれを受け取る。
この国に入る前から分かっていた情報のはずだ。それを今頃……いや、ここで怒っても仕方がない。
これからはこの国とコイツを十分に利用してやろうではないか。
「楊の持ってるチートスキルも渡すはずだったんだがな。タイミングがズレちまった。ブルーデモンズのもうひとりも……まあ、こっちも近いうちに会えるだろうよ」
「……それじゃあ、もういいっスか。色々世話になったっスね。ミリアムさんにもよろしくと伝えておいてほしいっス」
「ああ、伝えておくぜ。必ず戻って来いよ……お前さんは領主なんだからな」
それには答えず、俺は背を向けた。
足早に街のほうへ──。
俺に気付いた住民たちが声をかけてくる。軽く手を上げて、囲まれる前にそこを離れる。
シエラとイルネージュのいる宿。
幸い、ふたりはそこで待機していた。
事情を話し、また旅を再開すると言ったらまずシエラがブフーッ、と吹き出した。
「おま、お前、それ、利用されただけじゃん。そのミリアムってヤツも、前の領主がジャマだったんだろ。領主なのにいなくても大丈夫だなんて。ダサ……溢忌、ダサッ!」
ディスってる割にはやけに嬉しそうだな……。イルネージュは俺の手を取り、涙ぐんでいる。
「良かった……領主になったから、もう会えないんじゃないかって……」
「大げさっスよ。一応、肩書きは領主なんスけど、ほとんどお飾りっスから。シエラの言う通りっス。でも、そのおかげでまた旅が出来るんスから」
「そうそう、早いとこチートスキル集めて魔王に備えなきゃ。世界が滅びたら国だ、領主だなんて言ってられないからな……おい! イルネージュと見つめ合って顔を赤らめるんじゃないっ! まったく気持ち悪い……」
シエラがズバッ、と手刀で俺とイルネージュの手を引き離す。
「よし、今日はそのリストを調べて、明日から出発するぞ! いいなっ!」
暴虐の《女神》は健在だ。
俺にローキックを喰らわし、イルネージュの尻をバチコンと叩きながらシエラは叫んだ。
バッ、とガラティーンを横凪ぎに払い、マックスの体勢を崩した。
上段から振り下ろす。今度はマックスが剣で受け止めた。
光属性で強化した剣。ガキィッ、と一撃で亀裂が入った。
「な……にィッ! わたしの聖剣が、ただの一撃で……」
いや、加減した攻撃だ。本来なら今の攻撃で剣はおろかマックスの脳天を砕くことは簡単だった。だが、シエラとイルネージュが見ている前でそれは出来ない。
強引に押し込みながら蹴り。
マックスは仰向けに倒れる。再びガラティーンを振り下ろす。だが今度は剣の腹の部分で。
マックスの剣は完全に折れ、鎧も前面が砕け散った。地面にめり込んだマックスはそのまま気を失ったようだ。
マックスの身体から光る球体が飛び出し、俺の胸に吸い込まれた。
これでチートスキルのひとつ、魔法無効を手に入れることが出来た。
「勝者、葉桜溢忌! この結果と同時に、ブクリエ国に新領主が誕生した事を宣言する!」
ミリアムの言葉に観衆がわっ、と沸いた。
溢忌様、新領主様、と柵の中に次々と花束が投げ込まれ、紙吹雪が舞う。
観客席の伊能。満足そうな笑みを浮かべている。ミリアムはすでに兵士たちに指示を飛ばしている。
俺はあれよあれよという間に兵士たちによって輿に担がれ、大騒ぎの観衆の中を通っていく。
シエラとイルネージュに声をかけようと思ったが、見失ってしまった。
その後、城では簡易的なアドンの葬儀が行われ、息つく間も無く新領主就任式。高官たちの紹介、ミリアムによる簡単な政務の説明──本当に淡々と業務をこなしているといった感じだ。
行政は各部門をそれぞれの高官が担当しており、ミリアムが統括。これはアドンの時から変わっていないようだ。
助かるのは、領主といえ俺のする事はほとんどない点。
いずれ出現するであろう魔王に対抗する為、俺はチートスキル集めの旅は続けていいとの事だった。緊急時には急使をよこすと言ってきたが、その時の決定権はミリアムに全て任せる事にした。
