異世界の餓狼系男子

みくもっち

文字の大きさ
68 / 77

68 勇者無双

しおりを挟む
 何も無い真っ白な空間に放り出された。
 魔王はドガアッッ、と轟音を響かせて着地。先ほど与えたダメージはすでに再生しているようだ。
 俺は飛翔レイヴンを発動したまま、魔王を見下ろす。
 
「このままこの場所に置き去りにすれば、解決ってわけにはいかないんスか」

「魔王の力をナメんなっ、こんな異空間なんて簡単に抜け出せるんだ。だからここで完全に仕留めなきゃいけない」
 
「わかったっスよ。このまま空中から攻撃するっス。魔王は対空性能は無いみたいっスから」

 そう言ってるそばから、魔王の黒い背中からボコボコボコッ、と不気味な突起がいくつも出現。
 そこからボボボボッ、と回転する光弾が発射された。

「ありゃ、やっぱそう簡単にはいかないみたいっスね」

「ありゃ、じゃねーーよっ! シエラがいるんだからさっ、絶対に攻撃を受けるんじゃねーぞっ!」

 背にいるシエラがポカポカと頭を叩く。
 わかったっスよ、と飛びながら光弾をかわす。光弾のスピードはさほどでもない。
 
 だが、避けた方向に光弾が次々と集まる。どうやら追尾するタイプの攻撃らしい。

「問題ないっス。こいつで相殺っスよ」

 両手の指から炎弾を発射。ドガガガッ、と光弾に当たると眩い光を放ち──大爆発。

「うおっ」

 その爆風で吹き飛ばされる。
 多少驚いたが問題はない。体勢を立て直し、低空を飛ぶ。
 
 魔王が突っ込んできた。八本の脚でドドドド、と近づく様はさすがに迫力がある。
 俺は上空には逃げずにそのまま着地。シエラを背から降ろす。

「ど、どうするつもりだ、溢忌」

「面倒なんで一気にカタをつけるっス。大丈夫、シエラは守り切るっスよ」

 スキル、分身を使う。願望の力をかなり集中──36体もの俺の分身が出現した。

 3体の分身はシエラを守りつつ、後方へ。
 10体の分身が素手で魔王の前進を止めた。
 
 止めながら、様々なステータス低下、ステータス異常を魔王へ付与。減速スロー、防御力低下、攻撃力低下、毒、麻痺、石化、即死、どれが効いてどれが効かないなど関係ない。とにかくあるだけ、連続でぶち込む。

 12体の分身が跳躍。魔王の巨大な背を狙い、遠距離攻撃──炎弾、雷光の矢ライトニングアロー氷飛槍アイスランス疾風刃ウイングカッター、思いつく限りの属性攻撃。こちらも雨あられと撃ち込む。 

 魔王の脚や腹部、頭部に攻撃するのは本体の俺と残り11体の分身。
 剣を抜いた数体が次々と脚を斬り飛ばしていく。
 素手の数体は腹の下へ潜り込み、上へ向けて怒涛の拳打。上からの魔法攻撃とのサンドイッチで魔王の巨体がみるみる崩れていく。

「魔王っていっても図体がデカイだけっスね。ちょっと拍子抜けっスよ」

 残すは頭部。八つの目玉からビカアッ、と光線が放たれた。
 すぐに分身数体が盾になり、消滅。

「最期の悪あがきっスか。当たってもどうってことないんスけど」 

 バチンッ、と鍔鳴りの音。
 スキル、紫電一閃──。

 魔王の頭部は真っ二つになり、地面へボトリと落ちた。

 魔王の残骸はゾゾゾ、と一ヶ所に集まりつつある。だが、先ほどよりずっとスピードは遅い。

「シエラッ、いまっスよ!」

「わかってるよっ! うううぅぅ~っっ!」

 シエラの全身から光が放たれ、真っ白な上空へ。
 そこで光はグルグルと渦を巻き、カッ、と魔王の四方へと落ちる。
 地面に魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
 魔王がギシャアアアァァ、と断末魔の叫び。

 ボロボロの巨体は再生する事なく、その魔法陣の中で沈んでいく。
 大地に還るのか……この世界も魔王も魔物も、元はシエラが生み出した物だと聞いた。

 願望の叶う世界……何度かその魔王によって危機に陥り、その度に《女神》シエラは勇者とともに世界を救ったという。
 これがこの世界の存続する試練みたいなものなのだろうか。
 あの長い赤髪の少女《女神》シエラ・イデアルを見て、なんとなくそう思った。

「シエラ、終わったっスよ」

 魔王は完全に消滅し、俺は肩で息をしているシエラに話しかける。

「はあっ、はあっ、つ、疲れた。これでやっと世界の危機は回避できた。魔王は倒したから、あと何十年かは世界は無事だ。溢忌、よくやった。お前は歴代の勇者の中でもまさに最強といってもいい強さだった」

「あとは帰るだけっスね。みんなも待ってるっスよ」

「ちょっと待って……しばらく休憩してから。溢忌、そこ座れ」

 俺は分身のスキルを解除してその場にあぐらをかく。
 シエラは息を整えてから、俺の正面にちょこんと正座した。なんだろうか、赤くなっていつもと様子が違う。

「魔王も倒しちゃったし、溢忌はもうシエラから自由になるわけなんだけど……」

「まあ、そういうことになるっスね」

「シエラも、もうすぐまた休眠期に入っちゃうんだ。次の世界の危機に備えて力を蓄えるんだ」

「そうなんスね。短い間だったっスけど、楽しかったっスよ」

 ここでシエラはうつむいてブルブル震えている。え……もしかして泣いてるのか?

「シエラ……またこの何にもない所でひとりぼっちなんだ……だから、それまで……シエラが完全に眠ってしまうまで、一緒にいてほしいんだ」

 両手をぎゅうっ、と握りしめて声を絞り出している。俺はその頭を撫で、抱きしめる。

「なんだ、そんな事っスか。もちろんいいっスよ。次に目を覚ますまで待ってるっスから」

「バカ……お前、バカ……何十年も待ってるヤツなんているか。でも……シエラうれしい」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...