異世界の餓狼系男子

みくもっち

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55 クロワ軍VSひとり

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 口から出てきた紙をビッ、と引っ張り出してシトライゼはこちらに渡した。
 なんかバッチイな……俺はそれをつまむようにして受け取る。

 紙にはこのクロワの地図、軍の規模、城の見取り図、主だった将の名、能力。城内の武器や食料の蓄えまでもが詳細に記されている。

「わたしが今までにここで得た情報です。さすがは南方の大領主。ブクリエの国力と比べてもひけを取りません」

「だったら、やっぱりブクリエとかセペノイアから助っ人を呼んだほうがいいっスよね」

「このような事態ならば、それも仕方がないのでしょうが……そうのんびりはしていられないようです」

 シトライゼが指をさす。
 城のほうから砂埃が巻き起こり、こちらに何か近づいてきている。あれは……軍勢か。

「再度あなたを捕らえようとしているみたいですね。あれはクロワの聖十字軍。あなたが徐々に力を取り戻している事を知らないようです」

「どうするんスか。こっちはふたりしかいないのに。ありゃあ、二、三千どころじゃないっスよ」

「わたしの計算によれば、今のあなたの力なら十分に対応できる戦力です。今後の交渉を考えて、あまり死者は出さないほうがいいようです。あ、わたしは先程の戦いでオーバーヒート気味ですので……しばらく守ってください」

「……勝手っスねぇ~」

 迫り来る軍勢──十字の旗をなびかせ、ドドドド、と接近。圧巻だ。これほどの人馬が押し寄せるのを見るのは初めてだ。
 先頭の人間の顔がはっきり確認できる位置までくると、いきなり複数のダダダダ、が頭の中に飛び込んでくる。
 願望者デザイアが複数いる。俺はとっさに相手の顔を見ないよう、手でひさしを作る。
 
 だいぶ慣れたとはいえ、一気に名が流れ込んでくるのはキツイ。
 俺の代わりにシトライゼが相手を確認して説明してくれた。

「クロワ聖十字軍を率いる願望者デザイア達……聖槍十天将ホーリーランサーが全員そろってますね。これは少し計算外です。待っててください。計算しなおして、修正値を出します」

「いや、そんなヒマはないみたいっスよ」

 号令とともに騎兵が突進。その数、千ほどか。地を揺るがすほどの勢い。

 俺は願望の力を集中し、両手を地面につける。
 ゴウン、ゴウンと大地が上下に波打ち、そのうねりは騎兵の集団へ。

 悲鳴とともに次々と落馬。後続もそれに巻き込まれる。人や馬がごちゃごちゃに倒れ、混乱。
 落馬の衝撃や人馬の下敷きで動けなくなる者が大半。これで騎兵は封じた。

 倒れた騎兵の後方からザアアア、と矢の雨が降りそそぐ。
 十指を上に向け、炎弾を連続発射。貧弱な矢をすべて焼き払う。

 長槍を持った歩兵が喚声をあげ、突撃してきた。
 魔法を使えば一般兵の千や二千、簡単に皆殺しに出来るが……あえて使わない。俺は剣も抜かず突っ込んだ。

 長槍がズドドド、と俺の身体に突き刺さるが──かまわず前進。槍の穂先や柄のほうが折れたり砕けたりしている。

 適当に殴りつけたり蹴ったりするだけで、敵兵がまとめて吹っ飛ぶ。
 やりたい放題にしばらく暴れていると、敵兵ががザザザザ、と退いていく。

 代わりにガシャガシャと前に出てきたのは──10人の騎士。全員徒歩だ。
 体格や武器はそれぞれ違うが、似たような全身鎧プレートアーマー姿。
 他の兵士とは明らかに違う雰囲気、威圧感。
 兜の隙間から顔が見え、頭の中ダダダダ、の続きが始まったので視線を下に向ける。
 
 間違いない、コイツらが敵の指揮官、願望者デザイアだ。聖槍なんたらとかいう……。

──10人の騎士は無言で仕掛けてきた。見た目に反して素早い。ズザザ、と囲まれる。
 まずふたりが槍を交差させるように突き出す。そのまま受けてもいいが、願望の力が込められている。
 屈んでかわし、そこから反撃を──ゴッ、と背中に衝撃。たまらず倒れる。

 ダメージはない。起き上がりながら振り返る。俺の背中を打ったのは、アレだ。柄の先に鎖、さらにトゲつきの鉄球がぶら下がっているモーニングスターとかいう武器。

 さらに鉄球が飛んでくる。俺はガシッ、と両手でキャッチ。同時にさっきの槍の突撃が脇腹と背中に。
 槍のふたりとすれ違うように、次は大剣の一撃。ドゴオッ、と肩に入る。顔面に矢も飛んできた。

 目の前に壁──いや、大盾だ。猛烈な体当たり。大きくのけぞる。
 いい加減やられっぱなしというわけにはいかない。
 まだ持っている鉄球をフン、と粉々に砕く。
 大盾がまた眼前に迫る。カウンター気味の右拳でまっすぐに打ち込んだ。

 ズコオッ、と大盾を貫き、俺の拳は相手の顔面をも打ち抜いていた。大柄な騎士が崩れ落ちる。
 モーニングスターの鎖を力まかせに引っ張り、飛んできた騎士を大剣使いにぶつけた。
 倒れたふたりの騎士をまとめて蹴りあげる。
 ゴシャアッ、とひしゃげた音。血しぶき。

 ビゥンッ、とフラフープのような光る輪が飛んで来た。光属性の魔法か──。
 俺はそれをかわしながら掴む。槍を突き出してきた騎士の首にひっかけ、振り回すとバツンッ、と首が飛ぶ。

 もうひとりの槍使いに飛びかかり、光る輪を上から叩きつけた。防御する槍ごと身体を両断。光る輪もバチィッ、と弾ける。

 残る聖槍なんたらは──5人。 
 瞬く間に半数の仲間を失ったにも関わらず、怯まずに向かってくる。


 

 
 
 

 


 
 
 
 


 
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