55 / 77
55 クロワ軍VSひとり
しおりを挟む
口から出てきた紙をビッ、と引っ張り出してシトライゼはこちらに渡した。
なんかバッチイな……俺はそれをつまむようにして受け取る。
紙にはこのクロワの地図、軍の規模、城の見取り図、主だった将の名、能力。城内の武器や食料の蓄えまでもが詳細に記されている。
「わたしが今までにここで得た情報です。さすがは南方の大領主。ブクリエの国力と比べてもひけを取りません」
「だったら、やっぱりブクリエとかセペノイアから助っ人を呼んだほうがいいっスよね」
「このような事態ならば、それも仕方がないのでしょうが……そうのんびりはしていられないようです」
シトライゼが指をさす。
城のほうから砂埃が巻き起こり、こちらに何か近づいてきている。あれは……軍勢か。
「再度あなたを捕らえようとしているみたいですね。あれはクロワの聖十字軍。あなたが徐々に力を取り戻している事を知らないようです」
「どうするんスか。こっちはふたりしかいないのに。ありゃあ、二、三千どころじゃないっスよ」
「わたしの計算によれば、今のあなたの力なら十分に対応できる戦力です。今後の交渉を考えて、あまり死者は出さないほうがいいようです。あ、わたしは先程の戦いでオーバーヒート気味ですので……しばらく守ってください」
「……勝手っスねぇ~」
迫り来る軍勢──十字の旗をなびかせ、ドドドド、と接近。圧巻だ。これほどの人馬が押し寄せるのを見るのは初めてだ。
先頭の人間の顔がはっきり確認できる位置までくると、いきなり複数のダダダダ、が頭の中に飛び込んでくる。
願望者が複数いる。俺はとっさに相手の顔を見ないよう、手でひさしを作る。
だいぶ慣れたとはいえ、一気に名が流れ込んでくるのはキツイ。
俺の代わりにシトライゼが相手を確認して説明してくれた。
「クロワ聖十字軍を率いる願望者達……聖槍十天将が全員そろってますね。これは少し計算外です。待っててください。計算しなおして、修正値を出します」
「いや、そんなヒマはないみたいっスよ」
号令とともに騎兵が突進。その数、千ほどか。地を揺るがすほどの勢い。
俺は願望の力を集中し、両手を地面につける。
ゴウン、ゴウンと大地が上下に波打ち、そのうねりは騎兵の集団へ。
悲鳴とともに次々と落馬。後続もそれに巻き込まれる。人や馬がごちゃごちゃに倒れ、混乱。
落馬の衝撃や人馬の下敷きで動けなくなる者が大半。これで騎兵は封じた。
倒れた騎兵の後方からザアアア、と矢の雨が降りそそぐ。
十指を上に向け、炎弾を連続発射。貧弱な矢をすべて焼き払う。
長槍を持った歩兵が喚声をあげ、突撃してきた。
魔法を使えば一般兵の千や二千、簡単に皆殺しに出来るが……あえて使わない。俺は剣も抜かず突っ込んだ。
長槍がズドドド、と俺の身体に突き刺さるが──かまわず前進。槍の穂先や柄のほうが折れたり砕けたりしている。
適当に殴りつけたり蹴ったりするだけで、敵兵がまとめて吹っ飛ぶ。
やりたい放題にしばらく暴れていると、敵兵ががザザザザ、と退いていく。
代わりにガシャガシャと前に出てきたのは──10人の騎士。全員徒歩だ。
体格や武器はそれぞれ違うが、似たような全身鎧姿。
他の兵士とは明らかに違う雰囲気、威圧感。
兜の隙間から顔が見え、頭の中ダダダダ、の続きが始まったので視線を下に向ける。
間違いない、コイツらが敵の指揮官、願望者だ。聖槍なんたらとかいう……。
──10人の騎士は無言で仕掛けてきた。見た目に反して素早い。ズザザ、と囲まれる。
まずふたりが槍を交差させるように突き出す。そのまま受けてもいいが、願望の力が込められている。
屈んでかわし、そこから反撃を──ゴッ、と背中に衝撃。たまらず倒れる。
ダメージはない。起き上がりながら振り返る。俺の背中を打ったのは、アレだ。柄の先に鎖、さらにトゲつきの鉄球がぶら下がっているモーニングスターとかいう武器。
さらに鉄球が飛んでくる。俺はガシッ、と両手でキャッチ。同時にさっきの槍の突撃が脇腹と背中に。
槍のふたりとすれ違うように、次は大剣の一撃。ドゴオッ、と肩に入る。顔面に矢も飛んできた。
目の前に壁──いや、大盾だ。猛烈な体当たり。大きくのけぞる。
いい加減やられっぱなしというわけにはいかない。
まだ持っている鉄球をフン、と粉々に砕く。
大盾がまた眼前に迫る。カウンター気味の右拳でまっすぐに打ち込んだ。
ズコオッ、と大盾を貫き、俺の拳は相手の顔面をも打ち抜いていた。大柄な騎士が崩れ落ちる。
モーニングスターの鎖を力まかせに引っ張り、飛んできた騎士を大剣使いにぶつけた。
倒れたふたりの騎士をまとめて蹴りあげる。
ゴシャアッ、とひしゃげた音。血しぶき。
ビゥンッ、とフラフープのような光る輪が飛んで来た。光属性の魔法か──。
俺はそれをかわしながら掴む。槍を突き出してきた騎士の首にひっかけ、振り回すとバツンッ、と首が飛ぶ。
もうひとりの槍使いに飛びかかり、光る輪を上から叩きつけた。防御する槍ごと身体を両断。光る輪もバチィッ、と弾ける。
残る聖槍なんたらは──5人。
瞬く間に半数の仲間を失ったにも関わらず、怯まずに向かってくる。