やはり事前から準備が進められていたのだろう。あのマックスのように反発する者もおらず、城内の者はおとなしくミリアムの指示に従う。
そういえば決闘に敗北したマックスはどうなるのだろうか。負けたからといって俺に従うようには見えないが。
しかし、こんな簡単に……いいのだろうか。本当に一国の領主に収まってしまった。あとの事はミリアムに任せ、俺は逃げるように城を飛び出した。
外はもう夕方。衛兵たちが俺を見て慌てふためき、姿勢を伸ばして武器を胸元に掲げる。ううむ、こういう反応には慣れていない。
「おう、領主様。お出かけかい。だいぶ疲れた顔してんな」
城門の前で話しかけてきた伊能。他人事だと思ってイイ気なものだ。
「アンタの計画通りってわけっスね。これからどうするつもりっスか」
「そうイヤそうな顔すんなよ。領主ともなれば、チートスキルの情報も格段に手に入れやすくなるぜ。この国の諜報機関も使い放題だしな。ああ、俺はその諜報機関のトップになったんでな。ヨロシク」
「……本当にギルドを抜けるんスね。セペノイアの街と険悪にならないんスか? 裏切ったも同然なのに」
「いや、むこうもアドンの時より連携が取りやすくなったって喜ぶかもしれねえよ。それにな、それどころじゃねえさ。超級魔物の出現は世界中に広がっている。混乱に乗じて戦も起きている。こりゃあ、本格的に魔王が出てくる予兆だぜ」
「時間がないってことっスか。じゃあ、シエラに合流して早くチートスキル探しを再開するっス」
「ああ、こっちも新しい情報があれば楊を使って連絡する。おっと、ブルーデモンズの時に調べといたリストを渡しておくぜ」
伊能は紙片を取り出し、俺は無言でそれを受け取る。
この国に入る前から分かっていた情報のはずだ。それを今頃……いや、ここで怒っても仕方がない。
これからはこの国とコイツを十分に利用してやろうではないか。
「楊の持ってるチートスキルも渡すはずだったんだがな。タイミングがズレちまった。ブルーデモンズのもうひとりも……まあ、こっちも近いうちに会えるだろうよ」
「……それじゃあ、もういいっスか。色々世話になったっスね。ミリアムさんにもよろしくと伝えておいてほしいっス」
「ああ、伝えておくぜ。必ず戻って来いよ……お前さんは領主なんだからな」
それには答えず、俺は背を向けた。
足早に街のほうへ──。
俺に気付いた住民たちが声をかけてくる。軽く手を上げて、囲まれる前にそこを離れる。
シエラとイルネージュのいる宿。
幸い、ふたりはそこで待機していた。
事情を話し、また旅を再開すると言ったらまずシエラがブフーッ、と吹き出した。
「おま、お前、それ、利用されただけじゃん。そのミリアムってヤツも、前の領主がジャマだったんだろ。領主なのにいなくても大丈夫だなんて。ダサ……溢忌、ダサッ!」
ディスってる割にはやけに嬉しそうだな……。イルネージュは俺の手を取り、涙ぐんでいる。
「良かった……領主になったから、もう会えないんじゃないかって……」
「大げさっスよ。一応、肩書きは領主なんスけど、ほとんどお飾りっスから。シエラの言う通りっス。でも、そのおかげでまた旅が出来るんスから」
「そうそう、早いとこチートスキル集めて魔王に備えなきゃ。世界が滅びたら国だ、領主だなんて言ってられないからな……おい! イルネージュと見つめ合って顔を赤らめるんじゃないっ! まったく気持ち悪い……」
シエラがズバッ、と手刀で俺とイルネージュの手を引き離す。
「よし、今日はそのリストを調べて、明日から出発するぞ! いいなっ!」
暴虐の《女神》は健在だ。
俺にローキックを喰らわし、イルネージュの尻をバチコンと叩きながらシエラは叫んだ。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる