異世界の餓狼系男子

みくもっち

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59 強制転移

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 またゲートを──。
 地面に両手をつき、千景ちかげを喚び出そうとする。

 ゴシャッ、と右手が潰された。荒木の拳が打ち込まれている。
 俺は何が起きたのか分からず……間を置いてから痛みに叫び声をあげた。

「さっきのヤツは喚ばせねぇよ。オラ、あとは死ぬだけだ。無駄な抵抗してもイテェ目にあうだけだぜ」

 ゴッ、と背中を踏みつけられる。
 動けない。どうする……荒木は時間停止、自動復活オートリザレクション、さらに時間跳躍タイムリープまで使う。
 俺にはもう、対抗するスキルが無いのか……。

「テメーが再生できねぇぐらいにバラバラにしてなやるからよぉ。そこでへたばっていろ」

 荒木はそういうとグウゥッ、と身体を上昇させて空中で静止する。
 拳を天に向け、ゴゴゴゴ、と願望の力を集中。男の拳アイアンフィストを最大の力で放つつもりだ。

 今のうちに……まだスキルが確認できるうちに……。
 ステータスウインドウを開いて50ほどのチートスキルから数百ある通常スキル、細かい基本能力まで含めると数千にのぼる。
 この中から今の状況に対応できる能力を見つけるなど……不可能だ。
 
 いや、何か赤く光っている部分がある。これはなんだろうか。
 ためらっている場合ではない。これを選んでみる──が、何も起きない。なんだ、どういうことだ。

 異様な願望の力の高まりを感じ、空を見上げる。
 巨大な闘気の拳をこちらに向けた荒木。ギイイイイィ、と周りの大気も歪んで見える。
 ドゴオオォッッ、と発射された。
 ふらふらと立ち上がりながら俺はそれを見上げたまま──。

 ギュイイイィィィンン、と闘気の拳が排水口に吸い込まれるように渦を巻いて小さくなっていく。俺の目の前で。

 これは……なんだ? 残ったのはテニスボールぐらいの大きさの黒い球体。
 これがあの攻撃を防いだのか。黒い球体は回転しながら少しずつ大きくなっていく。

「なんだあっ! 無駄なあがきすんじゃねーぞっ!」

 荒木が連続で闘気をボボボボッ、と放つ。
 だがそれも黒い球体がズモモモ、と吸い込んでいく。
 こんなスキルを持っていたのか。いや、そもそも選んだ覚えがない。選んだのは、この赤い表示……検索サーチと書かれているスキルだ。
 まさか……このスキルは自動的に最適なスキルを選ぶスキルなのだろうか。
 
 そして今、発動しているスキルは──黒魔球次元穴ディメンションホール
 
 チートスキルのひとつだが、うさん臭い名前と効果が不明なので、使ったことがなかった。
 使ってみて初めてその効果が理解できる。俺は球体へ手をかざし、願望の力を高めた。

 ジャラアアァッ、と球体から黒い鎖が何本も飛び出す。
 それらは荒木の身体中に巻きつき、グンッ、と引き寄せる。

「はっ! 読めたぜ! そいつぁ、強制転移の一種だぜ。俺を倒せねえとふんで、どこかへ飛ばすつもりかっ! だがなぁ、こんなもん……」

 絡みついた鎖をバキバキと引きちぎる。たしかにこのスキルだけで倒せるとは思っていない。だが──十分に時間は稼げた。俺の傷は完全に癒え、願望の力も100パーセント引き出せる。

 球体からさらに無数の鎖が飛ぶ。荒木が拳で打ち払うが、キリがない。
 また身体中に巻きついて締め上げる。

「何度やってもムダだあっ! こんなもんっ!」

 また引きちぎろうとしている。俺は鎖を通して電撃を放ち、また指からも炎弾を連続発射。
 時間停止を使う間も与えない。
 
 雷光の矢ライトニングアローで手足を貫いた。さらに氷結の魔法で氷漬けに。
 飛翔レイヴンで空中へ。そこから一気に近づく。
 
「うがあああっっ!」

 氷も鎖ごと粉砕し、荒木が拳を振りかぶる。
 バチンッ、と鍔鳴りの音。スキル、紫電一閃。荒木の右腕を吹っ飛ばしていた。

「このクソがあぁっっ!」

 荒木の頭突き。額にまともに喰らったが──そのまま襟首をつかみ、反転。
 掌打を腹に。荒木はうごぉっ、と呻いて落下。その先には黒い球体。

 球体から伸びた鎖に再び捕らえられる荒木。身体をよじって左手だけ自由になっている。逃げ出そうとしているが──させるか。

 落ちながら拳の応酬。何発も喰らい、血まみれになるが構わずこちらも打ち込む。
 
 元の世界のことを急に思い出した。
 荒木に殴られたこと、金を巻き上げられたこと、取り巻き共をけしかけられたこと……。

 小学生の頃に一緒に遊んだことまで……。
 ハッ、と気付いたときには、荒木は黒い球体に半分ほど身体が呑み込まれていた。

「テメエッ、クソッ! 溢忌のクセによぉっ! ナメた真似しやがって……この力、せっかく手に入れたってのによぉっ!」

 荒木ももうダメだと理解しているようだ。
 このスキルは強制転移といっても、都合よくこの世界の別の場所に、という代物ではない。
 宇宙空間や異次元、亜空間……過去か未来さえ分からない。おそらくはもう二度と戻れないだろう。

「何億分の一くらいの確率で元の世界に戻れるかも知れないっスよ。自分の運に賭けてみたらどうっスかね。《死を乗り越えし者》なんスから」 

 あとは顔だけ──荒木は次第に呑み込まれていく。何か意味不明なことを叫びながら、黒い球体の中に沈んでいった。


 

 
 
 
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