異世界の餓狼系男子

みくもっち

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49 ブクリエ国領主就任

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 グググ、とマックスは剣に力を込めているが……俺は微動だにしない。
 バッ、とガラティーンを横凪ぎに払い、マックスの体勢を崩した。

 上段から振り下ろす。今度はマックスが剣で受け止めた。
 光属性で強化した剣。ガキィッ、と一撃で亀裂が入った。

「な……にィッ! わたしの聖剣が、ただの一撃で……」

 いや、加減した攻撃だ。本来なら今の攻撃で剣はおろかマックスの脳天を砕くことは簡単だった。だが、シエラとイルネージュが見ている前でそれは出来ない。

 強引に押し込みながら蹴り。 
 マックスは仰向けに倒れる。再びガラティーンを振り下ろす。だが今度は剣の腹の部分で。

 マックスの剣は完全に折れ、鎧も前面が砕け散った。地面にめり込んだマックスはそのまま気を失ったようだ。
 
 マックスの身体から光る球体が飛び出し、俺の胸に吸い込まれた。
 これでチートスキルのひとつ、魔法無効を手に入れることが出来た。

「勝者、葉桜溢忌はざくらいつき! この結果と同時に、ブクリエ国に新領主が誕生した事を宣言する!」

 ミリアムの言葉に観衆がわっ、と沸いた。
 溢忌様、新領主様、と柵の中に次々と花束が投げ込まれ、紙吹雪が舞う。

 観客席の伊能。満足そうな笑みを浮かべている。ミリアムはすでに兵士たちに指示を飛ばしている。
 俺はあれよあれよという間に兵士たちによって輿に担がれ、大騒ぎの観衆の中を通っていく。
 シエラとイルネージュに声をかけようと思ったが、見失ってしまった。



 その後、城では簡易的なアドンの葬儀が行われ、息つく間も無く新領主就任式。高官たちの紹介、ミリアムによる簡単な政務の説明──本当に淡々と業務をこなしているといった感じだ。
 行政は各部門をそれぞれの高官が担当しており、ミリアムが統括。これはアドンの時から変わっていないようだ。

 助かるのは、領主といえ俺のする事はほとんどない点。
 いずれ出現するであろう魔王に対抗する為、俺はチートスキル集めの旅は続けていいとの事だった。緊急時には急使をよこすと言ってきたが、その時の決定権はミリアムに全て任せる事にした。

 やはり事前から準備が進められていたのだろう。あのマックスのように反発する者もおらず、城内の者はおとなしくミリアムの指示に従う。

 そういえば決闘に敗北したマックスはどうなるのだろうか。負けたからといって俺に従うようには見えないが。

 しかし、こんな簡単に……いいのだろうか。本当に一国の領主に収まってしまった。あとの事はミリアムに任せ、俺は逃げるように城を飛び出した。

 外はもう夕方。衛兵たちが俺を見て慌てふためき、姿勢を伸ばして武器を胸元に掲げる。ううむ、こういう反応には慣れていない。

「おう、領主様。お出かけかい。だいぶ疲れた顔してんな」

 城門の前で話しかけてきた伊能。他人事だと思ってイイ気なものだ。

「アンタの計画通りってわけっスね。これからどうするつもりっスか」

「そうイヤそうな顔すんなよ。領主ともなれば、チートスキルの情報も格段に手に入れやすくなるぜ。この国の諜報機関も使い放題だしな。ああ、俺はその諜報機関のトップになったんでな。ヨロシク」

「……本当にギルドを抜けるんスね。セペノイアの街と険悪にならないんスか? 裏切ったも同然なのに」

「いや、むこうもアドンの時より連携が取りやすくなったって喜ぶかもしれねえよ。それにな、それどころじゃねえさ。超級魔物の出現は世界中に広がっている。混乱に乗じていくさも起きている。こりゃあ、本格的に魔王が出てくる予兆だぜ」

「時間がないってことっスか。じゃあ、シエラに合流して早くチートスキル探しを再開するっス」

「ああ、こっちも新しい情報があれば楊を使って連絡する。おっと、ブルーデモンズの時に調べといたリストを渡しておくぜ」

 伊能は紙片を取り出し、俺は無言でそれを受け取る。
 この国に入る前から分かっていた情報のはずだ。それを今頃……いや、ここで怒っても仕方がない。
 これからはこの国とコイツを十分に利用してやろうではないか。

「楊の持ってるチートスキルも渡すはずだったんだがな。タイミングがズレちまった。ブルーデモンズのもうひとりも……まあ、こっちも近いうちに会えるだろうよ」

「……それじゃあ、もういいっスか。色々世話になったっスね。ミリアムさんにもよろしくと伝えておいてほしいっス」

「ああ、伝えておくぜ。必ず戻って来いよ……お前さんは領主なんだからな」

 それには答えず、俺は背を向けた。
 足早に街のほうへ──。
 俺に気付いた住民たちが声をかけてくる。軽く手を上げて、囲まれる前にそこを離れる。

 シエラとイルネージュのいる宿。
 幸い、ふたりはそこで待機していた。
 
 事情を話し、また旅を再開すると言ったらまずシエラがブフーッ、と吹き出した。

「おま、お前、それ、利用されただけじゃん。そのミリアムってヤツも、前の領主がジャマだったんだろ。領主なのにいなくても大丈夫だなんて。ダサ……溢忌、ダサッ!」

  ディスってる割にはやけに嬉しそうだな……。イルネージュは俺の手を取り、涙ぐんでいる。

「良かった……領主になったから、もう会えないんじゃないかって……」

「大げさっスよ。一応、肩書きは領主なんスけど、ほとんどお飾りっスから。シエラの言う通りっス。でも、そのおかげでまた旅が出来るんスから」

「そうそう、早いとこチートスキル集めて魔王に備えなきゃ。世界が滅びたら国だ、領主だなんて言ってられないからな……おい! イルネージュと見つめ合って顔を赤らめるんじゃないっ! まったく気持ち悪い……」

 シエラがズバッ、と手刀で俺とイルネージュの手を引き離す。
 
「よし、今日はそのリストを調べて、明日から出発するぞ! いいなっ!」

 暴虐の《女神》は健在だ。
 俺にローキックを喰らわし、イルネージュの尻をバチコンと叩きながらシエラは叫んだ。
 
 
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