なんかバッチイな……俺はそれをつまむようにして受け取る。
紙にはこのクロワの地図、軍の規模、城の見取り図、主だった将の名、能力。城内の武器や食料の蓄えまでもが詳細に記されている。
「わたしが今までにここで得た情報です。さすがは南方の大領主。ブクリエの国力と比べてもひけを取りません」
「だったら、やっぱりブクリエとかセペノイアから助っ人を呼んだほうがいいっスよね」
「このような事態ならば、それも仕方がないのでしょうが……そうのんびりはしていられないようです」
シトライゼが指をさす。
城のほうから砂埃が巻き起こり、こちらに何か近づいてきている。あれは……軍勢か。
「再度あなたを捕らえようとしているみたいですね。あれはクロワの聖十字軍。あなたが徐々に力を取り戻している事を知らないようです」
「どうするんスか。こっちはふたりしかいないのに。ありゃあ、二、三千どころじゃないっスよ」
「わたしの計算によれば、今のあなたの力なら十分に対応できる戦力です。今後の交渉を考えて、あまり死者は出さないほうがいいようです。あ、わたしは先程の戦いでオーバーヒート気味ですので……しばらく守ってください」
「……勝手っスねぇ~」
迫り来る軍勢──十字の旗をなびかせ、ドドドド、と接近。圧巻だ。これほどの人馬が押し寄せるのを見るのは初めてだ。
先頭の人間の顔がはっきり確認できる位置までくると、いきなり複数のダダダダ、が頭の中に飛び込んでくる。
願望者が複数いる。俺はとっさに相手の顔を見ないよう、手でひさしを作る。
だいぶ慣れたとはいえ、一気に名が流れ込んでくるのはキツイ。
俺の代わりにシトライゼが相手を確認して説明してくれた。
「クロワ聖十字軍を率いる願望者達……聖槍十天将が全員そろってますね。これは少し計算外です。待っててください。計算しなおして、修正値を出します」
「いや、そんなヒマはないみたいっスよ」
号令とともに騎兵が突進。その数、千ほどか。地を揺るがすほどの勢い。
俺は願望の力を集中し、両手を地面につける。
ゴウン、ゴウンと大地が上下に波打ち、そのうねりは騎兵の集団へ。
悲鳴とともに次々と落馬。後続もそれに巻き込まれる。人や馬がごちゃごちゃに倒れ、混乱。
落馬の衝撃や人馬の下敷きで動けなくなる者が大半。これで騎兵は封じた。
倒れた騎兵の後方からザアアア、と矢の雨が降りそそぐ。
十指を上に向け、炎弾を連続発射。貧弱な矢をすべて焼き払う。
長槍を持った歩兵が喚声をあげ、突撃してきた。
魔法を使えば一般兵の千や二千、簡単に皆殺しに出来るが……あえて使わない。俺は剣も抜かず突っ込んだ。
長槍がズドドド、と俺の身体に突き刺さるが──かまわず前進。槍の穂先や柄のほうが折れたり砕けたりしている。
適当に殴りつけたり蹴ったりするだけで、敵兵がまとめて吹っ飛ぶ。
やりたい放題にしばらく暴れていると、敵兵ががザザザザ、と退いていく。
代わりにガシャガシャと前に出てきたのは──10人の騎士。全員徒歩だ。
体格や武器はそれぞれ違うが、似たような全身鎧姿。
他の兵士とは明らかに違う雰囲気、威圧感。
兜の隙間から顔が見え、頭の中ダダダダ、の続きが始まったので視線を下に向ける。
間違いない、コイツらが敵の指揮官、願望者だ。聖槍なんたらとかいう……。
──10人の騎士は無言で仕掛けてきた。見た目に反して素早い。ズザザ、と囲まれる。
まずふたりが槍を交差させるように突き出す。そのまま受けてもいいが、願望の力が込められている。
屈んでかわし、そこから反撃を──ゴッ、と背中に衝撃。たまらず倒れる。
ダメージはない。起き上がりながら振り返る。俺の背中を打ったのは、アレだ。柄の先に鎖、さらにトゲつきの鉄球がぶら下がっているモーニングスターとかいう武器。
さらに鉄球が飛んでくる。俺はガシッ、と両手でキャッチ。同時にさっきの槍の突撃が脇腹と背中に。
槍のふたりとすれ違うように、次は大剣の一撃。ドゴオッ、と肩に入る。顔面に矢も飛んできた。
目の前に壁──いや、大盾だ。猛烈な体当たり。大きくのけぞる。
いい加減やられっぱなしというわけにはいかない。
まだ持っている鉄球をフン、と粉々に砕く。
大盾がまた眼前に迫る。カウンター気味の右拳でまっすぐに打ち込んだ。
ズコオッ、と大盾を貫き、俺の拳は相手の顔面をも打ち抜いていた。大柄な騎士が崩れ落ちる。
モーニングスターの鎖を力まかせに引っ張り、飛んできた騎士を大剣使いにぶつけた。
倒れたふたりの騎士をまとめて蹴りあげる。
ゴシャアッ、とひしゃげた音。血しぶき。
ビゥンッ、とフラフープのような光る輪が飛んで来た。光属性の魔法か──。
俺はそれをかわしながら掴む。槍を突き出してきた騎士の首にひっかけ、振り回すとバツンッ、と首が飛ぶ。
もうひとりの槍使いに飛びかかり、光る輪を上から叩きつけた。防御する槍ごと身体を両断。光る輪もバチィッ、と弾ける。
残る聖槍なんたらは──5人。
瞬く間に半数の仲間を失ったにも関わらず、怯まずに向かってくる。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる