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1 処刑
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立ち止まって薄暗い空を見上げた。
白いものがちらちらと舞い降りてくる。
雪。冷えるわけだ。
粗末な囚人服に裸足だと特にこたえる。
手枷も異様に重い。このまま倒れてしまいたい。
後ろから槍の石突で小突かれ、わたしはまたヨロヨロと歩き出した。
わたしが歩く道の両端には兵士がずらりと並んでいる。
この前まで一緒に戦っていた兵士たちだ。
兵士たちから様々な言葉が浴びせられる。
反逆者、戦狂いの魔女、恩知らず、王家に仇なす者。
どうしてこんなふうに罵倒されなければいけないのだろう。
どうしてそんな敵意の目で睨まれないといけないのだろう。
わたしは国のために戦ったのに。
大事な家族や城のみんな、領民たち。そして好きになった人を守るために。
そしてわたし自身の運命も変えられるはずだった。悪役令嬢として処刑される無惨な運命から。
どうしてこうなった。わたしは、回避できたはずだった。この結末を。
危なそうなフラグを避け、慎重に行動していたはずなのに。
道の先。兵士が円形状に囲む広場の中央には断頭台。横には覆面を被った不気味な処刑人が待ち構えていた。
奥の高台には見物席が設けられている。
そこにはザールラント国王陛下の姿。
その隣には王太子殿下……エアハルト様の姿も。そして王太子妃のマルティナもいる。
エアハルト様はわたしと目が合うと、視線をそらした。かたく目をつむり、歯を食いしばっているように見える。
処刑台の横に着くと、文官のひとりがわたしの罪状を読み上げた。
命令違反罪、反逆罪、収賄罪、捕虜への虐待、虐殺──。
上官にはたしかに逆らったり口答えしたかもしれない。でもそれ以外はどれも見に覚えのないものばかり。
わたしは叫ぼうとした。わたしはそんなことしてない! 今まで言われた通りに、どんな理不尽なこと言われても王家に逆らったりはしなかった。それなのに……!
だけどもうまともに叫ぶこともできない。
ああ、うう、とかすれた声しか出ない。
でもエアハルト様なら分かってくれるはず。これが誤解だって。こんなのは間違いだって。
わたしがエアハルト様の顔を見ようとすると、マルティナが移動してそれを遮った。
扇で半分隠れていたけれど、明らかに笑っていた。このわたしの姿を見て。
処刑人がくぐもった声をあげ、わたしを処刑台へと押さえつける。
こんな、こんなところで。
せっかく生まれ変わった、この世界で幸せになるはずだったのに。
この世界に転生する前。
わたしはとある会社で馬車馬のように働く社畜だった。
毎日のように続く上司のイヤミ、叱責。
足を引っ張り、隙あらば蹴落とそうとする同僚たち。
当たり前のように繰り返される残業。
頼れる人もなく、愚痴をこぼせる友人もいない。
そんなとき、帰りの書店で何気なく手に取った小説があった。
まず表紙のイラストに目が惹かれた。
細見のキレイな顔立ちの男性。そう、この世界のエアハルト様だ。
その隣にはあのマルティナが抱きつくようなポーズで載っていた。
小説の主人公はあのマルティナなのだ。小説の中では優しくて健気で、みんなに好かれている設定だった。
そしてわたしが転生したアンスバッハ侯爵令嬢のイルゼは戦好きの荒っぽい女性。
マルティナにイジワルしたり、エアハルト様にも真っ向から反発したりと、自領の軍事力を鼻にかけて嫌な令嬢だった。
小説の中盤ぐらいで敵に通じてたとかで反逆罪で処刑されたんだけど、もちろんここに来てからわたしはそんなことしてないし、マルティナにもイジワルしてない。
処刑ルートに辿りつかないよう、わたしは王家に尽くし、手柄も上げてきた。それが裏目に出たこともあったけど、小説のストーリーとは違う進行になっていたんだ。
途中まではうまくいっていたのに。
途中までしか小説を読んでなかったから?
メインストーリーはマルティナ中心に進んでいたから、なにか重大な見落としがあったとか?
でも悪役らしいことなにひとつしてないのに処刑されるだなんて。
わたしがどうあがいても小説の人物の運命は変えられないってことなんだろうか。
ああ、ここで死んでしまったらどうなるんだろう。
元の世界に戻れるとか? またあの社畜生活に戻るくらいなら、ここで完全に死んじゃったほうがマシなのかも。
首の後ろにガシャリと枷をはめられ、固定された。もう抵抗する力も残っていない。
わたしの体調が万全なら、こんな枷なんて力ずくで外して、処刑人も一撃でぶちのめして。 周りにいる兵から武器を奪い取って大暴れすることも簡単なのに。
ひとりでもここから逃げ出せることも可能なのに。
いまさらどうこう考えても仕方がない。
もう運命は変えられないんだ。わたしの味方なんて誰もしてくれない。
あとは合図ひとつで処刑台の刃が落ちてくる。
現実世界でわたしは、小説を読みながらお酒飲んでたら眠くなって、気づいたら赤髪の少女に転生してたんだっけ。
ぼんやりとわたしはこの世界に転生したばかりの頃を思い出していた。
白いものがちらちらと舞い降りてくる。
雪。冷えるわけだ。
粗末な囚人服に裸足だと特にこたえる。
手枷も異様に重い。このまま倒れてしまいたい。
後ろから槍の石突で小突かれ、わたしはまたヨロヨロと歩き出した。
わたしが歩く道の両端には兵士がずらりと並んでいる。
この前まで一緒に戦っていた兵士たちだ。
兵士たちから様々な言葉が浴びせられる。
反逆者、戦狂いの魔女、恩知らず、王家に仇なす者。
どうしてこんなふうに罵倒されなければいけないのだろう。
どうしてそんな敵意の目で睨まれないといけないのだろう。
わたしは国のために戦ったのに。
大事な家族や城のみんな、領民たち。そして好きになった人を守るために。
そしてわたし自身の運命も変えられるはずだった。悪役令嬢として処刑される無惨な運命から。
どうしてこうなった。わたしは、回避できたはずだった。この結末を。
危なそうなフラグを避け、慎重に行動していたはずなのに。
道の先。兵士が円形状に囲む広場の中央には断頭台。横には覆面を被った不気味な処刑人が待ち構えていた。
奥の高台には見物席が設けられている。
そこにはザールラント国王陛下の姿。
その隣には王太子殿下……エアハルト様の姿も。そして王太子妃のマルティナもいる。
エアハルト様はわたしと目が合うと、視線をそらした。かたく目をつむり、歯を食いしばっているように見える。
処刑台の横に着くと、文官のひとりがわたしの罪状を読み上げた。
命令違反罪、反逆罪、収賄罪、捕虜への虐待、虐殺──。
上官にはたしかに逆らったり口答えしたかもしれない。でもそれ以外はどれも見に覚えのないものばかり。
わたしは叫ぼうとした。わたしはそんなことしてない! 今まで言われた通りに、どんな理不尽なこと言われても王家に逆らったりはしなかった。それなのに……!
だけどもうまともに叫ぶこともできない。
ああ、うう、とかすれた声しか出ない。
でもエアハルト様なら分かってくれるはず。これが誤解だって。こんなのは間違いだって。
わたしがエアハルト様の顔を見ようとすると、マルティナが移動してそれを遮った。
扇で半分隠れていたけれど、明らかに笑っていた。このわたしの姿を見て。
処刑人がくぐもった声をあげ、わたしを処刑台へと押さえつける。
こんな、こんなところで。
せっかく生まれ変わった、この世界で幸せになるはずだったのに。
この世界に転生する前。
わたしはとある会社で馬車馬のように働く社畜だった。
毎日のように続く上司のイヤミ、叱責。
足を引っ張り、隙あらば蹴落とそうとする同僚たち。
当たり前のように繰り返される残業。
頼れる人もなく、愚痴をこぼせる友人もいない。
そんなとき、帰りの書店で何気なく手に取った小説があった。
まず表紙のイラストに目が惹かれた。
細見のキレイな顔立ちの男性。そう、この世界のエアハルト様だ。
その隣にはあのマルティナが抱きつくようなポーズで載っていた。
小説の主人公はあのマルティナなのだ。小説の中では優しくて健気で、みんなに好かれている設定だった。
そしてわたしが転生したアンスバッハ侯爵令嬢のイルゼは戦好きの荒っぽい女性。
マルティナにイジワルしたり、エアハルト様にも真っ向から反発したりと、自領の軍事力を鼻にかけて嫌な令嬢だった。
小説の中盤ぐらいで敵に通じてたとかで反逆罪で処刑されたんだけど、もちろんここに来てからわたしはそんなことしてないし、マルティナにもイジワルしてない。
処刑ルートに辿りつかないよう、わたしは王家に尽くし、手柄も上げてきた。それが裏目に出たこともあったけど、小説のストーリーとは違う進行になっていたんだ。
途中まではうまくいっていたのに。
途中までしか小説を読んでなかったから?
メインストーリーはマルティナ中心に進んでいたから、なにか重大な見落としがあったとか?
でも悪役らしいことなにひとつしてないのに処刑されるだなんて。
わたしがどうあがいても小説の人物の運命は変えられないってことなんだろうか。
ああ、ここで死んでしまったらどうなるんだろう。
元の世界に戻れるとか? またあの社畜生活に戻るくらいなら、ここで完全に死んじゃったほうがマシなのかも。
首の後ろにガシャリと枷をはめられ、固定された。もう抵抗する力も残っていない。
わたしの体調が万全なら、こんな枷なんて力ずくで外して、処刑人も一撃でぶちのめして。 周りにいる兵から武器を奪い取って大暴れすることも簡単なのに。
ひとりでもここから逃げ出せることも可能なのに。
いまさらどうこう考えても仕方がない。
もう運命は変えられないんだ。わたしの味方なんて誰もしてくれない。
あとは合図ひとつで処刑台の刃が落ちてくる。
現実世界でわたしは、小説を読みながらお酒飲んでたら眠くなって、気づいたら赤髪の少女に転生してたんだっけ。
ぼんやりとわたしはこの世界に転生したばかりの頃を思い出していた。
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